魔王のドキドキ
マオは寝付けずに洞窟の外に出て、1人で巨大な岩の上に座って月を眺めていた。
今回の襲撃でゼノドラグスの手下達のリーダーをしていたアーブルグ族のライラという女戦士も一緒に洞窟に連れてきた。
元々ゼノドラグスの手下ではあったが、今回の件ではルクス族には誰にも手を出していないということもあり、パル達も納得し受け入れてくれた。
それでもまだ完全に信用はしきれないということで、最低限の拘束と、私達と同じテントで過ごすというのが条件だった。
「こんなとこで1人でなにやってんだ?」
背後からジークの声が聞こえた。
ジークは私の隣に座ると、同じように月を眺め始めた。
「少し自己嫌悪をしていてな」
「自己嫌悪??」
「あぁ。ライラによくあんなことが言えたな…ってな」
「なかなかの名演説だったぞ!魔王とは思えないぐらい正義の味方っぽいな」
ジークは茶化したようにケラケラ笑った。
「あの時にライラに言った言葉は私の本心だ。
だけど私はあんなに偉そうにライラに説教する資格なんかない」
「どうして?」
「私は一度自分の信念を曲げた…。
私には2つの信念があった。
1つは魔族をどんなことがあっても守り抜き、存続させるということ。
もう1つは、絶対に人間との共存を実現して、魔族も人間も笑いあえる世界を作ること。
だから私はずっと人間界への侵略は避け、和平の道を各国の王へと働きかけてた。
だけど私はその信念を曲げて、人間界へ侵略をしてしまった」
「でもそれはどうしようもなかったことなんだろ?
それだけ魔素の影響がひどくなってたから」
「あぁ。だけどもっと道はあったはずなんだ。
ジークのように和平を考えてくれる人間だっていたはず。
もっと根気よく色んな人達へと和平を働きかけることだってできたはずなんだ。……私は弱い。ジークに言われなければ、そのもう一つの信念は折れ続けたままだった。
誰かに支えてもらわなければ信念も貫けない弱い心しか持ってない。
なのに、ライラにはあんなに偉そうに言ってしまった」
「んー。別にいいんじゃないか?
一度は折れても、また持ち直してその信念を貫こうとしてることが大事なんだよ。
それにマオちゃんの言葉があれだけライラに響いたのも、一度信念が折れて立ち直ったマオちゃんの言葉だったからじゃないのか?」
なんでこの男はいつもダラけて、ふざけたような態度を取るのに、こんなに心に響く言葉を言うのだ。
何故こんなにも人の心を癒す言葉を投げかける。
ズルいぞ…。
なんだこの感覚は…
胸が…心臓が……締め付けられる。
自分の意思とは無関係に鼓動が速くなる。
なんだこれは!
なんかの魔法か??
「それに誰だって1人じゃ生きていけないもんさ。誰かに支えてもらうのは弱いことなんかじゃない。時には甘えたっていいんだ」
ジークの言葉に体が吸い寄せられていくような感覚を覚えた。
私の頭がゆっくり、ゆっくり、少しずつジークの胸へ吸い寄せられていく。
近づけば近づくほどに、胸の鼓動が高鳴っていくのがわかる。
けど、何故か嫌な気持ちはしない。
このままジークの胸に身を預けたら一体どうなるのだろう…?
見当もつかない。
でも今はこのままこの身をジークに預けてみたい。
そんな気持ちに駆られる。
「俺も1人じゃ生きていけないからな!
俺が毎日ダラダラするためには家事とかやってくれる人がいないとならない!
この旅も楽に終わらせるには、マオちゃんに頑張って戦ってもらわないといけないからな!
明日からもよろしくね!マオちゃん」
ジークはニッカリと歯を見せ笑いながら言った。
その言葉で胸の締め付けは一瞬で解かれ、気が付いたら私はジークを空の彼方まで殴り飛ばしていた。
まったくこの男は……。
私は笑みを浮かべながら、1人でテントへと戻っていった。




