002
「寒い。」
ダンジョンを出た俺はアルカの町目指して魔法で空を飛んでいた。
その速度は時速300kmを優に超えていた。
毎秒1mの速度で進むと体感気温はマイナス1℃されると言われている。
そう考えると今の体感気温はマイナス40℃を下回るだろう。
それは寒いわけだ。
【魔王の肉体】のおかげで体が機能不全を起こすことは無かったが、それでも寒いと感じることは確かだった。
俺がそんな風に寒さに震えているとアディが口を開いた。
『マスター、自分を中心に周りの空気を薄い膜のようなものが囲っているように意識してください。その膜ごと飛ぶイメージで飛翔すれば寒さが和らぎます。』
「え、そうなの?」
俺は言われてすぐさま魔法を組み立てる。
自分を中心にして薄い膜でできた球体が体全体を覆いこんでいる状態をイメージする。
その状態はしっかりと強固なものになるようにさらにイメージを重ねる。
そしてその球体ごと自分の体が飛んでいく状態をイメージする。
………寒くない!!
大発見だった。
先ほどまでは強く吹きすさんでいた風を感じなくなった。
これなら何時間でも飛んでいられそうだ。
寒さから解放された俺はスピードを維持して飛翔する。
そんな時、ふと疑問が浮かんだ。
「なあ、あとどれくらいだ?」
『はい。ダンジョンからアルカまでは凡そ1,700kmです。今の速度を維持するならおおよそ5時間後に到着できるでしょう。』
5時間か………。
長いな。
いや、長すぎるでしょ!?
時速300kmって、結構な速度で飛んでいるぞ。
それでも5時間かかるってことはそれだけ遠いのだろう。
はぁ。
「それならもう少しスピード出すか。」
俺は心の中でため息をつきながらスピードを上げる。
その速度は際限なしに上がっていき、ついには音速を越えた。
音速を越えても肉体に異常は現れない。
さすがは【魔王の肉体】だ。
ちょっとやそっとの環境の変化ではびくりともしない。
「これならすぐに到着するだろう。」
『はい。1時間程で到着する見通しです。』
「よし!」
俺はそのスピードを維持して飛翔し続けていた。
目指すはバリエ公国の都市、アルカだ。
--
―ガヤガヤ
アルカの町は巨大な石壁に覆われていた。
それはきっと不毛の大地から魔物の襲撃があっても大丈夫なように作られているのだろうことは想像に難くなかった。
そんな石壁の一角に出入りするための門が設けられている。
その外門の前は人でごった返していた。
どうやら町に入るために入口で身分の確認や馬車で乗り入れる場合は積み荷の確認をしているようであった。
今だって同じような馬車の中身を騎士甲冑を着込んだ人があらためていた。
俺はそれを眺めながら列に並ぶ。
どうでもいいけど、身分を示す物なんてないけど大丈夫なのだろうか?
先ほどから見ている限りどの人も何かドッグタグのようなものを見せている。
あんなもの持っていないぞ。
「なあ、身分証的なの必要なのか?」
俺は小声でアディに聞いた。
『大丈夫です。身分を示すものが無い場合は町に入るのにお金を取られますがそれだけです。あと、私に話しかける時は態々口に出す必要はありませんよ。』
(え?そうなのか?)
『はい。マスターが心の中で私に話しかける意思で発した言葉なら口に出さずとも聞き取れます。』
それは便利だ。
そんなことを考えていると列が進んだ。
俺もそれに倣い1歩進む。
まだまだ町の中に入るには時間がかかりそうだ。
(なあ、アルカの町ってどんなところなんだ?)
『そうですね。アルカの町はバリエ公国が不毛の大地を解放するための拠点として作られました。そのため、強力な魔物に負けない石壁と屈強な騎士が常駐する町として有名でした。』
(でしたって、過去形で話すということは今はそうではないのか?)
『はい。膨大な予算をつぎ込んで作られたアルカの町ですが当初の目的不毛の大地を解放するには至っておりません。それは不毛の大地を生き抜くために求められるのが単純な強さだけでは無かったからです。』
(ああ、以前にも言っていたな。過酷な環境で生き残ることが重要なんだっけ?)
『そうです。そしてそれを失念していたがためにアルカの町に集められた騎士は魔鏡の解放をすることができませんでした。』
なるほど。
確かに不毛の大地の環境は劣悪だ。
照りつける太陽がもたらす恩恵は灼熱となって肌を焼いていくだろう。
乾ききった大地から水を得ることは儘ならず体は渇きを覚えるだろう。
そして何としても魔物。
どれも強力なのはもちろんとしてその種類や数が豊富なことが問題だ。
だからこそ単純な腕っぷしの強さだけで選ばれた騎士以外にもいろいろな人が必要となるだろうな。
その考えに至らず準備を渋ったために偉業はなされなかったのだろう。
『その後、政変が起こり騎士の一部は別の都市へ移動することになりました。そうしてアルカには強固な外壁とそこそこの騎士が残ることとなりました。』
(と言うことは見どころはたいしてない?)
『見どころと言えるかどうかはわかりませんが、不毛の大地の解放を目標としていた頃からバリエ公国の冒険者にとって、アルカは1大拠点として機能しています。不毛の大地の解放とは至らないまでも、そこに生息する魔物を狩るための拠点です。』
国からしてみれば目的を達成できなかった町ではあるが冒険者にとってすれば違うのか。
それはそうか、冒険者からすれば自分の食い扶持が稼げる場所ならどんな場所でもいいはずだ。
魔物が多く生息する場所の近くなら特に適しているだろう。
『今でもアルカは不毛の大地で活動する冒険者の拠点として利用されています。その後、街道もしっかりと整備され、商人やその他職業の方も多く入り込み、不毛の大地の魔物の素材の売り買いを中心としたバリエ公国の市場の一つとしてにぎわっています。』
俺は石壁の向こうに広がる町の姿を想像していた。
魔物の素材を売り買いする市場か………。
日本の漁港で行われるセリのような風景が広がっているのかな?
確かにそれは見ごたえがあるかもしれない。
そんなことを考えながら列が進むもまだまだ先は長い。
(不毛の大地の素材の取り扱いはアルカが一番なのか?)
俺は暇つぶしの話のタネにそう質問する。
『いえ、市場として最も大きいのはレンフィスト帝国のドイルと言う町です。こちらもアルカ同様に不毛の大地の解放のために建てられた拠点です。そして、それは今も変わらず機能しています。』
ドイル。
確かダンジョンの西にある町だよな。
帝国は公国と違って軍事力の国だったか?
だからこそこちらの方が見どころがあると思ってきたけど向こうの方が大きかったのか。
これは反省だな。
ダンジョンを出る前に確認しておくべきだった。
『帝国側は不毛の大地を攻略するためにドイルの町からいくつかの要塞を転々と伸ばしてきています。それら要塞のおかげで冒険者は不毛の大地の奥地まで安全に入れるようになりました。』
俺がダンジョン近くの丘から見た石壁も要塞のものだと言っていたな。
確かにあれだけの規模の要塞がいくつもあるなら冒険者は安全に探索ができるだろうな。
確か、ダンジョンに襲撃してきた冒険者も帝国がどうこうと言っていたからあれらも帝国の冒険者だったのだろうな。
『結果として不毛の大地から得られる素材も多くなり、それを扱うためにドイルの市場は大きくなりました。』
(なるほど。確かにそう言う背景があるならドイルの方が大きそうだな。)
そんな風にアディと取り留めのない会話を繰り返し町に入る列が進むのを待っていた。
先はまだ遠い。
--
「おい!おまえ!」
アルカの外門。
それがすぐそばまで来たタイミングで俺に声をかけるものがいた。
俺はそちらに顔を向ける。
列の外から声をかけるそいつはガタイのいい大柄の男であった。
背中に大剣を背負っていることを見るに恐らくは冒険者だろう。
顔がほんのりと赤い。
酒に酔っているのだろうか?
「おい!!おまえ!!」
その男が俺に怒鳴り散らす様にそう口にした。
仲間だろうか?
男の周りにはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた冒険者風の男たちがいた。
「おい!!!おまえ!!!」
再三にわたり男がそう口にする。
俺はその声が鬱陶しくなり口を開く。
「なんだ?」
俺の返答に気分を良くしたのか男は笑いながら口を開いた。
「おう。すまんな俺たちのために場所を取っておいてくれて。」
何を言っているか分からない。
馬鹿なのだろうか?
いや、馬鹿だ。
そうこいつらは馬鹿なんだ。
俺がそんなことを考えていると男は俺に掴みかかって口を開く。
「じゃあ、どいてくれ。」
そう言って手に力を入れる。
しかし、その程度の力で俺が動くはずが無かった。
「止めろ。」
俺はそれだけ言うと男の手を払いのけた。
その様子に男は一瞬キョトンとしたがすぐさま顔を真っ赤にして怒鳴り散らしてきた。
「何だおまえその態度は!?」
その迫力はレッサードラゴンの咆哮に遠く及ばない。
俺はそれを覚めた目で見つめ口を開く。
「おまえこそなんだ?」
俺のその言葉を受けて男は胸を張って答えた。
「おう、よくぞ聞いた!俺らは冒険者クラン………赤竜の翼だ!!」
男のその言葉に列に並んだ周りの人々がざわざわと騒ぎだす。
「赤竜の翼ってあの?」
「本物か?」
「俺見たことあるぞ!間違いない!」
どうやら有名な冒険者クランのようだ。
しかし、そんなことは俺に関係なかった。
「しらん。だからどうした。」
俺のその言葉を聞いて相対していた男はもちろん男の仲間も列の人間も唖然とした表情をした。
それほどまでにおかしなことだったのか?
静寂が当りを包み込む。
そんな状態から一番早く復帰したのは俺に食って掛かってきた男だった。
男は再び顔を真っ赤にして声を荒げる。
「ええい。知らんなどと嘘をつくな!!いいから場所を変われ!!」
なるほどこいつらはこの長蛇の列に並ぶのが面倒だからこうして俺を脅して場所を譲らせようとしているのか。
やっぱり馬鹿だ。
この程度の脅しで俺が場所を譲るわけがないだろう。
「誰が変わるか間抜け。とっとと一番後ろに行け。」
だからこそ俺はそう言った。
その答えを聞いて男は怒りに体を震わせ、周りの人間は不安そうな表情をするのであった。
「そこのおまえら。」
俺は男の周りにいるやつらに向けて声をかける。
「おまえらはこいつの仲間か?ならこのデカ物を持って後ろに下がれ。目障りだ。」
その言葉を聞いて先ほどまでニヤニヤと笑い顔を浮かべていた男の仲間たちは男同様に顔を真っ赤にして怒鳴り始めた。
「な!?」
「目障りだと!?」
「俺たちを赤竜の翼と知ってそんなこと言っているのか!?」
「ふざけてやがるな!?」
いい加減に耳障りになってきた。
もう魔法でけりをつけてしまおうか?
そんな考えが頭をよぎる。
そんな時だった………。
―ドン!!
大柄の男が背負っていた大剣を手に取り、地面目掛けて振り下ろした。
その衝撃に周りは騒然となる。
男は俺を睨みつけて口を開いた。
「もう一度言う。その場を譲れ。」
その声は落ち着いていた。
どうやら怒りが一周回って冷静になったようだ。
いや、額には青筋がうかんでいる。
未だ怒りを抑えている状態なのか。
どちらにしろその言動は馬鹿のそれであった。
「嫌なこった。おまえこそ俺の目の届く範囲から今すぐ消えろ。」
もう、ここまでくれば言葉だけで解決なんてできないだろう。
だからこそ俺は笑いを受けべながらそう言った。
これで向こうから手を出すなら返り討ちにするだけだ。
「この野郎!!!!」
男は大剣を振り上げて1歩踏み込んだ。
このまま振り下ろせば俺はその体に大剣を受けてしまうだろう。
………まあ、それでも傷一つつかない自信はあるんだが、それでも受けてやるのは癪だな。
俺は手に魔力を集中させて魔法を発動させた。
生み出したのは突風。
その攻撃は男の体の真正面から吹きすさび、その巨体を遥か後方に吹き飛ばしたのだ。
「え?」
「は?」
「なにを?」
男の仲間や列にいる人間が騒ぎ出した。
彼らにとっては予想外の出来事だったのだろう。
だからこそ俺はほくそ笑むのであった。
「今の魔法か?」
「いや、詠唱していなかっただろ?」
「聞き逃したんじゃないか?」
やべ、普通の魔法には詠唱が必要だったんだ。
完全に忘れていた。
「がぁあああ!!ふざけるな!!」
あ。
男が起き上がった。
以外に頑丈だったな。
俺はそれを見ながら男の仲間に声をかける。
「おまえら。とっととあれを連れて列の後ろに行きな。次は手加減しないぞ。」
俺のその言葉に男の仲間たちは焦ったような表情を表す。
彼らは気が付いたようだ。
男よりも俺の方が強いということを。
しかし、残念なことにその言葉は男にも届いていた。
「ふざけるな!!手加減だと!?こっちだって手加減してやっていたんだ!!本気ならこんなことにはならねえぞ!!」
そう言って顔を真っ赤にして再び俺の前まで来る。
「はぁ。」
その様子を見て俺はため息をつく。
まだやるのか?
俺は呆れた目で男を見る。
それが癇に障ったのか男はさらに激昂しながら仲間たちに声をかけた。
「おまえたちもやっちまえ!!」
男のその言葉に仲間たち武器を取る。
あるものは剣を取り、あるものは槍を取り、あるものは杖を取った。
俺はその様子を見て仕方がないと魔力を操作していつでも魔法を放てるように準備する。
そして男たちをじっと見つめる。
「行くぞ!!」
男のその号令とともに男とその仲間は俺に向かって駆け出した。
俺はそれを確認してから右手に集めた魔力で魔法を放つ。
「火よ。」
小声で詠唱らしいことを言って放たれた魔法は男たちを包み込むほど大きな炎だった。
炎は男たちの体を包み込みその手に持った武器を焼き尽くす。
体への損傷は最小限になるように手加減されたその魔法はその効果を示すと忽然と消えてしまった。
その場には壊れた武器を手にした男たちが立ち尽くしていた。
その結果に男たちは顔を真っ青に変える。
ようやく思い知ったようだ。
俺と男たちの実力の差と言うやつを。
俺はそれを満足そうに眺めながら口を開く。
「で、まだやるか?」
その言葉を聞いた瞬間男たちは皆我先にと走り去っていった。
それを見て俺はほくそ笑むのであった。
「おい、おまえ。」
そんな俺に声をかける人がいた。
今のを見てまだ絡む馬鹿がいるのかと呆れた表情を浮かべながら俺はそちらを向いた。
そこには甲冑を着込んだ兵士がいた。
どう見ても外門を守る兵士だ。
その兵士が俺の方を向いて口を開く。
「先ほどの魔法はおまえだな?」
極めて単純な質問であった。
何でそんな見てわかることを聞くのかと疑問に思いながら俺は答えた。
「そうですけど。どうかしましたか?」
「どうかしたではない。こんなところで騒ぎを起こすな。」
む。
それは極めて遺憾である。
騒ぎを起こしたのはあの男たちで俺はそれを鎮静化したに過ぎない。
だからこそ俺は堂々と口にするのだった。
「騒いでいたのは赤竜の翼とかいう冒険者クランの連中だ。俺じゃあない。」
「そうなのか?」
兵士は俺の後ろに並ぶ商人風の男に話しかけた。
いきなり話を振られて男はあたふたとしながらも答えた。
「確かにそこの御仁は赤竜の翼に絡まれてそれを撃退していました。」
「ふむ。しかし、それでも魔法はやりすぎだ。」
虫対峙にやりすぎなんてあるわけあるか。
俺は兵士のその言葉にカチンときて煽るように口を開いた。
「じゃあ、大人しくあいつらの言いなりになれとでも言うのですか?それとも大人しく暴力に晒されろとでも?」
「そうは言っていない。」
「じゃあ、魔法での撃退は正解ですね。」
「ああ、もう。そうじゃないだろ。そう言う諍いを正すために我々兵士がいるんだ。」
その言葉を話す兵士を俺は呆れたような目で見ていた。
何を言っているんだこいつは?
諍いを正したのは俺であって兵士ではない。
兵士は何もしなかったじゃないか。
俺はその疑問を素直に口にする。
「俺が絡まれている短くない間、兵士は何もしませんでしたよ。」
「そ、それは!」
「声高に自分の価値は高いのだと叫びたいのはわかるけど、そう言うのは行動が伴って初めて意味があるんですよ。ただ口にするだけでは意味がない。」
「ぐ!!」
俺のその言葉を聞いて兵士は二の句が継げずにいた。
それもそうだろう。
だってここは外門にほど近い場所なのだ。
そんなところで言い争いをしていれば兵士が知らないなんてことは無い。
それでも今まで口を出してこなかったのは兵士だって、あの赤竜の翼を怖いと思っていたのだろう。
それを棚に上げて俺だけ注意するのはお門違いだ。
だからこそ………。
「分かったらその足でこの列の一番後ろ行ってください。」
「は?」
「諍いを起こすなって俺よりも言うべき相手がいるでしょう?他でもない赤竜の翼の連中です。そいつらは今頃この列の一番後ろにいるはずです。だから、そこに行って注意してきてくださいよ。」
「な!?」
兵士は驚いたような顔でこちらを見た。
何をそんなに驚く必要があるのだろうか?
俺にこうして注意するなら事の元凶にはさらに厳重に注意する。
それは当たり前のことだろう。
「何を驚いているのですか?」
「そ、それは。」
ここまで渋るのはおかしいな。
これは単純に赤竜の翼が怖いとかとは違うな。
むしろ俺に注意したことも実際の注意の内容が重要ではないのかもしれない。
まあ、俺には関係ないけどな………。
「はいはい。早く行った、行った。」
俺はそう言って手で払うようにして急かす。
兵士は渋々と、重い足取りで列の後ろへと向かっていく。
俺はそれを眺めながら進む列に合わせて前に歩くのであった。
--
「次だ!」
兵士にそう言われ俺は外門前に立ち塞がる兵士の前に出た。
「身分証は?」
「ありません。」
当初アディと相談していた通りの受け答えをする。
努めて冷静に、堂々とそう俺は口にしていた。
「そうか。では、町に入るには金がかかる。銀貨10枚だ。」
そう言われて俺は懐から袋を取り出しその中から銀貨を10取り出して渡した。
これはダンジョンに襲撃してきた冒険者の持ち物だ。
使われなくなった金をこうして有効利用しているのだ。
兵士はその金を受け取りしっかりと確認すると「通れ。」と一言言って道を開けた。
俺はそのままその場を後にした。
問題なく町の中へと入ることができたのだ。
その瞬間、ちょっとした感動を覚えた。
人の生活圏とは遠く離れた場所に今まで1年以上もいたのだ。
そこを離れ、こうして人が住む町にやってくることができたことに俺は感動していたのだ。
その町は古いヨーロッパの街並みを彷彿とさせるような家々が並んだ町であった。
石畳を蹴りそんな町の中に進み入る。
町の中には今まで見てきたような冒険者風の人々以外にも商人や兵士、町民の姿があった。
そんな人々が行きかう街並みを見てまたも俺は感動に打ちひしがれる。
まさにファンタジーだ。
これこそ異世界なのだ。
今まではダンジョンに引きこもってばかりであったがこうして外に出られてうれしくて仕方が無かった。
あちらにあるのは何だろうか?
そこは広場であった。
中央に大きな噴水が設置され、周りには様々な屋台が軒を連ねていた。
そんな屋台で買ったものを片手に人々が笑顔で談笑を繰り返していた。
子供たちが楽しそうに遊んでいる嬌声が聞こえる。
平和だな。
その風景を見て俺はそう思った。
平和なのだ。
この景色だけを切り抜いてみてみれば確かに平和だったのだ。
ここが不毛の大地と言う危険地帯にほど近い町とは思えないほどに平和な風景がそこにはあった。
腹減ったかも。
そんな平和な風景を見たからだろうか。
不意に何かを食べたいという欲求にかられる。
本来であれば【魔王の肉体】のおかげで何も食べなくても問題ない体のはずなのにこの時ばかりは何かを口にしたいと思うのであった。
俺は広場の周りにある屋台から美味しそうな串焼き屋を見つけてそれを購入した。
適当なベンチを見つけて腰を下ろしてその串焼きを口に入れる。
その瞬間………。
―クゥ
可愛らしい音が目の前からした。
その音につられて視線を前に向けるとそこには10歳くらいの少女が立っていた。
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