最終話 お気を付けて、行ってらっしゃい
今週奇跡の日刊投稿中ですので
読み逃しにご注意下さいませ
※此の物語はフィクションですので、実際の人物との関連とかは気にしてはいけません
車が停車してやっと、春田さんは身体を離した。
少し赤い目に気付かない振りをして、にっこり笑う。
「じゃ、世界とか救いに行きましょうか。救世主サマをエスコートして下さいな、春田さん」
「喜んで」
微笑み返した春田さんの顔は、何時も通りとは言えないものの春田さんらしい爽やかチャラ男スマイルで。
車を降りた春田さんに差し伸べられた手を、笑顔を交わしてわたしは取った。
…春田さんと繋いで居た手を思わず握り締めたのは、不可抗力だと主張したい。
なに、このそうそうたるっぽい面々!?
え?否、だって、なんか政治家っぽいひととか軍のお偉いさんっぽいひととかの、奥に居るアレ、天皇陛下じゃね!?流石に顔知ってるよ!?
否否否否否否ぁ!?なんでそんなひとが居んの!?わたし歯牙無い一般人。一般ピープルですからぁっ!!
強張って動揺の余り涙目になったわたしに、春田さんが気付いて苦笑した。
「君が此からやる事は、勲章貰える位の偉業なんだよ?お偉いさんだってお見送り位してくれるって」
「きーてない。きーてないですから!!」
苦笑しながら小声で曰う春田さんを睨んで小声で叫ぶ。
後ろで後藤さんが笑いを堪えて居る気配がした。
後藤ェ…!
背後の後藤さんに殺気を飛ばすわたしの方へ、天皇陛下が歩み寄り遊ばされ…面倒だから尊敬語は良いか。どーせばれないし。
春田さんが掴んだわたしの手を前に押し出して離した。
挨拶しろ、と言う事なのだろう。
だったら先に教えとけよ!!
咄嗟に訳もわからず、お腹の前で両手を重ねて片足を引き、腰骨を立てた儘膝を落として頭を下げた。
所謂、カーテシー?何で咄嗟に出たかは永遠の謎だ。おぅふ、いまだ穴だらけの腹が辛い。
何処かから、壮絶なシャッター音が響いた。フラッシュで世界が点滅する。
止めろ勝手に撮るなぁ!!見せもんじゃねえぞぉー!?
内心エマージェンシー状態のわたしの肩に、そっと手が触れられた。
「頭を、上げて下さい。そんな風に畏まらなくて大丈夫です」
言われた通り体勢を戻し、足を揃えて立つ。
目線は合わせず、締められたネクタイを見つめた。
だって知らないから!!礼儀とか禁忌とか!!
「白波瀬、萩沙さん、ですね」
「はい。ご拝謁賜り身に余る光栄でございます」
静かに話す目の前のひとが、どう思って居るのかわからない。
普段ろくに敬っても居ない相手だけれど、いざ対面するとものすっっっごく緊張を覚える。
「本当に、普通の方、なのですね…」
呟かれた言葉に、哀れまれて居るのかと思う。
思わず顔を上げて、自国の皇帝の顔を正面から見据えた。緊張なんか吹っ飛んで、笑みは簡単に浮かべられた。
「…不学者ですので言葉選びを間違えてもご容赦下さいませ。ですが、普通と言うレッテルで、わたしを御覧にならないで頂きたいのです。わたしは選ばれ求められ、自ら選択して此処に居るのです。此を言えば何たる不遜な人間よと、お怒りを買うかも知れませんが、敢えて言わせて頂けば、わたしには此の国や世界の平和の為に此の身を捧げると言う、殊勝な気持ちは毛頭ございません。わたしはわたしの為に、此の行動を選んだのです。ですので、同情を受ける謂われはございませんし、如何なる批判も謝罪も感謝も、聞き入れるつもりはございません」
言い切った。と言う気持ちよりも、言っちまった。と言う気持ちの方が大きかった。
見渡す限り一面唖然とした顔ばかりだし、さり気無く春田さんが腕を掴んで止めて居る。
内心冷や汗を流しながらも、もう良いかと言う思いで続ける。春田さんは、無視だ。
此処で怒りや不興を買った所で、地球の人間に再会する確率はきっと低い。
第一、だ。
どーせわたしには、救世のヒーローも悲劇のヒロインも似合わない。
なら、自分勝手な悪役、ううん、名前も出ない様な端役で良いじゃないか。
哀れまれる位なら、嫌われ蔑まれる方がよっぽど良い。
「ただ、代償として提示して頂いた約束を果たして頂ければ結構です。其の為にお話受けましたから。大金貰って自殺できるなんて、日本中募集したら何人志願者が出るでしょうね。自殺でお金が貰えるなんて、わたしはとても運が良い。と、おわかり頂けましたでしょうか。白波瀬萩沙と言う人間は、こう言う人間なのです。あなたの仰る普通に当てはまりましたか。同情すべき人間ですか」
何十億の人間の為に散らせない命を、たったひとりの男の為に投げ出す。
そんな自分勝手で、愚かな人間なんだ。
にっこり笑って、わたしは周囲を見渡した。
わたしは、如何見えるだろう?特攻に向かう少年兵?進んで神への供物となる犠?
どれでもない。盲信して居る訳でもないし、洗脳されてる訳でもない。
逆らえない訳でも、選択肢を知らない訳でもない。
哀れまれる対象なんかじゃ、ない。
「わたしが悲壮な決意で旅立つ犠に見えますか。いいえ、此で良いのです。わたしは此で幸せですから、哀れみなんかで水を差さないで下さいませ。白波瀬萩沙は、未練ひとつ見せずに笑って旅立つのです」
姿勢を正して一礼し、しっかり天皇陛下と視線を合わせた。
「此の様な底辺の人間ですが、日本と言う国に生まれた事、幸運と思って居ります。どうぞあなたのご慈愛は、わたし以外の国民へ。わたしの事など、お忘れ下さいませ」
わたしの言葉は如何受け止められたか、天皇陛下がわたしの手を掴んだ。
握手するみたいに、きゅっと、右手を両手で握られる。
「喩えどんな理由で犠となる道を選ぼうと、あなたが我が国の国民で、あなたの決断で我が国が救われる事に、変わりは在りません。恩を忘れるつもりはございませんし、あなたが我が国から失われる事を、悲しまずには居られません」
うん。
こんな王さまの国民で、良かった、かな。
慈愛の込められた瞳を見返して、お願いを口にする。
「では、どうか笑ってお見送り下さいませ」
「…お気を付けて、行ってらっしゃい」
最後に笑顔を交わす相手が此の人だった事は、きっととても栄誉有る事だ。
ほら、やっぱりわたしは幸せじゃないか。
此以上失言させない為だろう。春田さんがわたしの肩を掴んだ。
「そろそろ行こうか、萩沙ちゃん。申し訳有りませんが陛下、そろそろ時間ですので」
「ええ。萩沙さん、有難うございます」
「此方こそ、お見送り頂き有難うございます」
三度目の礼が終わるなり、わたしは春田さんに連れられてお見送りの方々から引き離された。
「…カーテシー出来たんだねとか誉めるつもりだったのに、とんでも無い事ぶっちゃけちゃってまあ」
「事前情報くれないから咄嗟に言っちゃったんですよー」
「まあ、萩沙ちゃんらしいと言えばらしいけど」
溜め息を吐く春田さんに誰の所為だと鼻を鳴らす。
と言うか、今度は何処に連れて行かれるんだ?
「今は何処に向かってるんですか?」
「ヘリポート。其処に迎えが来るんだ。何処から見てるんだか知らないけど、彼方さんから早く来いって連絡が来た」
春田さんが胸ポケットから何やら取り出して見せた。
プーップーッと鳴る其は、初めて見るけれど向こうの通信機とかなんだろう。
「正式な時間とか決まってなかったんですか?」
「指定されたのは日付だけだね。時間は萩沙ちゃんの準備が調い次第って」
「…ほんっっっと、ストーカーですね。会った記憶無いんですけどマジで。何なんですかね」
今更人違いとか言われたら如何しよう。
…こっそり戻って隠居かな。春田さんに賠償請求しよ。
肩を竦めるわたしを見る春田さんは、性懲りも無く少し泣きそうだった。
「其がわかったら苦労しないよ…。何度僕じゃ駄目なのか訊いたか」
「訊いたんですか」
「訊いたよ。萩沙ちゃん以外に居ないのかとか、ヒト以外じゃ駄目なのかとか。でも結局、人以外なら人類滅亡させれば手に入る訳で。どんな基準だか知らないけど、云十億人も居るのに、欲しい人間は萩沙ちゃんだけだって、言うんだ。…正直ふざけんなと思ったよ」
最後の一言はやたら低い声で殺気が込められて居た。
…らしくないな春田さん。ブラック春田降臨か?
「なーにがそんなに琴線に触れたんですかねー」
そんなに美味そうだったのかな?
否、肉なら殺せば良い話だ…って、つまり生け捕りで欲しかった、のかな?
其か、本当に欲しいのは日本人で、其の中でわたしだけ邪魔だった?
あ、如何しよ何か此、ソレっぽい。
ざ・わーすとじゃぱにーずだったのか、わたし。
わー、とーっても不名誉なのに今世紀最大のしっくり感ー。
あはは。
「…邪魔者排除だったりして」
「え」
否、ナニソノ意表突かれましたって顔。
春田さん、あなた頭良いはずじゃなかったでしたっけー?
「ソレかぁぁぁぁーっ!」
上手い具合に春田さんの拘束が外れたので、ノリで、うわぁぁーっと叫びながら頭を抱えてしゃがみ込んでみる。あ、お腹痛い。まだ完治じゃないもんなぁー。
後ろで後藤さんが思いっ切り噴き出した。
堪えてたもんね、先刻は。
余りの驚きに涙も吹っ飛んだらしい春田さんが動揺した声で否定する。
「え?あ、否、無い無い無い。人ひとり位簡単に排除出来るでしょ彼方さんは。うん。出来るって。そんな排除したいからってだけでそんなまさか」
「図星を突かれるとひとは饒舌になるものデス」
のの字書いてキノコ生やそうか。
そうかそんなにわたしが邪魔だったか。
春田さんが、あーもう、と叫んでわたしの右手を掴んで引き上げた。
イケメンフェイスが眼前に現れる。
「何で萩沙ちゃんはそう自己評価低いの!あー、もう馬鹿らしい。とっとと行くよ、とっとと。何で選ばれたかなんか本人に訊けば良いでしょ!君は望んで選ばれて、彼奴等に必要なんだ。殺されないで大事にされる。僕はそう、信じて君を送り出す!!」
ぐいぐいと腕を引かれて、小走りに春田さんの背中を追う。
「ちょ、速い速い」
「僕から奪おうってんだから、幸せにしなきゃ許さないし」
「だから速いって。脚の長さ考慮お!!」
余りに速く歩かれると、話を聞く余裕も無い。
建物から出た所で、漸く春田さんは足を緩めてくれた。
「…萩沙ちゃんは救世主だから」
ぽつりと、呟く声がした。
あ、と思った気持ちが、気付かれて居ないと良い。後藤さんには間違い無くばれたな。
「ええ。春田さんが上手く交渉して平和にして下さいよ。宇宙戦争も、第三次世界大戦も、回避して下さい。せめて、春田さんが生きて居る間位は」
どうか彼に、平和な世界を。
彼が不自由無く、幸せを掴める世界を。
言外に込めた言葉を察したのか、わたしの微かな動揺に気付いたのか、春田さんが振り向かない儘手の力を強めた。
ぐっとわたしの手を握り締めて、春田さんが頷く。
「勿論。君の決断を、無駄になんかしない」
如何やら、動揺には気付かれなかったみたいだ。
ほっとして、足を止めて春田さんの手を引く。
「春田さん…後藤さんも」
笑顔の証人は、彼等に任せよう。
振り向いた春田さんを見上げて、にっこりと微笑んだ。視界の端に、少し慌てた顔の後藤さんが映る。
強く握られて居るはずの、手の感触が消えて行く。
「有難う。さよなら」
目を見開く春田さんを最後に視界に納めて、わたしと言う存在は地球上から永遠に消滅した。
拙いお話をお読み頂き有難うございます
天皇陛下とか出しちゃった故の前書きの注意書きでしたー(°°;)
フィクションです
想像の産物です
実際の日本とは一切関係無いので
アレ?萩沙ちゃんは何時代のひと?とか考えちゃいけません
なんちゃって近未来日本ですんで!! orz
最終話って書いてますが
此の後短いエピローグが有ります
でもってエピローグの後に
番外編的に没ネタを三つ上げたいと思います
没ネタは如何でも良いですが
エピローグは短い割にかなり悩んで書いたので
読んで頂けると嬉しいです




