第三十話 お願いが、有るんですけど
今週三度目の更新になります
前話未読の方は読んでおかないと知らないひとが出てます
短めです済みません
無事夏川晴史の病室に高里さんを送り届け(病室前で別れた)、タナカさんの病室に戻ると佐原さんが阿修羅像の如き様相で仁王立ち…ん?阿修羅像なのに仁王?
あ、否、うん。兎に角、憤怒のオーラを発しつつ待ち構えて居た。
「何処行ってたんですか」
地を這う様な声に、ぞわっとする。
が、何でも無い振りで答えた。
「ちょっと其処迄?」
「…わかりました。一緒に田中一曹のお見舞い行きましょうか。今直ぐ」
「ごめんなさいちゃんと説明します」
今にもタナカさんの病室を開かんとした佐原さんに懇願して、斯く斯く然々と理由を説明する。
「黙って居なくならないで下さいよ」
情け無い顔で言われると罪悪感も湧くもので。
「ごめんなs」
「萩沙ちゃん!!」
「ふおっふ!?」
謝罪の途中で名前を叫ばれて、びっくうっと肩を震わせた。
「な、夏川晴史…?」
振り向いたわたしを、微かに息を荒らげた夏川晴史が佐原さん以上の形相で見て居た。
「其、どうし、」
「ちょっと黙って!」
此処はタナカさんの病室前なのだ。
余計な、話は、拙い。
「話すなら、移動しましょう。何処でも良いんで」
「…なら、おれの病室に」
低い声に今は逆らわず大人しく従う。夏川晴史の後ろには困惑顔の高里さんが立って居た。
「千明、荷物ありがと。ちょっと此の人と話が有るから、今日は帰って」
「ちょ、折角来てくれたのに、」
「萩沙ちゃんは黙ってて。千明?」
「…わかった。また来るから」
何時に無く怖い雰囲気の夏川晴史は、高里さんから荷物を受け取ると追い払う様に言い放った。つい口にしたわたしの言葉も、一言で退ける。
高里さんは不審げにわたしを見てから、頷いて踵を返した。
否、否否否。
見舞いに来た彼女追い返して別の女招き入れるっておかしい。おかしいから。
突っ込みはしかし口に出来ず、わたしは嫌々夏川晴史の病室へ蜻蛉返りした。
…苦手なんだって、自分以外が怒ってる状況。
「…彼女追い返して良かったんですか」
「千明は彼女じゃないから」
否否、春田さんは彼女だって…。
でも言われて見れば、美晴さんは普通に幼馴染みって言ってたかな。
だかしかし。
何方にしろわざわざお見舞いに来てくれたひとを追い返した事に変わりは無いだろうに。
胡乱に見やった夏川晴史の身体に、包帯が見えて表情が凍った。
右腕が、固定されて吊られて居る。
タナカさんと同じく、彼もまた命懸けで助けてくれたひとなのだ。
「…あの、怪我の、具合は?」
「おれは、掠り傷みたいなもんだよ。普通に出歩ける程度の怪我」
「そんなはず…!!」
銃で撃たれたのだ。掠り傷なはずが無い。
わたしの所為で。
しかも、留めようとした彼をわたしは突き飛ばしたと言うのだ。
「…っ、ごめん、なさい」
顔を俯けたわたしの足許に、夏川晴史は膝を突いた。
視線を合わせない為に目線を下げたと言うのに、相も変わらず空気の読めない奴だ。
「其は、何に対する謝罪?其の、怪我について?」
「違…」
出来れば目線も話も逸らしたいのだが、逸らさせてくれる訳も無かった。
厳しい表情をした夏川晴史の手が、顔の包帯に触れる。
「此の下、如何なってるの?車椅子って、歩けないって事だよね?別に春田二佐の過保護って訳じゃ、無いんでしょう?」
「…無いです、けど」
けどと言ったけれど続けられる言葉は無い。
「けど、何?」
だから、続きなんて無いんだってば。
内心で思ってもそんな反論出来るはずも無く。
「…別に、そんな大した怪我じゃないですから」
「怪我したんだ」
手を退けさせながら苦し紛れに言葉を発すれば揚げ足を取られる。
確信してた事の確認に近いだろうけど。
「…まあ、多少」
「多少の怪我で車椅子?」
「場所が悪かっただけですよ」
脇に控える付き添いふたりの表情の違いが面白かった。
鉄仮面な仕事人サクラさんと、思いっきり白い目な佐原さん。サクラさんを見習ってよ佐原さん。秘密厳守だよ。
佐原さんを一瞥して、夏川晴史は更に顔を厳しくした。
「何処を、何で、どの程度怪我したの?」
「…あなたに関係無いでしょう」
場合に依っては地雷にもなりかねない台詞だが、事実だし、其しか言い様も無い。
実際、夏川晴史は護衛を離脱するのだろうし、もうわたしとは関係無いはずだ。
負い目と状況から大人しく病室迄は来たけれど、果たしてわたしに説明義務は有るだろうか?
「関係は、」
「無いでしょう?」
「…美晴が、心配してる」
ちょ、汚い。其の台詞は汚い。
絶句したわたしへ更に反論を潰そうとでも言うのか、夏川晴史が言葉を続けた。
「一昨日おれが怪我した時も、連絡したらおれより萩沙ちゃん心配してた位だよ。千明に口止めしなかったから千明から美晴に伝わるね。萩沙ちゃんが顔を包帯まみれにして、車椅子に乗ってたって。美晴は萩沙ちゃんの事を随分千明に話してたらしいし、おれが口止めでもしない限り美晴に話すだろうね」
脅しますかー。へー。そー来ますかー。
でもわたしは、そんな脅しに屈する様な優しい人間じゃないから。
「…好きに伝えれば良いじゃないですか。どうせもう、会う事も有りません。わたしはもう、美晴さんに会う気は有りませんから」
住所も携帯のアドレスも教えなかったから、わたしから訪れなければ美晴さんがわたしに接触する術は無いのだ。
其こそ、そう、
「其とも、あなたが会わせますか?仕事で得たわたしの個人情報を、個人的な目的で利用して?」
夏川晴史が、情報を流出させない限り。
扨、そうして脅そうと言うなら、此方だってカードは有るのだ。
「二度と会わない人間が、如何だろうと知ったこっちゃ無いでしょう?あなた達も、わたしも。知らせて無為な心労を掛けるより、白波瀬萩沙は元気だって、伝えた方が優しいと思いますけどね」
伝えれば美晴さんが悲しむ。余計に心配する。
其がダメージになるのはわたし以上に夏川晴史や高里さんのはすだ。
言ったわたしの頬を、夏川晴史は無事な片手で掴んだ。
聞き分けの無い子供と、説教する親みたいな構図だ。
「美晴はああ見えて強いから。萩沙ちゃんに言っても信じないだろうけど、普段全く泣かない子なんだ。おれや千明には多少甘えるけど、聞き分けの良い、常に笑ってる子だよ。だから、嘘でごまかさず本当の事を言う様にしてる。確かに美晴は病気だけど、心迄守ってやらなきゃならない程、弱くないよ」
夏川晴史の大きな手が、包帯越しにわたしの頬を滑る。
険しい、と言うより、哀しげな瞳で見詰められた。
「心を守らなくちゃいけないのは…違うな。おれが守りたいのは、美晴の心じゃなくて…萩沙ちゃんのなんだ」
小さく低く呟かれた言葉は何とか耳に入ったけれど、頭が理解を拒否したみたいに意味が指を擦り抜けた。
わたしが思考を空回させて居る間に、夏川晴史が佐原さん達を見上げる。
「…お願いが、有るんですけど」
「其は、」
「異常が在れば直ぐ伝えますから」
真横で交わされる会話なのに、ショートした頭は一言も言葉を拾えない。
木偶人形みたいな何にも無い顔で見上げる先で、カラスの会議みたいに意味のわからない会話が流れて行く。
「でも、」
「わかりました」
「ちょっと、サクラさん!?」
「白波瀬さんの身体で今一番問題なのは、怪我より心でしょう」
「…其は、」
「私達は、扉の外に居ますから。何か在ったら、必ず伝えて下さい」
「ええ」
「では、出ますよ」
「ちょ、だから、」
「ぐだぐだ言わない。ちゃきちゃき歩いて下さい」
扉が開いて、閉じた。
ぼんやりと眺めた其の意味に気付いた時には、夏川晴史と病室でふたりきりだった。
拙いお話をお読み頂き有難うございます
好い加減、恋愛っぽい話に持って行きたい
のに
萩沙ちゃんが言う事を聞かない
無理矢理な話の持って行き方に感じたら申し訳無いです
作者の力不足です
力不足が随所に目立つ作品ですが
続きも読んで頂けると嬉しいです




