科学技術者ユウナ
M&Sのあった『タテハマ』という都市から100キロほど離れた山奥に、そのユウナという女性は住んでいるらしく、私達はそこに向かった。
ジャカンは都市の中心部は近未来を思わせる程の発展をしていたが、少し街から離れると、木造の家や農家、自然に溢れていた。
ションさんにもらった地図を頼りに山奥を探索していると、一軒の大きな山小屋を発見した。
ノックをすると、
「いま手が離せないから勝手に入ってきて」と声が聞こえた。その言葉通りに山小屋に入ると、黒髪の女性が大きな何かの装置の組み立てをしていた。
「あの…あなたがユウナさんでしょうか?」
代表して私が尋ねた。
「そうよ。私は『ムラサメ ユウナ』。あんたたち……だれ?」
女性は作業を続けながら、私達の方を向き、話しかけてきた。
大きなまん丸のメガネをしていて、前髪はぱっつん。汚れた作業着に身を包んでいるが、とても可愛らしい女性だ。
私達は軽く自己紹介をし、簡単にことの経緯を説明し、異世界への転移が可能かを聞いた。
「異世界転移ね。まぁ、理論上可能でしょうね」
作業を続けながら淡々とした口調でユウナさんは言った。
「本当か!!」
その言葉にマオさんが食いつく。
「理論上可能と言っただけで、私が出来るとは言ってないわ。あなた達が異世界からここに来たという事実がある以上は、可能だと思う。
それだけの話。
世の中に起こる事象は必ず魔法もしくは科学的な力で説明をすることができるから」
「そんな…。じゃあやっぱり元の世界には帰れないの…」
マオさんが落ち込む。
「ちゃんと研究すれば出来るかもしれないけど私は今、自分の研究が忙しくてあなた達に構ってる暇はないわ。
残念だけど他を当たってくれないかしら?」
その日は夜も遅いということもあり、ユウナさんは私達を家に泊めてくれることになった。
悪い人ではないようだ。
夕飯の時に話題はM&Sのションさんの話になった。
「私はね、あの男が許せないの。
私の父はションを上回る天才科学技術者だったわ。
今のM&Sで作られた電話や車などはションが発案したものだけど、それを研究して実現したのは私の父コウスケなの。
あの男はその成果を横取りして、父を会社から追い出した」
「それは酷いな。でも、ションっておっさんはそんな感じの人に見えなかったけどな」
ジークが返事をする。
「でも、事実よ。
その後、父はこの山小屋に私と移り住んだの。
父はあれだけの物を作り上げた技術者だったのに、ここに移り住んでからは子供の玩具のようなガラクタばかり作るようになった。
きっとM&Sを追い出されたショックで、もうまともな研究をする気力もなくなっていたの。
父はその失意の中で5年前に亡くなったわ。
だから私はションを、M&Sを許せない。
私がとてつもない発明をして、あの男達の鼻をへし折ってやるのよ」
ユウナさんは熱く語った。
「そんなことがあったのか。そういえば、さっき作ってたのは一体何なんだ?」
ジークが聞いた。
「あれは5日後に、この国の中心街の『東都』って街で、科学技術の発表コンテストがあるの!さっき私が作ってたのはそこで発表する装置よ!
このコンテストはジャカンが国をあげてやってるイベントで、今回で30回目を迎える国事ともいえる大きなイベントなの。
3年に1回開催されてるんだけど、M&Sが18年前に設立されてからの6回は全てM&Sの誰かがグランプリを取っているの。
今はM&Sの新作発表会みたいになってるのよ。
私はこの装置でグランプリを取って、M&Sのやつらをギャフンと言わせてやるの!」
ユウナさんの目がキラキラと輝いている。
「一体どんな装置なんだ?」
リガンが聞いた。
「ふふふ!これはね瞬間移動の装置よ!
この装置を2箇所に設置すれば、その装置間で物を一瞬で運べるの!
それが実現すれば、世界中どこにでも一瞬で行けるようになるの!
そうすれば食材なんかも新鮮なまま大量に運べるし、そういった物資の輸送中にモンスターや盗賊に襲われる心配もなくなる!
とはいってもまだ実験段階で10メートル程の瞬間移動しか実現してないんだけどね。」
それはすごい!!
実現したら、トワイザランなどにも一瞬で行けるようになるということか!
「それに使い方によっては悪用もされかねないから、これから安全装置やセキュリティーも考えないといけないからやる事が山積みなのよ。
もしこんなのがあったら、敵国に潜入し放題になっちゃうでしょ?
どんな物も使う人によっては、凶器となってしまうこともある。
私達はそのリスクのことも考え、対策を練って新しい物を考えていかないといけないの」
科学技術者というのはただ新しい物を作ればいいというだけではないんだな。
常に使う人のことを気遣わなければならない。
使う方も作ってくれた人の気持ちを考えて、正しい物の使い方をしていく努力をしなければならないんだな。
私はそう感じた。
「そうだ!あんた達どうせ暇なんでしょ?
この装置を東都まで運ぶの大変だから、手伝ってよ!
思ったより調整に時間がかかってしまって、1人で東都に運ぶには間に合わないからどうしようか悩んでた所なのよ」
「えぇー。めんどくさいからヤダ」
ジークが即答した。
「あらそう。残念ね。この装置は物を一瞬で運ぶ装置なの。その際には亜空間にゲートを作って物を転移させるのよ。
今はこの世界にしか物を運べないけどね。」
「何が言いたい?」
「さっきあなた達に他を当たってって断った後にふと思ったんだけど、その亜空間ゲートの活用に何かしらの応用を加えれば、あなた達を元の世界に戻せる役にたてるかもしれないなぁって。
手伝ってくれたら、私も多少は協力してあげてもいいんだけどなぁ。
私の研究からかけ離れてるものでもないし」
「本当か?!よし!引き受けてやる!
そのかわりそのコンテストが終わったら、俺たちを元の世界に戻せるか調べてみてくれよな!?」
「いいわ」
こうして私達は、ユウナさんと東都へ向かうことになった。




