第19話 アリーセ主催のパーティー開催ですか?
伯爵の城に帰ったソーニャは、さっそく、置き去りの形になった子供たちに取り囲まれた。
「ママ、またアリーセをのけ者にして!」
「ごめん、ごめんって。ほら、大聖女様がお菓子をたくさん持たせてくれたから。これで機嫌直してよう」
コウモリの翼で羽ばたきながら、頭頂部をぽかぽか叩いてくるアリーセをなだめつつ、ソーニャはおみやげのバスケットを引き渡す。
「ママ、ワグルーの家、作ったぞ!」
少女の姿のワグルーに修道服のスカートを引っ張られ、ソーニャは城内の廊下を引き回される。
「わたしの部屋にテントが張られてるー!?」
ソーニャが寝室に割り当てられた部屋に入ると、床の真ん中に子供用サイズのテントが張られていた。支えるためのロープが部屋を横断し、ロープの先は床に敷かれた絨毯ごと、打ち込まれたペグで固定されている。
「あー、せめてワグルーの部屋決め、済ませてから出ればよかったよ」
「ワグルーのママじゃないでしょ!」
「わふ! テント入れてやらないぞ!!」
己の留守中に、人生で初めて手に入れた私室の半分を失ったソーニャは、取っ組み合いを始めた魔族の子供たちを残し、ふらふらと部屋を出る。
「ソーニャ様❤ お疲れさまでしたァ!」
「ぐふぅッ!」
気を抜いた横っ腹に、レーネのタックル気味の抱擁を受け、ソーニャは低い呻き声を漏らす。
「大聖女様とヤり合って生きて帰るなんて、マジパねぇです、ソーニャ様❤」
「やり合ってはいないよ? お茶飲んでお菓子出して貰っただけだから」
「朝飯前って意味?」
「違うけど。あ、アシュレ、マナありがとね。助かったよう」
レーネが首から下げる小瓶をのぞき込み声をかけると、瓶の中の水が応えるようにちゃぽんと揺れる。
シリルの庇護下に入ったレーネだったが、ソーニャがアメルハウザー伯爵の城に戻ると聞き、そのまま付いてきたのだ。
人の多いトラーシャより、堅牢な山城のほうが安心だとの言い分だが、ソーニャにくっついていられるからというのが本音のようだ。
「レーネはハスレに帰んなくていいの?」
「帰ってだいじょぶそかは、メルぴが仕入れのついでに調べて報告してくれるって❤」
「メルぴ? ああ、宿屋のメルちゃんか」
「シン・マナドリのレシピが完成したら、いっしょに売り捌――違った、卸ルートを開拓する約束なんだ」
ぽろっと口を滑らせるレーネに、ソーニャは思わずジト目になる。
「え? あれ全国に売るつもり? ハスレでは聖堂騎士団がお得意様だからよかったけど、国に目を付けられるようなもの作ったら、今度こそ破門からの牢屋行きだよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。今度は飲めばテンション爆上がりで、リピートしたくなる商品目指すだけだから。合法的に❤」
「えぇー、だいじょうぶかなぁ」
それから数か月、ソーニャは伯爵の状態を確認しつつ、近隣各地のマナの流れや、魔晶石を育てると思しき施設の探索を続けていた。
§
「あんたさぁ、入ってくれりゃ売り上げが爆上がりするんだから、もうちょっとシフト増やせないのか?」
「うへぇ、頑張ってみるよ」
トナルを訪れるたび、女将はソーニャに給仕服を着せ、働かせようとする。
アリーセが城から持ち出す宝石や金貨があれば、西方辺境を渡り歩く程度の路銀には、困ることはないのだが――
「なんか、ちっちゃい女の子のお金を頼りに生活するなんて、聖女どころか、大人としてどうかって話だしねぇ」
『聖女様が、生足晒して客に酒呑ませるのも、どうなんだよ?』
「自分でお金稼いでるんだから、働かないフテネルにとやかく言われたくないよ!」
大聖女クローディッドと対面した際、フテネルとは互いに面識のあるような口ぶりだった。
あれ以降、クローディッドと面会する機会があっても、フテネルは姿を現さない。どうにも気になるソーニャが尋ねてみても、
『知るか! あんな恩知らず!!』
とへそを曲げ怒るだけで、どんな関係なのか、いまだに教えてはもらえない。
シリルはよりいっそう大聖堂でのお勤めに励み、ソーニャとも西方辺境で行動を共にする機会が増えた。
西方大聖堂に滞在する、クローディッドに呼び出されることも多く、危険な北方への旅の準備を続けているようだ。
§
ソーニャが定例となった、伯爵領のマナの流れの調査から帰還すると、お留守番を言いつかっていたの魔族の子供たちが、跳ね橋を渡った先の正門まで、出迎えに来ていた。
「ママ―、おかえり!! 今日はアリーセ主催で、ワグルーの歓迎会とレーネのありがとう会、それに、ママの毎日お疲れ様会を開くよ!!」
「最近外に連れてけって言い出さずに、大人しいと思ったら。わたしが最後のつけ足しみたいのが気になるけど、アリーセ、何をするのかな?」
アリーセに手を引かれ、ワグルーに押されて進むと、庭園の奥に木製の塀で囲われた一角があり、白い湯気が上がっているのが見える。
「ソーニャ様、ついにやりましたぜ……」
「あれ? みんななんか痩せた?」
元・傭兵、現・城の警護兼・庭師兼・雑役夫たちが、虚ろな笑みを浮かべソーニャに道を開ける。塀のその先には、お湯をたたえた石造りの浴場が造成されていた。
「レーネがアシュレのために、マナの豊富な水源を探してたら、偶然温泉見付けちゃいました❤ 毎日マナドリ飲ませてあげてるのに、おっさんらがよわよわすぎ。おかげでお披露目するまでに、ちょっと時間掛かっちゃいましたけど❤」
「それ、ちゃんと大丈夫なほうのマナドリ?」
ごめんねぇと、レーネの代わりに暴言を代わりに詫びつつ、ソーニャは興味深げに塀の内側の洗い場を見渡す。
「ママ、あったかいよ! 早く入ってみようよ!」
「に……煮られるのか……」




