↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これは『勇者』と『魔王』の物語  作者: 東の雲
ルクス村編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/59

ルクス村の惨劇

 パルさん達の案内でしばらく歩くと、やがてルクス族の村が見えてきた。


 他の町からも離れた、静かな山の麓。

 本来なら穏やかな時間が流れているはずの場所――


 だが。


 村に一歩足を踏み入れた瞬間、違和感が全身を包み込んだ。


 静かすぎる。


 風の音だけが、やけに大きく耳に響く。


 人の気配が、まるでない。


 視線を巡らせる。


 家屋は無残に壊れていた。


 屋根は吹き飛び、壁は内側から抉られたかのように崩れている。

 扉は引き裂かれ、窓枠には鋭い爪痕のような傷が無数に刻まれていた。


 焼け焦げた木材が黒く炭化し、ところどころからまだ燻る匂いが漂ってくる。


 地面には、引きずられたような跡。

 何かが叩きつけられたのか、土が抉れ、大きくえぐられた箇所もある。


 倒壊した家も、いくつも目に入った。


 まるで上から押し潰されたかのように、形を失っている。


 そして――


 生活の痕跡が、そのまま残されていた。


 割れた器。

 散乱した食材。

 途中で放り出されたままの道具。


 ついさっきまで、ここに“日常”があったことを否応なく感じさせる。


 それが一瞬で断ち切られた――そんな光景だった。


「こ……これは一体……」


 思わず声が漏れる。


 パル、プル、ポルの3人も、目の前の光景に言葉を失っていた。


 ジークさんは軽口の一つも叩かず、ただ黙って壊れた家々を見渡している。

 いつもの気の抜けた顔は、どこにもない。


 マオさんは焦げた扉の前にしゃがみ込み、窓枠に残った爪痕を指でなぞった。


「……ひどいな」


 低い呟きが、風に消えた。


 足音だけが虚しく響く。


 誰もいない村の中を、手がかりを求めて歩き続ける。


 リガンもいつもの元気がない。

 耳はぺたんと伏せ、尻尾も力なく垂れている。


 そのとき――


「ん!こっちの方から人の匂いがするよ」


 リガンが鼻をひくつかせながら言った。


 その言葉に、わずかな希望が灯る。


 私達はすぐにその方向へと向かった。


 やがて視界の先に、一人の老人の姿が見えた。


 銀髪の老人が、女神を模した像の前に膝をつき、静かに祈りを捧げている。


 この荒れ果てた村の中で、そこだけが時間が止まったかのように、静かだった。


「エンヤ爺!!」


 パルとプルが駆け出す。


「あの方はエンヤ爺。3賢者様の世話役で、村人全員から慕われているお方だ」


 ポルが説明する。


 エンヤ爺はゆっくりと顔を上げた。


 そしてパル達の姿を見た瞬間――


 目を大きく見開いた。


「こ……これはパル様!!」


 声が震える。


「お帰りになられたのですか……!ご無事で……本当に……」


 その目には、涙が滲んでいた。


「エンヤ爺。それよりも一体何が起こったのだ?村人が誰もいないではないか?」


 パルがエンヤ爺の両肩を掴み、問いかけた。

 エンヤ爺は目を閉じ、一度深く呼吸をし、ゆっくりと目を開けた。


「つい数日前にゼノドラグスの襲撃を受けました。配下に入らなければ、我らルクス族を滅ぼす……と。

数日の間は3賢者様が和平交渉したのですが、ゼノドラグスは聞く耳を持たず、強行手段に出ました。

3賢者様を筆頭に、村の大人達はゼノドラグスに応戦したのですが、あやつらの力は思っていた以上に強大かつ凶悪でした」


 その時の惨劇を思い出したのか、エンヤ爺は顔を青ざめ、体を小刻みに震わせた。


「それで……3賢者様や村人は??」


 パルは村人達の無事を神に祈るかのような表情でエンヤ爺に問いかけた。


「3賢者様はその戦いで命を落とされました。村の大人達もほとんどの者が……。

子供達は私が賢者様の命をうけ、山の洞窟に逃しております」


 パルの願いも虚しく最悪の事態だった。


「そ…そんな。3賢者様が……」


 パル、プル、ポルは言葉を失い立ち尽くしていた。


 帰る手がかりだったはずの3賢者が、もういない。

 ジークさんとマオさんにとっては、あまりに大きな痛手のはずだ。


 それなのに、ジークさんはそのことを一言も口にしなかった。

 ただ拳を固く握りしめ、パルさん達の背中を見つめている。


「エンヤ爺。とりあえず村人のいる洞窟まで案内してくれ」


 パルが力無い声で言った。


 エンヤ爺の案内で山の洞窟に向かう途中で、エンヤ爺は襲撃の時の状況を教えてくれた。


 ルクス族の村を襲ったゼノドラグスは2人


 1人は若い男で、腰まで伸びた長髪と、左頬から左目にかけてのタトゥーが特徴。

 もう1人は村人を攻撃しながら、ずっと高笑いを続けていた残忍な女だという。


 2人の力は圧倒的で、3賢者の最高の魔法を持ってしても全く歯が立たなかったという。


 村人は50人以上でゼノドラグスを迎え撃ったが、5分もしないうちに全滅させられた。その様は戦などではなく、ただの虐殺だったとエンヤ爺は語った。


「虐殺……」


 マオさんが、ぽつりと繰り返した。

 ニシノ山の夜、部下たちの行いを語った時と、同じ顔をしていた。


 話を聞きながら、3賢者の卵達はギリギリと歯を食いしばっていた。


 リガンもぎゅっと槍を握りしめている。


「……笑いながら、なんて」


 小さな体が、怒りで震えていた。

 ずっと「弱い側」だった彼には、他人事ではないのだろう。


「パル様、プル様、ポル様。

私達がいなかった時になどと自分を責めないでくださいね。

ゼノドラグスの力は私達の想像をはるかに超えていました。

あなた方がいても結果は変わらなかったでしょう。

むしろ、今後村を任されるはずだったあなた方が生き残れたのは幸運です。私達ルクス族にとってはあなた方は希望なのです」


 エンヤ爺は穏やかに3人をなだめるように言った。


 ジークさんは何も言わず、パルさんの背中をぽんと叩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。