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吁、無情  作者: 調彩雨
21/43

第二十話 結論から言おう。

今週二回目投稿ですので読んだ覚えの無い方は前話からどうぞー


暴力表現有り

鬱展開

事件(?)発生ですが此の回だけでは解決しません

苦手な方や切り良く読みたい方はご注意下さい

 

 

 

 …結論から言おう。


 腕の傷は、痕こそ遺ったけれど完治した。


 そんな話如何でも良い?だよね。うん。冗談。

 気が滅入る話だから、あんまり考えたくないんだ。


 そう、とても、気が滅入る結果。


 侵略者との全面戦争は、起こらなかった。


 拍子抜け、られたら良かったんだけど。

 残念ながら、侵略戦争の危機が去った訳じゃない。結局世界中の意見が隷属容認で纏まるなんて事は無くて、ただ、期限が延ばされただけ。

 侵略者さん達はもう三ヶ月の猶予を認めて、侵略の手を止めた。


 止めた。そう、手をくだすのを待った訳じゃなく、手を下して、途中で止めた。

 今度の犠牲は、北米大陸。

 抗戦派筆頭二強の片割れが、潰されたんだ。

 状況はオセアニアと同じ。一日足らずで、大陸ごとごっそり消滅だ。ひとも、ものも、何もかも。


 大陸が消えた代わりに其の分の海面が下降して、過去に海面上昇で沈んだ島が幾つか復活したそうだ。ははっ。

 代わりになる訳が、無いだろう。寧ろ水底で暮らして居た水棲の生き物が死んで、明らかな環境破壊だ。


 オーストラリアが消えた時だって混乱が無かった訳じゃないけれど、アメリカ程じゃない。幾ら大戦に向けて各国独立を進めてたとは言え、良くも悪くも彼処は国際経済の大事な一翼いちよくなんだ。

 経済は混乱し、治安は悪化した。拳銃が一般に流通して居ない日本はまだマシながらも人傷沙汰が増えて居るらしいし、当たり前に拳銃やなんかが流通して居る土地では、日々生きるか死ぬかの攻防戦が起きてたり起きてなかったりする、らしい。何分なにぶん伝聞なもので、言い方が曖昧なのは許して欲しい。十一月朔日から驚きの三連休で、其の間外出禁止令を出されてたんだ。生憎我が家にはテレビも新聞も無いので、情報全て護衛さん達との雑談で得て居るのだ。

 否、ネットで調べれば良い話なんだけどね。お気付きの方も多いと思うが、あまり他人に興味が無いもので、わざわざ気が滅入る様なニュースを集めようとしたりしないんだよ。面倒だし、興味も無いし、面倒だし(大事な事なのでry)。


 と言うか、アメリカが如何とかよりも、侵略の手が止められた事の方が、わたし的重大案件と言うか、ね。

 三ヶ月やるから、白波瀬しらはせ萩沙はぎさを口説き落とせ、ってさ。

 …そう言う話らしいんだよ。死ねば良いのに。


 ぞっとしたわたしの気持ちは、酌んで貰えたりするかな?するかなー?

 此の事伝えた時の、後藤さんの何とも言えない顔とかね。もうね。もうね!


 其処迄される何を、わたしが、したの?


 元々そうだって聞かされてたけどさ。けどさ!!

 敵さん(アイツら)ガチで、わたしと世界ちきゅうを天秤に掛けてるんだよ!

 何なの?何なのもう!?


 地球一個の全生物と引き換えに出来る何を、わたしが持ってるって言うんだ!!


 予測。飽く迄予測でしか無い話だけれど、侵略者さんは三ヶ月後まだわたしが拒絶を続けてたら、また何処かの大陸をひとつだけ消して、猶予を与えるんじゃないかな?

 そうして、日本以外を消して行って、日本だけになったら今度は、本土以外を消して行ってさ。わたしが折れる迄、わたしの周りを消して行くんじゃないかな?


 そう訊いたら、後藤さんは其の前に抗戦派の人間が居なくなるだろうって言ったけど、予測自体は否定しなかったんだよ!?

 わたしの為に其処迄する可能性が在るのを、否定出来ないって事でしょう!?


 泣いて良い?泣いて良いかなあ!?

 もう、わけがわからないよ。


 塞ぎ込み考え込んで会話もろくにしないわたしに、敵対気味の護衛さんすら同情がちの視線になった。うん。痩せて痛々しい見た目になったのも大きかったりするかな?外見って、大事だね!


 はあ。

 相変わらず、食事はほぼリバース。とうとう夕食が点滴になった。昼食も、流動食みたいなのが出る様になって、無理なら食べなくて良い、と宣言された。無理に食べて吐く方が身体の負担になる、ってさ。

 流動食に切り替えられた時に食べてみて、吐いたので食べなくなった。摂食中枢がぶっ壊れてるらしく、幾ら食べなくてもお腹は空かない。

 体重は減少と停滞を繰り返し、確実に減って来て居た。


 何度か休職を勧められたけど、根性と言うか意地と言うか矜持と言うか。兎に角意固地(いこじ)に職場に居座り続けて居る。

 働かなくちゃ生きて行けないのだから、仕事に行くのは、わたしの生きる意志の証明だ。生きたいのだと言う全力の主張だ。


 だから、誰が何と言おうとどれだけ気が進まなかろうと、わたしは仕事に行く。まだクビとは通達されてないんだから、わたしには其の権利が有る。

 十一月朔日からの、初出勤である今日も。




 うーわー。

 うん。暗いね。


 相続争い激しいお家のご当主のお通夜みたいな雰囲気って、通じるかな?

 辛気臭い上に、殺気立ってる感じ。


 しかも、落ち込んでるひとでもわたしだけは睨む、とゆー。

 アレだね、遊び人の直系馬鹿長男にでも、なった気分。


 はは。

 そんなもんだろうと思ったから、来たくなかったんだよ。でも、ジイサンの遺産の為に、じゃない、社会人としての義務を果たす為に、歯を喰い縛って来たんだ。


 全っ力で知るかオーラを発して、机にかじり付く。

 どーせ声を掛けて来る奴なんざ居ない。博士研究員らしく、自分の研究に没頭してやろうじゃないか。上手く行けば、しこたま研究費を落とせるかも知れない研究なんだ。成功すれば、正規雇用だって夢じゃないかも知れない。


「白波瀬」


 生きて居れば。最後迄、研究を、やり遂げられれば。

 微々たる力しか無いわたしでも、科学史に足跡を遺せるかも知れない。

 壊れ掛けた世界の新たな歯車を、作り出せるかも知れない。


「白波瀬」


 諦めない。絶対に、諦めない!


「白波瀬っ!」

「うっわ、はい!?」


 周囲の視線も音も遮断してのめり込もうとして居たわたしは、肩を掴まれ耳許で叫ばれて飛び上がった。


 振り向けば先輩の女性研究員が、わたしに手を掛け見下ろして居る。

 わたしに、実験室のダストシュートの事を教えてくれた先輩だ。


「えっと、何ですか?」

「何ですかじゃないわよ。何回も呼んでるのに気付かないで」

「うわ、済みません。何か用事ですか?」


 同じ分野で研究するひとで、こんな事になる前は何度も共同研究者にさせて貰った恩人だが、哀しいかな、護衛が付いてからの此処数ヶ月はほぼ関わりが無い。


 はて扨、一体何のご用事か。


 先輩はわたしの肩を掴んだ手を見下ろして、少し複雑そうな顔をした。

 薄くなった事に、気付いちゃったかな?触れる迄も無く明らかに、肉は削げてるけどね。


「…実験の手が足りないのよ。手伝って」

「…わたしがですか?」

「あんたに声掛けてるのに、なんであんた以外に手伝わさせるのよ」


 護衛が付いてから一度も頼まなかったくせに、今更何を言うのだろう。

 裏を感じなかった訳ではないが、わたしは大人しく頷いた。


 彼女は正規雇用。わたしは非正規雇用。立場が違うのだ。


「わかりました」

「そ。わかってると思うけど、部外者は、」

「護衛は実験室外に待機して貰います。其で良いですか」

「わかってるなら、良いの」


 わたしが机を片付けるのを待って、先輩は歩き出した。




「携帯、電源切ってよね」


 実験室前で言われて、荷物から携帯を取り出す。


「白波瀬さん、」

「外で待機、お願いしますね」


 電源を切る途中声を掛けられて、微笑んで答える。


「中には入らないので鍵だけ、開けて置いて貰えますか?」

「先輩、」

「…迷惑ね。まあ、良いわよ」


 顔をしかめつつ先輩が頷く。


 鍵が開いて居ても二重扉を閉めカーテンを引いてしまえば、中なんて見えなくなるし音も漏れなくなる。

 携帯の電源を切れば外部との連絡手段も無い。


 同僚がわたしを害さないと言う前提の措置は、果たして正しいか否か。


 護衛さん達が、わたしの首元に目を遣る。

 同僚は知らない、携帯以外の連絡手段に。


 使う様な事態には、なりたくないな。


 諦め混じりのわたしの希望は、実験室に入った瞬間打ち砕かれた。


 扨、先輩は一体、何の実験をするつもりだろう。

 先輩含めて七人で手が足りないなんて、どんな大掛かりな実験だ?


 此処で踵を返して逃げるべきと気付きながら、如何しても認められなかった。

 一縷いちるすら無い様な、蜘蛛の糸みたいな望みに、無様に縋り付いた。


 優しかった先輩なんてもう居ないと、思いたくなかった。


 カーテンを閉めた先輩に促されるのを待たず、敵意の籠もった目を向けて来る集団へ歩み寄る。

 ひとりふたり良く知らない顔も居るが、殆どは良く知った同僚や先輩の、女性研究員や技術職員さん達だ。


「随分、手の掛かる実験なんですね?」

「実験なんかやるはず無いじゃない」


 …だよね。

 元から居た女性のひとりから馬鹿にした様に言われても信じたくなくて、わたしは先輩を振り向いた。


「何の実験をやるんですか?」


 多分、縋る様な目だったと思う。

 顔の筋肉が、否、身体中が強張って、情け無い程弱っちい声が出た。

 先輩の顔が、歪む。


「実験なんて、やらない」

「実験の、手伝いに呼ばれたんじゃないんですか?」


 吁、何でだろう。気持ちが、悪い。

 頭痛で、くらくらする。


「人殺しに手伝わせる実験なんて、無いわ」

「人殺し?誰が?」


 眩暈がする。

 先輩の言って居る内容が、理解出来ない。


「あんたに決まってるじゃない!!」


 答えたのは先輩じゃなく、背後の誰かだった。

 腕を乱暴に引かれて壁に叩き付ける勢いで押し付けられて、取り囲まれた。


「あんたの所為で、あんたの所為でタクトが…!」


 頭打った。痛い。


 やけに暗い視界の、真ん中で叫ぶ彼女の恋人は、アメリカに滞在中だったか。

 其の隣の彼女の娘は、アメリカに留学中だったな。


 オセアニア以上に、日本と北米は交流が深い。


 でも、其は言い掛かりなんだよね。


「否、あの、言ってる意味がわからない」


 ひとを殺した記憶は無いし、タクトさん?は赤の他人だ。

 北米消滅に巻き込まれたのは気の毒だが、其でわたしを責められても困る。


 理不尽な言い掛かりに疑問を示す言葉だったのに、囲む彼女等には許せざる態度だったらしい。

 胸座むなぐら掴まれて、凄まじい形相で睨まれた。

 周囲からも、口々に罵倒される。


「しらばっくれんじゃないわよ!人殺しっ!!」

「あんたが生きてるから、アメリカが消されたんでしょ!?」

「ふざけんな、化け物っ」

「とっとと死になさいよ、自己中女!!」


 etc.etc....


 あ゛ー、煩い。

 ヒステリックな女の声って、何でこう耳障りかね。頭に響く。耳痛い。


「人殺しなんか、した事無いんですけどー…」


 口調がうんざり気味になるのは、許して欲しい所だ。

 先刻から如何にも具合悪いし、実験しないならとっとと解放して欲しい。


 つか、しらばっくれるも何も、守秘義務なんだってば。

 まあ、正確には義務じゃなくて勧告だけども。バレれば君達だって危ないって、気付いてないのかな、お馬鹿さん?

 わたしの知り合いって事は、わたしに対する人質に、十分なり得るって事だよ?


「人殺した様なもんじゃない!」

「だから何が」


 頭痛い。苛々する。


 睨まれるのに睨み返して、吐き捨てる様に問い掛けた。


「家族や知り合いが亡くなったのは気の毒だと思うけど、其で責められる謂われなんか無いんですけど!?」

「なっ!?ふざけんじゃないわよ!!」


 左頬に、熱が走った。

 平手打ちされたと気付いた時には、カウンターパンチを喰らわせて居た。腹に、思いっきり。


 カウンターの方が大ダメージで胸座掴んだ手が取れたけど、此方こっちだって眩暈でくらりとした。

 こちとら摂食障害で点滴生活なんだぞ!?気ぃ遣え!!


 叩かれて何かが切れた。自分の立場も相手の状況も如何でも良くなり、守秘義務なんざ知った事かと開き直った。

 …体調悪いし冷静じゃなかったんだ。許せ。


「ふざけてんのは何方どっちだよ!?北米が沈んだのはわたしの所為じゃないし、日本人からなら感謝されこそすれ責められる謂われなんざ無い!!」


 怒鳴れば視界が揺れ吐き気がする程に体調は極悪なのだが、構わず衝動の儘おもっくそ怒鳴り散らした。

 わたしが大人しく犠になれば状況は違った。そんなのわかってる。

 彼女達は悲しくて不安で、感情の捌け口が欲しかっただけ。其もわかってる。


 自業自得。言い返しても、状況は悪化するだけ。

 でも、もううんざりなんだ。


 怒鳴るわたしに呆気に取られるも、七人も居れば誰かは言い返す。


「何で人殺しに感謝すんのよ!?」

「だからわたしは人殺しなんざしてない!!馬鹿なの!?頭悪いの!?日本語わかんないの!?」

「あんたが犠になんないから、」

「其と北米消滅は無関係だっつってんだよ!!」


 背後の壁を殴ったが、コンクリートなので手が痛いだけだった。

 仕方が無いので歩み出て実験台の戸棚を蹴る。良い音立てて、割れた。後で始末書だ。


 暴力に慣れない理系女子達を力業で黙らせて、わたしは周囲を睨み据えた。


「確かに平和協定結びたければわたしを差し出せって言われてるみたいだけど、其は日本の話。アメリカは徹底抗戦の構えで彼方あちらと話し合いすらしてないの。わたしを犠にしようとしてんのも日本政府だけ。わたしが犠になれば他国も隷属しなくても和解出来る可能性は在るけれど、飽く迄其は、話し合う努力をしたら。話し合う努力すらしないアメリカが敵さんに消されても、そんなもんわたしに関係無いの。抗戦しようとしたアメリカ政府と、其を止められなかった国民、抗戦しようとする国に居座り続けた人間の責任。おわかり?」


 屁理屈と言うなら言えば良い。詭弁と言うなら言えば良い。

 わたしは間違った発言をして居ないはずだ。倫理やら思い遣りやらを、持ち出さなければ、だけど。


「で、日本は抗戦準備しつつ、和平交渉もしてた訳だ。なのにアメリカと違って消されなかったのは、敵さんが侵略の手を止めたのは、わたしが居るからなんだってさ。あっはは。ほら、ねぇ、あなた達わたしに感謝すべきじゃないの?わたしのお陰で今!あなた達は!こうして生きて!こんっな下らない事やってられるんだからさ!!」


 火に油を注ぐ台詞だとわかって居た。

 周り中敵だらけで、吐くべき台詞じゃないと。

 わたしがやるべきは首輪で助けを呼ぶ事で、幾ら苛ついたからと言って反論し相手を挑発する事じゃないと。


 でも、其が出来ないのがわたしと言う人間で、何より此の時のわたしは多少なりとも信頼して慕って居た人間に寄ってたかって責められて、壊れて居たんだと思う。


 嘲りの如く吐き捨てた台詞は、面白い様に彼女等の怒りを煽った。


「あんたねぇっ!!」


 誰かが叫んで飛び掛かって来て、わたしは再び壁に叩き付けられた。

 踏み留まる体力なんか無い。不明瞭でブラックアウト寸前の視界で、睨み返すだけだ。


 吁、眩暈がする。倒れそうだ。


 相手が二の句を継ぐより早く、わたしは口を開いた。


「代わってよ」

「は?」


 其は、思いつつも無駄だと、一度も口にしなかった台詞。

 詮無き仮定で、虚しくなるだけで、だから言わなかった言葉。


「怒るなら、代わってよ。責めるなら、代わってよ!!犠になんか、なりたくない。あなたが代わりになれば良いじゃん。みんなして無責任に責めて、自己中だの死ねだのってさ。生きたいって願って何が悪いの。生きようともがいて何が悪いの。わたしだって、わたしだって死にたくなんかないんだよ!!」


 視界が、此以上無く歪む。

 姿勢を保って、居られない。


 頭が、痛い。吐き気が、する。


 唖然とする彼女等の顔を最後に視界は暗転し、わたしの意識はフェードアウトした。






拙いお話をお読み頂き有難うございます


敵前でぶっ倒れた萩沙ちゃんの運命や如何に


次話は多少鬱展開払拭される予定ですので

続きも読んで頂けると嬉しいです

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