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わから聖女~いいんですか? 神の声が聞こえるわたしを本当に追放しちゃうんですか?~  作者: 藤村灯
なんですか? 森の奥には魔狼の村があるんですか?

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7/20

第7話 森で仔犬探しをすればいいんですか?

「ちゃんと吸血鬼だってかくせる服装選べてえらいね。よしよし」


 人間ばかりの町に、たったひとりで怖かっただろうに。

 無茶をしたアリーセの気持を思い、ソーニャはアリーセのフードを脱がすと、菫色すみれいろの髪を優しくかした。


 酒場の隅の席で、特別注文のパフェとパンケーキを前にしたアリーセは、怒っているポーズを続けながらも、夢中で料理を頬張ほおばりはじめる。


 涙目で笑顔を浮かべるアリーセの姿に安堵あんどしたソーニャは、今までの経緯けいいを説明した。


「つまりママは、城を出てからお金をごっそり減らして、夜のお店でアルバイト始めた……ってことだね?」

「えっ! ちが、そんな人聞きの悪い……あれ? うん、……そうかも」

『ソーニャは馬鹿だからな。仕方ないさ』

「馬鹿って言わないでよう」


 いつのまにか帰ってきたフテネルが、アリーセの尻馬しりうまに乗り、ソーニャをからかう。


「フテネルがいっしょでこの有り様なのは、フテネルの監督不行かんとくふゆき届きじゃあないの?」

『あたしはこの馬鹿と違って、ちゃんと調べ物をしていたさ。ソーニャ、この町の教会に、シスターいたのを覚えてるか?』


「このありさまって……」「2回も馬鹿って言われた」とつぶやいていたソーニャは、司祭のかげに隠れるように、おどおどした様子の修道女しゅうどうじょがいたことを思い出す。


『なんか悩んでるていだったから、「この町に聖女が来たのも、女神フェルシアのお導きです。何でも打ち明けてみなさい」ってお告げを下してやっておいたぜ。明日にでも聞きに行ってみるんだな』

「フテネル、またそんなお告げを悪用してー」


 フテネルをたしなめようとしたソーニャだったが、シスターが本当に悩んでいたのなら、気付かなかった自分のほうが悪いと、お小言を飲み込んだ。


「さあ今日はもう上がっていいよ、ソーニャ。あんたの娘の払いのおかげで、3日分は稼げたからね!」

「娘じゃないですけどね?」

「ママ、今日は一緒に寝ていいよね?」

「う、うん。いいよ。置いてってごめんね、アリーセ」

「やったぁ!!」


 支払った金貨と女将おかみの計らいで、早仕舞はやじまいしたソーニャに抱き着くアリーセ。

 仕事疲れに加え、甘えるアリーセにたっぷりマナを与えたソーニャは、夢も見ず深い眠りに落ちた。


        §


「わ、ワンパックがいなくなっちゃって……」

「ワンパック?」


 翌朝、金の力で休みを勝ち取ったソーニャは、アリーセをともない教会を訪れた。

 幸いシスターは、第666代聖女であるソーニャに対して、恐れではなく、敬愛けいあいを抱いてくれていたようだったが、その分テンパって話の要点ようてんつかみづらい。


「ママ、シスターがメルちゃんから預かってた仔犬こいぬだよ」

「メルちゃん?」

女将おかみの年の離れた妹だろ。話聞いてんのか?』

「お、お客さん相手のご商売だから、家ではえないって……」

「ふむ?」

「メルちゃんが仕入れに付いて行った時のことだって。ママも会ってるはずだよ」

「ああ、リンゴくれた子だぁ」


 ひとり理解が追い付かず、みが悪い子扱いに釈然しゃくぜんとしないものを感じていたソーニャだったが、フテネルが教会でシスターの悩みに勘付かんづいたのと同様、アリーセはトナルの町に辿たどいた際、仔犬こいぬを探し歩いているメルに出会っていたようだ。


「それじゃあ、わたしにワンちゃんを探して欲しいのかな?」

「そ、ソーニャさま……それがその、足とかおっきくて。ワンパック、犬じゃなくって、恐らく、おおかみなんじゃないかと……」

「あー、それで」

『町の中を探しても見つからない。町の兵士へいし騎士団きしだんに見つかる前に、探しに行って欲しいワケだな、森に』


        §


「うーん、この広い森の中から、仔犬こいぬ――仔狼こおおかみか。仔狼こおおかみ一匹探し出すのは大変だねぇ」

おおかみでも、小さい時から飼えばなつくからな。腹を減らして、えさを貰いに出てくるのを待つほうが効率的じゃないか?』


 アリーセはこめかみを指でグリグリし、何やら難しい顔をしていたが、パッと顔をほころばせ、背に小さなコウモリのつばさを生やすと、森に向かってばたいた。


「思い出した! ママ、わたしに付いてきて!!」

「あ、アリーセ! 人目のある時間からはねだして目立っちゃダメだよ!」


 ソーニャはあわててアリーセの後を追い、森へと踏み込む。


「森の奥に、魔族まぞくの村があったはず。きっとそこの子だよ!」


 アリーセの話では、アメルハウザー伯爵はくしゃく領内りょうないには、昔は多くの魔族まぞくが住んでいたのだという。城に住むのも最後はアリーセ親子だけになったが、その頃にもたまに魔族の村からの客人きゃくじんがあったのだと。


『マナ不足は人間より魔族にくからな。森に住むのをあきらめて、マナの濃い魔族領まぞくりょうの方に移ったか』

「ずっと前だけど、何度か家族で来たこともあるから」


 そう言ったアリーセだったが、城からではなくトナルの町から森に入ったせいか、何度も方角を見失い、迷っている様子。


「でもアリーセ、なんでそのおおかみが魔族だって分かったの?」

「メルが、残り物を上げても食べ残しには見向きもしなくて、お皿に並べたものしか食べないって言ってたから」

「ぜいたくで、食にこだわりのあるタイプなだけじゃないのかな?」


『こっちに踏みあとがあるぞ!』


 フテネルが見付けた踏みあとを辿たどると、森の木々が切り開かれた一角に、簡素かんそな丸太小屋が数棟すうとううように建つ集落に辿たどいた。


「ぜんぶ廃屋はいおくみたいだねぇ」

「そんな……」


 幼い頃訪れた場所のさびれた様子に、アリーセはショックを受けたようだった。

 ただ人の気配がないというだけでなく、明らかに荒らされた形跡がある。


『ここも襲われたってことか』


 フテネルの言葉に、アリーセは沈み込み、暗い表情を浮かべる。

 その時、背後のしげみがかすかに物音を立てた。


「いた!」


 ソーニャが追い掛けるより早く、灰褐色はいかっしょくの影は森の奥に逃げこもうとする。

 先回りしたフテネルが、突然目の前に現れると、仔狼こおおかみは驚き、転がりながら向きを変える。

 ソーニャの手をすり抜け、いちばん幼くくみやすしとみたのか、駆け寄るアリーセの喉元のどもとみつこうと飛び掛かる。


「キャッ!?」

んじゃあだめだよね?」


 仔狼こおおかみの牙はアリーセに届かず、かばったソーニャの前腕ぜんわんはばまれている。

 みつこうにもきばが通らず、逆に押し込まれて口を閉じることもできない仔狼こおおかみは目を白黒する。


『ああ確かに。こいつは魔狼まろうだな。獣になれる人じゃなく、人の姿を取れる獣だ。マナ不足で、人の姿になれないんだな』


 口を閉じられないまま地面に押し付けられ、ソーニャにお腹をわしゃわしゃ好き勝手にでられる仔狼こおおかみは、完全に敗北をさとったのか、涙目のように瞳をうるませ、うなごえをあげている。


「じっとしててね、ワンパック」

「……わふ……」


 ソーニャがいやしの要領ようりょうでマナを注ぐと、仔狼こおおかみは、くやしそうな表情を浮かべる少女に姿を変えた。


「ぶへ……ペッ! わ、ワンパックじゃない。ワグルーだ!!」


 口に押し込まれた腕を抜かれると、少女は腹を見せ寝そべったまま、反抗的な眼差まなざしでさけんだ。


『とりあえず、絵面えづら犯罪的はんざいてきだから、なんか着せたほうが良くないか?』

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