時魔導士の小島
ジャカンを出発して3日が経ち、クリスは小さな島に降り立っていた。
私達はトワイザランに向かう前に、ユウナさんの提案で寄り道をしていた。
ここはルクスの村があった大陸の外れにある、地図にも載らないような小さな島だ。
ユウナさんの話では、ここには時魔法に詳しいクロノス族という種族がいるらしい。
私達はそのクロノス族の族長のレイリオという人を訪ねるために来た。
ジーク達が元の世界に戻る時に、別の時代に飛ばされないように、時に詳しい人に話を聞いたほうがいいと考えたからだ。
「あの山の中腹辺りに小さな集落がある。
そこにクロノス族はいるはずだ」
ユウナさんが言った。
私達はユウナさんの先導のもとに登山を始めた。
海に囲まれた小さな島にある山だけに、そんなに大きな山ではない。
山は新緑の木々に覆われて、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
遠くには川の流れるせせらぎの音も聞こえてくる。
自然に囲まれたいい島だ。
私はこの島の穏やかな雰囲気に、心癒されていた。
「ルクス族は自分達より魔法に詳しい種族はいないって言ってたけど、そのクロノス族ってのはそんなに凄いんですか?」
登山の途中でリガンがユウナさんに聞いた。
「魔法全般での知識や実用、応用に関してはルクス族に勝る種族はいないでしょうね。
それにクロノス族は時魔法には詳しいけど、それ以外の魔法知識は乏しいし、戦闘能力もほとんどない種族だからね。
何より今は数が少なすぎて、その存在を知ってる人もほとんどいないぐらいだから」
「時魔法ってことは、時間を戻したり、止めたりできるのかな?」
リガンが目をキラキラと輝かせている。
「それは会って直接聞いてみるといいわ」
しばらく歩くと、小さな木製の小屋が何軒か見えてきた。
小屋の近くには、リガンほどの背丈をした人達が何人かいた。
みんなローブを纏っていて、大きな三角帽子を被っている。
私達はクロノス族の族長の家を訪ねた。
以前にユウナさんが来たこともあるということで、すんなりと族長に会わせてくれた。
族長も見た目は他のクロノス族となんら変わりないように見えた。
違うのは被っている三角帽子が他の人より大きいということぐらいだ。
ユウナさんはまずは簡単な挨拶と、研究の成果が報われたことなどを報告し、しばらくは雑談が続いた。
「ところで、今日お伺いしたのはレイリオ様に教えていただきたいことがあったからなんです。
亜空間ゲートでもし異世界へのゲートを開いたとしたら、行き着く先の異世界の時間はこちらで指定することは可能なんでしょうか?」
ユウナさんが質問をした。
「亜空間ゲートのことはようわからんが、時空間ゲートなら指定した時に行くことは可能じゃよ」
「本当ですか?!」
「うむ。
それもとても簡単にじゃ。
特定の時間に行く方法は2つ。
1つは異世界から召喚されること。
当然召喚魔法じゃから、その召喚魔法が使われた時代に行く。
じゃから、元の世界の誰かが召喚してくれれば、その召喚された時間に行き着く。
もう1つの方法は行き先の異世界にしかない素材で作られた、行きたい時代の物を何か持っておればよい」
「それはどういうことですか?」
ユウナさんが尋ねた。
「服でもアクセサリーでもなんでもよい。
行く先の異世界にしかない素材の物を身につけておれば、その物が元あった場所に戻ろうと、あった時代に行くようになっておる。
時は矛盾を無くそうとする力の働きがあってな。
その時代に存在したものは、極力そこに戻そうという働きをするのじゃ。
だからお主らがこっちの世界に来た時に持っていた特殊な物が何かあれば、それが元の時代にナビゲートしてくれる。
恐らくはお主らが元の世界から消えた直後の時間に戻るじゃろうな。
それがなければランダムにどこかの時代に飛ばされてしまうじゃろ」
「そうか。魔族の先祖は何もうちらの世界の物を持ってなかったから、時間の指定が出来ずに大昔に転移してしまったのか。
ってことはうちらはこのまま、元の世界に戻るゲートさえ開ければ、マオとの最終決戦をしてた時間に戻れるのか!?
よかった!こっちと同じだけの時間が流れてて、数ヶ月経った世界に戻ったらどうしようかと思ってた!
俺とマオがいなくなったことで、人間と魔族の争いが悪化してると思ってたから」
ジークの表情が明るくなった。
自分の世界のことを本当に心配していたのだろう。
ふざけていてもやっぱり勇者なんだな。
「待て!ジーク!喜ぶのは早いぞ」
マオさんが喜ぶジークを制止した。
「なんだ?」
「お前……何か持ってるか??
うちらの世界のもの」
「………あっ!!
そういえば。服はボロボロだったから、トワイザランで新しい服もらったし、アイテムは元々何も持ってないし、アクセサリーとか何も着けてない!
マオちゃんは?」
「…私もだ……」
「おい!!どーすんだよ!
お前一応女なんだし、魔族の王だったんだから高級アクセサリーの1つぐらい身に付けろよ!」
「私のせいにするのか!!それに一応女とはどういうことだ!!
一応じゃなくて正真正銘の女だ!」
マオさんがジークを殴った。
せっかくの喜びムードが一瞬で消えてしまった。
「僕とクリスが着けてる呪いの腕輪は?」
リガンが言った。
「実はそれはトワイザランの道具屋で格安で買ったものなんだ…」
みんなすっかり静まり返ってしまった。
「あの…」
「なんだ?クリス?」
「お2人が失くされた剣はこの世界のどこかにあるのでは??」
2人がいつも言っている、勇者と魔王専用の武器。確か、覇王剣と魔王剣と言っていた。
「それだ!!」
ジークとマオさんの声がハモった。
「でかしたぞクリス!」
ジークの表情が再び明るくなった。
「でもまだ問題は山積みだぞ。
異世界転移の方法もまだ分かってないし、どこにあるかもわからないジーク達の剣も探さなきゃいけないなんて」
ユウナさんが喜びに水を差すような一言を発した。
「まぁ、そこはのんびり探そう!
こっちでどれだけ時間が経っても、マオとの最終決戦の時間に戻れるってわかったから焦る必要はなくなった」
ジークは軽くウィンクをした。




