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第47話 映真の特技/ヤツの災来

「あ、カナからメッセージが来てる」


帰宅してLINEを見た映真は、俺の隣でそう口にした。



——————————


 << 最強卍絆永遠の陸上部(7)


 カナ『みんなで大会の打ち上げいこー!』


——————————



いつの間にかグループLINEに送られていたその文章を見て、俺も「へぇ」と声を漏らす。


グループのメンバーは、観己、映真、純、柳井、カナ、万華、小枝の陸上部員7人。


そういえば初夏にも、同じメンツ(映真は居ない)で大会の後に打ち上げに行ったことがあった。


確か、近所のボウリングに行って遊んだっけ。


あの時は、ボウリング初挑戦だという小枝がストライクを連発してセンスを見せつけていたり、自信満々で大口を叩いていた柳井とカナが地獄の大量ガターをかましたりと、色々と盛り上がった記憶が。


今回は、新たに映真を追加して7人で遊ぶとのことだが、一体何をするのだろうか。


正直何をして遊んでも良いのだが、強いて言うなら1つだけ行きたくない所が俺にはある。


カラオケだ。


片鳥 観己という人物は、悲しいことに音痴なのだ。


多くの人間は、声変わりの時期に上手く音程を調節できなくなる、という事態に陥った経験があるだろう。

俺は、それが高校一年生になった現在もなぜか続いており、軽いコンプレックスにしていた。


だから、高校に入ってからは誰かとカラオケに行くことはしれっと避けてきたし、風呂場で歌うなんてことも最近はしていない。


(とりあえず、無難にショッピングモールとか提案しとくか)



——————————


 << 最強卍絆永遠の陸上部(7)


 カナ『みんなで大会の打ち上げいこー!』

   『今週の日曜にカラオケでどう?』


 万華『あり!』


 珀磨『さんせい』


 小枝『良いですね』


 純 『皆の行きたい所で良いよ』


——————————


(なんかもうカラオケに決まりそうなんだけど!?)


画面をスクロールして気付いた。

なんと既に、話し合いがほとんど終わっているではないか。

……ていうか、『話し合い』というほど話し合われてもないし。


カナが最初にカラオケなんかを提案してしまい、それに反対する人も居なかったから、こんなことになっているのだ。


つくづく運が悪い。


7人中5人がカラオケに賛成しているとなると、同調圧力もかなり強いし……


(もう腹を括ってカラオケにするしかないか……?)


俺がそう考えあぐねていた時……



——————————


 << 最強卍絆永遠の陸上部(7)


 純 『皆の行きたい所で良いよ』


 映真『じゃあカラオケで決まりだね』


——————————



「……えっ、ちょ、映真?!」


彼女が送ったメッセージを見て、俺が慌てて振り返ると、そこにはスマホを持ちながら笑みを浮かべる映真。

「どうかした?」


「いや……どうかした、っていうか……なんで躊躇なくカラオケに同意してんの?

 悩まないの?」


言ってしまえば唐突な裏切り行為に遭った俺は、困惑しながら質問した。


すると映真は、思い出したように「あ、そっか」と呟く。

「観己って歌うの下手だったっけ」


「なにが『だったっけ』だよ。自分の苦手なことを忘れるわけないだろ」


「それなんだけどさ。ついこの前 気付いたんだけど、俺、女体化してから歌上手くなったんだよね」


「……は?」


映真から衝撃のカミングアウトがあり、俺が呆然としている中、映真は続ける。


「俺さ、女子になってから声帯が変化したじゃん? それで高い音域を発声できるようになったのもそうなんだけど、なんか声帯を扱いやすくなったというか、正しい音程が出せるようになったんだよね。

 今なら歌唱力で観己にマウント取れると思う」


「え……マジで……?」


「なんなら、今から歌ってみるよ」


そう告げた後、映真はアカペラで校歌を歌い出す。


……確かに上手い。

音程が安定している上に、透き通って響く美しい映真の声質は、思わず聞き惚れてしまうほどだった。


「……え、羨まし」


俺が思わず呟くと、映真は自信ありげに頷く。


「でしょ?

 初めて、『女子になって良かった』と思ったよ」


「逆に今までは思ったことなかったのか」


「当たり前だわ」


映真がそう返した、その時……



ブブッ



何やら変な音がしたような気がして、俺たちの動きが止まった。


スマホのバイブ音でもなければ、俺たちから鳴った音でもない。


じゃあ、今の音は……


俺と映真で目を見合わせる。


「「…………?」」



ブブッブブブッ



再び音がしたと思えば、どこからともなく現れた緑色の何かが、映真の頭上を高速で飛び越えて行った。


映真は甲高い叫び声を上げる。

「ギィャァァ!」


「え、何?! 何?!」


「分からん! 知るかっ!」


「クソ、今のどこ行った……?」


俺はキョロキョロと辺りを見回す。


パニックになってしゃがむ映真の後方に、俺が目を移すと……


なんと壁に、ヤツが留まっていた。


「うわっ、カメッ、カメムシ!」


「はぁ?! なんで?!」


「知らん! 映真(おまえ)の歌に誘き寄せられたんじゃない?」


「そんなメルヘンチックな話があってたまるか!

 あぁっ、もぅ、あぁ、マジで最悪!」


「どうするこれ……?」


俺たちが騒いでいる間にも、ヤツは壁をテクテクとよじ登って行く。


その様子を見ていると吐き気がしてきて、俺もその場に蹲った。


「オェ」


「おい観己、立てよ!」


「無理ぃ……オェッ」


「そんなキモいの?!」


「めっちゃキモい。振り返って見てみろよ」


「ヤだ! 絶対!」


「オェ……」


しかし、ただ阿鼻叫喚しているだけでは何の解決にもならない。

現に、ヤツは天井まで辿り着いている。


なんとかしてヤツを追い出すか殺すかしなければ、俺たちの平和は永久に保たれない。


俺は必死に頭を回転させた。


「何かないか何かないか……あ!殺虫剤……は無いんだった……。

 じゃあ他の方法を……そうだ、カメムシって、確かペットボトルで対処できるよな?」


「なんかそれテレビで見たことある」


「よし。俺がヤツを見張っとくから、映真はペットボトルで捕獲器作ってくれ」


「了解」


映真は震える声で返事をし、抜き足差し足で物置やキッチンを巡る。


ペットボトルをハサミで切ったり、テープを貼り付けたり、水や洗剤を入れたりしている音がする間も、俺はなんとかヤツを視野に入れ続ける。


幸い、ヤツが大きく動く前に、映真は捕獲器を完成させた。


「よし、出来た! てことで、観己がヤツを捕らえてくれ」


「はぁ、ヤだよ! なんで俺が!?」


「だってお前、見張ってただけで何もしてないじゃん!」


「見張りは大事だろ!」


「と・に・か・く、俺は女子なんだ! いいな?

 お前は男子! こういうのは男子が対処しろ!」


「性別は関係ねーよ! 映真がやれ!」


「無理に決まってんだろ! 虫は大の苦手なんだから!」


「あぁーそうだった! コイツ、俺の分身なんだった!」


俺は頭を抱えるが、ここは腹を括らなければならない。

映真の言う通り、確かに俺は何もしてなかったので、ここでひと仕事しなければ。


「わ、分かったよ……。ちょっとそれ貸せ」


俺は映真からペットボトル捕獲器を受け取り、椅子を運んで来てその上に立った。


恐る恐る捕獲器をヤツに近づけ、その距離が10cm、また10cmと縮まる度に、俺の額に冷や汗が伝う。


「よし、いくぞ、いくぞ、いくからな、いっちゃうからな」


「さっさとしろ」


「うるさい黙れ」


そして俺はフーッと深呼吸をし、次の瞬間……


捕獲器の口を、思いっきり天井に叩きつけた。


その衝撃で、ヤツは捕獲器の中へと転げ落ちていく。


洗剤に浸かった後は、ヤツはあっという間に動かなくなった。


「「……ふぅ……」」


ヤツの死亡確認を済ませ、俺たちは安堵の溜め息を吐く。


「控えめに言って死ぬかと思った……」


「退治してくれてサンキュー、観己。良かった、なんとかなった……」


「もう二度と家に虫を入れるのは御免だな」


今までは頻繁に掃除をしていたのもありGなどの虫が出たことはなかったので、かなり油断していた側面も大きかった。


まさか、カメムシの侵入を許してしまうとは。


殺虫剤は絶対に買っておかなければなるまい。


そう俺が心に決めた時。



コンコン



「ん、誰?」


間髪入れずに玄関のドアがノックされたので、俺は確認に行く。


現れたのは、隣人の主婦の牧(まき)だった。


「あの……大丈夫ですか? 何やら叫び声や足音が聞こえてきたので、何かあったのではと心配で……」


「……あ……すみません(恥ずかしっ)」


その後、牧に事情(虫退治)を説明して丁寧に謝罪した、俺と映真だった。

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