第26話 帰宅後にて
それから日曜日も夕方になり、『明日は学校だから』と俺たちは早めに解散することにした。
「観己っちと映真ちゃん、バイバーイ!」「あばよーっ!」
「また明日!」「じゃーね!」
俺と映真は手を振り返し、女子2人とは反対方向へと歩いていく。
映真と帰路を共にするというのもだいぶ慣れてきたな、と俺は しみじみ思いながら彼女の横顔を見た。
「映真、このまま家に帰るんでいい?」
「そうしようか。夕食は作り置きがあるしね」
「昨日の夜に多めに作っておいてよかったな」
「だね。大きめの鍋を新調した甲斐があったよ」
「……あの2人って親族 超えてもはや家族だよね」
「ほんと熟年夫婦みたいだな〜。『ミオ×エマ作戦』どうしようかなぁ」
女子2人の呟きが後方からボソッと聞こえ、俺たちはそっと体を竦めた。距離があったので、アイツらが何を言ったのかまではよく分からなかったが、少なくとも何かを確認されるような妙な視線は感じた気がする。
カナも万華も、今日は終始楽しそうだったな。転校生の女子と一緒に高校生らしいことが出来たのが、彼女らの心に適ったのだろう。
俺も、なんだかんだで居た意味があった……のかもしれない。女子2人の暴走も最小限に防げたし、俺自身もプリクラなりなんなりで経験を積めたし。
ナンパの件も、一応 俺が解決したしな。
アパートに帰って夕食や風呂を済ませれば、既に時刻は夜の9時を回っており、俺たちは静かに勉強机に向かっていた。
「どうだ映真。勉強は進んだか?」
俺は休憩がてら自室からリビングへと戻り、そこにいる同居人の様子を確認する。
テーブルの上で休憩がてらズズッと紅茶を飲んだ映真は、一息ついて背伸びをした。
「いつも通り、ってところかな……。
あー、今日はかなり疲れたわ。アイツらと休日をまともに過ごしたのは初めてか。振り回されてばっかだったな……」
「お疲れ。まあ、良い経験になったんじゃない? 映真がああいう休日の過ごし方をする日は、これから増えていくだろうし。
ナンパは想定外だったけど……」
「あぁ……あれな。確かにカナたちも可愛い部類ではあるし、俺も美人だから仕方ないとはいえ……またナンパされたら追い返せるくらいの対策は考えないと……」
映真は思わず顔をしかめ、シャーペンをカチカチとノックする。
映真のやつ、しれっと自画自賛してるんだよな……と呆れつつ、俺はカゴに入っているスナックの袋をいくらか手に取った。
ちなみに、今の映真は化粧を落としたすっぴん顔なのだが……今日一日を振り返れば、俺としてはこっちの顔の方が色々と安心できる気がする。
「また後でな」と俺が小さく苦笑を浮かべながらリビングをあとにしようとした、その時……
ブーッ、ブーッ。
俺と映真のスマホが同時に鳴った。
スマホを取り出して画面を覗き込めば、片鳥家の家族写真のアイコンが表示されている。
「そっか。感想会をやろう、って話だったっけ?」
「なにも、俺たち2人のスマホに同時に発信しなくたっていいのに」
俺たちが呆れ混じりの表情で通話ボタンを押すと、すぐに天真爛漫な妹の大声が聞こえてきた。
『やっほぉーん!もしもし!兄ちゃんと映真姉ちゃん!』
「……今は夜の9時で合ってるよな?」
「双葉はなんでそんなエネルギッシュなんだよ」
『あれだよ!深夜テンション、ってやつ?』
「「流石にまだ早いって」」
『まあまあ、細かいことは気にしないの!
それよりも映真姉ちゃん、今日のお出かけはどうだったの?』
「お、お出かけは……うん、有意義な時間だったよ。あの女子たちのテンションについていくのは体力使ったけどね」
『あはは、『有意義』か〜! 素直に『楽しかった』って言わないあたり、兄ちゃんらしいなぁ〜』
「「…………」」
双葉がケタケタ笑っていると、側から姉の声も聞こえてくる。
『もしもし。昨日ぶりだね、観己、映真。2人とも元気そうで安心したよ』
「『安心』て……。まあ、俺たち元気ではあるけど」
「希美ってたまに親みたいな発言するよな」
『『親』……あっ、そうだ! 今日はスペシャルゲストも参加するから!』
「「スペシャルゲスト?」」
希美の言葉に対して俺たちが疑問を抱くと、数秒経った後に、低くて落ち着きのある聞き慣れた声が聞こえてきた。
『よっ、我が息子と娘よ』
「「いや『ゲスト』って父さんのことかい」」
『ママのことも忘れないで! ちゃんとここにいるよ〜!』
この芯のある陽気な声は……うん、母親だな。
「あー、母さんまでいるのね」
「ていうか、そっちはまだ早朝のはずじゃ……?」
『ん?そうだ。まだ朝の5時だぞ』
『空はだいぶ明るくなってきたよ〜』
「早ぁ……」
観己の両親は、週末はぐうたらするタイプの人間だ。
そんな2人が早起きをするなど、ただ事ではない。
「もしかして、宝石の件とかで何か分かったこととか?!」
『あーいや。そっちはまだなーんにも情報を掴めてない』
「あ、そうでしたか」
希望的観測も込めて映真は聞いてみたのだが、開き直った父の返答を聞いて肩を落とした。
『ママたちが早起きしたのはあれだよ。観己と映真が初めて女子とデートに行く、って耳にして、ワクワクしてたから〜!』
「うわぁ。いやなタイプの母親だ」
「息子や娘に言うことじゃないでしょ、それ」
『あ、そうだったね。ママ間違えてたよ。観己が女子とデートに行くのは初めてのことじゃないもんね』
「いやいやそういう問題じゃないから。あと、その話はやめてほしいんだけど」
俺が不機嫌そうに返すと、父さんが『ちょっと母さん、それくらいにして』と軽く怒ったみたいだったので、母さんはすぐに『あっ、ごめんね!』と謝った。
「まあ、別にいいけど……」
『ほらほら、早く映真姉ちゃんの話聞きたいよぉ〜!』
なかなか会話が進まないことにしびれを切らす双葉。
その様子に、父さんは小さく笑う。
『そうだな。みんな、映真たちの話を心待ちにしてるぞ。父さんなんて、楽しみすぎて左手に缶ビール持ってるよ』
「俺たちの話を酒の肴にしようとすな」
「朝っぱらから飲酒なんて元気だね……」
それからなんだかんだで家族電話は盛り上がり、通話を終える頃には日が替わりかけていた……というのは、俺たちの想定外の出来事だった。




