地下牢の戦い
クリスは、援軍が正門と裏門を攻め込んでくれたおかげで、仲間達と共に、地下牢の王女奪還に合流することとなった。
王宮の奥から、石造りの階段を、松明の明かりを頼りに降りていく。
下へ進むほどに、空気はひんやりと湿り気を帯び、かび臭さと鉄錆の匂いが鼻をついた。
地下牢に着くと、そこは、天井の低い、薄暗い石造りの大広間だった。
壁際の松明がゆらゆらと揺れ、黒ずんだ石壁に、不気味な影を落としている。
両側には、錆びた鉄格子の牢が、ずらりと並んでいた。
その広間の中央には、巨大な悪魔型のモンスターが2体と、ゼノドラグスの手下が数人、待ち構えていた。
悪魔型モンスターは、見上げるほどの巨体だった。
血のように赤黒い皮膚、額から突き出した2本の太い角、口からはみ出した牙。
その手には、人の胴ほどもある棍棒が握られていて、見るからに強そうだ。
ライザス殿が斬りかかるも、棍棒の一振りで吹き飛ばされ、石壁に叩きつけられて、戦闘不能となった。
あのモンスターはなかなか手強そうだ。
ここは私が。
そう思って、剣を抜こうとした。
しかし、それより先に、グレン王子が剣を抜き、無謀にも2体の悪魔型モンスターに突っ込んでいった。
「グレン王子!!!」
倒れたライザス殿が叫んだ。
悪魔型モンスターが、棍棒を振り下ろす。
石畳が砕け、破片が飛び散る。
だが、グレン王子はそれを紙一重で躱し、棍棒を握っていたモンスターの手を斬りつけた。
モンスターが棍棒を落とした瞬間、グレン王子は高速の連撃を繰り出す。
閃光のような斬撃が、赤黒い巨体を駆け上がり、モンスターは全身から血を吹き出して倒れた。
もう1体の悪魔型モンスターが、グレン王子に向かって棍棒を振り下ろす。
グレン王子は、それもひらりと躱し、剣でモンスターの手を切り落とした。
モンスターは、残った手で殴りかかってくるが、グレン王子はそれを躱した後に、またも連撃でモンスターを仕留めた。
グレン王子!こんなに強かったのか!
騎士団長のライザス殿より、断然、戦闘能力は高かった。
「驚かれたでしょう」
壁にもたれたまま、ライザス殿が、苦笑まじりに口を開いた。
「グレン王子は、気が弱く、内気なお方です。
ですが、幼い頃から、護身術のためにと、剣術を習っておられました。
そしてその剣術の才能は、ブァルファーレの中でも、類を見ないほどなのです。
剣聖と呼ばれた、王子の祖父君は、国一番の剣豪でした。
その血を、一番濃く受け継いでおられるのが、グレン王子なのです。
……だからこそ、王族の最後の血筋を、戦に出すわけにはいかなかったのですが」
なるほど。
あの小さな体の中に、剣聖の血が流れていたのか。
が、敵はモンスターだけではない。
ゼノドラグスの手下が、いつの間にか、グレン王子の背後で剣を振り上げていた。
しまった!
強いとは言っても、ゼノドラグスの手下に敵うほどの実力ではない。
グレン王子の想像以上の強さに驚いて、援護に入るのを忘れていた!!
斬られる!
そう思った瞬間、グレン王子の足元の床が爆発し、そこからジークが飛び出してきて、グレン王子のピンチを救った。
爆発で開いた床からは、ユウナさんも一緒に出てきた。
「もぉーー!なんなのよこの状況は!
せっかくこんな臭い下水をこっそり歩いてきた意味がないじゃないのよ!」
ユウナさんがジークに向かって怒った。
「戦っていうのは、その時その時で状況が変わるんだよ」
ジークは、いつものようにケラケラと笑っている。
「グレン、ここは俺達に任せろ。
お前は先に行って、大好きな姉ちゃん助けてやれ。自分の手で助けたいんだろ??」
ジークはそう言うと、グレン王子に何かを放り投げた。
「これは…」
「それは、王女が捕らえられてる牢屋の鍵だ。
特殊な封印魔法がかかってるから、その鍵がないと開かないようになってる。
お前ら全員が暴れてくれてるうちに、地下にある管理室からパクってきたんだ」
ジークは自慢げな表情をした。
「お前ら、少しは頭使えよなぁ。
そんな大事な要人を捕らえておくなら、簡単に壊されるような牢屋に入れておくはずないだろ??」
確かにその通りだ。
私達の作戦は、ただ陽動をして、その隙に、王女が捕らえられている地下牢まで行く作戦。
牢屋などただの鉄格子で、破壊すれば済むと思っていた。
「ユウナ。残念だったな!
お前が下水からこっそり忍び込んでも、結局この鍵がなかったら無意味だったんだ!
ただの汚れ損」
ジークは爆笑している。
ユウナさんは怒り心頭で、ジークに向かって魔法銃を乱射していた。
ジーク……。
なんて不思議な人なんだ。
どうしようもないと思える状況でも、いつも必ずなんとかしてくれる。
こんな戦争の真っ只中でも、この人がいるだけで、空気が明るくなる。
私もいつか、ジークのような存在感になりたい。心からそう思った。
あんなにだらけたくはないが……。
「グレン。早く行け」
ジークがそう言うと、グレン王子は頷き、奥に向かって走り始めた。
グレン王子がゼノドラグスの手下の横を通り抜けようとすると、手下達は一斉に斬りかかるが、ジークとマオさんが、全ての攻撃を宝剣で弾いた。
グレン王子は、そのまま地下牢の奥へと走っていった。
「ジーク。あなたって本当に意地悪ね」
マオさんが言った。
「ん?なんのことだい?」
「そうやってとぼける。気付いてるんでしょ?この奥から、まだ1人敵の気配がする。
恐らくは、王女の牢の前にまだ敵がいるわ。
しかも、かなりの強敵が」
「あら。やっぱりマオちゃん気付いてた?
さすがだね!でも意地悪なんかじゃないさ。これはこの国の戦いだ。
最後は自分達の手で解決しないといけないんだ」
そんな風に普通の会話をしながら、敵をあっさり倒していく。
ホント、この人達の強さには呆れるばかりだ。




