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わから聖女~いいんですか? 神の声が聞こえるわたしを本当に追放しちゃうんですか?~  作者: 藤村灯
異端審問? 敬虔な聖女のわたしにですか?

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14/20

第14話 聖女なのに審問されちゃうんですか?

 ごとごとと重い音を響かせながら、森の中を走る街道(かいどう)を、黒い馬車の一団が向かってくる。

 馬車を囲んで歩くのも、黒い(よろい)に黒い僧衣(そうい)を着た者たち。手にはメイスやとげ付きの刺股(さすまた)(かぶと)やを目深(まぶか)(かぶ)った黒い頭巾(ずきん)で、表情は(うかが)えない。


『あちゃー、異端審問官(いたんしんもんかん)が出てきたか』


 フテネルが(しぶ)い顔で(つぶや)く。


「んンーッ、第667代聖女・シリル様。実に良きタイミングだったようですね」


 先頭の馬車の御者台(ぎょしゃだい)に座っていた長身の男が、軽やかに()()ち、長身を折り曲げ一礼すると、慇懃(いんぎん)口上(こうじょう)()べる。

「私はピュルケ。尋問官(じんもんかん)(つと)めております。第666代聖女・ソーニャ様。貴女様(あなたさま)には(いく)つかお聞きしたいことがございます。ご同行頂(どうこういただ)けますか?」


 黒い僧衣(そうい)をタキシードのように着こなし、黒髪を後ろにぴっちりと()()け、一部の(すき)もない。物腰(ものごし)はあくまで(やわ)らかいが、(かた)メガネの奥の細められた目は笑っていない。


「ベゼル司祭(しさい)あたりの差し金ですわね」


 異端審問官(いたんしんもんかん)の行動を(しば)るのは、司教(しきょう)大聖女(だいせいじょ)に限られる。司祭(しさい)レベルでは指示(しじ)(くだ)すことはできないが、シリルがソーニャに指摘(してき)した事柄(ことがら)に、ベゼル司祭の讒言(ざんげん)が加われれば、異端審問官(いたんしんもんかん)が動く十分な理由にはなりうる。


「なに? 行って話してくればいいの?」

阿呆(あほ)! 審問(しんもん)なんて名ばかりだ。捕まったら、あいつらが望む証言(しょうげん)を口にするまで、延々拷問(えんえんごうもん)が続くだけだ。素直に付いてったら最後――』


「ぴえぇええぇん!! 助けてソーニャ様ぁあ!!」


 馬車に続く荷車には、巨大な鳥籠(とりかご)めいた(おり)()せられ、中にはプラチナブロンドの少女、レーネが(とら)われている。


 髪は乱れ、白い修道服(しゅうどうふく)は汚れ、手には手枷(てかせ)、足首には(くさり)(つな)がれている。目立った怪我(けが)はないが、(おり)に入れられたままここまで護送(ごそう)されてきたらしく、憔悴(しょうすい)しきっている。


『あの馬鹿、上手くごまかせなかったか』

「レーネちゃんは申し開きも聞いてもらえず、拷問(ごうもん)されちゃうってこと?」


 怒りでもほほ笑みでもなく、ソーニャはすんと表情を消して(つぶや)く。

 その反応の意味を知っているシリルはぎょっとし、(あわ)てて口を開いた。


「お待ちなさい。第667代聖女・シリルの名において、この件は預かります。引いて頂けませんか?」


 は? と馬鹿にしたように目を見開き、ピュルケはさも楽し気に笑った。


「我々は聖女であるソーニャ様を審問(しんもん)しようというのですよ? (あらが)うなら貴女(あなた)審問(しんもん)リストに加わるだけです。レスタリアのご家名(かめい)に傷をつけるおつもりですか?」


 (あん)家柄(いえがら)だけで聖女に認定(にんてい)されたと()(こす)られ、シリルは唇をかむ。


『あの男の言うとおり、先にシリルが動くと切れる手札(てふだ)が少なくなる。なあに、ソーニャが(つか)まらず、レーネを(うば)い返せればいいだけだ』


 異端審問(いたんしんもん)の対象には聖女も含まれる。だが、アスタリア王国建国以来、異端審問(いたんしんもん)に掛けられた聖女はただの一人も存在しない。聖女は時には司教や国王以上の崇拝(すうはい)を集め、時には女神フェルシアの現身(うつしみ)とまで賛美(さんび)される存在。不用意に異端(いたん)(うたが)いを掛けようものなら、掛けた側が破戒者(はかいしゃ)断罪(だんざい)されるからだ。


『それに、捕縛(ほばく)もできないのに、尋問(じんもん)できるわけないだろ』


 悪い笑みを浮かべるフテネルに、シリルは表情を(くも)らせたまま引き下がる。


「でも、とても悪い予感がします」


        §


 20人ほどの黒い僧衣(そうい)異端審問官(いたんしんもんかん)たちがソーニャを()(かこ)む。

 その姿に、ふとシリルは何か違和感(いわかん)を覚える。


「ぴぇええぇん! ソーニャ様ぁあ!」

「だいじょうぶ。ちょっと待ってて」


 ソーニャは、(おり)の中で泣きわめくレーネに微笑(ほほえ)んで見せる。

 異端審問官(いたんしんもんかん)たちの得物(えもの)鈍器(どんき)捕縛道具(ほばくどうぐ)。ソーニャの治癒能力(ちゆのうりょく)を知っているためか、攻撃の手に一切の躊躇(ちゅうちょ)がない。


「数が多いからね。すぐには(いや)してあげられないよ」


 マナ不足の現状、倒した瞬間(いや)()()()()方では、行動不能に(おちい)る恐れがあるため、ソーニャも容赦(ようしゃ)しない。相手の意識を完全に失わせるか、手足を(くだ)き、道具を(あつか)えないよう叩きのめす。


 分銅鎖(ふんどうくさり)刺股(さすまた)(さば)きつつ、目まぐるしく(こぶし)()りを放ち続けるソーニャ。

 見守っていたシリルは、いつまでたっても終わらない立ち回りに、ようやく違和感(いわかん)の正体に気付けた。


「ソーニャ! この方たち、人間ではありませんわ!」


 戦棍(せんこん)をかわしつつ、異端審問官(いたんしんもんかん)の頭に(まわ)()りを入れたソーニャは、()()った頭巾(ずきん)の下に、のっぺりとした木偶人形(でくにんぎょう)の頭部を見た。


『あいつ、ゴーレム(つか)いか!?』


 フテネルの声に尋問官(じんもんかん)に向きなおろうとしたソーニャは、飛来(ひらい)した鉄塊(てっかい)()()ばされた。


「ピュルケ。先に始めるなんてズルいよォ」

貴女(あなた)鈍間(のろま)なのがいけないのですよ。だが、まずまず良きタイミングです」


 よれよれの修道服(しゅうどうふく)を着た、恐ろしく姿勢(しせい)の悪い小柄(こがら)な女がピュルケに並ぶ。


 手入れされていないぼさぼさの長い黒髪(くろかみ)。右目は(かく)れているが、どろりと(にご)る黒い目の下には、()(くま)が描かれている。


「よいしょっと」


 小柄(こがら)な女は、帯代(おびが)わりに腰に巻いた長い(くさり)をぐいと引く。ソーニャを()()ばした鉄塊(てっかい)を引き戻すと、ぶつかる手前で()()とした。

 鉄製(てつせい)棺桶(かんおけ)のようだが、大雑把(おおざっぱ)に人を()した造形がされている。


趣味悪(しゅみわり)ぃ。拷問具(ごうもんぐ)(てつ)処女(しょじょ)か? ああやって使うもんじゃねーだろ』

「まともに(くら)らうなんて、ソーニャ、マナだけじゃなく、体力も集中力も限界(げんかい)なんじゃありませんの?」


 シリルの懸念(けねん)に、フテネルは(まゆ)をひそめるだけで応えない。

 魔晶石を砕いた際、放出しきったマナが、まだ充分に戻っていないと知っているからだ。


 多少ふら付きながらも立ち上がったソーニャに、鉄の処女(アイアンメイデン)に隠れるように()()う女は(ほほ)()め、もじもじと()じらいながら名乗(なのり)りを上げた。


「フヒヒ。わたしはペカテ。ソーニャ様を審問(しんもん)する、拷問吏(ごうもんり)ですよぅ」

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