06. 火炙り裁判
掲示板に貼り出された一文は、事務的に、無慈悲に現実というものを叩きつけます。
『カミロ・デ・ベニート 昨今の成績不振及び素行不良により、本日付で特待生寄宿舎からの早急な退去、および以下一般寮棟への移入を命ずる ……』
成績不振はまあ赤点塗れの総督試験での結果でしょうが、この素行不良というのが少し気になりました。カミロは私からレポートを取り上げたりはしても、授業を放棄するような度胸はなかったはずなのに、あの結果発表からちょくちょく姿を消すようになったのです。
そして今現在、とうとうアカデミーの管理部門から特権はく奪の通告が貼りだされました。私をよそに、威勢よくつるんでいたお友達とも最近はずいぶんとぎくしゃくしているようです。
私?もちろん絶好調ですとも。
自分だけの課題やレポート、授業に集中できる環境って本当に素晴らしいですね。
最近では私にべったりなイシドロへの恐怖をおして、以前の補習補講常連仲間だったクラスメートたちが、ちらほら一緒に勉強しないかと声をかけてくれるので、私の周りもささやかながら盛り上がりを見せています。
これが学友というものでしょうか。うふふ。すこしこそばゆいですね。
一方、学期初日の食堂での一件でイシドロが私に本気だ、という噂も広がって泥臭い "雑草令嬢" から "触れると危険な野いばら令嬢" へ進化?してしまったようですが。まぁそんな噂を本気にするような連中は、端から男爵令嬢になど縁のない高位貴族の皆様方ですので。私のささやかな勉強グループには届いてきません。
ただ子爵家令息と婚約破棄――まだ開廷待ちですが――した途端に侯爵家令息と親しくしている、というのは一部のご令嬢がたには面白くないようで。たとえば学期初日にイシドロへ果敢にアピールして玉砕した某伯爵令嬢さん。私が実家の財産を一切合切毟り取った守銭奴であるとか、夏季休暇中はいろんな男性と遊び歩いていたとか、あることないことを織り交ぜてお話くださいます。夏季休暇中は遊び歩いたどころか、イシドロと一つ屋根の下でゴロゴロしてたので、ある意味もっとひどいというかスキャンダラスなんですが、そんなことをわざわざ教えてあげる意味もありませんので放っております。
そんなお話をする暇があるなら、つぎの口頭試問テストの準備でもすればいいのに、と思わないでもありません。
学期中間にある中間口頭試験は大規模な口頭試問形式のテストです。専門家や教授がずらりと並ぶ中、矢継早の質問に次々答えなくてはいけません。一応資料の持ち込みは許可されてますが、正直そんなものをめくらせてくれるほど質問速度は生易しくありません。
今も私たちは中間口頭試験前に予行演習を兼ねて何度か行われる口頭試問テスト、いわば小テストの勉強を実践形式で行っていました。
「黒色火薬の基礎材料は?」
「木炭、硝石、硫黄!」
「正解。じゃあ炎上能力を強化させる時の追加材料は?」
「え、えーと、燐光蛾の鱗粉と、サラマンダーの鱗の粉!」
「正解。追加材料と黒色火薬を攪拌するときの注意事項は?」
「え、う、ええと……」
「十五ページ、十五ページ!」
「ええと、ええと……あっ混ざり切ったらパチパチと炸裂音がするため、それ以上は混ぜないこと。暴発の危険あり!」
「正解!……三十九秒ですね」
「に、二十秒は無理だよぉロサ~」
「無理じゃないでーす。フアナはバラバラに暗記するから思い出しにくくなるんですよ」
「そんなこといわれてもお……」
あの総督試験で最初に私へおめでとうとを言ってくれたフアナことフアナ・デ・アルバロ子爵令嬢は、この錬金術の小テストで補習の常連でした。
でも説明したらちゃんと理解してくれるし、決して知識が身についてないわけじゃない、はずなんですが。
「たとえば……フアナは正面から斬りかかって、相手の右手で構えた剣で防がれたらどうします?」
「体重かけてそのまま切る、か、切っ先巻き上げて懐に突っ込む、かな」
「ほら、一連の流れが頭に入ってるじゃないですか」
「む」
「黒色火薬についても最初から追加材料まで入れるつもりで、頭の中で作ってしまえばいいんですよ」
「んむ~~……」
「大丈夫。覚えられるまで私も一緒に手伝いますから。ね?」
「うわーんロサーー」
抱きついてきたフアナをハイハイどうどう、と宥めるのも慣れました。
宮廷武官志望のフアナは体を動かすことに関しては頭一つ抜きんでているのですが、錬金術に関してはもう苦手意識が先立ってしまっているんですよね。きっと。
ちなみに私の隣で寝転がってるイシドロは、同性同士の接触にはとくに嫉妬したりはしないようです。
「それじゃあ次は真実薬のパターンです」
「ひい!」
そんな事をやっているうちに日が過ぎて、私にとってはある意味テストなどよりよほど重要な日がやってまいりました。
すなわち、婚約破棄裁判の開廷日です。私は灰色のドレスにお母様の形見であるエメラルドのブローチという控えめな装いで、弁護士と共に裁判所の扉を潜りました。彼はイシドロがバルラガンの名を使い探し出してくれた腕利きで、私との打ち合わせもばっちりです。
イシドロはアランサバル家のおじさまと一緒に、傍聴席の最前列に座っていました。傍聴席はあの爆発事件からある意味話題の絶えないシルベストレ家の裁判ということで記者と野次馬で埋まっています。ベニート一家も、一応は最前列に座っていますが引っ張り出された不平不満を隠しもしない様子です。
さて、そんな中始まった裁判ですが、行方はもう決着済みのようなものです。裁判席へ座っているカミロの顔色などもすでに黒ずんで見えますが、これから丁寧に社会的抹殺という火あぶりで消し炭色にしてあげましょう。
まず、私側の弁護士が裁判所へと訴状を提出します。次いで、この訴状内容、つまり "婚約がいかに正確に成立し、履行され、そして不履行へ至ったか" を固める証拠を取り出します。ここからが、弁護士の腕の見せ所です。
「それでは陪審員の皆さまご覧ください。ここに取り出したりますは十四年前、高貴な両家が揃ってこの婚約に同意したことを示す署名入りの親族会議議事録です!すなわち、この婚約は幼い二人の口約束などではなく、神に向かって誓約した神聖なものだったのです!それをこのカミロ・デ・ベニートは己の欲のために踏みにじったのです!!」
議事録を十分に見せつけた後、弁護士がまた恭しく裁判長のもとへとそれを提出します。陪審員のざわめきが早速大きくなりはじめました。
でも、次に取り出されるもので起きるだろう波は、こんなものではありません。
「続いてご覧いただきたいのは、被告カミロ・デ・ベニートから義妹――よろしいですか、原告の義妹!アデリナ・デ・シルベストレへ贈られたラブレターです!」
『義妹だと!?』
『婚約者の妹に手を出したというのか』
『何と破廉恥で不道徳な男だ!』
「皆さま、ご静粛に、ご静粛に……ありがとうございます。それではこの破廉恥漢が何と言っていたかを読み上げさせていただきます。『愛しのアデリナ、僕は今もこうして愛のために人目を忍びながらペンを取っている。父上は何かの手紙を受け取ったようだけれど、僕はあの雑草女が永遠に見つからなければいいとすら思っているよ。そうすれば君とまた二人で……』」
私はすでに内容を確認済のため、どうってことはありませんが、陪審員たちの顔が何か変なものを食べさせられたように首をひねっています。そうでしょう。ただのラブレターにしては内容が奇妙でしょうから。
でも、これはいわゆる導火線。いまからここに着火いたします。
「『……いつでも君を想っている。君をこの世で最も愛する男、カミロより』……さて、この手紙の内容について、皆さまもいくつか違和感を感じられたところがあったかと存じますが――――どうか思い出していただきたい!今年の夏先に起きた、シルベストレ家の厩舎爆発事故を!」
どよめきが陪審員席から傍聴席まで広がるのを感じつつ、私はただ真っすぐに前を見つめているだけです。すでに顔を上げられなくなったカミロの両肩がどんどん閉じていくのを、観察しているだけ。
「そう、あの爆発事故の際に原告は一時生死不明の行方不明となりました。幸いにしてここに健勝でおられますが、よろしいですか!この厚顔無恥なこの男は!よりにもよって婚約者が生死不明の状態にあるなかでこのような文を認めたということです!!」
『なんと……!』
『この恥知らずが!!』
『なんて冷酷な男だ!!』
『よくもこの場に出てこれたものだな!!』
お見事。大爆発。
陪審員たちの激怒の声が次々にカミロの背中に浴びせかけられます。同時に、傍聴席からも怒りの声が上がり、一度二度と裁判長が木槌を打たなくてはいけない騒ぎになりました。
「我が哀れなる原告が、十四年という長く清純な年月を被告に捧げた結果のこの裏切りに、どうか正当なる裁きを求め、慰謝料を二百億グロー――――」
私はここで初めて、取り出したハンカチで目元を覆う仕草を見せました。
それは一瞬だけで、口元にハンカチをあてたまま、すぐに背筋を伸ばし直します。あくまで哀れで気丈な原告が、一瞬堪え切れなかった、と見えるように。
実際のところは弁護士のふっかけた金額で、笑いだすのをこらえるのに必死だったのですけれど。
この慰謝料の要求でまた場内は大荒れ――カミロ側の弁護士が必死の減額弁護――しましたが、裁判長の「静粛に!」という声と木槌の音が響き渡ります。場内が静けさを取り戻すのと、陪審員席の面々が力強く頷くのを確かめた裁判長が、厳めしく重たく口を開きました。
「訴状内容と原告の主張の一致、及び被告の不道徳かつ破廉恥極まる行いもこうして白日の下に晒されました。しかしながら過去判例と照らし合わせても二百億という額は―――」
案の定、高額すぎる要求に調整が入ります。
「――――よって、原告人の主張を認め当該婚約契約の破棄を承認。被告人には慰謝料二十億グロー相当金貨の支払いを命ずる!」
まあ、それでも史上最高額の仲間入りではあるのですが。
傍聴席の方で物音がしました。記者に囲まれたベニート子爵らが我先にと退席しようとしているようです。「あれは息子が勝手に行ったことだ!」というような声も聞こえてきますが。
私はすらりと席を立ち、反論の機会すら与えられず絶望に青黒い顔をしたカミロに向かって、こう言い放ちました。
「大人しく支払うか債務者監獄行きの醜聞をベニート子爵家に上塗りするか。お父様のお膝元でよくお考えになることね」
私の声はよく通ります。
それこそ、イシドロが気に入り買い上げてくれたくらいには。
この一言で、記者たちと押し合いへし合いしていたベニート子爵らはぴたりと動きを止めたのが視界の端に映りました。ええ、無関係でなどいさせるものですか。世の中には監督責任という言葉があることをよく噛みしめていただかなくては。
「閉廷!」
弁護士と目配せした私は、そのまま裁判席を後にして群がる記者たちの質問攻めを、アランサバルのおじ様やイシドロたちに守られながら一切答えずに出口へと向かいました。
そして待っていたアランサバル家の馬車に乗り込むと、一先ずおじ様のタウンハウスへと向かったのでした。
「――――よくやった!」
おじ様の上機嫌は馬車の中から続いておりましたが、タウンハウスに入り帽子を脱ぐとその喜びを爆発させたように諸手を広げ私を抱き締めました。奥では出迎えに来てくださったおば様方が、しようのないものを見る目で苦笑しながらこちらを見守っています。
そんなおば様たちの様子も知らず、私を解放したおじ様は、イシドロや弁護士さんにも同じようにハグをプレゼントしていました。
「シャンパンを抜こう。君たちも呑んでいきたまえ」
「もうあなた、浮かれすぎですよ」
「今日浮かれずしていつ浮かれるというのだ!」
おば様のお小言も右から左へと受け流して、おじ様は見たこともないほどの浮かれようで奥の方へと入って行きます。残された私たちはおば様の案内で、入ってすぐの居間に通され、上着や帽子をパーラーメイドに預けました。
「あの人の様子を見ればわかるわ。よかったわね、ロサ」
「ありがとうございます、おば様。弁護士さんやイシドロ、おじ様たちのご協力のおかげです」
「しかしまだ気は抜けません、レディ・ロサ。一銅貨残らず慰謝料を回収するまで、ベニート一家から目を離さないようにしなければ」
「心配するな。 "目" を手配してある――――しかし、そうだな。あれらが王都のタウンハウスを手放すのは当然としても、領地の切り売りを始めた場合は……」
「対処をお願いしてもよろしいでしょうか、おじ様」
「うむ。任せておきなさい」
ワインセラーから取り出してきたのだろうシャンパンボトルを片手に、おじ様が居間へと入ってきました。シャンパングラスの用意を指示したおば様が、小首を傾げて夫へと問いかけます。
「シルベストレ家ではなく我が家で管理するのですか?一体なぜ……」
「それはな、おまえ。あのカミロが忌々しくもシルベストレ男爵候補であり続けているからだ」
「!なるほど、ブラウリオ卿がもし亡くなられたら、せっかく没収した領地がまた……」
「そういうことだ。無論、ルシオにもその資格がある。反対派筆頭のベニートがこうなったからには、幼く、アデラの仕出かしがあったとはいえ手続き上は未だに準正……」
「結局あの女のしたことは、我が子の足を引っ張っただけだったな」とおじ様は呟きつつ、パーラーメイドがコルクを抜いたシャンパンを一人一人のグラスに注いでいくのを見守ります。
「ともあれ、今は祝おうではないか。勝利に!」
『勝利に! 』
その時のシャンパンの味が格別だったことは言うまでもありません。
ああ、そういえばカミロの特待生特権がなくなったいま、王立アカデミーの学費も全額請求が行ってる頃でしょうね。忙しないこと。
●
「た、退学……!?」
「当然だろうが愚か者!!二十億もの債務を抱えてアカデミーの学費など払えるか!!」
「い、いやだ!嫌です、特待生枠くらい、次のテストでッ……!」
「そのテストまでの学費を誰が出すと思ってる!!」
ばしんと頬を打つ音と共に、カミロの瘦身が絨毯の上に転がる。
さらにステッキを振り上げようとしたベニート子爵を、慌てて止めたのはその妻、カミロの母だった。彼女の目の下の影も日に日に濃くなっていたが、それを止める手立てはこの場の誰も持ち合わせてはいなかった。
「あなた……!落ち着いてくださいまし!いまはそんなことよりも、どれだけ動かせるものがあるかを……!!」
「ええい、解っておる!!」
「あッ……!」
「母上ッ!」
縋りついた妻を突き飛ばしたベニート子爵は、執事に付いてくるよう命じると足音も荒く自身の書斎へと向かって居間を出ていった。
カミロは床を這うようにして母の下へ向かうと、自分よりもずっと華奢な肩を何とか抱き起す。
「母上!大丈夫ですか」
「え、ええ、大丈夫。大丈夫よ……それよりもカミロ、アカデミーを辞めては駄目」
「母上、でも……」
「アカデミー卒業なら任官の道もあるでしょう。それまでの学費は母がなんとか工面します。このタウンハウスは……手放さざるをえないでしょう。あなたは今まで通り、シルベストレ家にお世話になるように」
「はい……はい……!」
「忘れないで。あなたは次期シルベストレ男爵よ。そうなればシルベストレ家の領地が手に入るわ。あの娘の思う通りにはいかないでしょう」
あの娘。その言葉と共にカミロの腕に、母の指が食い込んだ。
誰あろう、ベニート子爵家をめちゃくちゃにしたあの灰色のドレス姿の娘。ロサ・デ・シルベストレ。
そう、カミロが男爵となるように、ロサもいずれはあの男――バルラガンの妻となる。そうすればカミロの采配に、おいそれと口を出せる立場ではなくなるのだ。
今を耐え忍べば――――カミロが確実に、次期男爵となれば。
「……ご安心ください母上。必ず、必ず僕がシルベストレ男爵になってみせます」
そのための懸念点は、どんな小さなものでも潰しておかなくてはいけない。
何度も頷く子爵夫人は、そう口にするカミロの目に宿った昏いものに気づかなかった。
●
「おめでとうロサ!!」
「ふふ、ありがとうございます。フアナもおめでとう」
「ロサのおかげだよ~!!補習なしなんて信じられない!」
口頭試問小テストの結果発表を終えて、いつものようにフアナが抱きついてきました。私はもちろん全問正解。フアナも特訓の成果がばっちり出た形です。
そんなフアナの背中をポンポンと叩いていたら、不意にフアナがばっと身を退いて真面目な顔になりました。
「あ~……あと、これもおめでとうって言っていいのかわからないけど……――――婚約破棄、無事に承認されてよかったね。おめでとう」
「まあ……!ありがとうございます。ええ、とっても嬉しいわ」
「あの慰謝料にはぶったまげたけどね」
「ええ、私も弁護士さんにお任せしたら……なんだかすごいことになってしまったわ」
なんて、もちろんある程度は私も噛んでいるんですが、お任せしていたのは本当です。弁護士さんが「これだけ証拠があるなら毟り取れるだけ毟りましょう」と力強く仰るのでお任せしたら、ああなりました。
おかげさまでアカデミー卒業後の仮住まいにも困らなさそうだわ。
「しっかし談話室の新聞読んだけどさ、信じられないやつがクラスメートにいたもんだよ。怒るっていうよりもう呆れちゃった」
フアナが視線を投げた先には、以前ならカミロを中心に賑やかだった男子グループ。今では当のカミロが特待生落ちしたうえ、ほとんど教室にいないものだから、すっかり勢いをうしなって隅に縮こまってます。
婚約者もちの中には、耳に痛いという人もいたのかしらね。だとしたらその末路がどんなものか、あの新聞たちの大賑わいっぷりで少しは学んでほしいところだわ。
私は苦笑して見せるだけ。だってまだまだこれからなんですもの。
「ま、それよりおめでたい話ししよっか。そちらの彼とはいつ婚約するの~?」
「あ、ええと、それはまだ……」
「今週末だ」
『え』
不意に口を開いたかと思えば。例によって私の隣で黙って教本に目を通していたイシドロが、突然そんなことを言い出したのでフアナと私の声が綺麗に重なりました。教室内でも聞き耳を立てていたのだろう面々の空気が、ざわっと波打つのが伝わってきます。
「あ、あの、イシドロ?私、初耳なんですけれど……」
「いま言った――――不満か?」
「ふ、不満なんて、ただ、その、こんなに早くていいのかしらと思って」
「俺にとってはようやくのことだ。早いに越したことはない……ああ、外泊届を出しておけよ」
「いやそれは先に言っておこうよ!」
フアナが思わずツッコんでくれましたがそれはそう。それはそうなのです。だって今週末って明後日のことだから!紙をもらって書いて提出して承認を貰うまで、イシドロのような特待生と違って一般生徒は時間がかかるのです。
ただでさえ私、裁判のために欠席届出したばかりですし。
ああ、でも、どうしましょう。今週末。今週末に私はようやく、イシドロと婚約できるんですね。
今更ながら実感がわいてきて、頬が熱くなってます。あなたの瞳の色が好きだとすらいえなかった頃が嘘のよう。あ、どうしましょう。本当に頬が熱いです。
そんなことを考えていたら、不意にイシドロが肩を抱いて私を立たせました。
「ロサ」
「は、はい?」
「出るぞ」
「出るってどこへ……」
「どこでもいい。お前のその表情を見るのは俺だけでいい」
「あー出た、バルラガン君のロサ独り占め」
大股のイシドロについていこうとしたら、あっというまにフアナの声が遠ざかっていきます。
「次の授業までには戻ってきなよー」
そんなのどかな声に送り出されて、私たちはざわめく教室を後にしたのでした。
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