異能力館へ
「ハチミツぅー。お前、ファッションって自信ある?」
「……なんですか? いきなり……」
綴は苦悩する。つい最近の、カフェのマスターとの会話が思い返される。
バイト中、なんの気なしの雑談という体でマスターは、ちょうど究助と同じような質問をした。綴はそれに対して、行動で示した。
「マスター……これを見ていただけますか?」
スマホの写真を見せる。マスターはそれを見て、息を呑んだ。
「こ……これは……ハチミツくん、かい? この格好は……仮装?」
「いえ、私服……ですね」
「冗談だろ?」
「どう思います?」
「なんというか、独創的というか、前衛的というか……凄いな、パレットに置けるだけ色を置いて、全部まんべんなく使った、みたいな……。服屋の手前から奥まで適当に服を取っていって、継ぎ接ぎしていったみたいな……」
「……つまり?」
「クソダサい!」
「はっきり言わないでください……!」
綴は探偵業中も、カフェでのバイト中も、ワイシャツにネクタイとスラックスという、学生時代とほとんど変わらないファッションだ。センスがないことを自覚している故の自衛的服装。
だが、先日の事件が解決した後、リサとカナの2人に依頼の解決を報告した。そのとき、「八見ちゃんはもっと格好いい服を着たらいいんじゃないっすか?」と言われた。
「えー。綴は可愛い系が似合うっしょ!」
「いろんな服着てる姿が見たいっすよ」
などと言われ、その気になってしまい、依頼料で服を買ってみた結果……《クソダサい!》というわけだ。
「それで、究助さん。ファッションセンスの話が、なにか関係あるんですか? ……今回の事件に」
12月、クリスマスと年末が近づいてきて、世間はどこか浮き足立つ。だが寒い冬の夜中に、綴の元にやって来たのは祝祭などではなく、悲惨な殺人事件だった。
「俺たちが向かっているのは山中の屋敷だ。究極的にデカい洋館でな。住人も、俺たちが普段関わらないような異次元の富裕層なんだ。そこで、殺人が起こった」
「まさか異能力事件ですか?」
「ああ。何故ファッションの話をしたのかっていうと、そこの屋敷の長が、ファッションブランド『ユグドラ』のCEOだからだ」
「『ユグドラ』って、あの高級ブランドの? え、僕たち、そんな人の家に行くんですか!?」
緊張が走る。究助に事件だと言われ、それ以上のことは聞かされず車に乗せられたため、ほとんどなにも知らないのだ。事件現場に向かう以上、もちろん緊張感を持って挑むのだが、まさか富豪の屋敷とは。
「それに……ユグドラのCEO……って確か、あの異能力一族と呼ばれている? 《王樹家》ですか!? て、テレビで観ましたよ。王樹家は一族で会社を経営し、また、異能力者ばかりである、って!」
日本の中でも飛び抜けて有名な一族だ。世間への影響力としても、話題性としても。
「えーっと、なんだったかな。CEOの王樹大地には4人の子供がいるが、そのうちの3人が異能力を持っている……だったな。で、王樹大地自身も異能力者。まさに異能力者一族だ。そいつらが住む家は、いわば《異能力館》だな」
究助は思い出したように顔をこちらに向ける。
「なあ、異能力って遺伝とか関係してるんだっけ?」
「ちゃんと調べたことはありませんが、統計的に有意……つまりなにかしら遺伝は関係している、と研究で明らかになったそうですが、肝心の要因が不明だそうです」
「DNAとかじゃねぇの?」
「そういう研究は、異能力研究センターで行われているんでしょう。今度、墨塗さんに聞いてみたらどうですか? 教えてくれるかは分かりませんけど」
「墨塗か……あいつもなんか研究してるんだったっけかな。《コピー》がどうとか……ま、忘れた。あ、そういえばアレだ。白金椿。アイツの兄も異能力者なんだって、ハチミツは知ってたっけ?」
「お兄さんも特能だというのは聞きましたが、それは初耳です。遺伝、なんですかね?」
「白金解……若くして特能のエースと呼ばれている。だからあっちこっちに駆り出されているもんで、話したことないんだよな。どんな異能力を持っているのかも知らないが……」
そこで究助ははっとする。ハンドルを強く握り、言った。
「悪い。話が逸れたな。王樹家だ。殺されたのは、王樹家長女、王樹哀根。死亡推定時刻は夜の21時頃。今は23時だから、2時間前だ」
綴は普段、深夜0時頃に就寝する。まだ起きている時間だが、かなり眠い。緊張のせいもあって、欠伸が出てしまった。
「捜査はもう始まっているんですね」
「ああ……だが問題があって。現場の屋敷だが、さっきも言ったとおり、山の中にあるんだ。しかも、道中はかなり狭い山道。そのせいで、俺たちも楽に行き来ができない。捜査が遅れてるんだよ」
「特能も来ているでしょうか」
「そりゃあ……究極的有名一族の殺人事件だ。ヤツらも躍起になって活躍しようとしているはず。到着している刑事のほとんどが特能だと思った方がいい。けどよ、今までみたいな横暴なことはしないと思うぜ」
「そうですか?」
「妻崎に丹に、誤認逮捕があっただろ。そのせいで慎重にならざるを得ないんだよ。つまり、俺たちのおかげだな!」
「そ、そうですね……」
「ただ……」
「ただ?」
「報告だと……なーんか妙な展開になってるっぽいんだよなぁ……」
「……今回も、大変なんでしょうね」
さんざん妙な展開に巻き込まれているのだ。今更、それで逃げ出したりはしない。
「ああ……気合い入れろよ、ハチミツ」
「了解です……」
「あ……そういえば、究助さん」
「ん?」
「究助さんは、ファッションセンスに自信はありますか?」
「はんっ! 言わずもがなだろ! 見ろよ、このインナー!」
ファッションセンスを誇る際、あまりインナーを目立たせる人はいないだろう。
「……いつもどおりの、赤いタンクトップですね」
「いつもどおりじゃねぇ! これはルビーレッドのタンクトップ! 前にお前と会ったときに着てたのはワインレッドだ!」
「……そうですか」
もう、いいや。
綴は面倒になり、ただじっと、究助が赤タンクトップ愛を語るのを聞いていた。
──門前払いされたらどうしよう。
登場人物一覧はもう少し後に出てくるので、名前はまだ覚えなくて大丈夫です。




