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第38話 きょうだいの仲

運動部の大会は大抵、出場者の家族が観戦に来ることが多い。


ということは例外なく、あの2人もやって来る。


「久しぶり! 映真姉ちゃん!」


「うわっ!」

競技観戦中にいきなり後ろから抱きつかれ、映真は叫び声を上げて振り返る。


そこには、花柄の薄手の私服に身を包んだ満面の笑みの妹・双葉が居たので、映真は挨拶代わりに睨み返しておいた。


「もーっ、なんでそんな顔するのー?」


「自分の心に聞いてくれ。本っ当に心臓に悪い……。

 ていうか、最後に会ったの1週間前なんだから久しぶりってほどでもないけどな。住んでる都道府県が違う割にはしょっちゅう会ってるよ」


「えへへへ」


「どうしてそんなに自慢げなんだ……?

 ……あ、そういや、希美は今どこに?」


「お姉ちゃんは手間本先生と話しているよ」


双葉の言葉を受け、映真がスタンドの後方に目を移すと、手間本と談話している姉の姿が確認できた。


弟が世話になっている顧問に挨拶に行くというのは良い事なのだが、その代わりに双葉を野放しにするというのは判断ミスだぞ、希美。


「ていうか、兄ちゃんの方こそ今どこに居るの?」


「観己のことか? 観己は今、純と柳井の付き添いをしてるよ」


あと少ししたら帰ってくるんじゃないかな、と俺が付け加えると、そこに他校の生徒と顔を合わせに行っていたカナが戻って来た。


カナは双葉を見るなり、パッと表情を明るくさせる。


「わー!双葉ちゃんだ!」


「あっ、カナせんぱーい!」


「元気にしてた〜?」


「もちろん元気もりもりだよー!」


いえーい、とハイタッチをする2人の横で、映真は苦笑を浮かべる。


カナと双葉は見て分かる通り、性格が似ているが故に馬が合うのだ。

この2人の初対面は数か月前の陸上大会の時だったと思うが、今では頻繁に連絡を取り合う仲にまでなっているらしい。


その上、きょうだい のいないカナがここぞとばかりに双葉に対して姉ヅラをして、その姉ヅラが妙に似合っているものだから違和感しかないんだよな。


ワイワイと夢中で話す2人を映真が横目で眺めていると、手間本との雑談を終えた希美が階段を降りてやって来た。


「おはよう、映真」


「おはよう。ごめんな、わざわざ朝早くに神奈川からこっちまで来てくれて」


「当然でしょ? 観己の走りをしっかりと応援して見届けるのは、姉の務めなんだから」


「はは、相変わらず律儀で真面目だねぇ」


「なーにそれ。他人事みたいに言っちゃって」


「まあほら、俺は大会に出ない立場だからさ……」


体力のある映真なら競技に臨んで結果を出すことも可能ではあるが、そもそもエントリーの締切に間に合わなかったので出場は叶っていない。


そのため今日の映真は、観戦をしながら競技運営の手伝いを少し行うといった感じだ。


『続きましての競技は〜……』


競技場にアナウンスが流れたので、映真は陸上トラックの方に目線を移す。


スタート地点には、ユニフォーム姿の女子が並んでいた。


「おっ、そろそろ始まるか」


「えっと、女子800m……って誰が出てるんだっけ?」


「万華だよ。夢咲 万華(かずは)」


「かずは……あー、あのオタクちゃんか! 映真がこの前、一緒に遊びに行った子だよね」


希美がピンと来た所で、競技場全体が静まり返る。


……刹那、号砲が鳴り響き、十数人の選手が一斉に飛び出した。


「ガンバレー!」「いけぇえ!」「前狙え!前!」


様々な歓声が競技場全体を飛び交う中、映真は、カナや双葉の後方の席に座ってじっとトラックに視線を送る。


鏡高校のユニフォームは、灰色を基調とし、白と黒のラインが入ったモノトーンのデザイン。

そしてそれを着ている万華は、先頭集団の前方に位置している。スタートダッシュは悪くない。


この調子なら、期待以上の結果が出るかも……


「かぁずはぁぁ! がんばれぇぇ!」


突如、とある男の一際大きな声援が鼓膜を突き破る。


希美は困惑して辺りを見回した。


「えっ、今の誰?」


そしてその答えは、すぐに分かった。

カナの左隣に、立派なカメラを構える明らかに怪しげな男が居たからである。


「かずはぁ! 食らいつけ! 絶対に置いていかれるなよ!」


あまりの勢いにぐいっと立ち上がって前のめりになった彼は、180cmはあろうかというガタイの良い長身。

私服の白いTシャツとジーパンに身を包む、典型的な高校生といった感じだ。


そうこうしている間に、万華は最後の直線に差し掛かってラストスパートをかけ始める。


「かずはっ! 差せ! 差せ! そこだぁ! いけぇぇえ!

 ……よっしゃぁぁあ! 2位キタァァ!」


「「………!」」

周囲の目も憚らず大はしゃぎするその男に、恐怖と警戒心で顔を歪める希美や双葉。


映真がそっと彼に近づくと、彼はカメラを顔から離して振り返った。


「おっ、宝生さんか。どうしたの?」


「いや、その……夢咲 先輩。流石に騒ぎすぎて、変な注目浴びてませんかね……?」


「それでいうなら、宝生さんの緑髪の方が注目を集めるんじゃない? アニメくらいでしか見たことないからなぁ。

 それに、『騒ぎすぎ』って言っても、俺は愛する妹を全力で健全に応援してるだけだしね」


「そ、それはそうかもですけど……」


……一応紹介すると、この男の名前は夢咲 玲華(れいか)。

……そう。鏡高校に通う、万華の1つ年上の兄で、彼女をオタクにした元凶こそがこの男である。


玲華は1学期の頃から観己が関わりのある人物で、彼は映真の存在も既に認知している。


先ほども、『TSがなんだって?!』といきなり話に割り込んできた玲華に、映真とカナは数分間絡まれていた。


そして何を隠そう、彼は重度のシスコンだ。


『この人が万華の兄?!』とでも言いたそうな表情の観己の姉妹たちは、完全に無言状態。2人は玲華のことは認知しているが、彼がどんな人かはよく知らなかったからだ。


代わりに、笑顔のカナが両手を頬に添えながら喋り始める。


「でもさ、兄妹(きょうだい)で仲良いなんて良いことじゃん! ね〜、玲華パイセーン」


「さすが、カナは分かってるなー!」


ちなみにカナは、玲華のことは『万華の面白い兄』くらいに思っているらしく、この通り彼とはかなり馴れ馴れしく接している。


(『きょうだい で仲良い』って言っても、程度というものがあると思うんだけど……)

映真としては、カナの発言は理解はできる。

片鳥家もきょうだい仲が良いが、それでも流石に夢咲家には及ばない。


それに、想像して欲しい。もしも観己がこんなシスコンだったら……と。

観己が、希美や双葉、ましてや映真にベタベタくっついてくるようになったら……。


考えるだけで、色々な意味で映真は寒気がしてくる。


そんな映真の元に、希美が耳打ちしてきた。


「夢咲 玲華くんって……万華ちゃんへの愛がすごいっていうか……こんな感じなんだね。あまり会ったことないから知らなかった」


「そう……だね。希美には言ってなかったけど、夢咲先輩って普段からこんな感じだから」


映真は苦笑いをしながら返す。


そうして、午後に行われる観己の競技を待つことにした。

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