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第42話 体育祭準備の始動

いつの間にか、万華と玲華の名字が『夢原』になっていました。

初登場時の『夢咲』姓に修正しています。

〈登場人物〉


[1年2組]

 ・片鳥(かたとり) 観己(みお)・・・学級委員。実は、とある夢を抱えている。

 ・宝生(たからぎ) 映真(えま)・・・体育祭運営委員。観己の女体化分身。女子としての生活に慣れてきた一方で、内心に抱えているのは……。

 ・柳井(やない) 珀磨(はくま)・・・体育祭運営委員。体育祭に高い熱意を持つ。

 ・町嶋(まちじま) 純(じゅん)・・・観己の中学時代からの友人。一歩引いて周囲を見るタイプ。


[1年5組]

 ・祖開(そかい) 奏瑛(かなえ)・・・通称『カナ』。体育祭運営委員。明るく無邪気。

 ・夢咲(ゆめさき) 万華(かずは)・・・体育祭運営委員。ブラコンのオタク。

 ・小枝(さえ) 玄音(くろね)・・・学級委員。落ち着いた性格の令嬢。



ーーーーーーーーーー



週が始まり、朝の学校では様々な新鮮な話題が飛び交っていた。


その中にはもちろん、陸上部が参加した支部予選大会の結果に関する話も少なからずある。


「片鳥くん、町嶋くん、都大会進出おめでとう! 頑張ってね!」


俺と純が教室後方で談笑している時、そう声を掛けてきたのはクラスメイトの女子の加賀。


彼女は1学期に行われた文化祭の運営委員で、その際に俺と相談する機会も多かった。


カナや万華のような特殊なヤツらとは違い、加賀は俺の至って普通の友人枠である。


「ありがとう」「加賀さんも知っててくれてたんだね」


純と俺で口々に答えると、加賀は はにかんで微笑む。


その後 去って行く彼女をジト目で追っていたのは……自分の席で数人の友人と駄弁っていた柳井だった。


「……どうした、柳井?」


その友人の1人・佐々木が問いかけると、柳井は表情と視線を変えずに呟く。


「いやぁ……学校規模で有名なヤツって、有名たるゆえんがあるんだなと」


「おいおい急にどうした。悟りでも開いて。

 ……あー、あれか。お前、週末の大会で入賞 出来なかったから、それで嫉妬してんのか?」


柳井に肘を当てながら、冗談交じりに笑う佐々木。


顔を上げた柳井は、呆れた目つきで佐々木を睨む。


「あのなあ……。確かに悔しくはあったけど、別に嫉妬はねぇよ。

 ごめんけど、俺は過去のことは気にしない主義なんで」


「あはは、そりゃあ柳井らしいな」


「そんなことより、今はアレだろ? 体育祭に向けてテンション上げていかないとな!

 今日からようやく委員として体育祭に集中できるぜ!」


よっしゃあ、とガッツポーズをする柳井を見て、佐々木は「楽しそうなヤツだな、お前は」と呟きながら微笑むのだった。



ーーーーーーーーーー



昼休みに入り、映真と柳井は並んで廊下を歩いていた。


目指すのは、一年生のホームルームから少し離れたフロアにある空き教室。


柳井がそこの扉を開けると、既に何十人もの生徒が集まっていた。


「うわ、体育祭運営委員ってこんないるのか」


「各クラスに2人ずつ、5クラスで3学年分だから、全30人ってところかな」


「おー、宝生さん暗算早いな」


「いや、これくらいは普通……え、柳井くんも暗算くらい出来るよね?」


「で、できるよ、当たり前だって!」


慌てて反論する柳井と共に、映真はとりあえず指定された席に移動する。


そこには一年生も何人か居て、5組のカナや万華の姿もあった。


「あっ、珀磨と映真ちゃんだ!」「やっほー、2人とも」


その他のクラスの委員たちについても、映真はおおよそ名前を知っている。

だが、観己の所属する学級委員に比べてエネルギッシュそうな人が多いので新鮮だ。


柳井がカナたちと喋っている間、映真が周囲を見渡していると、そこに1人の青年がプリントを配りに来た。


「君が、観己くんの いとこ だっていう宝生さんだね」


映真が「はい」と返事をしてプリントを受け取ると、彼は爽やかな微笑みを浮かべる。


「いやぁ、いつも観己くんには お世話になってるよ。彼は優秀だからね〜。

 あ、自己紹介を忘れてた。宝生さんは知ってると思うけど、僕は生徒会長の木星(きぼし)。体育祭運営委員長を兼任する。

 これからよろしくね」


木星(きぼし) 鑑人(あきと)。

昨年の12月、1年生であった彼は、その優れたリーダーシップとカリスマ性により、生徒会長選で名だたる先輩らを下して当選。

第18代生徒会長である彼は、全生徒の憧憬の的だ。


映真 もとい 観己も当然、そんな木星のことを尊敬している。


「はい、よろしくお願いします」


映真が笑顔で頭を下げると、木星は振り返って教室前方の時計を見る。

時間に余裕があることを確認した彼は、映真との会話を続けた。


「それにしても、宝生さんが体育祭運営委員に立候補してくれて、周囲にもこんなに馴染んでたなんて驚いたよ。僕が同じ立場だったら出来ないかもしれない。

 良い意味で、宝生さんって転校生には見えないよね」


「あ、ありがとうございます……」


もちろん、映真は本物の転校生ではない。中身は、この学校で半年近く過ごしてきた観己なのだから。


それなのに『転校生なのに』と褒められるのは気まずいので、転校生設定は要らなかったのでは、と映真は今更ながら後悔してきた。


まあ、転校生だと偽る以外の方法が無かったので仕方ないけど。


そうしていると、「さっさと委員会始めちゃおーよー」という3年生からの文句が飛んで来る。


木星は「オッケー」と返事をし、再び映真をちらっと見た後、教室前方の教卓まで移動した。


「……ということで、第1回体育祭運営委員会を始めます。集まってくれたこの30人を中心に、絶対に体育祭を成功させましょう!

 ということで今日はまず、体育祭の大まかな流れとこれからの日程、そして競技種の案について……」



ーーーーーーーーーー



同刻。


別の教室で行われていた学級委員会を終えた俺と小枝は、暇潰しも兼ねて、部屋に残って雑談をしていた。


「体育祭は10月か……。秋とはいえ、残暑の影響はかなり大きそうだな」


「そうでしょうね。加えて、1日規模のイベントですからね。朝から昼過ぎまで、暑い屋外で過ごすことになりますよ」


「それは嫌だな。クラスメイトの体調管理にはあまり気を遣い過ぎたくない。涼しいならそれに越したことはないんだけど……」


俺は小さく溜め息を吐いた。


体育祭運営委員はその名の通り『体育祭の運営』の一点に集中するのに対して、学級委員はそのサポートが主な仕事だ。


『サポート』と言えば楽に見えるかもしれないが、そう簡単な話ではない。

クラスメイト1人1人や全体のバランスに気を配ったり、体育祭以降の学校生活に活用できそうな気付きを探したり、熱中し過ぎた運営委員らの仕事が疎かになってないか冷静に監視したりと、仕事は多いのだ(運営委員の仕事ぶりに関しては、映真が居るから問題無いだろうけど)。


「ま、あまり過酷な競技種目は無いだろうからそこは安心かな」


そう呟いて俺が眺めるのは、種目の案がまとめられたプリント。


大縄跳びや選抜リレー、応援合戦などは例年通り確定で行われるのだが、その他の『縦割り種目』はいくつかの案の中から投票で決定される。


ちなみに『縦割り』とは、学年の垣根を越え、同じ組同士が協力して競技を行うことだ(つまり、1年1組・2年1組・3年1組で『1組グループ』となり協力する)。


鏡高校では1組〜5組までの縦割りが五つ巴となって対抗し競うので、赤組白組で分かれて戦う体育祭とはまた違った白熱した雰囲気になるのだ。


「えっと、縦割り種目の案は……『台風の目』『障害物競走』『玉入れ』『借り物競走』『ロープ引き』『タイヤ引き』『ムカデ競走』『尻尾取り』『王様ドッヂビー』……いや多っ。改めて見ると多彩なラインナップだな、これ」


「確かに多いですけど、この中から6つ種目を決めるのですから、案の数は妥当だと思いますよ」


「その6つってのも多い気が……。1クラス36人だから、ちょうど各種目に6人ずつ出られるようにした感じかな」


「そうですね。ただ、そうなるとワタシのクラスの場合は人数が足りませんけど」


「え?」


「1人、和泉 瑛斗という方が休学中ですので。35人学級です」


「あー、なるほど……」


「ねえねえ、2人とも」


そう声を上げて俺と小枝の会話に入ってきたのは、同じく教室に残り、席に座って書類整理をしていた男。


ガタイの良い長身の……2年5組の、夢咲 玲華である。


「話してる途中に悪いけど、そろそろこの教室を閉めてもいいかな?」


そう言って椅子から立ち上がる玲華の胸元には、『副会長』と書かれた重厚な青いバッジが光っていた。


小枝は「勿論です」と答えた後、淡々と荷物をまとめながら、玲華の方を向く。


「……夢咲 副会長は、この後は生徒会室に戻られるのですか?」


「うん。なんせ、資料の準備や管理で忙しいんだよな〜」


あー、と声に出しながら背伸びをした玲華は、俺と小枝が廊下に出た後、扉を施錠する。


そこで何かを思ったのか、玲華は俺の顔を見て笑みを浮かべた。


「あっ、そーだ! 片鳥くん今から時間ある? ちょっと手伝ってよ!」


「えっ、今から……?」


突然、玲華に頼み込まれ、俺は困惑した表情を浮かべる。


もう昼休みが半分終わったのに……と漏らす俺の背中を、玲華がポンポンと叩いた。


「いいじゃん、お願い?」


「俺はパシリなんですか?」


「それはちょっと否定できないけど……」


「え」


「でもほら、他に用事はないんでしょ?」


「まあ……はい」


「んじゃ、よろしく」


「あの……ワタシも手伝いましょうか?」


「小枝さんは大丈夫。片鳥くんさえ居れば人手は足りるよ。

 流石に小枝さんの手を煩わせるわけにはいかないしな〜」


なぜ俺の手を煩わせるのは良いのか、と言いたげな俺に対して、玲華はニコニコの笑顔を浮かべながら、廊下を歩いて行った。

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