援軍
クリスは、王宮の裏手から攻め込み、次々と兵を倒していった。
裏門の前には、元ブァルファーレの騎士達が、ずらりと隊列を組んでいた。
その数は、見える範囲だけでも数百。
「突撃ーっ!」
第2部隊20名の雄叫びが、裏手に響いた。
私は先頭に立ち、剣を抜いて駆け出した。
腕輪の虚脱感が、足に重くまとわりつく。
だが、体は思った以上に動いた。
前から振り下ろされる剣を、半歩ずらして躱し、脇腹へ刃を滑らせる。
背後から迫る槍の気配は、見なくても分かった。身をひねって穂先をかわし、柄を掴んで引き寄せ、肘を叩き込む。
騎士達が、次々と倒れていった。
そんなに強い敵はいない。
恐らくは、ゼノドラグスの手下ではなく、寝返ったブァルファーレの騎士がほとんどなのだろう。
刃を交えるたびに、彼らの剣に迷いがあるのが伝わってくる。
本心から、ゼノドラグスに従っているわけではないのだ。
ドォォォン!
そのとき、遠く、正門の方角から、爆音が響いた。
続いて、怒号と悲鳴と、剣のぶつかる音が、風に乗って聞こえてくる。
マオさんとライザス殿達が、突入を始めたのだ。
ゼノドラグスの手下も混ざっているのか、時折、化け物みたいに強い奴が、騎士達の中に紛れている。
「うおおおっ!」
その1人が、大剣で反乱軍の兵士達を薙ぎ払った。
3人の兵士が、まとめて宙を舞う。
そしてその男の次の狙いは、リガンだった。
「リガン、後ろだ!」
リガンは、騎士の足元をかいくぐっていたところだった。
振り向く間もなく、大剣の腹が、リガンの小さな体を捉える。
ドガッ!
「ぐっ……!」
リガンの体は、ボールのように吹き飛び、壁に叩きつけられて、ぐったりと動かなくなった。
「リガンッ!!」
駆け寄ろうとした私の前に、大剣の男が立ちはだかる。
「次は、お前だ」
くそっ。
ただでさえ、こっちは数が少ないのに。
ブァルファーレの騎士程度の相手なら、今のリガンなら簡単に倒せるのに、貴重な戦力を最初に失ってしまった。
とはいえ、反乱軍の戦士達も、みんな頑張っている。
私が教えたことが身についているのか、寝返ったブァルファーレの騎士相手なら、ものともしていない。
ゼノドラグスの手下は私が引き受け、弱いブァルファーレの騎士は、反乱軍の兵士達に任せた。
大剣の男と斬り結ぶ。
重い。
受け止めるたびに腕の骨がきしみ、足元の石畳にひびが走る。
「ちょこまかと…!」
唸りを上げて迫る横薙ぎを、身をかがめて躱し、懐に飛び込む。
剣先が、男の鎧の隙間を捉えた。
「ぐあっ!」
男が膝をつく。ようやく、1人。
だが、息をつく間もなかった。
「あの助っ人を狙え!」
裏門の奥から、新たな影が3つ、飛び出してきた。
いずれも、さっきの男と同じ、ゼノドラグスの手下だ。
そのうち2人が私に斬りかかり、残る1人は、反乱軍の隊列へと切り込んだ。
「うわぁぁっ!」
「くそっ、強すぎる…!」
手下が1人加わっただけで、反乱軍の隊列は、あっという間に崩された。
1人、また1人と、傷を負って倒れていく。
倒れた仲間を、後ろへ引きずって下がらせる者もいた。
正門の方からは、ひときわ大きな怒号と、地面が揺れるような爆発音が、断続的に響いている。
あちらも、激戦のようだ。
時間が経つにつれて、状況は悪化していく。
このままじゃ持ちこたえられない。
ユウナさん。
早く王女を奪還してくれ……。
気付けば、20名いた第2部隊は、半数以下になり、さらに数を減らし、残りの反乱軍は3人と私だけになっていた。
やはり無謀な作戦だったのか?
マオさんに頼って、全員での正面突破を提案すべきだった…。
…なんて後悔している場合じゃない。
少しでも時間を稼ぐんだ!
剣を持つ手に力を入れ、再度、敵に向かって行こうとした、そのとき。
遠くから、怒号のような声が近づいてくるのが聞こえた。
声は段々と大きくなり、地鳴りのように、地面が揺れ始める。
あれは……?
『俺たちの手で、ブァルファーレを取り返すぞー!!』
みんな口々に、そう叫んでいた。
鍬を担いだ農夫、鍋の蓋を盾にした女将、棍棒を握る若者。
武器とも呼べない物を握りしめた人々が、坂の下から、波のように押し寄せてくる。
そうか、ブァルファーレの国民達か!
私達の戦いを見て、立ち上がってくれたんだ!
200名ほどが駆けつけてくれ、裏手は再び、大混戦となった。
所詮はただの国民だが、ブァルファーレの騎士達は、そんなに強くない。
この援護は、素直にありがたかった。
戦いが進んでいくと、戦場に異変が起こり始めた。
「おい、やめろ!俺達の国を、俺達の手で潰す気か!お前も、毎日うちの店で飯を食ってただろ!」
国民の1人が、騎士の1人に向かって叫んだ。
騎士の剣先が、震える。
その横では、別の騎士が、母親らしき女性に抱きつかれ、立ち尽くしていた。
「……すまない」
1人の騎士が、剣を下ろした。
それを合図に、1人、また1人と、騎士達が国民の側へ歩み出ていく。
国を取り戻そうと必死になる国民達に感化され、ブァルファーレの騎士達も、少しずつこちらの味方になっていった。
いつしか、数の利は、こちらに傾いていた。
遠く、正門の方角からも、わあっという歓声が上がるのが聞こえた。
あちらでも、国民が、騎士達を動かし始めているのかもしれない。
その後は一気に反乱軍が押し勝ち、裏門を制圧した。
国民達は裏門を解放すると、王宮へと雪崩れ込んでゆく。
私は気絶したリガンを抱え、裏門から王宮に入った。中央の広場に行くと、そこにはマオさんとライザス殿、グレン王子がいた。
「グレン王子…!!
なんでここに??」
キャンプで待機していたはずのグレン王子の姿に、困惑した。
「ジークがけしかけたみたいなのよ」
マオさんは、呆れたように言った。
「グレン王子の判断で、連れてきた国民は二手に分かれたの。
300人が正門、200人が裏手。
正門の騎士達も、国民の呼びかけで、ほとんど戦意を失ったわ」
そうか、国民達が急に立ち上がったのは、グレン王子が来たからだったのか!
「お姉様の奪還はもちろんですが、ブァルファーレも、今日、取り戻します。
みなさん、もう少しだけ、力を貸してください」
グレン王子が、力強く言った。
さっきまでテントで大人しくしていたグレン王子とは、別人のように覇気がある。
そう。
これは、れっきとした王の風格。
この短期間で、一体何があったのだろうか。
「王子…ご立派でございます」
グレン王子の成長に感動して、ライザス殿が涙を浮かべている。
マオさんが、私の腕の中のリガンの額に、そっと手を当てた。
「気を失っているだけよ。すぐ目を覚ますわ」
「…で、そのけしかけた張本人は??」
マオさんに聞いた。
「また行方不明よ。
グレン王子の話だと、広場までは一緒にいたらしいけど」
あの人の行動は、本当に理解できない…。
けど、あの人なら、また何かやってくれる。
そんな期待が、胸に湧いてきた。
ユウナさん達は、もう地下牢にたどり着いているだろうか。
「まずは、お姉様を奪還しましょう。
地下牢に行きましょう」
グレン王子が力強く言うと、ライザス殿と並んで先頭に立ち、私達はその後を追った。




