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わから聖女~いいんですか? 神の声が聞こえるわたしを本当に追放しちゃうんですか?~  作者: 藤村灯
異端審問? 敬虔な聖女のわたしにですか?

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15/20

第15話 鉄の処女に閉じ込められてから入れる保険ってあるんですか?

 ソーニャが相手取った異端審問官(いたんしんもんかん)の、すべてがゴーレムという訳ではなかったが、それでも5体が残っている。

 おまけに鉄の処女(アイアンメイデン)を振り回す拷問吏(ごうもんり)・ペカテが加わり、ゴーレム(つか)いとおぼしきピュルケに近づけない。


「それは考え違いでございます。私はただの尋問官(じんもんかん)。ゴーレムは()(もの)に過ぎません。私をミンチにしたところで、ゴーレムたちは止まりませんよ」


 片メガネの位置を治しつつ、首を(かし)げて薄笑(うすわら)いを浮かべるピュルケ。


「誰から()()けましたの? この襲撃(しゅうげき)はその方の指示?」

「私も任務(にんむ)で動いております。答えるとお思いで?」


 慇懃無礼(いんぎんぶれい)なピュルケの対応に、シリルは(にぎ)った(こぶし)をわななかせる。


「念のためにレーネ様にもご同行(どうこう)頂きましたが。どうやら非道(ひどう)真似(まね)はせずに済みそうです」

『どの口が』


 フテネルの皮肉は、異端審問官(いたんしんもんかん)たちに届く様子はない。


「フ、フヒッ。ソーニャ様ぁ。わ、わたしはずっと、あなたをお(した)いしていたんですよォ」


 鉄の処女(アイアンメイデン)を振り回しながら、ペカテは上ずった声を上げる。


「第666代聖女ぉ。正式な効力(こうりょく)は発生しなかったとはいえ、に、認定式(にんていしき)当日に破門宣告(はもんせんこく)を受け、追放された初めての聖女ぉ。ぷ、ククッ」


 拷問吏(ごうもんり)になってからずっと、聖女への拷問(ごうもん)妄想(もうそう)していたペカテにとっては、願ってもないチャンスだった。


「ほ、他の聖女様に手が届かなくても、きっと、あなたならやらかしてくれるっ! 予想以上ですッ!! あ、あなたは、わたしの、女神ですッ!!」

「買いかぶりすぎだよう……」


 ペカテの執着(しゅうちゃく)を理解できず、ドン引くソーニャ。


 ゴーレムのマナの流れを読むと、どれも身体のどこかに魔晶石(ましょうせき)が組み込まれていた。一体づつ違う構造を確認しつつ、巨大な魔晶石(ましょうせき)(くだ)いた際の感覚を思い出し、マナを込めた拳を放つ。

 攻撃を回避するのに体力を消費し、構造を調べるのに集中力を削り、魔晶石を砕くのにマナを消費する。

 3体を行動不能(こうどうふのう)にする頃には、ソーニャは消耗(しょうもう)しきっていた。


「ソーニャ様」


 ソーニャが飛来する鉄の処女(アイアンメイデン)を際どくかわした瞬間、声を掛けたピュルケがレーネを閉じ込めた(おり)に手を掛けるのが目に映る。

 何もしない。だが、それで十分だった。


「今っ!!」


 (くさり)を引くペカテの手が、いつもと違うひねりを加える。

 背後で金属音(きんぞくおん)が鳴り響き、確認するより距離を取るべきだと判断したソーニャが横に飛ぶ前に、


「でぇあッッ!!」


 疾走(しっそう)からの跳躍(ちょうやく)、空中での3連撃!


 (すず)しい顔で傍観者(ぼうかんしゃ)(よそお)っていたピュルケの()()りで、ソーニャは背後で(ふた)を開いた鉄の処女(アイアンメイデン)の体内に(たた)()まれた。


「ソーニャ!?」


 息をのみ、口元を(おさ)えたシリルが、悲鳴交(ひめいま)じりの声を上げる。


「まったく。私に肉体労働(にくたいろうどう)をさせないで下さいよ」

「フ、フヒヒ。や、やった。やりましたよソーニャ様ぁ~~ああ!!」


 僧衣(そうい)の乱れを直しながら愚痴(ぐち)るピュルケに構わず、ペカテは(いき)(あら)(ほほ)()め、ソーニャを閉じ込めた鉄の処女(アイアンメイデン)に身体を()()ける。


「そ、そ、ソーニャ様ぁ。い、異端(いたん)の告白をした方が良いですよぅ。この道具ぅ、じ、実戦で使うのは初めてだからぁ、どんなコトになっちゃうか、保証(ほしょう)いたしかねますからねぇ」

異端(いたん)ってなに?」


 鉄の処女(アイアンメイデン)の顔に開いた目の穴から、ソーニャの返答が聞こえる。

 がっかりした表情で肩を落とすペカテ。

 ソーニャが異端(いたん)を認めたからと言って、開放するつもりは最初からない。監獄砦(かんごくとりで)(ろう)幽閉(ゆうへい)し、身に付けた全ての技術を披露(ひろう)し、可能な限り長く拷問(ごうもん)のフルコースを味わって貰う予定だった。


「あ~~ぁあ、やっぱりソーニャ様も聖女ですねぇ。その気高(けだか)き魂ぃ折れるまで、わたしも全身全霊(ぜんしんぜんれい)お付き合いいたしますぅうッ!!」


 ()退()いたペカテは(くさり)を握り、鉄の処女(アイアンメイデン)を振り回し始める。

 充分(じゅうぶん)以上の加速(かそく)を付けた鉄塊(てっかい)を、ペカテは全力で地面に叩きつけた。


「びぇえええぇん! ソーニャ様あ! レーネちゃんが、こんな(くさ)い奴らに捕まったせいで!!」

「臭くはないでしょう」


 ピュルケは泣き叫ぶレーネに一瞥(いちべつ)を投げたが、すぐに戦場に視線を戻す。


 ゴーレム(つか)いでないと言ったのは事実だが、半分は(うそ)。ある程度の指示は出せる。

 残るゴーレムは2体。ペカテは()らえたソーニャに夢中だが、相手は規格外(きかくがい)の奇跡の力を持つ聖女。無力化(むりょくか)し、(ろう)にまで運び込めればいいが、失敗すれば次はない。おそらく(かか)わったすべての者が処刑(しょけい)される。

 異端審問官(いたんしんもんかん)など、(はな)から嫌われ者の(よご)(やく)なのだ。万が一などあってはならない。


鉄の処女(アイアンメイデン)(ふた)が開いたとき見えた。中は鉄釘(てつくぎ)魔晶石(ましょうせき)でぎっしりだったな』


 鉄釘(てつくぎ)だけなら、普段のソーニャなら即座に傷を治癒(ちゆ)し、鉄製の(ひつぎ)さえ難なく破って脱出するだろう。だが、マナを消耗(しょうもう)しきった状態で、魔晶石(ましょうせき)()()められた(ひつぎ)に閉じ込められたら。――もちろん、地底湖で見た巨大な魔晶石(ましょうせき)のように、マナの充満(じゅうまん)したものではないだろう。抵抗(ていこう)できなければ、ソーニャは体内に残った(わず)かなマナさえ吸い尽くされてしまう。


「ソーニャがぐしゃぐしゃにシェイクされるってことでしょう? なに冷静な顔しているんですの! やはり、ここは私が――」

根競(こんくら)べだな』


 鉄の処女(アイアンメイデン)を振り回しては、地面に叩きつけるペカテ。

 目の部分に開いた穴や、(わず)かな合わせ目の隙間(すきま)から、赤い雨が降る。

 外からは、ソーニャがどうなっているかは見えないが、確実に効いている。


「フ、フヒッ。わ、わたしがソーニャ様の初めてぇ、頂いちゃいましたぁ!!」


 始めこそ、中から打撃音(だげきおん)(ひび)いていたが、それももう聞こえなくなっている。


「そう、そう。シリル様ぁ。ど、どれだけ待っても、この拷問具(ごうもんぐ)は壊れませんよぉ」


 ねちゃりとシリルに話しかけるが、視線は鉄の処女(アイアンメイデン)から外さない。


「ま、まだかなぁ? た誕生日のプレゼントと同じで、ギリギリまで見たい気持ちを高めて、(ふた)を開けるまで、が楽しみなんですよぅ」

『誕生日にプレゼント貰う友達なんていなさそうなくせに』


 ペカテは叩きつけた鉄の処女(アイアンメイデン)を、(くさり)を引いて引き戻し、蹴り下ろして地面にめり込ませる。


「そ、ソーニャ様、いまどんな感じですかぁ? こ、声も出せないほどイイですかぁ? ま、まま、まさか、死んじゃったりはしてないですよねぇ?」


 鉄の処女(アイアンメイデン)を抱きしめ、(ほお)ずりしながら聞き耳を立てていたペカテは、目の穴からどろりと(こぼ)れる血を目にすると、ヒュッと息を飲み、(ふる)える指で留め金を外し始めた。


「んんッ!? いけませんッ、ペカテ!!」


 ピュルケが(とが)める声を上げるも間に合わない。


「痛かったよ」


 中からぐいと(ふた)が押し開けられ、血塗(ちまみ)れの手刀でソーニャは鉄の処女(アイアンメイデン)蝶番(ちょうつがい)を破壊した。


根競(こんくら)べはお前の負けだ。ぐちゃぐちゃになったミンチを見たくて、我慢しきれなくなったな』


 ぺたりと尻餅(しりもち)をつくペカテ。

 見下ろすソーニャは右目が(つぶ)れ、全身の至る所に開いた穴からを流している。


 閉じ込められたソーニャは、鉄釘(てつくぎ)に刺される傷は無視し、鉄の処女(アイアンメイデン)の内部で手足を突っ張り、傷を増やし出血することを避け、残り少ないマナが吸収されることに抵抗し続けていたのだ。


「あ、ああぁ……ソーニャ様ぁ~……素敵(すてき)ぃ~……」


 息を荒げ涙を流し、震えながら法悦(ほうえつ)の表情を浮かべるペカテ。

 (ひざまづ)き、女神そのものを目にしたように、指を組み(いの)りを(ささ)げる。

 今殺されるのなら、幸せの絶頂(ぜっちょう)()けるだろう。


「これはお返し」

「ぴぎゃ!」


 心底理解できないまま、ソーニャが半身になった鉄の処女(アイアンメイデン)でぶん殴ると、吹き飛ばされたペカテは黒い馬車に叩きつけられ、残骸(ざんがい)に埋もれて動かなくなった。

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