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第34話 部活の一幕ととある提案

「はー、あの時は危機一髪だったよ……」


雨がすっかり止んだ放課後。

部活中にトイレに行った映真は戻って来るなり、俺の隣で分かりやすく溜め息を吐いた。


グラウンド横の部室棟の日陰に座る俺は、徐ろに映真を見上げる。


「……また漏れそうだったの?」


少し間を置いて俺が質問をすると、映真は食い気味に答えた。


「んなわけないでしょ! 午前中の反省を活かして、ちゃんと早めにトイレに行ったよ」


「な、なんかすまん。

 そりゃまあ、お前が反省しないわけないか」


「そうだよ。トイレに慌てて駆け込むとか、あんな事は二度と御免だ。

 とはいえ、同じ過ちを繰り返さないという自信があるわけじゃないんだよなぁ……女子の身体って扱いが難しいし」


「バリバリに部活はできてるお前に『難しい』って言われても、あんま説得力ないけどな」


暗澹とした口調で不平をこぼす映真に、呆れて返す俺。


実際、ここ数日の映真は、長距離エースの万華に匹敵するどころか、2年生の先輩の何人かを既に上回るほどの走りを見せていた。


トイレ事件のせいで『女子の身体の扱いが〜』とか愚痴を漏らしている映真だが、少なくとも『走り』という点においては彼女の身体能力は高い。


そんな彼女の走りを見て『映真は観己の分身』という事実を改めて実感しつつ、映真が再び暴走しないかどうか胃を痛めながら練習に励むのが俺の毎日だった。


そうだ、『暴走』といえば……


「例の宝石、今はどうなってんだろうな」


俺がボソッと呟くと、素早く映真が反応する。


「あー、光ってるかもね。あの暗い物置の中で」


彼女がそう断言できる根拠は1つ。


ここ1週間、部活中の時間帯に例の宝石が発光した記録が常に確認されたからである。


もちろん、発光が記録されたのは部活中だけではなく、休日、休み時間など様々だ。

だが、それも踏まえて、宝石の発光に何かしらの傾向があるという推論には容易に至れた。


だからきっと、今この部活中も宝石は光っているのだろう。


しかし、俺たちはまだその法則性の原因を解明できてはいない。


例の宝石が映真を生み出した以上、発光のトリガーが『映真』による可能性は極めて高いのだが、それより具体的なことは分からないのだ。


それに、以前『映真が部活で暴走した時』は『強い光』が記録されたのに対し、他の時間などは基本的に『弱い光』の記録が目立つ。


そもそもなぜ宝石が光ってるのかという理由も含めて、考える要素が多いのである。


しかし、最近は新しい発見が無くなってきてしまったし、どうしたものか……。


「……とりあえず、そろそろ練習を再開するか」


部活中に考えた所で仕方がない、と思い、俺が立ち上がった矢先……物凄い勢いで、何かが俺の視界に突っ込んできた。


「うわぁん、かぁたぁどぉりぃ〜」


「おっと」


俺が反射で回避をすると、その『何か』はバランスを崩しかけ、目を見開いてこちらを睨む。


それは、今にも泣き出しそうな顔の柳井だった。


「おいっ、なんで避けるんだ?!」


「『なんで』と言われても……何かが突っ込んで来たらそりゃ避けるでしょ。

 てか柳井こそ、どうしてそんな顔を?」


「『どうして?』じゃねぇよ! 聞くまでも無いだろ!

 だって今から、大会の本番を想定して1500mも走らなきゃいけないんだぞ?! 絶対キツくて死んじゃうよ?!

 雨が降ってたら中止だったかもしれねぇのに、なんで止んじゃったんだよぉ! 朝はあんなに降ってたじゃんかよぉ!

 どうしてくれんだ片鳥ぃ!」


「いや俺 全く関係ない……」


膝立ちで、俺の腰に抱きつく柳井。


どうすればいいか分からず俺が言葉に困っていると、そこに万華が歩いて来た。


「ほーらグダグダ言わないで、柳井くん! 雨のことは私が代わりに謝っといてあげるから」


「いや万華が謝ったところでどうにもなんねぇよ……。せめて雨を降らせた奴でも連れて来い、雨降らせた奴を」


「…………」


「……ん? 何この?」


「と、とにかく! 大会に向けて練習しなきゃならないのは、みんな一緒でしょ? 柳井くんが文句言って何になるの?」


「えぇ……。普段オタク話ばかりしてる万華に正論言われるとなんかムカつくなぁ」


「へぇ、私に歯向かうつもり? いいの?アンタを題材に夢小説書いちゃっても?」


「脅し方ヤバ! 狂気! マジでそれは勘弁してくれ!」


「なら、さっさと立ち上がることね」


「は、はい……」


万華の脅迫に屈して渋々立ち上がった柳井だが、まだ不服なのか、万華をじっと睨んでいる。


「万華しかり片鳥しかり、みんなよくそんな楽しそうに走るよな。まったく……」


「陸上部員の台詞とはおよそ思えないね」


「だって俺、親に言われて嫌々 運動部に入ったんだぞ? 球技系はめんどいと思って避けたけど、陸部も大概つらかったわ……。あーあ、運動嫌い」


「……。まあ、球技がイヤなのはちょっと分かるかも。私も結局、走る以外の才は無いからなぁ」


はぁ、と揃って溜め息を吐く2人。

コイツら、趣味嗜好は違えど気は合うらしい。本人達の自覚は無いようだけど。


そして、その一部始終を見ていたのか、いつの間にか近くに居た純がうちわをパタパタさせながら口を開いた。

「……一応言っとくけど、10月には体育祭があるんだよ? 君達は陸上部員なんだし、運動に対して消極的なスタンスでいられるのはちょっと……」


「「体育祭は話が別!」」


「うわびっくりした」


柳井と万華から同時に大声を出され、素の反応で驚く純。

わざわざこの2人に絡むんじゃなかった、という後悔が押し寄せてそうな純に、柳井らは説教を始める。


「体育祭は運動じゃねぇ、バトルだ! 最強のクラスを決める戦いだ! あんな神イベント、絶対に楽しみに決まってるじゃんか!」


「そうそう! 運動嫌いでも楽しめるのが体育祭ってもんでしょ?

 それに体育祭となれば、恋のハプニングや恋の駆け引きもきっと……」


「なんじゃそりゃ。万華の妄想とかもういいって。聞き飽きた」


「はぁなんだと!? 言わせておけば生意気なことを……!

 分かった。アンタら2組のことは、私たち5組がぶっ倒してあげる! 私、カナと一緒に『体育祭運営委員』になるつもりだから、覚悟してよね」


いつの間にか柳井と万華の言い合いに戻ったところで、万華がビシッと宣戦布告すると……

柳井はポカンと首を傾げた。


「た、たいーくさいうんえいいいん?」


「えっ、柳井くん知らないの?」


「ん、うっ、えぁ、ちょ……

 片鳥教えてくれ! なんだよ委員って!」


自分の無知が発覚し恥ずかしくなったのか、柳井は振り向いて俺に助けを求める。


ここ数分の俺はもはや空気だったのでさっさと練習に戻ろうかと思っていたのだが、柳井はつくづくタイミングが悪い。


溜め息を吐きたい俺の心境を察してか苦笑いをする純を横目に、俺は柳井の方を向いた。


「『体育祭運営委員』ってのは、体育祭1ヶ月前から各クラスに2人ずつ配置される臨時の役職のこと。

 委員会での決定事項をクラスに伝達したり、クラス会議の司会をしたり、全体練習を指揮したり、当日の運営をしたり……まあ役割は色々ある。

 放課後の時間も仕事に使うから、立候補したがる人は例年少ないと聞いてるけどね。

 ……ていうか、委員についてなら、始業式の時に先生が話してくれてたと思うんだけど……」


そう俺が言い終えないうちに、柳井の顔が純粋な少年の様にパッと輝いた。


「何それ面白そう! 部活もサボれそうだし、何より2組を優勝させれば英雄になれてモテモテだよな、俺!」


「ま、まあ、うん……」


小学生みたいな動機は褒められたものではないが、それを素直に口にする所は柳井らしい。


まあ、運営委員なんて滅多に出来る経験ではないし、立候補すればいつもの学校生活に彩りが添えられて良いだろう。


(……『彩り』……そうだ!)


その時、ある1つの、何故ずっと思い浮かばなかったのか不思議なくらいの至って単純な案が、俺の頭に思い浮かんだ。


宝石に関する情報を集めるために、今からでも実行できる手立て。


映真も同じことを考えたのか、俺に視線を送っている。


俺は心の中で頷き、「委員、委員」と声を弾ませる柳井に声を掛けた。


「なあ柳井。1つ提案……というか、お願いがある」


「おん?」


「映真と一緒に、体育祭運営委員をやってくれないか?」

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