グレンの決意
グレンはブァルファーレの城下町に足を踏み入れた。
王国の入り口ではすでに作戦が始まっているらしく、街を行き交う人々が、声をひそめて噂話をしている。
「元騎士団長が、王女様を取り返しに来たらしいぞ」
「ゼノドラグスの配下に敵うわけがない」
「下手に刺激して、俺たちにとばっちりが来たらどうするんだ」
そんな声が、あちこちから聞こえてきた。
辺りを見渡すと、街の人たちはジークが言っていた通り、かつての元気を失っているように見えた。誰もが何かに怯えるように肩をすぼめ、コソコソと足早に歩いていく。
昔のブァルファーレは、あんなに笑顔であふれていたのに。
それが、あのゼノドラグスたちのせいで……。
ぎゅっと拳を握りしめる。
胸の奥から、熱いものがこみ上げてきた。
僕は、いてもたってもいられなくなった。
何かをしないと!
気がつくと、僕は無意識のうちに、街の真ん中にある広場まで来ていた。
時刻は昼の12時を過ぎたところ。広場には、たくさんの人が集まっている。
こんなところまで来たけど、何をしたらいいのか分からない……。
足がすくむ。心臓がドクドクと音を立てる。
そのとき、ジークの言葉が頭の中に響いた。
『自分で考えて、自分で決断するんだ。
どうしたらいいかじゃない。
自分がどうしたいのかを』
そうだ。僕はどうしたいんだ。
答えは、最初から決まっていた。
僕は大きく息を吸い込んだ。
「みなさん!聞いてください!!」
精一杯の声で叫んだ。
広場の喧騒の中に、僕の声が響く。通行人が何人か、何事かと振り向いた。
手が震える。声も震えそうになる。
それでも、僕は言葉を続けた。
「僕は…
僕は………
僕は、ブァルファーレ王国の王位継承者、グレン・ブァルファーレです!」
そう叫んだ瞬間、何人かが信じられないという顔で立ち止まった。
「今、元王国騎士団の人たちが、王族の生き残りである王女、僕のお姉様を救うために、ゼノドラグスの手下と王宮で戦っています。
どうか、皆さんの力を貸してください!」
無我夢中だった。
ただ、ありったけの思いを言葉にしてぶつけた。
広場がざわざわと波立ち始める。人が、1人、また1人と集まってきた。
「どうか。どうか、王宮を今一度、僕たちブァルファーレの国民の手に取り戻すために。
力を貸してください!!」
僕の声を聞き、広場のざわめきはどんどん大きくなっていく。
そのとき。
「お前、王族の生き残りなのか??」
背後から、地響きのような低い声がした。
振り返ると、身の丈2メートルを超える大男が3人、ノソノソとこちらに歩いてくる。
「こいつはラッキーだ。
見回りに城下町に来てみたら、こんなお宝に出会えるとはな!
王族の生き残りのお前を殺して王宮に差し出せば、俺たちの地位も上がるはずだ!」
しまった!ゼノドラグスの手下たちか……!
ライザスたちの奇襲作戦で、敵は全員王宮に集まっていると思っていたのに!
血の気が引いていく。
広場の空気が、一瞬で凍りついた。
「おい!ブァルファーレの愚民ども、よく見ておけ!俺たちに逆らうとどうなるのか!」
大男の1人が、巨大な斧を頭上高く振り上げた。
陽の光を受けて、刃がぎらりと光る。
逃げられない。
僕は恐怖のあまり、ぎゅっと目を閉じた。
その瞬間。
「おいおいおいおい。せっかくいいとこなのに、邪魔すんなよ」
この声は……!
聞き覚えのある、あの気の抜けた声。
おそるおそる目を開けると、僕の目の前に、ジークが立っていた。
ジークは一瞬のうちに、大男3人を魔法で吹き飛ばした。
ドガァッ!と轟音が響き、巨体が宙を舞って、広場の向こうへと転がっていく。
広場が静まり返った。
「グレン。続けろ。
お前の気持ちを、思い切りぶつけてみろ」
ジークが振り向き、僕に優しく微笑んだ。
ジークが、初めて僕の名前を呼んでくれた。
その瞬間、胸の奥が燃えるように熱くなる。もう、心の高鳴りを抑えきれなかった。
怖さは、もうどこにもない。
僕は一歩前に踏み出し、腹の底から叫んだ。
「みんな!僕は今から、ゼノドラグスの支配からブァルファーレを奪還する!!
力を貸してほしい!!
かつての幸せだった頃を!ブァルファーレを、みんなの手で取り戻そう!!」
胸の高鳴りを吐き出すように大声で叫び、腰に差した剣を抜いて、空高く掲げた。
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、この言葉を待っていたかのように、広場に集まった国民たちが、地鳴りのような歓喜の大声を上げた。
「うおおおおおおおっ!!」
国民の声は大きな振動となり、僕の体にビシビシと伝わってきた。
鳥肌が立つ。目頭が熱くなる。
僕の言葉が、みんなの心に届いたんだ。
僕は広場の群衆を引き連れて、王宮の入り口へと向かった。
広場にいた人たちが、次々に僕の後を追ってついてくる。
王族の僕が立ち上がったという噂は、一瞬のうちに街中へ広まった。
僕が王宮に向かって歩いていくうちに、後ろにはどんどん、武器を手にした国民たちが集まってくる。
鍬や棍棒を握りしめた者、錆びた剣を引っ張り出してきた者。誰もが、その目に再び光を宿していた。
そして、僕が王宮に着いたころには、国民は500人を超えていた。
これでもまだ、数の利はあちらにある。
それでも、もう迷わない。
僕は王宮の門をまっすぐに見据えながら、奪還の決意を、改めて強く胸に刻んだ。




