ジークとグレン
グレンは、テントの中で1人、祈っていた。
そろそろ作戦が始まる頃か。
お姉様、どうかご無事でいてください。
頭の中に、幸せだった頃のブァルファーレ王国の記憶と、お姉様の優しい笑顔が浮かぶ。
「何、考え事してニヤニヤしてんだ。
これからみんなが頑張って戦うって時に」
ジークという男が、テントに入ってきた。
この数日間、この反乱軍キャンプで一緒に暮らしているが、この人はいつもだらけていて、誠実さも感じられない。
さっきのミーティングでの態度も酷かった。
はっきり言って苦手だ。
だけど今は、このキャンプには、僕と護衛2人と、このジークしかいない。
作戦は本当に上手くいくのかを考えると、不安で心が押し潰されそうになる。
今は誰でもいいから、話し相手になってほしい気分ではあった。
「お姉様のことを思い出していたんです。
とても明るくて、笑顔が素敵で、何よりも人望が厚い人でした。
僕なんかよりも、お姉様が国を継いだ方が、絶対にいいんです。
だから、この作戦だけは、なんとしても成功させてほしいんです」
素直に思っていることを吐き出した。
「ふーん。
お前、お姉ちゃんが好きなんだな」
ジークは柔らかくニコリと笑った。
この人、こんな表情もするんだな。
「はい。とても!!
ジークさんは、ご兄弟はいらっしゃるんですか?」
「俺にも姉がいたよ」
一転して、ジークの表情に影ができる。
「いた…?」
「あぁ。魔族っていう他の種族の襲撃に遭って、その際に命を落とした」
ジークさんに、そんな過去があったなんて。
「なんだか、僕達の境遇、似ていますね」
ぽつりと呟いた。
「あ?全然似てないさ。
お前はまだ助けに行くことはできる。
俺はお前みたいにウジウジと引きこもったり、他人任せにはしなかったからな」
「なっ!僕を侮辱するんですか!?
僕だって、本当はお姉様を助けに行きたいんです!
だけど僕は、ブァルファーレ王国王族の最後の生き残りなんです。
この命を落とすわけにはいかないんです!
あなたに、僕の何がわかるんですか!?」
「わかりたくもねぇな。
仮にこの作戦が失敗して、王族がお前だけになったとしても、ブァルファーレを立て直せるとは思えないしな。
逃げてばかりの腰抜けの王に、誰がついてく?」
「くっ……それは…」
ジークの言葉は核心を突いているだけに、反論ができなかった。
「お前さ。今のブァルファーレの国民達の姿、知ってるか?」
「ブァルファーレの……国民?」
「国を取り戻したいとか言ってる奴が、国民のことも知らないのか??
お前はブァルファーレを取り戻して何がしたい?
ただ王になりたいだけなのか?」
「ち……違います!
僕は、ブァルファーレのみんなが、昔みたいに笑顔で幸せな生活を送ってほしいんです」
「じゃあ、なんで国民のことが見えてないんだ?
今のブァルファーレの城下町の奴らは、みんな活気がなくて、腐った魚みたいな目をしてたぞ。
お前は自分だけで全部背負って、自分だけが辛いと思ってるかもしれないけど、国民みんなも辛いんだよ。
辛い中でいつかきっといい日が来るって信じて、耐えてるんだよ」
「僕は……僕は……」
ジークの言葉が刃となって、胸に突き刺さって抜けない。
「しかも、お前は今回の大事な作戦にも参加しないで、作戦の立案も実行も他人任せで、ただここで縮こまってるだけ。
こんな大事な時に、自分で考えたり、決断もできないような奴に、『王の資格』なんてないんだよ」
ジークの言葉に、心臓が高鳴る。
「自分で考えて、自分で決断するんだ。
どうしたらいいかじゃない。
自分がどうしたいのかを」
身体の血が、全身に激しく行き渡っていくのがわかる。
僕も何かをしなきゃいけない!
胸に突き刺さっている言葉の刃が、僕の何かを刺激している。
体が熱くなっていくのが、はっきりと分かった。
「僕は!お姉様も国も、自分の手で取り戻したいんです!!」
気がつくと、僕はテントを飛び出して、護衛の2人を振り切り、ブァルファーレに向かって走っていた。




