47. 到着!
王都へ入った後、私たちの一行は王宮へと続く大通りを進み、その近くにある一角へと向かった。
やがて、高い塀に囲まれた壮麗な屋敷が見えてくる。
手入れの行き届いたその白亜の建物の向こうには、王宮の塔が見えていた。
(わぁ……、素敵なお屋敷だわ)
思わず目を見張り、小窓からまじまじと見つめていると、レオン様がさらりと言った。
「あれがリングレン所有のタウンハウスだよ」
「……へっ!? リングレンもタウンハウスがあったんですか!?」
驚いてそう声を上げると、レオン様は「もちろん」と言わんばかりに頷く。
「代々維持している屋敷だが、亡き父の代からはほとんど使われていないな」
「そ、そうなのですね……!」
私は再度、窓に張り付くようにして外の屋敷を見つめる。
(王宮が見えるような場所に、こんなにも立派な屋敷を所有しているなんて……! すごい……)
そんな私を、レオン様は優しい眼差しで見つめ、さりげなく付け足す。
「母とテオドールは、もう一軒の方のタウンハウスに滞在することになっているよ」
「……王都にもう一軒あるのですか……?」
「ああ」
「……なるほど」
自分が嫁いだ先が、どれほど格式高い名門であるかを改めて実感し、それ以上の言葉が出なかった。
タウンハウスへ足を踏み入れた私は、その豪華さに何度も目を見張った。
磨き上げられた大理石の床に、高い天井。王宮を望む広間や美しく整えられた各部屋は、普段暮らしているリングレン邸とはまた違う華やかさがある。
長旅の疲れを癒やすため、その日は早めに休むこととなった。夜、案内された部屋の寝台に入るやいなや、私はすぐに意識を手放し、そのまま一晩中ぐっすりと眠った。
そして翌日。
早い時間に部屋で簡単な昼食を済ませた私は、その後侍女たちに囲まれ、建国祭へ向けた身支度を始めた。
長い髪はゆるやかに編み込まれ、後ろで優雅にまとめ上げられる。そこへ宝石を散りばめた銀細工の髪飾りがいくつも差し込まれた。
丁寧に化粧を施され、深青のドレスを纏う。最後に身に着けたのは、レオン様とヘルミーナ夫人が選んでくださった宝飾品だった。
ダイヤモンドのネックレスに、イヤリング、そしてブレスレット。どれも繊細で美しく、ドレスとの相性が見事だ。
支度を終えると、鏡の中にはかつて見たことがないほど華やかな自分が映っていた。
その後ソファーに腰かけ休んでいると、しばらくして、レオン様がお迎えに来てくださったことを侍女が知らせに来た。
「リエラ様、旦那様をお通しいたしますね」
「え、ええ」
レオン様には、このドレスを試着した姿は見せていない。今が初めてのお披露目になる。
立ち上がりドキドキしながら、私はレオン様を迎える。
すぐに扉から入ってきたレオン様の姿を見て、私は息を呑んだ。
(レオン様……、素敵……)
黒を基調とした正装に身を包んだレオン様は、いつも以上に洗練されて見えた。
金色の髪は後ろに撫でつけるように美しく整えられ、肩幅の広い締まった体を、仕立ての良い上着が引き立てている。
胸元や袖口には、私のドレスと同じ銀糸の刺繍が施されており、その姿はまるで、物語に登場する英雄のようだった。
正装に身を包んだレオン様には、普段とはまた違う威厳と華があり、思わず見惚れてしまう。
何も口にできずに固まっていると、数歩こちらへと歩み寄ってきていたレオン様も、私を見つめたまま足を止めた。
しばらく経ち、はっと我に返った私が、口を開こうとしたその瞬間。
レオン様が、少し掠れた声を漏らした。
「何というか、リエラ、君はまるで……」
それだけ言うと、彼はまた黙り込む。
(……?)
どうしたのだろうと少し不安になり、続きを待っていると、レオン様は軽く咳払いをして再び口を開いた。
「今の君は、まるで神話に登場する女神のようだ。美しすぎて、言い表す賛美の言葉さえ浮かばない」
(……へっ?)
「な……、何をおっしゃるんですか、レオン様ったら……」
聞いたこともない褒め言葉に、私の全身が一気に熱を持つ。あまりの恥ずかしさに、つい目を逸らしてしまった。
けれどレオン様は、そんな私に構うことなく、次々と未知の賛辞を紡いでいく。
「月の光が人の姿になって舞い降りたかのようだ。……いつもの可憐で愛らしい君は、どこへ行ったんだ? まるで幻想の世界の乙女だ。君がそうして、ただそこに立っているだけで、君の周囲まで輝いているように見える……」
「レ、レオン様……っ。もうお止めください……」
恥ずかしすぎて、どこかへ走って逃げたくなってきた。どうしよう、せっかく最上級のおめかしをしているのに汗が浮かんできて、ドレスが背中に張り付く。
けれどレオン様は至極真面目な顔で目の前まで来ると、私の右手をそっと取り、持ち上げる。これでもう逃げることはできなくなった。
燃えるほど体を熱くする私を見つめたまま、レオン様は私の指先に、自身の唇を押し当てた。
「〜〜〜〜っ!!」
「リエラ、今日は決して私から離れてはいけないよ。君を見慣れている私でさえ、こんなにも動揺しているんだ。今の君を見て、平静でいられる男などいない。誰かに声をかけられないよう、私から離れないで。いいね?」
「……は……、はい……。承知いたしました、レオン様……」
あまりにも大袈裟すぎるが、レオン様は至って真剣だ。ここはもう、素直に頷いておくのがいいだろう。そう思った。これ以上何かを言われたら、私の体が発火してしまう。
けれど、その後王宮へ向かう馬車の中でも、レオン様は歯の浮くような賛辞の嵐を私へと贈り続けたのだった。




