ルクスブルグの村
数日後、私達はとある森の中に来ていた。
ここは、パルさん達ルクス族が、新しく村を作ると、事前に教えてくれていた場所だ。
森の奥へ進むと、木々が切り拓かれた、広い空き地に出た。
カン、カン、と、槌の音が、森の静けさに響いている。
積み上げられた丸太から、削りたての木の香りが漂ってきた。
空き地には、木造の家が何軒か建っていて、その横では、まだ骨組みだけの家が、いくつも組み上がっている最中だった。
丸太を担いで歩く、体格のいい戦士達の姿も見える。
ルクス族の細身の人達と、肩を並べて、板を打ちつけていた。
ルクスの村の再建は、順調なようだ。
「ジークー!」
村を歩いていると、私達を呼ぶ声が聞こえた。
この元気な声は、プルさんだ。
プルさんは、駆け足で私達の元に来ると、ぴょんと跳ねるように、ジークの腕に飛びついた。
「来てくれたんだね!」
「あぁ。少し様子を見にな。再建も順調そうで安心した。またすぐに旅立つつもりだ」
「そっか。旅立つ前に、パル達にも会っていってよ」
そのとき、木陰から、わっと子供達が駆け出してきた。
洞窟に隠れていた、あの子供達だ。
「リガンだー!」
「しっぽ、もふもふだー!」
リガンは、あっという間に囲まれ、尻尾を引っ張られていた。
「ちょっ、やめてよー!」
悲鳴を上げながらも、どこか嬉しそうなリガンの横で、ユウナさんは、建築途中の家の骨組みを見上げていた。
「この梁の組み方、あと少し角度を変えれば、強度が2割は上がるわ」
そう呟きながら、手帳に何かを書き込んでいる。
杖をついたエンヤ爺が、にこにこと笑顔で出迎えてくれた。
「皆様、よくぞ戻られた」
そう言われて、私達は、パルさん達の住む家に案内された。
まだ木の香りが残る、新しい家だった。
家の中には、パルさんとポルさん、ライラさんがいた。
パルさんは、机いっぱいに村の設計図を広げていて、ポルさんは、壁にもたれて腕を組んでいる。
ライラさんは、湯気の立つお茶を、人数分、テーブルに並べていた。
「ジークさん、マオさん!皆さん、お久しぶりです」
パルさんが、笑顔で迎え入れてくれた。
「再建は思った以上に順調そうね!」
マオさんが言う。
「はい。実は、ここに来る前に、ライラさんのアーブルグ族の集落に行きまして、ライラさんが、アーブルグの戦士達を連れて来てくれたんです。
その人達の助けもあって、再建が思ったよりも早く進んでいるんです」
パルさんが言うと、ライラさんは、少し照れくさそうに目を逸らし、湯飲みを置いた。
「アーブルグの人達も一緒に暮らすようになって、この村も、『ルクスブルグ』って名前にする予定なんだよ」
プルさんが、無邪気な笑顔で言った。
「ルクスブルグか!いい名前ね。
それにしても、よくアーブルグ族は、ゼノドラグスの支配から抜けられたわね。
後を追われたりとかは、してないの?」
マオさんが尋ねた。
「見つかれば、ただでは済まんだろうな。
だが、ゼノドラグスは、そんなことよりも、もっと大事なことのために動いているらしい。
私達の裏切りなどに、時間を割いている場合ではないようだ。
だから、今のところ、追っ手の心配はなさそうだ」
ライラさんが、静かに答えた。
「そうか。仲間の復活か」
私達は、ジャカンで起こったことと、ションさんから教えてもらったゼノドラグスの目的を、パルさん達に話した。
話が進むにつれて、ポルさんの眉間に、深い皺が刻まれていった。
「あなた達、ゼノドラグスを倒したんですか!?」
パルさんもライラさんも、目を丸くした。
「えぇ。ちなみに、いま私の肩に乗っている黒豚が、あなた達の村を破壊した張本人よ」
マオさんの肩の上で、黒豚のリーナが、ぶひ、と小さく鳴いて、身を縮めた。
「こいつが……!?」
パルさんは、歯をぎりっと食いしばり、黒豚のリーナを睨んだ。
ポルさんの手が、腰の双剣にかかる。
ライラさんは、静かに目を伏せた。
「復讐したい?あなた達には、その権利があるわ」
マオさんが聞いた。
部屋が、しんと静まり返る。
パルさんの握りしめた拳が、小刻みに震えていた。
やがて、その拳が、ゆっくりと開かれた。
「いえ。やめておきます。
こいつも、こんな姿になっては、何もできないでしょう。
神に近いと思っていたのに、黒豚として過ごさなければならない屈辱を、ずっと味わって生きていけばいいんです」
パルさん達は、くすりと笑った。
「それにしても、ゼノドラグスが、まだそんなにたくさん封印されていたとは…」
ゼノドラグスの恐ろしさを知っているライラさんは、青ざめた表情をした。
「確かに、あのレベルの奴らが何百もいたら、さすがに俺とマオちゃんがいたとしても厳しいな」
厳しい!
ということは、勝てる算段もあるということか!
しかし、2人は、元の世界に戻る方法が分かったら、帰ってしまう……。
不安が、全員に走った。
「まぁ、ジャカンのトシキやトワイザランのサラン、ブァルファーレのグレンのように、この世界にも、強い奴は沢山いる。
全員が力を合わせて、ちゃんと戦いに備えて、ゼノドラグスの復活も阻止すれば、なんとかなるだろう」
ジークは、みんなの不安を消すように笑った。
窓の外から、槌の音と、子供達の笑い声が聞こえてくる。
この村を、この笑い声を、守らなければならない。
私は、そう思った。




