第二十一話 ごめん。ごめんな。
今週三度目の更新になります
前話、前々話読んで居ない可能性の有る方はご注文下さい
十九話~二十一話の萩沙ちゃんの言動が支離滅裂気味だったので
二十話を微かに変更しました(2015/03/15)
多少、支離滅裂加減が、マシになってると、良いなあ…
気持ち程度の微調整なので読み返しはしなくても問題無いです
「…瀬っ、白波瀬!!」
頭が、痛い。
誰だよ肩叩いて叫んでるのは。
頭に響くんだよ。黙れよ。
「白波瀬!!白波瀬!!」
ああもう。
「白波、」
「っる、さい…」
呻いて目を開けた瞬間、力任せに抱き締められた。
振動にくらりと、眩暈がする。
「無事で、良かった…」
「…あさひな?」
ぼんやりする頭で、現状を確認した。
どうやら実験室の床で、寝転がって居た様だ。
えっと?
そうそう。アレだ、集団イジメみたいな状況になって、ぶち切れて、ぶっ倒れたんだよね多分。
遂にぶっ倒れたのか。
まあ、此処数ヶ月まともに食事出来てない訳だし、ぶっ倒れても不思議無い…ん?
わたしを囲んでたのは、全員女性だったはずだ。
しかし見回すに、此処に居るのは朝日奈と、護衛さん?アレから、どの位意識飛んでたんだ?
…護衛さん実験室に入って来ちゃったのか。
つか、何で朝日奈が居るんだ?
「いま、なんじ?つか、なんで、あさひなが、いんの…?」
んん?呂律が怪しい。
相変わらず頭は痛いし、視界も揺らぐ。
「白波瀬がぶっ倒れてたのは数分だよ。…お前が久世さんに連れてかれたって聞いて、気になって様子を見に来たんだ。案の定剣呑な事になってる上に、お前が真っ青な顔でぶっ倒れるから、焦った…」
朝日奈の手が、頬を撫でる。
久世さん、先輩の事だ。
真っ青って事は、貧血か?鉄分…。今度買う牛乳は鉄分付加のにしよう。
「まだ、顔色悪い。気分は?具合悪いのか?」
「あたま、いたい。きもち、わるい」
「…頭打ってるかもだよな。お前、早引きして病院行けよ」
相変わらずの、性格イケメンか。朝日奈とまともに話すのは夏以来だけど、こんなに優しくされると思わなかった。
あの時より状況は悪化してるのに、朝日奈はわたしを嫌悪してないのかな?
ああ、護衛さんが居るって事は、わたしが害されたのはバレたのかな?
彼女等の行方が、心配だ。
言い掛かりには苛付いたけど、悪いひと達じゃないんだよ。
悪いのは、状況で、彼女等もわたしも、生きたいだけなんだ。
ついつい、かっとなってぶち切れたけどね。
自業自得だから多少の悪口は見逃して居たけれど、生きたいと思うわたしの邪魔迄されては堪らない。
ただ、でも、言い訳するなら、単なる喧嘩なんだ。
わたしの立場や、ぶっ倒れる様な体調が、イレギュラーだっただけの、他愛無い、暴力含みの言い争い。
一対多数は卑怯かも知れないけど、そんなもの女子同士の喧嘩なら日常だ。女は群れる生き物なんだから。
「くぜ、せんぱい、たちは…?」
「お前の護衛に、連れてかれた」
「春田二…春田さんの判断次第ですが、話を聞いて、厳重注意するだけのはずです。白波瀬さんとの接触は、禁止させて貰いますが」
朝日奈の言葉を補足する様に、護衛さんのひとりが言った。
春田二佐と言い掛けて止めたのは、一応の配慮だろう。
多分じゃなく、確実に、もうバレバレだろうけれど、一応は気付かれてない設定なのだ。
「春田さんと後藤さんが此方に向かって居るそうなので、着き次第白波瀬さんには病院へ行って頂きます。身体に異常が有っては、困りますので」
「はは…また、にゅーいんは、いやだなぁ…」
何せ摂食障害(仮)だ。下手に病院なんか行ったら、がっつり捕獲されかねない。
ふと、頬に何やら水滴を感じた。
「あさひな?」
「白波瀬お前、痩せ過ぎだろ。骨か」
「いや、まだ、ほねまでは、いってない、から」
何故か泣いて居やがる朝日奈に、顔を顰めて反論する。
まだ確か、標準ちょい割り位の体脂肪率だったはずだ。骨じゃない。肉々しさが相対して減っただけだ。
「顔、変わってんぞ?」
「だいえっとに、せいこう、したん、だよ」
「ダイエットって、健康的になる為の規定的な食事って意味だからな?お前は明らかに不健康な痩せ方してんじゃねぇか」
「…だって、ごはん、たべれない、だもん」
認める。今のわたしはまともに頭が働いてない。
と言うか多分、先輩達との言い争いの時点で、まともじゃなかった。
こんな、明らかな失言を、ぺろっと漏らしてしまう位には。
朝日奈が優しくて、数ヶ月前に戻ったみたいで、気が弛んだのも原因だろう。
朝日奈が凄く、情け無い顔をした。
「飯食えないって、なんだよ。金欠か?」
「…たべても、はくだけ、だから」
「吐くって、じゃあ、如何やって栄養摂取してんだよ?」
「あさは、たべれる。あとは、よるに、てんてき」
ちょ、痛い。握るな。痛い。
と言うか、何時迄抱いてるつもりなんだ、朝日奈は。
だから痛い。抱くのは妥協するにしても、二の腕を握るな。痛い。
「朝ってお前、ゼリー飲料だけだろ?其に、点滴?おま、ソレ、病気じゃねぇの?呑気に仕事してる場合じゃねぇだろ」
「からだに、いじょうは、ない」
「ならなんで…って、俺達の、所為か」
朝日奈がぐしゃりと、自分の髪を握る。
折角綺麗にセットしてんのに、崩れるぞ?
「…お前がさ、倒れるちょい前に此処来た訳、俺」
「うん…?」
突然話題、変わった?
低く呻く様な朝日奈の声に、わたしは首を傾げた。
また、ぽたぽたと、わたしの頬に滴が落ちる。
「聞いた。お前が、最後に言った言葉」
最後…ああ、アレか。
『怒るなら、代わってよ。責めるなら、代わってよ!!犠になんか、なりたくない。あなたが代わりになれば良いじゃん。皆して無責任に責めて、自己中だの死ねだのってさ。生きたいって願って何が悪いの。生きようともがいて何が悪いの。わたしだって、わたしだって死にたくなんかないんだよ!!』
我ながら、無意味で虚しい言葉だ。
先輩達の言い掛かりと、似たり寄ったりの八つ当たり。
代われる相手なんざ居ない。代替が無いから、わたしみたいな偏屈に地球防衛軍二佐が構ってるのだ。
代われるもんなら全力で代わって欲しいが、そんなのが出来ないらしいのは再三、聞かされてるんだ。
「お前だって、生きたいんだって、死にたくないんだって、そんな当たり前な事も、忘れてた、否、気付いてなかったんだよ、俺」
其は、まあ、わたしの口癖、死ねば良いのにとか、死にたいとかだし、無理も無い気がするけど?
活動が低下して居るわたしの唇より先に、朝日奈の唇が再び動き出した。
「なんで、さ、なんで人間は、目の前の人間にも自分と同じ様に心が有るんだって、当たり前に感情も願いも望みも有るんだって、そんな簡単な事すら、忘れちゃうんだろうな…」
「じぶんだけで、ていっぱい、だから、じゃん?だって、ほら、じぶんの、からだや、こころすら、おもい、どおりには、ならにゃ、」
良い所で、噛んだ…!
噛んだよ!すっげぇ、決め台詞っぽい所で、思いっきり、噛んだ!!
朝日奈から目を逸らしつつ、しれっと、否、全力でしれっとを装って、続けた。
「…ならない、じゃん?」
丁度今の、わたしみたいにな!!
後藤さんが居たら、きっと大爆笑だよ、って!?
其処で腹抱えて笑ってるのは、後藤さんでは在りませんか!!
噂をすればだよ!!くそう、何時から聞いてやがった…。
つか、朝日奈も笑ってるな?気付いてるぞ?
わたしを抱いてる腕が震えててバレバレだからね!?
「…っく。凄ぇ、説得力、有るわ…ふっくく」
「るさい。そこは、ながしとけ」
まだくらくらしてんだよ。呂律怪しいんだよ。
朝日奈が手を離したら其の儘地に伏す程度には、体調悪いまんまなんだよ!!
「ああ。具合悪いのに、喋らせてごめんな」
笑いを収めた朝日奈は、また情け無い顔に戻った。
ぐいっと抱き寄せられてされるが儘、朝日奈の肩に顔が埋まる。
「…っごめん。ごめんな。気付かなくて。追い詰めて。ごめん。手助けするとか、偉そうに行ったくせに、最悪に裏切ったよな。ずっと、辛そうなの見てたのに、何もしなくて、ごめん。こんなになる迄、追い詰めて、お前はお前なのに、見放して、何やってんだろうな、俺っ」
今度の震えは、笑いじゃないんだろう。
濡れた声で、朝日奈が言う。
何度も、何度も、謝罪を口にする。
「ごめん。ほんとに、ごめん。怖かったよな。辛かったよな。言えるはず、無いよな。ほんと、俺、殴りたい。ごめんな。もう、忘れないから。守るから。他の誰が、何言ったって、俺は、白波瀬の、味方だから。ごめん。全部許せとか、言わないから。恨んで良いから。嫌ったって、良いから。側に居させてくれ。お前の、白波瀬の、側に居るのだけ、許してくれ」
じわりと、涙が滲んだ。
朝日奈の肩に顔が埋まって居るお陰で、誰からも顔が見えないのが幸いだった。
少し、ほんの少しだけ、朝日奈の背に手を伸ばす。ぎゅっと、服を握った。
嘘でも良い。弱った姿に同情した、此の場限りの言葉でも。
知り合いに存在を否定し続けられて、思った以上に疲弊して居たんだろう。
冷えきって諦めきった心に、朝日奈の言葉は痛い程染みた。
でも、わたしは朝日奈を信じきれなかった。
わたしは強がりの天邪鬼だけど、怖がりで、臆病で。
信じた手をもし振り払われたらと思えば、もう手を取るなんて出来なかった。
其に耐えられないだろうと考える位には、同僚達の悪意はわたしを弱らせて居た。
彼は、わたしの存在を肯定してくれた。
其の先迄、知りたいと思えなかった。
「…ありが、とう」
潤み、震えそうになる声を叱咤して、呟く。
優しい彼と、決別する為に。
「でも、むり、しなくていい、よ」
わたしを抱く腕の、力が増した。
回した手で、ぽんぽんと朝日奈の背中を叩く。
「たよれる、ごえいさんが、いて、くれるからね。あさひなが、まもらなくて、だいじょーぶ」
涙は止めた。
何時顔を見られても大丈夫な様に、表情筋を落ち着かせる。
きっかけは朝日奈の言葉だったけど、朝日奈を最初に拒絶したのは、わたしだ。
其でもわたしを気に掛け、守ると迄言ってくれる朝日奈を、信じられない。
吁、わたしは、なんて、性根の腐った人間だろう。
「…俺は、もう、信じて貰えない?」
わたしの気持ちを正確に酌み取ったらしい朝日奈が、酷く悲しげに問うた。
違うよ。朝日奈の所為じゃないんだ。
「…ぱとらっしゅ、ぼく、もう、つかれたよ」
ふふっと、微笑んでぼそりと言う。茶化す様に。
ふざけないで言うには、あんまりにも情け無くて弱い本音だったから。
「なんだか、とても……こわいんだ」
其以上は、言えない。
朝日奈に吐き出せる弱音は、此で限界量だ。
本当は、殆ど知らない様な相手でも、敵意を向けられれば辛かった。怖かった。
良く知る相手からの敵意は、もっと辛かった。悲しかった。
助けてくれるかも知れなかった相手からの、痛い言葉は、如何仕様も無く刺さった。揺らいだ。
虚勢を張って身を守っても、気付けば中身はぼろぼろで、苦しかった。
だから、怖い。
怖いんだよ。
必死に張った虚勢の鎧を剥れて、そんな所を殴られたら、簡単に駄目になってしまいそうなんだ。
助けてと、手を伸ばして、払われたら、直ぐ様絶望してしまいそうなんだ。
駄目になりたくないから。絶望したくないから。鎧は脱がずに剣を抜いて、助けは求めず目を背けて。そんな身の守り方しか、わからないんだ。出来ないんだ。
朝日奈がそっと身を離して、わたしの顔を覗き込んだ。
目の前の涙で腫れた顔が歪み、また、滴が溢れる。
「…ごめん」
「もう、いい、よ」
唇を噛み締める朝日奈の肩を押す。
まだ、ふらつく身体を、無理矢理起こした。
今にも崩折れそうな身体だったが、そっと、後藤さんに支えられる。
一度俯いてから、朝日奈に笑みを向けた。
「また、へいわに、なったらさ、なかよく、してよ」
其迄は、知らん振りして欲しい。
朝比奈は一度俯いて、ぐしゃぐしゃのびしょびしょな顔で、歪に微笑んだ。
「新しい居酒屋が出来たんだよ。奢るから、また今度、一緒に行こうな」
お互いに、笑ってさよならに代わる言葉を吐いた。
肩を支えた後藤さんが、静かにわたしを促す。
「白波瀬さん、そろそろ」
「はい。じゃあ、あさひな、わたしは、かえる、から」
「ああ。またな。無理すんなよ」
「うん。じゃあね」
頷いて、背を向けながら答える。
さよならは、重すぎるから。
またね。じゃあね。
軽く。当たり前みたいに、軽く。
わたしたちは、永遠かも知れない決別を、した。
拙いお話をお読み頂き有難うございます
敵前で倒れたけれど救世主が来たよ!と言う話でした
ピンチを救われたのに恋愛脳になってくれない残念主人公め…
恋愛小説って何だっけと問いたくなる様なジャンル詐欺状態ですが
恋愛ジャンルっぽい展開を期待して(自分へのプレッシャー)
続きも読んで頂けると嬉しいです




