第三十七話 或意味とんでも無くシンデレラストーリー
今週四度目の更新です
前話未読の方はご注意下さいませ
夏川晴史と別れて乗った車の中で、わたしは晴れ晴れと微笑んだ。
夏川晴史と違って後藤さんは助手席に乗り込んだので、目の前に居るのは春田さんだけだ。
ガタイの良い障害物が減って、見晴らし良好である。
後悔はと訊かれれば後悔だらけだし、未練はと問われれば未練だらけだ。
けれど。
多分、多くの生きる意味も見出せずに野垂れ死ぬ人々より、わたしは各段に幸せだと言えると思う。
死ぬのが恐くないのかと訊かれれば、そんな訳在るか馬鹿と答えるけれど、こうして死ぬ方が、無為に生き続けるより余程恐ろしくないと断言出来る。
わたしはこんな立場に立つ前から、生きて居る事に何処か罪悪感を持って居た。
死ねば良いと口にするのは口癖で在り、紛れも無い本心だったのだろう。
こうして、確固たる意味を与えられて死ねる事に、ほっとして居る自分が居る。
だって、何の魅力も特異点も持って居ないはずのわたしが、わたしだけ選ばれて、特別に犠にされるんだ。
或意味、或意味とんでも無くシンデレラストーリーだろう。
此の辺の考え方も合理化の辻褄合わせで、やっぱり死にたくないなーとか思っちゃってるのが、何ともわたしらしいけれど。
思ったより追い詰められて居ないのは、やっぱり夏川晴史のお陰なんだろうな。
目の前で複雑そうな顔をして居る春田さんに、笑みを向ける余裕すら有る。
「ねぇ、春田さん」
微笑みを浮かべて、春田さんに話し掛ける。
「誰かに訊かれたら、必ずこう答えて下さいね。白波瀬萩沙は、最後の瞬間迄笑って犠になったって」
「−、はぎさ、ちゃん」
春田さんが言葉を探しあぐねるみたいに、片言にわたしを呼んだ。
「わたしの評価は結果次第でしょう。悪い結果になったなら無意味な無駄死にと笑われるし、平和になったら忘れ去られるか、もっと早く死ねば良かったのにと後ろ指指される。所詮人間なんて勝手な生き物ですもんね。否、そもそも生き物なんて遺伝子レベルで利己的ですけど。っと、話がずれた。ま、わたしの自業自得なんですが、純然たる良い評価を受けると言う事は有り得ないでしょうね。そう評するには犠牲が出過ぎました」
其に、笑顔で頷いて見せる。
正直に言って、そんなの如何だって良いから。
「でも、そんなのわたしには関係有りません。わたしはわたしの為に死ぬし、わたしはわたしの死で、彼が平和に暮らせると信じて死ぬ。其の後が、如何なろうと知ったこっちゃ無いんです。結局人間なんて皆利己的なんだから、勝手に生きれば良い」
勝手に生きて、死ねば良い。
死ぬ過程で他人に悪感情を持とうが、全部他人に責任を押し付けようが、そんなもの其奴の自由だ。勝手にすれば良い。
「だから、わたしは笑って行きます。誰の所為でも為でも無い。此がわたしにとって幸せな結末なんだから。其の結果他人が嫌悪しようが感謝しようが関係無い。春田さんも、勝手に自分の好きに思えば良いんです」
目の前のイケメンの前髪を鷲掴んで、まじまじと顔を覗き込む。
最初から、利用する為に近付いたくせに、何でそんな暗い顔をして居るんだ。
「あなたは任務をこなしたんだから、悲しむ必要なんて、無いはずでしょう?」
笑みを浮かべて問い掛けた言葉に、春田さんは目を見開いた。
「あなたがやった事なんだから、あなたは胸を張って居ないと。其とも春田さん、あなたは部下に、自信の無い作戦だと言って行わせるんですか?駄目ですよ。どんなに絶望的な状況でも、ヘッドは余裕かましてないと。過度な不安は、不必要な失敗や過失を生むんですから」
何、被害者にアフターケアさせて居るんだ。
「ほら、笑って、春田さん。わたしは笑って行くから、春田さんも笑って見送って下さい。あなたはあまり嘘を言わないひとで、其処には好感を持ってますけど、最後位、わたしを救世主気分に浸らせて下さい。後、一時間位で済む話でしょう?」
にっこりと言って手を離すと、しゅぱっとわたしから離れた春田さんが顔を背けて片手で覆った。
「…何時に無く、ポジティブだね、萩沙ちゃん」
「今わたし、機嫌良いんですよ。ラッキーですね」
「機嫌の良い萩沙ちゃんに、ひとつお願いしても良いかな?」
「何ですか?」
そっぽを向いて片手で顔を隠した儘の春田さんが、開いた片腕をわたしに伸ばす。
ぐいと腕を引かれて、わたしは簡単に体勢を崩した。
「抱き締めさせて」
「許可取る前にやってるじゃないですか」
「うん。ごめんね?」
頭を肩口に押し付けられて、春田さんの顔は見えない。
おい、式典用っぽい軍服にファンデが付くぞ?
「ちょ、化粧崩れるんで其処は気を遣って下さいよ」
「あ、ごめん」
ぷは。
うん。手乗り顎ならぬ肩乗り顎。相変わらず顔は見えない。
あ、バックミラー越しに後藤さんと目が合った。
思わず苦笑を交わす。
「世界の救世主プランだからね、皆、萩沙ちゃんに感謝するよ。世界中の歴史の教科書に、白波瀬萩沙の名前が載る。もしかしたら、萩沙ちゃんを教祖に宗教とか出来ちゃうかもね」
「うわ、流石に其はご遠慮したい」
「はは。彼等は友好的になるし、特に日本を優遇してくれるだろうね。暫くは経済が混乱するだろうけど、其の分戦争とか起こる余裕も無くて逆に前より平和になるんじゃないかな。地球防衛軍は形骸化して、無謀な作戦に無数の命が投じられる危険性は無くなる」
わたしの頭を撫でながら、春田さんは語る。
其の、身体も声も微かに震えて居る事には、目を瞑る。
馬鹿なひとだ。わたしなんかに、情を移して。でも、そんなひとだから、侵略者も交渉に応じたのかも知れない。
「ぼくが間違うはずが無いからね。ぼくに従った萩沙ちゃんも、間違ってるはずが無いんだ。大丈夫。君は正しい。君の選択は必ず世界を救うから、君は胸を張って、堂々と行けば其で良いんだよ。後はぼくに任せてくれれば、何の心配も要らない」
「うん」
「大丈夫だよ。大丈夫。ぼくが必ず、君の存在を無駄にしないから」
「頼みますよ」
「任せて…」
以降の言葉は、続かなかった。
其処から到着迄、春田さんは無言でわたしを抱き締め続けて居た。
拙いお話を読んで頂き有難うございます
次話とエピローグで終幕となります
最後迄お付き合い頂けると嬉しいです




