バトル開始!
私達は、会場から飛び出したユウナさんに追いついた。
「なぁ、ユウナ。
飛び出してきたはいいけど、どうやってションさんとゼノドラグスを探すんだ?」
緊張感のかけらもないトーンでジークが聞いた。
「ふん。それぐらい簡単さ。
相手はゼノドラグスなんだろ??
私が以前に開発した魔力感知器を使えば、10キロ以内の強力な魔力を持ってる者がどこにいるか探ることができる。
あの秘書が私に助けを求めたのも、私がこの装置を持ってるのを知ってたからだ。
これは3年前のコンテストで私が発表したものだからな。」
「ほー!それは凄いな!強さが分かるのか?」
「いや。強さはわからない。
だがある一定以上の魔力を持った者にだけ反応するようにできてる。
その魔力感知機能をマックスに設定すれば…
この10キロ以内での反応は5つだな。
2つはお前達……って、お前らどんだけ強いんだよ!!
感知機能のマックスは相当な魔力量にしか反応しないんだぞ!!?」
「だから言っただろ?世界を救う勇者と世界を脅かしてた魔王だって」
ジークはケラケラと笑いながら言った。
「まぁいい。
あとの3つは…1つの反応は移動してて、2つは止まっている。
恐らく移動している方は、サムライ集団『聖天衆』の局長『トシキ』のものだろう」
トシキ…。
恐らく昨日の夜の戦いで、1人だけずば抜けて強かった人だろう。
「トシキの魔力反応も、この2つの止まってる反応に向かってる。
どっちにせよ、ここに行けばション会長とゼノドラグスがいるはずだ」
反応があった場所にたどり着いた。
そこは東都のはずれにある、巨大な廃屋だった。
辺り一帯は巨大な工場跡地となっていて、ここ数百メートル内で人は1人も見かけなかった。
ガキィーン
廃屋の中から、武器がぶつかるような金属音が聞こえる。
恐らくトシキさんが戦い始めているのだろう。
ついにゼノドラグスと相見える時がきたのか。
私達4人は、マオさんを先頭に建物の中に入っていった。
……
4人??
今はユウナさんも一緒にいるはずだよな。
マオさん、リガン、ユウナさん、私……
ジークがいない!!!
あの人はこの非常事態にどこに行ったんだ!!?
かっこよくコンテスト会場を出てきたのに、また、めんどくさくなったのか??
とはいえ、もう建物に足を踏み込んでしまった。今更ジークを探している暇なんてなかった。
薄暗い廃屋の中は、天井の高い、がらんとした空間だった。
錆びついた鉄骨がむき出しになり、割れた窓から差し込む光が、床に積もった埃を白く照らしている。
その広い空間の中央で、トシキさんが、敵の集団10人と1人で戦っていた。
敵は、種族もまちまちだった。
大斧を担いだ、岩のような巨漢。
両腕に大きな鎌を持つ、カマキリのような姿のマンティオ族。
槍や太い尾を操る、鱗に覆われたリザルド族。
それらが、円を描くようにトシキさんを取り囲んでいる。
「死ねぇぇ!」
巨漢が、トシキさんの頭上に大斧を振り下ろした。
トシキさんは、半歩だけ体をずらした。
羽織の袖を、風圧がはためかせ、斧は床を砕いて深くめり込む。
その一瞬を狙って、背後からマンティオ族の鎌が、首筋に閃いた。
トシキさんは、振り返りもしない。
刀を逆手に持ち替え、背中越しに鎌を受け止める。
キィン、と、澄んだ音が響いた。
休む間もなく、足元をリザルド族の太い尾がなぎ払い、頭上からは、別のリザルド族の槍が突き出される。
上下からの同時攻撃。
トシキさんは床を軽く蹴り、尾を飛び越え、宙で刀を返して、槍の穂先を外へ逸らした。
逸らされた槍は、すぐ隣にいたリザルド族の肩を、深々と貫いた。
「ギャッ!?」
同士討ち。
トシキさんは、敵の攻撃を捌くだけで、敵の数を減らしている。
着地した後も、トシキさんは足を止めない。
流れるような足さばきで、円の中を滑るように動き、常に敵と敵が重なる位置に立ち続けている。
10人が同時に襲いかかれないように、位置取りだけで封じているのだ。
敵の猛攻を全て躱したり、刀で受けて直撃は避けているが、10人相手では攻撃に転ずる余裕はなく、トシキさんは防戦一方になっていた。
とはいえ、敵も1人1人が、ライラさん程ではないが、ハヨネイ兄弟クラスの強さを持っているように見えた。
そんな手練れを10人も同時に相手にしていて、1撃も食らっていない。
この人も間違いなく、超人的な強さを持った1人なんだと思った。
その戦いの奥には、ション会長と2人の男女がいた。
1人は左頬に刺青のある男。
もう1人は、エナメル生地のような服を着た、見るからにサドっぽい女。
どちらも片方だけ金色の瞳をしている。
「あいつら…」
リガンもその2人の特徴に気づいたようだ。
「あぁ、ルクスのエンヤ爺が言ってたゼノドラグスの特徴と同じだな」
マオさんが言った。
「とりあえずはション会長の救出が優先だ!お前達はサムライの援護をしろ!
ゼノドラグスとやらは私が相手する!」
マオさんが私とリガンに指示を出した。
マオさんは、ゼノドラグスの2人のほうへ、静かに歩みを進めていった。
私とリガンとユウナさんは、トシキさんの元に駆けつけた。
「加勢します!」
「ありがたい!詳しく自己紹介したいところだが、とりあえずはこいつらを倒してからだ!」
私達が戦いに加わってみて、改めてトシキさんの凄さを感じた。
想像以上に敵は強い。
1人相手でも、攻撃を避けるのが精一杯で、こちらから攻撃する余裕などない。
私の相手は、両腕に鎌を持つマンティオ族の男だった。
左右の鎌が、まるで別の生き物のように、交互に襲いかかる。
上から、横から、足元から。
剣で受け止めるたびに、腕が痺れた。
「くっ……!」
ギィン!
受け止めた鎌ごと、体が後ろに押される。
その隙に、もう一方の鎌が、私の脇腹を狙って閃いた。
背中に、あの感覚が走る。
目で見るより先に、攻撃の軌道が、肌で分かった。
私は体をひねり、紙一重で鎌をかわした。
毎日、目隠しでマオさんの魔法を当て続けてきた成果だ。
「ほう、避けたか!」
マンティオ族の男が、細い目を、さらに細めた。
隣では、リガンが、巨漢の大斧を相手にしていた。
小柄なリガンの頭上を、丸太のような斧が、唸りを上げて通り過ぎる。
リガンは、斧が床を砕く瞬間に、その腕の下をくぐり抜け、巨漢の脛を槍で突いた。
「いてぇっ!」
巨漢が膝を折る。
リガンはすぐに間合いを外し、また懐へ飛び込む。
ヒットアンドアウェイを繰り返し、巨漢の足を、少しずつ削ってゆく。
小さな体が、巨漢の周りを、子犬のように跳ね回っていた。
ユウナさんは二丁の魔法銃を取り出し、中距離から援護してくれている。
パパパパパッ!
青白い光弾が連続して宙を走り、魔法を放とうとした敵の杖を、正確に撃ち抜いてゆく。
敵が遠距離から魔法で私やリガンを狙っても、全てユウナさんが銃で撃ち落としてくれるから、私達は目の前の相手に集中することが出来た。
その間も、トシキさんは、1人で残る敵の攻撃を受け続けていた。
いや、受けているというより、舞っている。
刀の閃きに合わせて、羽織の袖がひらりと揺れ、敵の攻撃が、そのたびに外れてゆく。
トシキさんの刀は、一度も敵の武器と真正面からぶつからない。
刃の腹で逸らし、柄で受け流し、力を殺す。
その無駄のなさに、私は戦いの最中だというのに、目を奪われた。
時折放つ返しの一太刀も、魔力で強化された敵の体には、浅い傷しか与えられない。
トシキさんは、私達が加わって多少は負担が減ったが、依然として防戦一方だった。




