サムライ
翌朝。
私達はさっそく、ユウナさんが分解した部品を持って、東都に向かうことにした。
パーツの量は非常に多く、全員で分担しても、かなりの大きさと重さだ。
本当にこれだけの量を5日で、どうやって運ぶつもりだったんだろうか?
ジークは、自分で引き受けておきながら、一番軽くて小さなパーツしか持っていなかった。
「ねぇ。ジーク。
なんであんたはそんな軽くて小さな物しか持ってないのかしら?」
マオさんが聞いた。
「何を言ってるんだマオちゃん!
全員がそんな大荷物を抱えている時に、凶悪なモンスターとかゼノドラグスに襲われたらどうするんだ?!
誰か1人はなんかあった時のためにすぐ戦闘態勢が取れないとダメだろ!」
こういう時のジークの言い訳は天下一品だ。
「だったら、その戦闘態勢を取るのは私でもいいんじゃなくて?
確かあんたは、女性には優しいんでしょ?」
「うっ……それはですね…」
ジークの額に汗が滲む。
今回はマオさんが一枚上手だった。
結局ジークはマオさんと荷物を交換する羽目になった。
コンテストの前日に東都に着き、私達は近くの旅館に宿を取って泊まることにした。
ユウナさんは明日のコンテストに向けてパーツを組み立て直さなければいけないので、今日は会場で徹夜をするらしい。
その日の深夜に、ある事件が起こった。
「きゃーっ!!」
「怪物だ!逃げろーっ!」
街中から悲鳴が聞こえてきた。
慌てて外に出てみると、東都の夜空は、赤く染まっていた。
大通りの向こうから、地響きと共に、怪物の群れが押し寄せてくる。
先頭を走るのは、象ほどもある巨大な猪だった。
鋼のような灰色の剛毛に覆われ、二本の牙は、槍のように長く鋭い。
石畳を砕きながら突進し、露店も、荷馬車も、紙屑のように吹き飛ばしていく。
その背には、小柄な緑色の肌をした獣使いが乗り、角笛を吹き鳴らして、猪を操っていた。
屋根の上を、黒い影が駆けている。
狼の頭を持つ獣人達だ。
見上げれば、夜空には翼を広げた鳥人の戦士達が舞っていた。
その他にも様々な種族が入り混じり、東都に襲いかかってきた。
こんなことをするのはゼノドラグスしかいない。
私は慌てて旅館の中に戻った。
「ジークさん、マオさん、リガン!
またゼノドラグスの手下の襲撃です!早く起きてください!」
服を着替え、戦闘の支度を整えて、再び外に出ると、既に街中では、ジャカンの戦士達が敵と戦いを始めていた。
ジャカンの騎士団はサムライと呼ばれており、全員が着物の上に羽織をまとい、刀という変わった剣を使って戦っている。
サムライは30人程しかいないが、全員がかなりの手練れで、トワイザランの土の騎士団団長のレビンと同じぐらいの実力を持っているように見えた。
私達も加勢しようと前に出たが、ジークに腕を掴まれた。
「待てクリス。ここは地元の連中に任せよう。他所者が割り込んで、連携を乱したら悪いしな」
「ですが……」
「やばくなったら、俺とマオちゃんが出る。それまで見てな」
ジークは珍しく真面目な顔で、戦場を見つめていた。
最初に衝突したのは、屋根の上から降りてきた獣人達だった。
狼の頭を持つ獣人が、目にも留まらぬ速さでサムライの懐に飛び込み、鋭い爪を振り下ろす。
だが、爪は空を切った。
そのサムライは、半歩だけ体をずらして爪をかわし、抜き放った刀を、逆手で返す。
刃が閃き、獣人の腕が、鮮血を散らして飛んだ。
「ぐあっ…!」
別の獣人が、仲間の後ろから回り込み、背後を取ろうとする。
しかし、その背後には、別のサムライが立っていた。
3人1組。
1人が正面で受け、1人が背後を守り、もう1人が隙を斬る。
動きに一切の無駄がなく、獣人の速さを、連携の精度で完全に上回っていた。
私の氷の騎士団と同じ戦い方だ。
いや、それ以上に洗練されている。
次に鳥人達が、翼をたたみ、一直線に急降下してきた。
鉤爪が、サムライ達の頭上に迫る。
パァン!パァン!
乾いた発砲音が、夜空に響いた。
M&Sの制服を着た科学技術者達が、ライフルのような長い筒を構えている。
その銃口から、青白い光の弾が、尾を引いて飛んだ。
弾は鳥人の翼を正確に撃ち抜き、当たった場所から、翼が凍りついてゆく。
「ギャアアッ!」
鳥人達が、悲鳴と共に、石畳へ墜落していった。
後でユウナさんが教えてくれたが、これは魔法銃と呼ばれる武器で、引き金を引くと、銃に込められた属性の魔法が、ビームや弾となって飛び出すらしい。
遠距離から狙い撃つライフル、連射の利く拳銃、そして、一撃の威力を極めたバズーカ。
科学者達は、それらを敵に合わせて使い分けていた。
敵の後方では、ローブ姿の魔術師達が、杖を掲げて詠唱を始めていた。
杖の先に、巨大な火球が膨れ上がってゆく。
パパパパパッ!
連射の利く拳銃を構えた科学者が、詠唱の最中の魔術師を、正確に撃ち抜いてゆく。
魔法の詠唱は長く、隙が大きい。
その隙を、引き金を引くだけの一瞬で、突いてみせた。
「魔法は詠唱の分だけ遅い。ここの連中は、それを機械で埋めたんだな」
ジークが、感心したように呟いた。
その時、地響きが、一段と激しくなった。
巨大な猪が、街の中央の広場に突っ込んできたのだ。
サムライ達が、数人がかりで刀を振るうが、灰色の剛毛が刃を弾き、傷一つつかない。
猪はそのまま、サムライ達を撥ね飛ばそうと、長い牙を低く構えた。
「いかん、下がれ!」
誰かが叫んだ時には、もう遅い。
猪の突進が、広場に並ぶサムライ達の目の前に迫り――
その前に、1人のサムライが、ゆっくりと進み出た。
さっきから、私の目を引いていたサムライだ。
他のサムライと同じ着物をまとっているのに、立ち姿だけが違う。
腰に差した刀に手を添えたまま、突進してくる猪を、静かに見つめている。
「危ない!」
思わず叫んだ。
猪の牙が、そのサムライに触れる寸前。
キィン。
澄んだ音が、夜に響いた。
次の瞬間、猪の動きが、ぴたりと止まった。
そして、巨体の中央に、1本の線が走り、左右にずれてゆく。
ズシン、と、二つに割れた巨体が、左右に倒れる。
背に乗っていた獣使いは、角笛を握りしめたまま、石畳に放り出され、サムライ達に取り押さえられた。
サムライは、いつの間にか刀を鞘に納めていた。
抜く動作も、斬る動作も、私には全く見えなかった。
そのサムライの動きは洗練されていて無駄がなく、美しい。
私はその剣技に、完全に見惚れていた。
敵の数はみるみる減り、やがて、生き残った者達は、街の外へと逃げ去っていった。
強い…!!
ジャカンの戦士達は、あっという間にゼノドラグスの手下を退け、私達は出る幕もなかった。
「おぉー!強いなぁ!
俺たちの出る幕がなくて楽でいいや!
どこかの人数だけに頼った王国とは大違いだ!」
ジークは皮肉交じりに言った。
「どうせトワイザランは数だけの国ですよ…」
もうジークとマオさんのトワイザランいじりにも、少し慣れてきた。
結局私達の出る幕はなく、その日の騒動は収まった。




