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第49話 宣戦布告

早朝の生徒会室。

夢咲 玲華 副会長が作業をしていると、そこに木星 鑑人(あきと) 生徒会長が入ってきた。


玲華は、さっと顔を上げる。

「おっ、ようやく来たか」


「おはよう。もう着いてるなんて、玲華にしては珍しいね」


「まあ、たまには早起きもしないとな。

 ってことで、縦割り種目の投票結果、もうまとめて結果出してるから見てみなよ」


「サンキュー。流石は玲華、仕事が早い」


鑑人は爽やかな笑顔を浮かべながら、玲華に近づき、その投票結果を眺める。


その後、玲華の表情をチラリと見た木星は、「へぇ」と声を漏らした。



ーーーーーーーーーー



「んで……」


昼休み。体育祭運営委員会が行われる教室の中で、柳井は話を切り出した。


「日曜日はカラオケってことでいいんだっけ?」


柳井の確認に、万華が勢いよく頷く。


「うんうん。みんなでカラオケ行くぞー!

 アニソンとかたくさん歌おっ」


「でもマイナーな曲ばっか歌うのは勘弁してくれよ。分からんなかったら盛り上がらないし」


「じゃあ予習してきて!」


「めんどい」


ばっさりと吐き捨てる柳井に、「えー」と頬を膨らませる万華。


カナはクスクスと笑っていた。

「みんなでカラオケ行くなんて、初めてで楽しみだな〜! 万華とは何回か行ったことあるけどね。

 みんなの歌唱力、どんな感じかなぁ」


「ちなみに俺はめっちゃ歌上手いからな」


「あ、誰も珀磨の歌には興味ないから」


カナに軽くあしらわれ、柳井は「ふざけんな」と返しながら睨む。


「それよりも、片鳥くんや町嶋くんや小枝とか……あと、宝生さんの歌声も気になる!」


興味津々の表情で、隣を見るカナ。

その視線の先に居るのは、もちろん映真だ。


「そ、そう……?(俺はともかく、観己の歌唱力に期待するのだけは絶対にやめろよ)」


そんな映真の心境もつゆ知らず、カナは「映真ちゃんって声可愛いし、きっとカラオケ映えするよ」と声を弾ませる。


そんな4人が談笑していると、近づいて来た木星 会長からプリントが配られた。


「はい、どうぞ。これが投票で決定した6つの縦割り種目だよ」


「ありがとうございます」


映真は頭を下げてその紙を受け取り、目を通す。

そこには、種目名が箇条書きで並べられていた。


「えっと……『台風の目』『障害物競走』『玉入れ』『借り物競走』『ロープ引き』『ムカデ競走』……。

 私の希望はだいぶ外れたのか」


映真や柳井などが選んでいた『タイヤ引き』『尻尾取り』あたりが見当たらず、映真は小さく呟いた。


2組が得意とする純粋な脚力・筋力系ではなく、チームワークや器用さが問われる種目が多く名を連ねている。


柳井も不思議そうに声を上げる。


「アンケート取る時に、2組のヤツらに、種目選びについて声掛けたのにこの結果かぁ。他のクラスでは人気が無かったのか?」


もちろん、種目選びで勝敗が決まるわけではないが、各クラスに得意不得意な種目は存在する。

その点、2組にとって幸先の悪いスタートが切られていることを、このプリントは示していた。


映真がそう考えていると、隣に居るカナや万華の口角が少し上がっていることに気が付いた。


直後、木星は口を開く。


「世論誘導だね」


「えっ」「ん?」


映真と柳井が聞き返すと、木星は冷静に続ける。


「実は今朝、玲華から聞いたことなんだけど……

 彼、2組が得意な種目が選ばれないようにするために、こっそり噂や情報を流してアンケート結果を操作したらしいよ」


淡々と話す彼に対し、柳井は困惑しながら声を上げる。


「そ……そんなこと出来るんすか?」


「普通の人は無理だけど、玲華になら出来る

 そして彼の目的は、2組の士気を下げることだね」


玲華への信頼ともとれる真剣な表情で、木星はそう答えた。


「で、でも夢咲 先輩って、副会長の立場なのにそんな、2組だけに不利を被らせるようなことします?

 そもそも夢咲 先輩って、体育祭に対して熱血な人じゃないですよね?」


「つまり考えられるのは……」


映真はそう呟いた後、万華とカナの顔を見る。


「この2人が、夢咲 先輩に『2組への妨害』を頼んだんじゃないかな」


特に、玲華は重度のシスコン。万華が関わると全く行動が読めない。

だから、万華の頼みなら、玲華はどんなことでも聞き入れてもおかしくない。


映真の言葉に女子2人は狼狽えることもなく、笑顔を浮かべる。


「宝生さん大正解! お兄ちゃんにお願いしたのは私。

 お兄ちゃんてば、すぐに承諾して実行してくれたよ」


「ウチらだって、本気で優勝したいからね! JK生活でたった3回の体育祭! 当日に頑張るだけじゃあダメ。今のうちから手を回しとかないと」


万華とカナの真剣な眼差しを見て、柳井は若干 気圧されたように息を呑む。


「……だからといって、どうして俺たち2組に喧嘩を売るんだ? 他のクラスも同じく敵だろうに」


彼のその質問に、万華は軽い口調で返す。


「あれっ。ついこの前、私が柳井くんに宣戦布告したはずじゃなかった?

 それに、5組 対 2組って面白そうだしね。

 陸上部一年生同士の戦いに、生徒会 副会長と会長との戦い……」


「まさかこういう形で玲華と相対するとは思わなかったけど、少し楽しみだな」と、木星は呟く。


そんな中、映真だけはどこか蚊帳の外に居るような感覚を抱いていた。


(優勝を目指す思いも、誰かへの対抗意識も、俺には無い……)


例の宝石のこと。

失ってしまった夢のこと。


それらの気がかりがある以上、映真は純粋に体育祭を楽しむなんて到底できない。


映真はそれを分かっていた。


黙ったままの映真の隣で、万華は続ける。


「……そうそう。あと、小枝も片鳥くんの学級委員 対決も見どころだね!」



ーーーーーーーーーー



学級委員会が終わって粗方の生徒が帰った後も、俺は教室に残っていた。


俺に声を掛けて引き留めた張本人である玲華は、不敵に微笑む。


「俺はね、前学期の文化祭と同様に、体育祭も運営側として楽しもうと思ってたんだ。

 でも、万華やカナから、『小さいことでも良いから2組に横槍を入れたい』と懇願されてさ。可愛い妹とその親友のお願いを断るなんて、許されないよね? だから、俺は手を回したんだ」


それが功を奏したのかな、と言いながら、玲華は縦割り種目が書かれたプリントを指差した。


俺は呆れて問いかける。


「……どれだけ万華のことが好きなんですか」


「そりゃあもう、言葉に表せないほど大好きだよ。

 青春を謳歌する万華を見るのが、俺の生き甲斐なくらいなんだから」


姉妹がいる俺にとって、玲華の言葉は分からないこともなく、俺は少しだけ苦笑を浮かべる。


「……ただ1つ言いますけど、競技種目選考を工作したくらいじゃ、2組への大した妨害にはならないと思いますけど?」


「その通り。それは百も承知だ。

 あくまで今回の目的は、『2組への宣戦布告』だからな。

 俺は、鑑人に挑めることを楽しみにしているし、

 同じように他の人も……」


玲華はそう言った後、視線を別の場所に移す。


そこには、小枝が居た。


「……小枝?」


先に帰ったはずの彼女を見て俺が声を上げると、彼女は口を開く。


「今回、2組への妨害工作をした一件ですが……それを最初に発案したのはワタシです」


「え、そうなの?」


「はい。ワタシはこれからも、カナたちを支えながら、出来る限りの策を尽くすつもりです。

 片鳥くん。貴方に勝つために」


「……俺に?」


俺が困惑していると、小枝は続ける。


「以前、貴方はワタシにおっしゃって下さいましたよね。『小枝の向上心に感銘を受けている』と。

 それなら、ワタシはその言葉にお応えします。

 勉学のみならず様々な分野で、ワタシは貴方を上回りたい。

 だから、勝負しませんか?

 今回の体育祭で自チームを優勝に導いた方が、次期生徒会での『庶務長』の役職を獲得できる、と。

 いずれ生徒会長を目指すのなら、良い賭けだと思いません?」


「ちょっと待て。『生徒会長』……? なんで急にそんな話を……?」


「これは初めて公言しますが、ワタシは生徒会長を目指しています。

 それは、片鳥くんも同じでしょう? 夢咲 副会長から聞きましたよ」


俺は、慌てて玲華の顔を見た。


彼は笑みを浮かべていた。

「別に、間違ってはないんだろ?」


「ま、まあ……(夢咲 先輩が以前 俺に言った『生徒会長を目指すのなら、早めに手を回すに越したことはない』の言葉の意図って……)」


いつかは分からないが、玲華は、小枝の『生徒会長になりたい』という話を聞いたのだろう。

その際に玲華は、俺も生徒会長を夢見ている、という見解を彼女に伝えたに違いない。


『俺が再び夢を目指す決断をしないのならば、いずれ俺は小枝に置いていかれる』

玲華はこのことを、体育祭という機会を使って、暗に俺に伝えているのだ。


「……分かった。小枝がそのつもりなら、俺も相応しい姿勢を見せる」


俺はそう答えて、教室を出て行った。


しかし、その間もずっと、俺は居心地の悪い感覚を抱いていた。


全員が真剣に体育祭に向き合っているし、小枝も本気で生徒会長を目指すと言っているのに、

俺だけ、『再び夢を目指す決断が出来ない』その理由さえも、自分では理解できていなかったのだから。

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