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これは『勇者』と『魔王』の物語  作者: 東の雲
ヴァルファーレ奪還戦

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トワイザランの変貌

 クリスは仲間達と一緒に、ルクスとアーブルグの村『ルクスブルグ』と新しく名付けられた村を後にした。


 それから1週間の旅で、私達はようやくトワイザラン王国の領地へとたどり着いた。


 懐かしい風景だ。


 トワイザラン王国はとても巨大な領地を持っていて、その領地内には多くの町や村が存在している。


 領地内の人口は約2億人とも言われている。


 私達の王国の騎士団は王宮の護衛だけでなく、各地に点在する町や村にモンスターが現れたり、事件が起こったりした時に遠征をして、国民を護る役割も持っていた。


 領地内に入ってから4日。


 私達はトワイザラン王国の城下町に到着した。


 今日はみんなで私の家に泊まり、明日に王宮へ挨拶に行って、祈りの間を見せてもらおうということになった。


「クリス!お前の家すごいな!お金持ちだったのか!?部屋は何個もあるし、庭は何百人も入れそうなぐらい広いし、執事やメイドさんまでいるぞ!!」


 リガンが驚いている。


「ははは。

一応この王国の騎士団長をしてますからね。お給料はそれなりに貰ってましたよ」


「1人で住んでるのか?」


 リガンが続けて聞いてきた。


「えぇ。父は昔に王宮の魔法研究の事故で亡くなってますし、母は病気で2年前に亡くなり、今は私と使用人達だけで生活をしています」


「そうだったのね。

まぁ今日は久々の故郷だし、私達は家で休ませてもらうけど、もし懐かしい友達とかと会いたければ、好きに行動していいわよ?」


 マオさんが言った。


 私はマオさんの言葉に甘え、久々に騎士団学校の同級生達と飲みに行った。


 騎士団学校時代の話。

 あの頃に語った夢の話。

 今のみんなの現状。

 トワイザランの最近の動向。


 そんな話をしているうちに、夜はすぐに更けていった。


 友達と別れ、ほろ酔いでひんやりした夜風を受けながら家に帰る。

 最近はずっと、修行と戦いの連続だった。

 たまにはこうやって、故郷でのんびりするのは、とても心が休まる。


 きっと、ジークやマオさんも早く故郷に帰って、ゆっくり休みたいのだろうな。

 そう思った。




 翌日、私達は11時に王宮へ行く予定だった。

 しかし私は久々に騎士団の訓練の状況を見たくなり、9時に王宮の訓練所へ足を運んだ。


 その光景を見て、私は驚愕した。

 なんだこれは……!


 騎士達は実戦形式の木刀の稽古をしていたのだが、全員が信じられないほどレベルアップしている。


 一般兵ですら、かつてトワイザランにいた頃の私にはまだ届かないまでも、かなりの急成長をしていた。


「がははは。どうだ、久々のトワイザランは?」


 この下品な声は。


 後ろを振り向くと、土の騎士団のレビンが立っていた。


「どうだ!?かなりみんな強くなっているだろう?

前回のゼノドラグスの手下の襲撃で何もできなかったことを恥じて、全員が危機感を持って訓練しているんだ」


「凄い……!

ですが、この短期間でこんなにも強くなれるものなんですか」


 私もジーク達の旅に同行し、かなりの修行を積んで急成長してきた。

 しかし騎士達は、私を遥かに上回る速度で成長している。


「クリストファー。久々に手合わせしないか?」


 レビンが言った。


 願ってもない機会だ。

 私がこの旅でどれだけ強くなったか。

 もうレビンすら追い越したということを証明するんだ。


 私は木刀を構え、レビンと向かい合った。

 ゆっくり息を吐く。

 周りで訓練をしていた騎士達が、いつの間にか手を止めてこっちを見ている。

 見世物か。まぁいい。


「いつでもいいぞ」


 レビンは木刀を肩に担いで、ニヤニヤしている。


 構えすらしない。完全に舐められている。


 上等だ。


 私は一気に踏み込んで、木刀を振り下ろした。


 ガッ!


 レビンは最小限の動きでそれを躱し、するりと私の後ろに回り込む。

 背中に、殺気。


 来る。


 見るより先に、体が動いた。

 木刀を背中側へ回す。


 カァン!


 乾いた音が、訓練所に響いた。


「何!?」


 レビンの目が丸くなる。


「今の、見えてたのか!?」


「いえ。感じました」


 ジークの修行の成果だ。

 目隠しで気配を読み続けた時間は、無駄じゃなかった。


 ここからは私の番だ。

 振り向きざまに横薙ぎ。返す刀で斬り上げ。さらに踏み込んで突き。

 レビンの木刀が、受けるたびに押されていく。

 足が下がる。肩が下がる。顔から余裕が消えていく。


 いける。

 勝てる!!


 そう思った瞬間だった。

 レビンの口の端が、ニッと吊り上がった。


「なるほどな。確かに強くなった。だが、そこまでだ」


 ドンッ!


 重い。

 今までの一撃と、全然違う。

 受けた木刀ごと、腕を持っていかれた。


「くっ……!」


 体勢を立て直す前に、次が来る。

 ガン!ガン!ガン!

 打ち込みが、一発ごとに速くなる。重くなる。

 手が痺れる。指の感覚が薄れていく。


 おかしい。

 さっきまで押していたのは私のはずだ。

 なんで、急に……!


「どうしたクリストファー!防ぐだけで精一杯か!?」


 返す余裕なんてない。

 受ける。受ける。受ける。

 そして、受け損ねた。


 ガスッ!


 脇腹に木刀がめり込む。

 息が詰まって、膝から力が抜けた。

 私は訓練所の地面に、片膝をついた。


「そんな……ばかな……」


 なんでレビンが、こんなに強くなっている。


 私だって、あれだけ修行をしてきたのに。

 何が違う。


 厳しい修行……。

 ……厳しい……?


 思い返してみる。


 目隠しで座っていた。

 ぼーっと立っていた。

 ぼーっと歩いていた。

 たまに、ぼーっとしていた。


 …………。


 ほとんど、ぼーっとしているだけだった。


 やはり、ここに残った方が良かったのか?

 私は一瞬、本気で後悔した。



「おーおー。クリス。派手にやられたなぁ」


 訓練所の入り口を見ると、ジークが立っていた。


「おー!ジーク!久しぶりじゃねぇか!」


 レビンはジークの元に駆け寄った。


「おっさん、随分と強くなったじゃん」


「ふっ。まぁな」


「なぁ、おっさん。1つ聞いていいか?」


「なんだ?」


「まさかトワイザランは、ゼノドラグスと手を組んだのか?」


 そのジークの言葉に、訓練所全体が一瞬でピンと張りつめた空気になり、静まった。


「ぐははははは」

 レビンの下卑た笑い声が、静寂を破る。


「まさか!

そんなわけはないさ。

そんなことを聞いてくるとは、俺達の力に気づいたようだな?」


「ジーク。どういうことですか?」


 私は訳が分からずに聞いた。


「こいつら、確かに強くなったけど、自分達の力で強くなったわけじゃない。

魔力の流れが、ゼノドラグスの手下と同じなんだよ。

ゼノドラグスが手下を強化してるのと同じ方法で、騎士団全員を強化してる」


 ゼノドラグスと同じ方法!

 魔力を配下全員に供給するという。


 そういうことだったのか!?

 だから全員が、こんなにもパワーアップを。


「がはははは。さすが勇者様だ。よく気づいたな。

前のゼノドラグスの手下の襲撃を受けた際に、王宮魔道士達が、手下達に施されていた魔法を解析してな。俺達も王宮から魔力供給を受けて強化できる仕組みを作り上げたのだ!」


「そういうことか。てっきり、ゼノドラグスの支配を受け入れたのかと思ったぞ」


 ジークはニカリと笑った。


「俺達はゼノドラグスなどに屈しはしないさ。

これだけの戦力があれば、いくらゼノドラグスが攻めて来ようが、全て蹴散らしてくれるわ」


「それは良かったな。クリス。早いとこ、祈りの間を見せてもらいに行こう」


 ジークは不自然なほど会話を早く切り上げて、私を連れて外に出た。


「ジーク、どうしたんですか?」


「この国、なんかキナ臭ぇーんだ。

早いとこ用事を済ませたら、とっとと出発するぞ」


「どういうことですか?」


「ただの直感だから、詳しくは説明できないけど、何か腑に落ちないことが多い。

この国、何かある気がする」


 珍しく、ジークは真剣な表情をしていた。


 このジークの嫌な予感が、遠い将来、最悪の形で表面化するとは、私は思ってもいなかった。


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