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これは『勇者』と『魔王』の物語  作者: 東の雲
ジャカン編

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トシキの実力

 リガンとクリスは、相変わらず防戦に徹していた。


 こいつら、強い。


 悔しいけど、僕らじゃまだ勝てない……。

 けど……それは1人なら、の話だ。


 僕はクリスとユウナさんに、目で合図を送った。

 相手の攻撃を槍で受けながら、少しずつ、クリスの元へ近づいていく。


 こいつらは確かに強いけど、マオさん程のスピードはない。集中すれば、攻撃を防ぐことは出来る。

 でも、攻撃に転じる余裕がない。

 となれば――。


 僕は、自分が相手をしていた巨漢に、突然背を向けた。


 足を削られて膝をついていた巨漢の目が、一瞬、驚きに見開かれる。

 僕はそのまま床を蹴り、クリスと斬り結んでいるマンティオ族の男へ、捨て身で突っ込んだ。


「はぁーー!」


 背を向けた僕に、巨漢が大斧を振りかぶる。


 その時、一筋のビームが飛び込んできて、巨漢の胸を撃ち抜いた。


 ユウナさんの銃だ。


 巨漢は、斧を握ったまま、前のめりに倒れた。


 虚を突かれたマンティオ族の男は、一瞬、反応が遅れた。


 それでも、僕の槍は、左の鎌で受け止められた。


 ギィン!という硬い音と共に、腕に衝撃が走る。


 でも、それでいい。

 僕の役目は、敵の注意を引きつけることだ。


 敵が僕の攻撃を受け止めた後の一瞬の心の緩みを、クリスは見逃さなかった。


 僕の背後から、クリスが高く跳び上がる。

 僕の頭上を越え、剣を振りかぶり――


「はぁぁっ!」


 袈裟斬りが、マンティオ族の男の肩口から脇腹まで、一直線に走った。

 男は、驚いたように目を見開いたまま、膝から崩れ落ちた。


「ありがとう!リガン!

 マオさんとの修行のコンビネーションが役に立ったな!」


「うん!まぁ、ユウナさんの援護があってこそだけどね!」


「敵はまだまだいる。安心は出来ないぞ!」


 もう一度、戦闘態勢を取ると、奥の方からジークさんの声が聞こえた。


「とりあえずこれで人質を取られる心配はなくなったね!

 おい!そこのサムライ!

 ションさんは助けたからもう手を抜かなくて大丈夫だぞ!」


 見ると、ジークさんがいつの間にか、ションさんを助け出していた。


 その声がしたあと、サムライのトシキさんは刀を鞘に納め、僕たちの方を向いた。


「君たち、援護をしてくれてありがとう。

 あとは私1人で大丈夫だ。

 少し離れててもらってもいいかな?」


「でも敵はまだこんなに!」


「お願いだ。私1人でなんとかできる」


 トシキさんは余裕の笑みを浮かべていた。

 僕とクリスは頷き、トシキさんの元を離れた。


「人質さえいなくなればこっちのものだ」


 残りの8人の敵が、一斉にトシキさんに襲いかかった。


 大斧、鎌、槍、尾。

 四方八方から、一斉に刃が迫る。

 逃げ場はない。

 僕は、思わず息を止めた。


 だが、トシキさんは、その場から動かなかった。

 刀の柄に静かに手をかけ、わずかに腰を落とす。

 廃屋の空気が、ぴんと張り詰めた。


「居合『斬後無刀(ざんごむとう)』」


 キンっ。


 鋭い金属音だけが、廃屋に響いた。

 でも、僕には、何の音なのか分からなかった。


 トシキさんの手は、柄に添えられたまま、さっきと寸分違わず、動いていない。

 刀も、ずっと鞘に納められたままだ。


 しかし、襲いかかった敵は、全員、時が止まったかのように、その場で動きを止めた。


 大斧は振り下ろされる途中で止まり、鎌はトシキさんの首筋の手前で震えている。

 8人は、何が起きたのか分からないという顔で、固まっていた。


 しばらくの後、全員が一斉に血を吹き出し、倒れた。


 ドサドサッ、と、重い音が連なる。

 遅れて、トシキさんの羽織の袖だけが、ひらりと揺れた。


 いつの間に斬ったんだ!?

 ずっと見ていたはずなのに、トシキさんの攻撃の所作が、微塵も見えなかった。


 クリスの顔を見ると、同じく目を丸くして驚いていた。


「リガン…見えたか?」


「ううん。まったく。あの金属音がきっと、刀を抜いた音だったんだよね?」


「たぶんな…。俺も全く見えなかったから、予測でしかないけど…」


 トシキさんは敵を斬ると、そのままジークさんとションさんの元に向かった。

 僕とクリス、ユウナさんも同じく、そこに集合した。


「みなさん、援護ありがとうございます。

とても助かりました」


 トシキさんが頭を軽く下げた。


 ションさんも、みんなに感謝の言葉を言い、同じく頭をペコリと下げた。


「まさかユウナくんまで、ワシを助けに来てくれるとは…」


 ションさんは、感動からか、目をうるうるさせている。


「あんたには帰ってから聞きたいことが山程あるんだよ!」


 ユウナさんは、ツンとした態度を取っているが、恥ずかしいのか、ションさんと目を合わせないでいる。


「ジークさん、一体どこに行ってたんですか?」


 クリスがジークさんに聞いた。


「ションさんを助けるために、裏手から忍び込んでたんだ。

先にションさんを助けておかないと、うちらが攻勢に出たときに、人質に取られかねないからな。

現にそこのサムライも、それを恐れて、あんなザコにも手を抜いて戦ってたからな。

お前達が暴れまわってくれたから、随分と楽に救出できたぞ。ははははは」


 ザコ……。


 僕たちがそのザコにどれだけ苦戦したと思ってるんだ…。


「そこまで見抜かれて行動されていたとは、貴殿はかなりの策士とお見受けします」


 トシキさんが、ジークさんの手を両手でギュッと握った。


「でも安心するのは早いぞ。まだメインディッシュが残ってるからな」


 ジークさんはそう言うと、ゼノドラグスの方を向いた。


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