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第45話 映真に寄せられた信頼

「……ってことで、以上の9種目が縦割り種目の案で、こん中から6種目を体育祭で行うらしいっす。

 それで、アンケートフォームを送信してあるんで、個人で希望の3種目を選んでください。回答期限は今日中です。

 あ、もし『種目はなんでもいい』って人がいたら、2組の得意そうな脚力・筋力系の種目を選んでくださーい。

 以上です」


クラス全体に伝達事項を説明する柳井。


柳井は、やると決めた事……というか、やる気を出した事に対しては熱心で律儀なヤツだ。

お陰で、映真はいくらか仕事を柳井に奪われていた。


特定の物事にしか熱意を見出さないというのは、裏を返せば、熱中できる物事が存在するということ。

ある意味それは、柳井の長所なのかもしれない。


陸上大会からも解放され機嫌が良さそうな柳井の顔を見ながら、映真はそう考えた。


「ねえねえ宝生さん。さっきの俺の説明、ちゃんと合ってた? 間違ってない?」


「うん、大丈夫だと思う」


「ほっ、良かったぁ〜。宝生さんがそういうなら安心だわ」


「柳井はなんでそんなに映真を信頼してんだ」

しれっと背後に現れた俺に、柳井は「うわびっくりした」と声を上げる。


「俺の知る限りじゃ、映真がそこまで信頼を集めるようなことをしたとは思えないけど」


「おい」と俺を睨みつけてくる映真はさておき、俺の質問に対して柳井は虚空を眺めながら考える。


「うーん……確かに、宝生さんが何かしたかと言われれば、特に思い浮かばないような……」


「え」


「でもほら、宝生さんって、優等生の片鳥が信頼してる相手だろ? だったら、仲良くなるのも、信頼するのも当然だって」


「なるほどね……」

柳井らしい考えだな……と俺が苦笑を浮かべていると、彼は顎に手を当てながら話を続ける。


「それに、宝生さんとは出会ってたったの2週間かもしれないけど、俺的には以前から会ったことあるような気配を感じるんだよな……」


ただの気のせいか?と呟く柳井を前に、俺と映真は顔を見合わせる。


「……気のせいだろ」

と俺は答えたものの、映真の中身は『観己』だから柳井の勘は正しい。

なんでこう、柳井やカナなどに限って、妙に鋭い時があるのだろうか。


とりあえずそれはさておき、俺は柳井に話しかけに来た当初の目的を思い出し、口を開く。


「話変わるけどさ、柳井は気づいたか?」


「え? 何に? ……あ、片鳥(おまえ) 髪切った?!」


「違う」


「身長伸びた?」


「それはそれで合ってると思うけど、そういうことじゃなくて。

 体育祭運営委員としてのことで何かない?」


「……?……?」


「加賀さんのことだよ」


痺れを切らした映真が答えを明かすと、柳井はキョトンとする。


「加賀さん……?」


「彼女、柳井くんからの伝達が終わってからずっと、どこか腑に落ちないような表情をしてるでしょ? きっと、何か聞きたいことがあるんじゃないかな?」


「マ、マジ……?」


映真の言葉を受けた柳井は、こちらを眺めている加賀を間接視野で捉えた。


俺はアドバイスをする。


「これは基本のことだけど、何かをクラスに伝達したり頼み事をしたりする時は、必ず質問できる場も用意した方が良いよ。

 あとは、クラスメイト1人1人の様子もしっかり気遣うこと」


「な、なるほど……サンキュー、2人とも」


そう言い残し、柳井は急いで加賀の元へと駆け寄った。


加賀と言葉を交わす彼を横目で見ながら、映真は歩き出す。


「ちょっと私、トイレ行ってくる」


「はいよ」と俺が返事した後、映真は教室を出て廊下を右に曲がり……


人とぶつかりかけた。


「わっ」


「おっとごめんよ」


映真の目の前に現れたのは、痩身で眉目秀麗な木星(きぼし) 生徒会長。


彼は華麗に映真を躱わした後、映真の顔を見て笑みを浮かべる。


「……って、宝生さんか。おはよう」


「おはようございます、木星 会長」


「そうそう。昨日の委員会の内容は、ちゃんとクラスに伝えてくれたかな?」


「はい、問題ありません。……とはいっても、ほとんどのことは柳井くんがやってくれましたけど」


木星は、感心したような表情を浮かべる。

「柳井くんか。僕、あの子のこと結構好きなんだよね〜」


「そうなんですか?」


「うん。僕は、ああいうパッションに溢れたタイプの子をとても尊敬してるんだ。まあ、生徒会にそれと似たタイプの役員が多い、っていうのもあるけど……。

 宝生さんは、柳井くんと上手くやれそう?」


「もちろんです。

 ただ柳井くんは、少し周りが見えていない時もあるので。学級委員の観己とも協力して、そこはサポートしていこうかなと思ってます」


すると木星は、少し屈んで映真の顔を覗き込んだ。


映真は困惑する。


「あ、あの……どうしました?」


「面白いなぁ……本当に、まるでもう1人観己くんが居るみたいな感覚だよ」


「えっ」


「観己くんと宝生さん。君たち2人の顔がそっくりなのはそうなんだけど、頼り甲斐がある所とかもとても似てる……。

 僕は宝生さんのこと、結構 信頼してるよ」


「あ、ありがとうございます」


映真は落ち着いて微笑むが、心拍数は上昇していた。


観己と映真の類似性を話題に出されることはしょっちゅうあるし、そもそも『似ている』=『分身だ』には普通ならないと分かっているにしても、この綱を渡っているような緊張した感覚は抑えられないものだ。


「君たち2人と同じ『2組』として体育祭に臨めること、僕はとても楽しみにしているから」


「そう言って頂けて光栄です」


「じゃあね、宝生さん」


「はい、また委員会の時にお願いします」


頭を下げた映真が教室に入って行った後、木星は廊下を歩いて行く。


木星は、玲華の顔を思い浮かべていた。


(玲華から聞いた話だと……

 観己くんと生徒会、そして宝生さんには深い関係がありそう、ってことだったけど……どうなんだろう。

 少なくとも、2人の仲は良さそうだけどね)



ーーーーーーーーーー



「物理の小テスト、純は何点だった?」


「46点。満点の観己まではあと4点か。中々厳しいな……」


夕方、教室の席に座る純は、俺の質問に残念そうに答えた。


既に放課後を告げるチャイムが鳴ったのもあり、生徒は続々と帰宅を始めている。


一方の俺と純は、担任の今上から教室清掃のお願いを引き受けたため、残っていた。


「そうだ。柳井はどうだった?」


せっせと鞄に荷物を詰めている柳井にも、俺が同じ質問をすると、彼は顰めた顔で振り返る。


「んあぁ?」


「物理の小テスト」


「……18点」


「あー、なるほど。再テストはギリギリ回避したのか……」


「は?! そっちから聞いておいてなんだそのしょぼい反応!?

 言っとくけど、俺はカナより2点も高いからな! 2点も!」


「そんなん言われても……知らん」


「知っとけ!

 ていうか思ったんだけどさ、夏休み明けテストの直後に小テストやらせるあの教師がおかしくね? そうだよな?」


「そう?

 むしろ、テスト範囲が記憶に新しいお陰で解きやすかったけど」


「あー、はいはい、そうですかー。満点の人は言うことが違いますねー。

 そもそもだけど、人にテストの点数を聞くなんてデリカシー無さ過ぎだろ。呆れるわー」


そう愚痴を漏らしながら、机の中をガサゴソ漁る柳井。


確かに俺が小テストの話を振ったのは良くなかったかもしれない……が、それにしても柳井はキレすぎな気が。


すると何を思ったか、柳井はパッと顔を上げ、同じく教室に残っていた映真の方を振り返った。


「そういや、宝生さんは何点だったの?」


「えっ、私?」


「速攻で言行不一致してんじゃねーよノンデリ」


「俺の場合は聞いても許される! 許されないのは片鳥(おまえ)の場合だけだ!」


「意味分からん……」


「わ、私の点数は絶対に秘密だからね」


笑みを浮かべながら、映真は断った。


ちなみに、今回の物理の小テストは、記念すべき映真の初テスト。

当然、彼女にもプライドがあるので、結果は俺と同じく満点だった。


そして、正体バレのリスクを高めないためにも、こうして映真の結果は公表しないことにしている。


「秘密かぁ……。なら仕方ねぇか。

 じゃ、また明日な」


意外なことに柳井はすんなりと引き、よいしょと鞄を背負い教室の外へ出て行った。


彼を目で追いながら、純は眉間に皺を寄せる。


「柳井のやつ……教室に残ってる俺たちを気にもかけずに帰っちゃうなんて無情だなぁ」


「ま、掃除なら私たちだけでも出来るよ…………うぐっ」


純に対して微笑んだ映真だったが、突如その顔が険しくなる。


彼女はそのまま立ち上がり、ガタン、とよろけて机にぶつかった。


「映真、どうした?」


俺が慌てて問いかけると、映真は腹部を押さえながら小さく呻く。


「シンプルに……腹が痛い……」


「……え? 腹?」


俺が拍子抜けたように聞き返すと、映真は頷きながらゆっくりと歩き出す。


「昼に食べた天ぷらカレー……脂っこ過ぎたかな……? ちょっとトイレ行ってくる……」


「お、おう……。1人で大丈夫か?」


「たぶん……」


今までこんなことは起きなかったのだが、確かに男女の胃や腸には差がある。

まさか今になって、映真が腹痛を起こすとは。


心配そうに俺が映真を目で追いかける一方、


純は、映真の机から床に落ちた一枚の紙を拾い上げていた。



『物理 小テスト 宝生 映真 50点』



「……え……?」

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