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わから聖女~いいんですか? 神の声が聞こえるわたしを本当に追放しちゃうんですか?~  作者: 藤村灯
なんですか? 森の奥には魔狼の村があるんですか?

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8/20

第8話 うらむ理由がなくなったら、ごめんなさいの番ですよね?

 ソーニャが持参じさんしていた携帯食けいたいしょくを与え、アリーセが小屋から見繕みつくろってきた服を着せたあとも、魔狼まろうの少女は警戒けいかいかず、距離を取って座り込んでいる。


「あいつらは、遊びであたしたちの村を襲ったんだ」

「あいつらって?」

「剣や弓矢を持ったやつら!」

「ギルドの護衛兵ごえいへい? 聖堂騎士せいどうきしのほうかな?」

「どっちもだ!」


 ワグルーの話を聞くと、護衛兵ごえいへい聖堂騎士せいどうきしが、け勝負がてら魔物狩りをしているとのこと。

 ここでも伯爵はくしゃくの件同様、アメルハウザー伯爵はくしゃく領民りょうみんだと知ったうえで、講和こうわ反故ほごにして「魔物だ」ということを理由に襲ってきたという。


「怖かったね」


 親近感しんきんかんいだいたアリーセは、自分よりおさないワグルーの頭をでようと手をばすが、そのたびごとにうなられ、みつかれそうになり手を引っ込めている。


「そのうえ、街道の護衛ごえいしょうして、道行く人からもお金を巻き上げてたんだ……」


 町と隊商たいしょうを守る護衛兵ごえいへいだけでなく、フェルシア教団の一部である聖堂騎士せいどうきしまでが手を汚していると知り、ソーニャの声もしずんだものになる。


『その騎士様たちが来やがったぜ!』


 フテネルの警告けいこくから間を置かず、木立の奥から6人の男たちが現れた。


        §


「ほッ、見付けた! バイガス殿どの、これで吾輩わがはいの勝ち越しですな!」


 髪をあぶらかためた、護衛兵ごえいへいのリーダーらしき男が、ソーニャたちを指し、甲高かんだか喜声きせいを上げる。


「気が早いぞ、サナルティ。余計よけいな者もおるようだが……こ奴、吸血鬼きゅうけつきか?」


 さらに5人の軽装の騎士たちが合流ごうりゅうする。毛皮のマントを羽織はおった大柄おおがらな男が、左頬ひだりほおの目立つ傷跡きずあとさすりながらいぶかしな声をもららした。


「ただの吸血鬼じゃあないよ。この子はアメルハウザー伯爵はくしゃくのご息女そくじょだよ!」


 アリーセを背にかばい声を張り上げたソーニャに、バイガスは太いまゆをピクリと動かし、目を細める。


田舎修道女いなかシスター風情ふぜいが小うるさいことだ。サナルティ、吸血鬼を狩れば、倍の得点でどうだ?」

「バイガス殿にはかないませんな。良いでしょう。ですが吾輩わがはいが狩れば、バイガス殿の完敗かんぱいですぞ」


 ソーニャにかばわれ、ワグルーを背中にかばうアリーセは、自分たちを賭けの標的として笑い合う男たちに、涙目になりながらも叫んだ。


「わたしはエルンスト・アメルハウザー伯爵はくしゃくの娘アリーセ! そしてこの人は、第666代聖女、ソーニャ様だよ!」


 聖女と聞いて、バイガスの笑声しょうせいが止まる。だがすぐに、


「馬鹿め。このような所に、聖女様がおられるはずがない。たかが修道女しゅうどうじょ一人、魔族討伐中まものとうばつちゅうの事故として処理すれば問題ない」

「いやいや、なかなかの身体つき。余禄よろくとして、じっくり味わってから始末しましょう。殺して埋めれば、このような森の中まで探すものはおりますまい」


 下卑げびた笑いを浮かべ、各々の得物えものを構える男たち。


「はー、これは分からせないとダメかなぁ」


 ほほ笑みながら、修道服しゅうどうふくのスカートのすそを、ふとももがあらわになるまでくソーニャ。男たちの視線が集中したわずかなすきに、ソーニャの姿は視界から消えた。


「どこに!?」

「うぎゃッ!?」


 最後尾さいこうびでワグルーに狙いを定めていた兵士は、ソーニャに手首ごと弓を握りつぶされ、左膝を前からくだかれた。


「ぜんぶ終わるまで、逃げちゃダメだよ」

「ひッ……」


 耳元で不吉なつぶやきを残された兵士は、必死にいずって茂みの奥にもぐり込み、うずくまってガタガタ震えるのみとなる。


 アリーセに短刀で斬りかかった騎士は、コウモリの翼をひらめかせた宙返ちゅうがえりでかわされ、後頭部をられつんのめったところを、ワグルーに喉元のどもとさかかれた。


「やるね、ワグルー!」

「おまえもな!」


『おまえは、子供の姿をしたものに剣を向けるのですか』

『女神フェルシアは見ておられます。それは聖堂騎士せいどうきしにふさわしい振る舞いですか』

『選ばれた聖女を殺したものは、永遠えいえん地獄じごくほのおに焼かれるでしょう』


 わずかに良心りょうしんを残し、魔族とはいえ子供でしかないアリーセやワグルーへの攻撃を躊躇ちゅうちょする者たちは、どこからともなく聞こえるフテネルのささやきに心を乱される間に、あっけなくソーニャのりやこぶしで沈められた。


「き、貴様らァ!! なにをしている不甲斐ふがいない! ええい、ここは吾輩わがはいの、20匹の魔族まぞくった銘剣めいけんで――」

「20人もったの?」

「ひぃ!!」


 配下をことごとく倒された衛兵長えいへいちょうサナルティは、不意に距離をめ、目の前にあらわれたソーニャの姿に悲鳴を上げ、飛び退きながら剣を抜こうとする。

 だが手の中にあるのはつかだけで、剣身けんしんさやに残ったまま。

 抜剣ばっけんの瞬間、ソーニャに指ではさおらられたとさとり、つかだけになった銘剣めいけんだったものに絶望の眼差しを向ける。


「だいじょうぶ。ちゃんと20人分贖あがなうまで死にはしないから。安心して」

「い~~や~~だ~~!!」


 絶叫ぜっきょうするサナルティ。

 だがソーニャの分からせを始める前に、背後から忍び寄っていたバイガスが長剣を振り下ろす。


「え……ちょ……バイガス殿……」


 素早く身をひるがえしたソーニャはちらりと視線を投げ、身代わりに袈裟懸けさがけににされたサナルティが致命傷を負っていないことを確認すると、長剣を構えるバイガスと対峙たいじする。


「俺はそいつらのように簡単に倒れんぞ。俺には聖堂騎士せいどうきしとしてのほこりと大義たいぎがある」

「後ろから斬りかかっておいて、いまさらほこりもないんじゃないかな?」

「ぬかせ!」


 戦いなれているらしく、バイガスは足場や木立の空間を的確に把握はあくし、ソーニャを追い詰める。 


「魔族との講和こうわなどまやかしだ! この傷がうずく限り、俺は目に付く限りの魔族どもを殺し続けてやる!」


 鋭い突きを際どくかわすソーニャ。

 修道服の脇腹わきばらけ、わずかに血がにじむが、傷はすぐに消える。

 

いやしの力か。聖女はかたりだとしても、そこそこは使えるようだな。だが次はいやす間もなく殺す!」

「じゃあ傷は治ったから、こんどはあなたがごめんなさいする番だね」

「何を――」


 ソーニャの言葉を、口元をゆがめて笑い飛ばそうとしたバイガスは、左頬ひだりほほる感覚がないのに気付き、思わず手で確かめた。

 かつて獣人にかれた、深い傷跡きずあとがすっかり消えている。


「馬鹿な!? こんな古傷ふるきずいやせる力、ま、まさか本当に」


 にっこり笑うソーニャの顔が眼前に迫り、ひざ股間こかん鳩尾みぞおち首筋くびすじと、立て続けに衝撃しょうげきを受け、バイガスは仰向あおむけに倒れた。ソーニャが上からのぞき込むが、全身の痛みで指一本動かすことができない。


「この毛皮、魔狼まろうの人の? 皮ってどうやってぐんだっけ?」


 ソーニャの視線が身体をなぞる冷たいナイフのように感じられ、脂汗あぶらあせが滲む。

 耳元に、獣のうなり声が近付く。


「まて、やめろ……」

「ワグルー、やっちゃっていいよ。即死以外は治すから」


 森の中に、バイガスの絶叫が響いた。


        §


「ワンパックじゃない。あたしはワグルー!」

「えぇー……」


 ソーニャたちが森から連れ帰ったワグルーに引き合わせると、メルは露骨ろこつに不満そうなそぶりを見せたが、仕草や反応が仔狼こおおかみの時そのままだったので、すぐに打ち解けた。


「ワグルーはこれからどうするの?」

「家を修理してもらっても、ひとりぼっちだしねえ……」


 ソーニャに()()()()()()護衛兵ごえいへい聖堂騎士せいどうきしたちにお願いすれば、3日で村ごと元通りになるだろう。だが、失われた命だけは元に戻らない。


うちに来ればいいじゃない、ねえ」


 ワグルーの灰褐色はいかっしょくの髪をわしゃわしゃでるメルが言い切るが、背後では腕組みをした女将おかみしぶい顔をしている。こっそり犬――おおかみを飼っていた件でしぼられたばかりだから、一人分の生活費が増えるのは、簡単に許可されそうもない。


「まあメルの友達だし、たまに来るくらいなら、好きなものおごってやってもいいけどね」


 心を入れ替えた護衛兵ごえいへいたちは、これまで搾取さくしゅしたつぐないいに、4割の賃金で働くと申し出た。おかげで仕入れ値が下り、売り上げ増が見込め、いつもは不愛想ぶあいそう女将おかみの人あたりも、幾分いくぶんチョロくなっている。


「うー、森のマナも少ないしな」

『ソーニャが分けてやった分が無くなれば、月の満ちた夜に人の姿になれる程度ってところか』

「し、城に来るのがいいよ! ね、ママ!」


 もじもじして発言の機会きかいうかがっていたアリーセが、大声で宣提案ていあんしソーニャの手を引っ張る。


「お城の近くに小屋を建てれば、いつだってママにマナを分けて貰えるし、小屋が嫌なら、お城の中にも空き部屋いっぱいあるし!」

「いいのか?」

「アリーセのお家だからね。アリーセとワグルーが仲良くできるならいいよ」

「やった! ありがとうママ!」


 満面の笑みでソーニャに抱き着くアリーセ。


「それじゃああたしは、いつでもマナがもらえるママの部屋で暮らすぞ!」

「わ、ワグルーのママじゃないでしょ!!」

「アリーセのママでもないんだけどな……」

「ママは黙ってて!」


『マナを確保するために旅に出て、マナを供給する相手増やしてどうするよ、この能天気娘のうてんきむすめ


 わめき合う2人の魔族の娘にはさまれたソーニャの頭上をただよいながら、フテネルはあきれ顔で苦笑をらした。

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