第25話 映真とファッションとナンパ
【シーン5 〜ファッションショー〜】
昼食を終えた俺たちは、有名洋服ブランド店にやって来た。
今日のメインイベントらしいが、誰の服を買いに来たかというと……
「映真ちゃんにはどの服が似合うかな〜」
「宝生さんならどれも着こなせそうだけどね」
映真の可愛さを最も引き出せるコーデを探せ、ということで、女子2人は店内を隅々まで練り歩いていた。
現役女子高生のファッションセンスは既に確認済みな現状、映真は着せ替え人形にされるだけなんだよな……と思いつつ、俺と映真は店内のソファに座った。
「ま、アイツらならきっと、お前にぴったりのコーデを持って来てくれるはずだよ」
「いや分かんないぞ。今日一日中、アイツらが俺を見る時の目がなんか変なんだよ。奇抜で珍妙な服を着させられる可能性がある」
「その時は同情するよ」
「同情だけかい。助けてくれ」
「アイツらを止めるなんて無理だよ」
「映真ちゃーん!服持って来たよー!」「着てみて、宝生さん!」
「「早っ」」
3分もしない内に、カナと万華がいくつかのハンガーを腕に掛けた状態で帰って来た。
女子の買い物は時間がかかる、というイメージを大きく反した、恐るべきスピードだ。
どんな服なのかは教えてくれないまま、カナは試着室の中にそれらを入れる。
「じゃ、映真ちゃん着替えてもらってもいい?」
「お、おっけー」
「観己っちは、ちゃんと試着室の外で待っててね」
「いとこ とはいえ女子の更衣に同伴する男がいてたまるかよ」
俺が呆れ混じりにゆっくりと近くの椅子に腰掛ければ、映真のいる試着室の中からスルスルと音が聞こえてくる。
つい中の様子を想像してしまった自分を殴りたくなったが、その相手が自分の分身であるという事実を思い出して急に冷静になり……と、脳内の処理が忙しい。
「宝生さーん、着替え終わったー?」
それからしばらくして、想像よりも時間をかけている映真がなかなか出て来ないのを気にかけた万華が、声を掛けた。
すると時間差で、映真のワントーン低い呟きが聞こえてくる。
「え、き、着替えたけど……これはちょっと……」
明らかに困惑している様子だった。
「じゃ、開けるねー!」
そんな映真に気を配ることなく、万華は引き裂かんばかりの勢いでカーテンを開ける。
そこで俺は、言葉を失ってしまった。
履いているのはデニムの半ズボン……と思いきや、丈が超短いミニスカだ。少しでも動けば中が見えかねないほどの短さである。
白のトップスはノースリーブかつヘソ出しで、体の凹凸も強調されるデザイン。
あまりにも露出度の高い、女子2人の趣味全開のコーデだった。
「映真ちゃんは肌も綺麗だし、こういうファッションもありだね」
「さすが私、良い服に目をつけたなぁ」
コイツらは会心の笑みを浮かべているが、一方の映真は目に見えて顔が赤く染まっている。
「うわっ、ちょっ、これはさすがに恥ずかし……」
正直、俺も共感性羞恥で死にそうだった。
想像してみてくれ。自分の分身が、同級生女子の前で際どいギャルみたいな格好してるんだぞ。例えこれがトレンド服であったとしても、耐えられるかこんなの。
その上、この服を来ているのは『化粧済み映真』という美人。あまりにも目の毒 過ぎる。世の弱い男子はこれだけでノックアウトされてしまうだろう。
だがここで俺も照れてしまっては、アイツらの思う壺だ。
ここで俺が取るべき対応は……
「……俺的には微妙だな。映真はもっと落ち着いた服が似合うと思う」
できるだけの真顔と平静を保ちながら俺が見解を告げると、映真も少しホッとしたような表情で「わ、私もそう思う」と呟いた。
万華が俺と映真を交互に見るように瞬きをしたので俺は少し身構えたが、すぐに彼女は腰に手を当ててため息を吐いた。
「2人がそう言うんじゃ仕方ないなー。てことでカナ、他の服探そっか」
「そうだね。どんなのにする?」
「もっと攻めたやつとか?」
「「なんでそうなる」」
俺と映真で同時に突っ込むと、万華たちは笑いながら店の奥に歩いて行った。
ーーーーーーーーーー
【シーン6 〜ナンパ〜】
その後もファッションショーは続いた。
ちゃんと無難なコーデも紹介してもらったのだが、映真が買おうと思うほどのものは無かったので、結局お金を使うことはなかった。
なんだかんだで時計が14時を指していたのに気付いた俺たちは、おやつとして有名ドーナツ屋のドーナツを買い、比較的人混みの少ないフードコートに移動して食べることにした。
「ごめん、ちょっと俺トイレ行ってくる。先に食べててもいいよ」
席に着いた女子3人に俺はそう告げ、足早に近場のトイレへ向かった。
唯一の男子が場を離れるや否や遠慮もなしにドーナツにがっついたカナは、純粋な眼差しを映真に向ける。
「ねえねえ映真ちゃんっ。今日は楽しかった?」
「うん。こういうお出かけはあまり経験が無かったから、新鮮で面白いよ。2人には色々なことを教えてもらえたしね」
「なら良かったぁっ!」
「カナってば、今日のお出かけをめっちゃ楽しみにしてたもんね」
万華のその言葉を聞き、カナと双葉って似てるよな……と映真が考えていると、ふと背中の方に誰かの気配を感じたので振り返った。
「えっ、そのドーナツ美味しそうだね!」
「どこで買ったの?」
そこに居たのは、屈託のない笑顔で話しかけてくる大学生くらいの男2人。馴れ馴れしい口調なので知り合いなのかと思ったが、少なくとも映真が知っている人物ではない。
映真が女子2人の方に目を移すと、カナが口を開いた。
「1階にあるミ◯ドですよ」
いつものカナの声……だが、突き放すような冷ややかな雰囲気だった。彼女の視線は、一度も男たちに向くことなくドーナツに固定されている。
カナや万華の知り合いというわけでもなさそうだった。
「あ〜、ミ◯ドね! もしかしてそれ、期間限定のやつかな?」
「今 女子高生の間で人気らしいね! キミたちも高校生なの?」
「……そうですね。私は15歳です」
「えっ、15歳?! そうは見えないよ! みんな大人っぽいな〜!」
「……あ、ごめんね、いきなり話しかけちゃって驚かせちゃったよね? 普段は俺こんなことしないんだけど……3人とも美人だったから、つい素通りできなかったよ」
「……そうですか。ありがとうございます」
無表情の万華のあっさりした返答を見た映真は、爽やかで人柄が良さそうなこの男たちがどういう人なのか、ようやく察しがついた。
(まさか、これって……)
そう、いわゆる『ナンパ』というやつに、今まさに自分たちが巻き込まれているのだと。
「ねえねえ。せっかくだし、ちょっとオレたちと話さない?」
「遠慮します。今はこの3人で話してるので」
「えー、そんな固いこと言わずにさぁー」
万華の年齢を知った上でも、この男たちは全く引き下がる様子がない。
そういや、希美も以前「高校生の時に友達がナンパされて危ない目に遭った」という話をしたことがあった。
その時は他人事だと思っていたが……いざ映真 自らがナンパの対象になると、この男どもがどんな意図を持っているかなど関係なく とてつもない嫌悪感が湧いてくる。
(どうせコイツらは遊び目的で、年下の高校生を物扱いする不誠実な野郎なんじゃないのか?)
口には出さない猜疑心が表に出たのか、映真は敵意のある冷徹な視線を彼らに送ってしまっていたのだろう。
彼らの顔が、一瞬怯んだように見えた。
それでも構わず、彼らは話を止めない。
「ほら、高1とか、今 勉強めっちゃ大変じゃない?」
「息抜きしないとやってられないでしょ〜?」
あまりのしつこさに、カナも万華もどうすれば良いのか分からないような表情をしている。
もし映真が男だったら、そもそもナンパなんてされてなかっただろうし、今からでも男たちを退けることはできる。
でも女子である以上は、映真が下手な態度をとったところで返って彼らを刺激するだけかもしれない。
(一体どうすれば……?)
こうなれば、自分たちが頼れるのは……
「あの……すみません。この3人は俺の友達なんですけど」
その声を聞いて映真が咄嗟に顔を上げると、そこにはトイレから帰ってきたばかりで顔に困惑の色を浮かべている観己……俺の姿があった。
「これは……どいうことですかね。こういうのは他所でやってもらってもよろしいですか?」
「ナンパをやめろ」とは流石に言えず、俺は直接的な言い方を避けた言葉を男たちに投げかける。
女子たちの顔はぱっと明るくなり、対して男たちは少しばかり狼狽を見せた。
「おっと……これは失礼。まさかお連れの男子がいたとは……」
「キミ厳しいね〜。もしかして彼氏さんかな?」
女子3人のうちの誰の彼氏だと思ってるんだ、というツッコミは心の中に留めておいて、
「いいえ。でも、そこの緑の髪の子は俺の大事な いとこ なんですよ」
と返すと、男たちは「そっか。お楽しみの所 邪魔しちゃってごめんね〜」とヘラヘラしながら場を離れて行った。
(なんだったんだあの男たちは……)
映真たちの表情から彼らがナンパだということは察せたが、正直それ以外は特によく分からなかったな。
まあとりあえず、3人を助けることは出来たようで良かった。
自分たちの空間を取り戻したや否や、女子2人は口々に喋り出す。
「観己っちサンキュー!ナイスタイミング!」
「助かったぁ……。ああいう人たちってどこにでもいるんだね。ちょっと厄介だったなぁ」
映真だけは、少し悔しさの残る表情をしているが。
「あのナンパめ……私じゃ撃退出来なかった……」
彼らの態度が映真相手か俺相手かで大きく違っていたので、それに少し遺憾があるのだろう。
「ま、まあそれは仕方ないんじゃないのか……」
性転換のデメリットの1つを目の当たりにした映真に、俺はやんわりとフォローを入れた。
すると何を思い出したのか、万華はハッと息を呑む。
「そういや片鳥くんっ。さっき宝生さんのこと『大事な いとこ』って言ってたよね!」
「ああ、うん。大事な家族がああいう男の餌食にされるのはいくらなんでも嫌でしょ?」
俺が真面目にそう返すと、万華がどこか腑に落ちたように頷いたので、俺は疑問を感じて首を捻るのだった。




