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わから聖女~いいんですか? 神の声が聞こえるわたしを本当に追放しちゃうんですか?~  作者: 藤村灯
マジですか? 大聖女様の登場です!

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18/20

第18話 あれ、審判は終わったんじゃないんですか?

「よいしょっと」


 白い空間に浮かぶ()()りの一つに(うつ)る、最近のソーニャの(おも)()(わく)に手をかけ、バリバリと(ざつ)()()きながら、白い空間に転がり込んできた。


「ソーニャ……貴女(あなた)、どうやってここに――」


 愕然(がくぜん)として(つぶや)くシリル。

 刹那(せつな)の後、見られたくないその当人に、心の柔らかい部分を(さら)していることに気付き、(あわ)てて記憶の数々をかき消した。


「ソーニャ、いつもはどれだけ起こしても起きないくせに、こんな時だけ……」


 (なみだ)ぐみながら、シリルはソーニャに歩み寄り手を差し伸べる。

 クローディッドは場違いな闖入者(ちんにゅうしゃ)のソーニャにではなく、中空に(するど)い視線を投げていた。


「10年振りかな。確かに君なら、僕の裁断法廷(さいだんほうてい)にでも(もぐ)()める」

『誰とでもって訳じゃあねーぞ。ソーニャだから連れ込めたんだ』

「ふん。(きょう)がそがれたよ。君を見てると苛立(いらだ)ちが治まらない。用が済んだなら帰ってくれないか?」

『言われなくとも!』


 クローディッドに露骨(ろこつ)拒絶(きょぜつ)されたフテネルは、()ねた表情を浮かべ舌を突き出すと、ソーニャを残して(ちゅう)に消えた。

 それと同時に、逆回(ぎゃくまわ)しのように白い空間に応接(おうせつ)セットが現れ、()()りのように部屋の壁が立てられ、来賓室(らいひんしつ)再現(さいげん)される。


 ソファに腰を下ろしたクローディッドは、ソーニャとシリルにも席を勧め、部屋の外で待つ修道女に声を掛けた。


「すっかり()めているな。改めてお茶にしようか、新任聖女諸君!」


        §


 給仕役(きゅうじやく)の修道女に()れてもらったお茶を前に、シリルは居心地(いごこち)の悪い思いを味わっていた。隣に座るソーニャはギリギリ品位(ひんい)(たも)つ素早さで、焼き菓子やケーキを口に運んでいる。

 ()れなおしたお茶の香りにつられ、ソーニャの腹の虫が派手に鳴ったため、改めて用意された3段ケーキスタンドに()せられた品だ。


 いつもなら「はしたない!」とか、「もっと味わって頂きなさい!」とたしなめる場面だが、大聖女(だいせいじょ)であるクローディッドが、「こっちのクッキーはどうだい?」「このジャムも試してみるといい」と(すす)めている状況では、口を(はさ)むこともできない。


「いったいどうやって回復したんですの? 奇跡(きせき)を起こすにも、マナどころか体力さえ空っぽのはずでしたのに」

「アシュレが子供サイズに戻るのと()()えに、手持ちのマナを分けてくれたんだよ。レーネちゃんに感謝だね」

「アシュレ?」

「水の精霊(せいれい)


 ひそひそと声を(ひそ)めるシリルとは対照的(たいしょうてき)に、もきゅもきゅとケーキを頬張(ほおば)るのに(いそ)しいソーニャは、ぞんざいな(こた)えを返す。


「シリルは大聖女(だいせいじょ)様への用事(ようじ)はすんだの? 呼ばれてるのはわたしだって話じゃあなかった?」

「それは! もう、いいから!」


 首筋まで赤く()めたシリルは、ソーニャに大事なことを確認する。


「クローディッド様の『裁断法廷(さいだんほうてい)』で、何を見たか覚えてます?」

「何をって? 奇跡で作られた空間に入るなんて初めてだったから。ねーっと、確か――」

「ああもう、分からないなら良いですわ!」


 質問の意図(いと)(はか)りかね、首をひねるソーニャに、シリルはとりあえず胸をなでおろす。


「君たち、(なか)が良いねぇ」


 猫のような(とら)えどころのない笑みを浮かべ、クローディッドは同期の聖女たちを(なが)めている。


「シリル。君への裁断(さいだん)は取り消されたわけじゃない。埒外(らちがい)の力で、うやむやにされただけだ。保留(ほりゅう)、ってところだね。これからも(はげ)むように」

「……お言葉、胸に(とど)めます」

「クローディッド様、わたしの審判(しんぱん)の話は?」


 神妙(しんみょう)な表情でかしこまるシリルの(となり)で、ケーキをお茶で流し込みながら、ソーニャが小さく手を()げる。


「君をどう(はか)ったものか、正直考えあぐねているよ。それでも、シリルが先走ってくれたおかげで、懸念事項(けねんじこう)を一つ、確認もできたことだし――」


 引き合いに出されピクつくシリルと、焼き菓子を口に運ぶ手を止めないソーニャを前に、しばし考える素振(そぶ)りを見せていたクローディッドは、芝居(しばい)がかった調子(ちょうし)で前髪を払い、高らかに言い放つ。


「北方の魔族討伐(まぞくとうばつ)一段落(いちだんらく)したばかりだけれどね。君たちには、僕の審判(しんぱん)を兼ね、魔族軍残党(まぞくぐんざんとう)平定(へいてい)手伝(てつ)って貰うよ!」


        §


「おおごとにならなくて良かったねぇ」


 西方大聖堂(せいほうだいせいどう)()する間際(まぎわ)

 ソーニャはほくほく顔で、給仕役(きゅうじやく)修道女(しゅうどうじょ)から焼き菓子のおみやげを受け取っている。

 あきれ顔のシリルに、さり気なく近づいたクローディッドが小声で(ささや)いた。


「嫌な思いをさせてしまったね。僕にしても、これも『裁断(さいだん)聖女(せいじょ)』の役回(やくま)りだ。許してくれるかい?」

「クローディッド様が“面白(おもしろ)い”とご興味(きょうみ)おありなのは、ソーニャのほうでしたわよね?」


裁断法廷(さいだんほうてい)』でのやり取りを思い出し、シリルは()()なく返す。


「“面白(おもしろ)い”のは彼女のほうだが、“期待(きたい)している”のは君のほうだよ、シリル」


 口説(くど)かれているのかと、シリルが思わず身を引くと、クローディッドは苦笑(くしょう)()らす。


「ああ、(ちが)(ちが)う。そうじゃない。真面目な話、マナを集めるソーニャの体質(たいしつ)、君はどう思う?」

「どうって……ソーニャだからとしか?」

「名のある魔族とも()()ってきた僕でさえ、魔術ならともかく、あんな体質(たいしつ)の持ち主は初めてだ。ソーニャの聖女としての在り方は、僕も疑っちゃあいない。だけど、彼女はそもそも、人間なのかな?」


 ふと、中空に視線をさ(まよ)わせ、何かを確認したのち、クローディッドはシリルからそっと身を(はな)した。


「シリルー、見てー! シリルの分も貰ったよ!」


 大きなバスケットを手に()()るソーニャと入れ違いに、クローディッドは片手をあげる芝居(しばい)がかった別れの挨拶を投げ歩み去る。

 大聖女の背中を見送りながら、シリルは漠然(ばくぜん)とした不安を覚えた。

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