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第21話 映真と化粧

「おっはよ~!」


土曜の朝6時。

一番 熟睡していたい時間だというのに、俺たちは強制的に双葉に起こされた。


「双葉 早ぇよ。まだ6時だぞ。お前、昨日はなかなか寝付かなかったくせに」

「せっかくの土曜の朝なのに何してんだ」

「休日だけ異様に早く起きる癖、いい加減に直してもらえる?」


3人で口々に文句を言いながら、仕方なく部屋を出てリビングへと向かう。


そこには、足と腕を組んでソファに座っている、双葉の姿があった。


「さて、あくる日曜日は……みんなが待ちに待った『映真姉ちゃんの女子とのお出かけ』!」


「いや、別に俺はそんな楽しみにしてないけど」


映真はすぐ突っ込んだが、双葉は無視して話を続ける。

「女子との楽しいデートを過ごすためには、やっぱり事前準備が必要だと思うんですよね~。映真姉ちゃんは、何か心配なこととかある?」


『事前準備』……それをするためだけに、双葉はこんな朝早くに起きたのか?


もう少し眠くてイライラしていたら、コイツのことボコボコにしていたかもしれん。


映真はあくびをしながら話す。

「事前準備も何も……明日、誰とどこに行くかとか、服は何を着るかとかはもう決まってるし、大丈夫だと思うけど」


「唯一 心配なのは、俺たちがカナたちのテンションについていけるのか、ってとこくらいだな」


俺もそう言うが、双葉は笑みを浮かべながら人差し指を左右に振るだけだ。

「チッチッ。甘いなぁ、お2人さん。まだ1つ、忘れていることがあるでしょー?」


変な口調の双葉。


「「なんのことだ……?」」


俺たちはピンと来ないが、希美は気付いたようだ。

「あっ、もしかしてそれって……」


「そう! 『メイク』です!」


双葉はそう高々と宣言すると、どこからともなく大量の化粧用品を取り出してきた。


テーブルに並べられた容器の数々を見て、映真は息を呑む。

「うわ、すごい数だな……。こんなものまで、お泊り会に持参して来たのか?」


希美はすかさず答えた。

「もちろん。観己の家を出る前に、メイクしないといけないしね」


いやいや。化粧ってこんなに道具が必要だったっけ?

初心者には使いこなせないって。


「これ……映真が化粧なんてする必要ある? 映真の顔なら、全然すっぴんでも良いような気もするけど」


映真の顔には、ニキビ跡どころかクマすらもない。

これは恐らく、『映真の肌は、1ヶ月前に新しく生成されたばかりのクローンだから』というのが要因だと思う。ちょっとグロいので、映真の肉体生成とかはあまり想像しないようにしているけど。


それはさておき、映真が非常に羨ましい肌質を持っているのは確かだ。

だから、化粧などしても余計なだけな気もするが……


映真の考えは逆だった。

「でも、カナいわく『おしゃれで気分を上げる』って側面もあるらしいし……化粧はやるだけやったらいいんじゃないかなとは思うね」


「え?そう?」


俺が困惑していると、双葉は目を輝かせた。

「おっ、映真姉ちゃんさすがぁ! 分かってるねっ!」


映真のやつ、徐々に感性が俺と変わっているような気がする。

『女子の生活に慣れてきている』と言ってしまえば嬉しいことではあるものの、なんか俺だけ進化してないみたいで釈然としない。


……と考えていると早速、希美はメイク道具をいくつか選んで持ってきた。

「ま、化粧って言っても、今回は化粧下地やファンデーションはあんま使わないけどね。映真の肌は十分整ってるし。

 今日やるのは……アイメイク!」


「「アイメイク?」」


「そう! アイメイクで、映真の目元をバチクソ可愛くしちゃうの!

 映真から、観己の面影を消し去っちゃおう!」


『消し去る』て。

やっぱり、コイツらの目的はそういうことなんだな。

『俺に似た顔』という映真が抱える最大の不快感を、化粧の力で取り除くことによって、映真の美貌を最大限に楽しもうという算段。


……『不快感』なんて言ってて自分でも悲しくなってくるが、これは事実なので仕方ない。


ま、つまり、肌を綺麗に見せるための『化粧』ではなく、映真の顔を改造するためのコスプレ的な『化粧』ということになるな。


姉妹の様子を見て、映真は仕方なく了承する。

「俺の顔で遊ばれてる気がしなくもないけど……いいよ。やってみよう」


すると早速、希美は身を乗り出した。

「さあっ、まずはアイシャドウ!」


希美は指を使い、映真の上まぶたに粉を塗り始める。

映真は成す術なく、じっとしている状態だ。


普段なら寝起き30分は機嫌が悪い希美だが、今日に限ってはすっかりノリノリである。どんだけ化粧が好きなんだよ。


双葉は、俺の方を振り返る。

「ちゃんと姉ちゃんの手元を見ておくんだよ! 兄ちゃんも、メイクができるようになんなくちゃね!」


え、俺も化粧を習得しないといけないの?

まあ、覚えておくことに越したことはないんだけどさ……。


指を動かしながら、希美は喋りだす。

「とりあえず今日は、基本から教えよっか。


 アイシャドウはその名前の通り、目に影を付けることで、目の立体感を出すメイク。これだけで、顔の印象がかなり変わるんだよ。


 アイシャドウの色は、初心者なら薄めのブラウンとかが無難かもだけど……。映真は髪が緑色だから、それが引き立つように、緑の補色であるピンク系統のブラウンを試してみよっか。


 もちろん、ベタ塗りはダメ。上から下にかけて濃くなるように、グラデーションを意識しようね」


「へぇ……そんな難しいことが、今、俺の上まぶたで行われているのか……」

目の前の鏡に映る自分の顔を見ながら、映真は呟いた。

「ま、アイシャドウくらいなら俺も覚えられるかな」


すると、双葉はきょとんとして言った。

「え? やるのはアイシャドウだけじゃないよ?」


「「えっ」」


「ビューラーでまつ毛を持ち上げて、マスカラでまつ毛を整えないとね。


 あっ、あとついでにさ、チークやリップもやってみようよ~!」


((結局めちゃくちゃ化粧するじゃねーか))

俺たちは心の中で、愚痴をこぼすのだった。



ーーーーーーーーーー



「「うおぉぉっ! 可愛いー!」」


十数分のメイクタイムを終え、映真の顔を見た姉妹は、嬉々として叫んだ。


「すごい!やばい!えぐい!」

「観己(に似た顔)が、ここまで可愛く綺麗に仕上がるなんて……!

 我ながらびっくりよ……」


語彙力を失くしたり、陶酔したりと、2人は散々な様子である。


だが俺は、そんな彼女らの気持ちを否定するつもりは無い。

むしろ、大いに納得してしまうほどである。


化粧を施した映真の顔は、確かに美人なのだ。

それも、鏡高校の中でもトップを張れるんじゃないかというほどの。


今回、映真に軽いメイクをしたことによって、俺の顔の面影は霧散している。


その結果、映真の顔には『美人』という要素だけが残ってしまっているのだ。


「……可愛い」

俺は思わずその言葉を漏らしてしまい、急いで口を塞ぐ。


映真は慌てて顔を赤くした。

「ちょっ、観己までなに言ってんだ!

 自分自身に『可愛い』とか言われるとキモいんだけど!?」


そう罵って、映真は目の前の鏡を凝視する。

「……いやでも、確かに俺、可愛いな。

 不思議な感覚だよ。なんか新しい自分になれたっていうか……。

 化粧を落とすのが惜しいくらいだ」


「「でしょでしょ!」」

歓喜して賛同する姉妹。


つい、映真の頬が緩んだ。

「化粧って、案外 面白いものなんだな。少しは女子としての楽しみができたよ」


ほとんど見ていただけの俺でさえ、『化粧をやる意図』というものはなんとなく理解できた。

何でも、一度は挑戦してみるものだな。


映真の言葉を聞き、希美もご満悦そうだ。

「それは良かった~。

 じゃあ2人とも、今日中に自分だけでメイクができるようになるまで、頑張って練習しよっか!

 私がみーっちりと教えてあげるからね! 覚悟してね!」


……これは『ご満悦』という言葉とはちょっと違うな。

爛々とした狂気的な魔女のような、希美の目だ。怖い。


「「ひえぇっ……」」

俺たちは、自然と身震いをしてしまった。



ーーーーーーーーーー



「激写 激写 激写ぁ!」「映真姉ちゃん!こっち向いて笑って!」


「あのう……もう11時なんだけど。そろそろ、帰ってもらってもいいですかね」


まるでカメラマンのように映真を撮影しまくる姉妹に対して、俺は帰宅を促す。


結局、貴重な土曜日の朝を、化粧の練習のためだけに使ってしまったな。

別に、『浪費だ』と言いたいわけでは無いし、俺も化粧の練習に夢中になっていたのは事実。

だけど、まさかここまで時間がかかるとは思わなかったわ。


希美は重い腰を上げ、荷物を片づけ始める。

「仕方ないなぁ……じゃあ双葉、帰ろっか」


「うん。お泊まり会、めっちゃ楽しかった! 一瞬で終わっちゃったなぁ〜。

 兄ちゃんも映真姉ちゃんも、明日のお出かけ、楽しんできてね! 感想は電話でよろしく!」


ここまで満面の笑顔の双葉を見るのは、かなり久しぶりな気がする。

いやいやで引き受けたとはいえ、お泊まり会を開いたのは良かったのかもな。


「「はーい」」

俺たちは玄関で手を振りながら、姉妹を見送った。

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