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これは『勇者』と『魔王』の物語  作者: 東の雲
ジャカン編

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勇者VSゼノドラグス

 ドガァーーン!!


 トシキは凄まじい勢いで吹き飛ばされ、ションさん達の近くの地面に叩きつけられた。背中から衝撃が突き抜け、肺の空気が一気に押し出される。砕けた石畳の破片がぱらぱらと降り注いだ。


 先ほどから刺青の男と1人で戦っているが、全く歯が立たない…。


 私は攻撃魔法は使えず、刀による接近戦のみで戦っている。


 刺青の男は様々な魔法を駆使してくるが、それさえ避け切り、接近戦に持ち込めば勝てると踏んでいた。


 氷の礫が頬を裂き、火炎が肩を焼く。何発かの魔法攻撃をくらいつつも、歯を食いしばって何とか接近戦の間合いに持ち込んだのだが、剣術勝負でも相手の方が一枚上手だった。


 刃と刃が噛み合うたびに火花が散り、手首にしびれるような衝撃が走る。受けきれない。いなしきれない。一合ごとに、確実に押し込まれていく。


 まさかゼノドラグスというのがこれ程の強さとは…


 魔法で吹き飛ばされようと、剣での攻撃を受けようと、私は何度も立ち上がり刺青のゼノドラグスに立ち向かった。血が目に入り、視界が赤く滲んでも、刀だけは決して手放さなかった。


 こいつに勝つには、もうあの技しかない。


 刺青の男に向かって突進し、間合いを詰めながら、私は刀を鞘に納める。


 ふぅーっと息を吐き、刀の柄を持つ右手と鞘を持つ左手に全神経を集中させた。


 周囲の轟音が遠のいていく。

 自分の心臓の鼓動と、鞘の中の刃の気配だけが、世界のすべてになった。


 今の自分が繰り出せる最高の居合切りを放つために。


 刺青の男は右手を前に出し、氷魔法と火炎魔法の球を何発も放った。

 氷弾と火球が交錯しながら、雨のように私へ降り注ぐ。


 私は足を止めない。

 紙一重で身体をひねり、頭をかすめる冷気と、背中を炙る熱気の間を、一本の糸を通すように駆け抜けた。そして刺青の男との間合いを更に詰めていった。


「いまだ!」


 私は刺青の男を居合切りの間合いに捉えた。


「くらえ!!!斬後無刀」


 シュピーーィン


 鋭く繊細な金属音が、戦場の喧騒を貫いて鳴り響く。


 私はフッと軽く微笑んだ。


 今までに何百万、何千万回も刀を振ってきた。

 その中でも今の斬後無刀は間違いなく最高かつ最速の一閃だ。


 それだけの一撃を放てたのに……躱された!


 そう。

 刺青の男は私の抜刀の瞬間に身を引き、神速の一閃を紙一重で躱していた。切っ先が男の胸元の衣をかすめ、はらりと布の切れ端が宙に舞う。ただそれだけだった。


 その刺青の男の身のこなしの見事さに、私は思わず軽く微笑んでいたのだ。


 だが次の瞬間、笑みは凍りつく。


 刀を振り切り、無防備な状態の私に向かい、刺青の男は強烈な火球を投げつけた。


 火球は私の体に触れると同時に大爆発を起こした。


 ドオオォォォォン!!


「ぐはぁーーっっ」


 灼熱の爆風が私を呑み込み、私の体は地面に何度も打ち付けられながら、ボールのように転がり吹き飛んでいった。


「ぐっ…」


 全身が軋み、皮膚が焼けるように痛む。かなりのダメージを受けたが、意識は何とか保てていた。


 立たねば…。

 私がこいつらを倒せなければ、きっと誰もこいつらには勝てない。


 せっかく救出したションさんは、また連れて行かれる。


 私は全身の切り傷と火傷の痛みに耐えながら、震える腕で地面を押し、起き上がろうとする。


「ジーク。これ以上は無理よ!もう替わりなさい!!」


 声の方を振り向くと、先程まで女のゼノドラグスと戦っていた女性が、そう言っていた。


 あの人がここにいるということは……

 まさか……あの女性…

 ゼノドラグスを倒したというのか?


 私はジークさんとマオさんの強さを知らなかった。


 クリスさんやリガンさんが一緒に戦ってくれ、その2人の実力を見て、ジークさんとマオさんもその程度の実力なのだろうと思っていた。


 それ故にマオさんがゼノドラグスの1人を倒せるとは、思ってもみなかったのである。


 この人達は一体……


「えぇー。めんどくさいからマオちゃんがまた戦ってよぉ。」


「私にこれ以上戦わせるつもりなの!?

 信じられない!!

 たまにはちゃんと働きなさい!」


 パァン!と小気味よい音を立てて、マオさんがジークさんのお尻を強く叩いた。


「いてっ。……しょうがないなぁ。

 確かにこれ以上はおサムライさんも持たないだろうし」


 そう言うとジークさんは、倒れてる私の元へと歩いてきた。


「おサムライさん!悪いが選手交代だ。

 もし、あんたがもっと強くなりたいと思うなら、俺の戦い方をじっくり見てな」


 そう言うとジークさんは、ゆっくりと刺青の男の元へと歩いていった。

 この殺伐とした戦場には不釣り合いな、散歩でもするような足取りで。


「次は貴様か?」


 刺青の男が言った。


「みたいだね。本当はめんどくさいから戦いたくないんだけどね」


 ジークは後頭部で両手を組み、おどけたポーズを見せた。


「ふん!どうせすぐに終わるさ!!」


 刺青の男が地を蹴った。


 石畳が爆ぜ、土煙を残して男の姿が一瞬で間合いに飛び込む。そこから繰り出されたのは、激しい剣術での連撃。右、左、突き、袈裟斬り、目で追えないほどの斬撃の嵐だ。


 ジークさんはそれらの攻撃を全て剣で受け止めた。


 ガガガガガッ!と金属音が連なって響き、火花が散る。


 ジークさんは隙を突いて、剣撃と蹴りで反撃をするが、同様に刺青の男も回避している。風を切る音だけが、空振りの数だけ虚しく鳴った。


 ジークさんが後ろに下がり、一旦間合いを空けると、刺青の男はすぐに氷系魔法を放ち追撃をした。


 地面を凍らせながら迫る氷の波。

 ジークさんはすぐさま炎の魔法を繰り出し、炎の壁を作った。氷と炎が衝突し、白い水蒸気が爆発的に噴き上がる。


 凄い。


 私はあのラッシュを防ぐことが出来なかったのに、ジークさんは互角に渡り合っている。


「噂には聞いてたけど、やっぱり強いなぁ。

 ゼノドラグスってのはみんなこんなに強いのか?」


「その通りだ。しかし私も先ほどお前の仲間にやられたリーナも一般兵に過ぎん。

 我らが王と、本物のゼノドラグスの選ばれし戦士達は、私達など足元に及ばぬ程の強さを持っているぞ」


「あぁー。嫌なこと聞いたなぁ。

 ゼノドラグスってのはどれぐらいいるんだ?」


「貴様は我らのことを何も知らんのだな」


「まぁ、異世界から来たからね。

 この世界のことはあんまり分からないんだ」


「ほぅ。あのハイエルフ同様に異世界から迷い込んできたのか」


「そういうこと。まぁ、マオちゃんがハイエルフって種族なのかは知らないけどな」


「ならば教えてやろう。

 我らは700人程の種族だ」


「げっ。そんなにいるのか。

 せいぜい100人ぐらいだったら何とかなると思ったのに…。」


「なんとかなる……だと?

 我々を舐めるなよ!」


 刺青の男は怒り、両手に魔力を溜め、その魔力を剣に伝えてゆく。


 剣は青白き光を発している。刀身から溢れた魔力が冷気を帯びて渦を巻き、周囲の空気が軋んだ。


 刺青の男はジークさんに突進し、再び連撃を繰り出した。


 ジークさんも先ほどと同じように、剣で嵐のような剣撃を受け止める。


 だが、先ほどとは衝撃の重さが違う。受けるたびに地面が陥没し、ジークさんの足元に亀裂が走った。


「なかなかの攻撃力だな。

 お前の武器も神獣の素材で出来てるのか?」


「その通りだ。

 しかも神獣素材に加え、我々ゼノドラグスが武器を作り出せば、高伝導、高増幅の武具を作るなど容易い。

 我ら種族全員が、魔法伝導、魔法増幅共に80%を超える武器を持っているのだ」


「そいつはキツイな。

 早いとこ元の世界に逃げ帰りたいわ。

 そういえば、お前らそれだけの魔力と神のような知識があるっていうんだったら、俺達を元の世界に戻す方法とか知らないか?」


「異世界転移魔法か。

 確かに我らゼノドラグスなら可能だろうが、私達がそんな親切そうに見えるか?」


「見えねぇな。なら力ずくで聞き出してやる!」


 今度はジークさんが剣を構え、先制を仕掛けた。


 踏み込みの一歩で地面が砕ける。最初に斬りかかるがそれを躱されると、すぐに態勢を立て直し、鋭い蹴りを繰り出す。


 それを避けられてもまたすぐに剣での攻撃を繰り出す。相手がそれを嫌がり間合いを空けようとすれば、その退路を塞ぐように魔法が炸裂した。


 相手に息つく暇も与えない体技と剣技と魔法の複合だ。斬撃、蹴撃、爆炎が途切れることなく連なり、まるで一つの巨大な生き物のように刺青の男へ襲いかかる。


「くっ!貴様!

 この戦い方、誰に教わったものだ!?」


 刺青の男の表情からは余裕が消えた。


「これは完全に自己流だよ。

 俺は誰からも戦いを教わったことがないもんでね」


「そんな馬鹿な!

 これ程の戦闘技術を…

 しかも、この戦い方、どこかで体験したことが…」


 ジークさんの攻撃のスピードが増していく。


 2人の戦いは激しく、肉体がぶつかる衝撃音、魔法の爆音、剣がぶつかり合う金属音が瞬間瞬間で無数に鳴り響く。


 衝撃波が走るたびに廃屋の壁が砕け、屋根が吹き飛び、瓦礫が宙を舞った。廃屋は跡形もなく消し飛び、2人の戦いは工場跡地一帯を使った戦いに発展していた。


 超速で動く2人の戦いは、目で追うのが精一杯だ。


 いや。刺青の男の動きは何とか見えるが、ジークさんの動きは速すぎて時折見失う。


 なんてスピードだ。

 私はクリスさんとリガンさんの方に目を向けた。


 この2人はジークさんと刺青の男の動きを全く見えていない。衝突する音がした後に、その方向に目を向けていた。だがその時にはもう、音の主たちは別の場所へ移っている。


 これだけの超スピードだ。

 目で追いきれなくても仕方ない。


 私は目をジークさん達の戦いに戻す。

 今はこの戦いを目に焼き付けねば。


 刺青の男も時折反撃を試みるが、ジークさんはそれをことごとく躱す。


 刺青の男の攻撃後の隙を突いて、剣撃を放つがそれを避けられる。

 が、避けた先に鋭い魔法のビームが飛んでくる。


 刺青の男は間一髪でしゃがんでそれを躱すが、その動きを読んでいたジークさんは、しゃがんだ刺青の男に強烈なローキックをかました。


 ドゴッ!


 骨に響く鈍い音とともに、刺青の男の体勢が大きく崩れる。


「おサムライさん。

 アレが、ジークがじっくり見ろって言ってた答えよ」


 マオさんが私に言った。


「あなたはかなり強いわ。

 だけどあなたの戦い方は剣技にのみ特化している。

 それだけの魔力を全て刀の威力とスピード強化にのみ使っている。

 いくら速くて強くても単調だから避けるのは容易い。

 ジークのように体技や魔法などで相手を撹乱してこそ、相手は次の攻撃を絞れなくなる。

 だから、その迷いで反応が一瞬遅れる」


 マオさんの言うことはその通りかもしれない。


 現に私の居合よりもスピードが多少劣るジークさんの攻撃の方が、遥かに当たっている。


「あなたの居合は既に神速の域よ。

 あの戦い方を覚えたら、あなたの居合を躱せる人はほとんどいないでしょうね」


 マオさんはニコリと笑った。


 そうだったのか。

 私は今まで剣術を極めることにのみ専念してきた。


 だが、ここから先の領域は、極めた力を活かすためにどうするのかを考えていかなければならないのか。


 私はこれからの自分を高めるためにも、ジークさんの戦い方を刮目した。


 ジークさんの連続攻撃は、どんどん刺青の男を追い詰めてゆく。


 刺青の男の表情には余裕はなくなっていた。


「くっ。馬鹿な!身体能力でも魔力でも我らを超えているなど。そんなことあるはずがない…!」


 刺青の男は少しの間合いを空けると、両手に魔力を集中した。


 大気が凍てつき、男の周囲に霜が走る。吐く息は白く染まり、地面が音を立てて氷に覆われていった。


「くらえ!バルーガ!!」


 刺青の男が放った魔法は、周りの大気を凍らせながらジークさんへ突き進んでゆく。通り道にあるものすべてが白く凍りつき、轟音とともに地面を削っていった。


「アレは氷の極大魔法!!?

 なんて奴だ!こんな短時間の溜めで出せるのか!!マズい!」


 ジークさんは咄嗟に魔法壁を繰り出すが、極大魔法はジークさんの魔法壁にぶつかると、大爆発を起こしジークさんを吹き飛ばした。


 ドオォォォォォン!!


 凍てつく爆風と砕けた氷の破片が四方に吹き荒れ、私は思わず腕で顔を庇う。

 ジークさんの体は宙を舞い、建物の壁に激突した。壁が蜘蛛の巣状にひび割れ、崩れ落ちる。


「ぐわぁ。」


 ジークさんは爆発と衝突で多少ダメージをくらっているが、立ち上がった。


「なんて奴だ。あの一瞬で魔法壁を作って被害を最小限に抑えやがった………ん?」


 刺青の男は何かに気が付いたような表情をした。


「き…貴様!その胸のアザは…!?」


 ジークさんは爆発の衝撃で上半身の服がボロボロになっていた。


 その左胸の破けた部分から、紋章にも見えるアザが覗いていた。


 そのアザを見て、ゼノドラグスの男は小刻みに震えていた。


「貴様っ!!!!そのアザ……。まさかファルファーの末裔かっ!!」


「あぁ?ファルファー?誰だそれ?」


 ファルファーとはこの世界に伝わる、世界で一番有名な『裏切りの騎士』の名だ。


「そうか……貴様の戦い方、どこかで体験したことがあると思ったら、1200年前のファルファーと同じ戦い方だからか!!」


 刺青の男は追撃をやめ、しばらく考え込んだ。


「絶滅したはずのハイエルフ族とファルファーの末裔か……」


 ぶつぶつと呟いている。


「流石に分が悪いな……。

 お前らを始末するのは今日はやめだ!!

 次にあった時は覚えてろよ」


 ゼノドラグスの男はそう言うと、背中に魔法の翼を大きく広げ、爆風のような羽ばたきとともに空を飛び逃げていった。


「おい!待てっ!

 まるで俺達が見逃されたみたいじゃないか!

 お前の方が負けてたくせに、かっこつけた台詞吐いて逃げてんじゃねーー!」


 ジークが去り行くゼノドラグスに叫ぶが、ゼノドラグスはそのまま空へと消えていった。


「くそっ。まぁ追うのもめんどくさいし、ションさんも助かったからいいか」


 ジークさんは剣を鞘に納めると、ゆっくり私の元へ歩いて来た。


「どうだお侍さん?

わざと見えるスピードで戦ったから、少しは分かっただろ?」


 えっ!

 わざと手を抜いていたっていうのか?!


 ということは本気になったらまだスピードが上がるというのか!?


 あれでも一部見切れない動きがあったというのに……


 私はジークさんの底の見えない強さに、驚愕するしかなかった。


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