第11話 マナを吸い取っちゃうって本当ですか?
倒れていた聖堂騎士たちが意識を取り戻し、動けない者を運び引き上げた後。ソーニャたちは教会に招かれ、レーネから話を聞くこととなった。
「ここがマナの泉だったのはホント。聖魔戦争前からニクスやニクセが棲みつき、泉守りに棲家を守ってもらう代わりに、マナの豊富な水を分けてくれてたの。今はもうこの子だけになっちゃったけど」
レーネは小瓶に戻ったアシュレと目を合わせる。
「レーネが聖女候補ってのは盛った話ね。薬草や鉱石の勉強して、年々効き目の薄くなるマナ水の代わりを作ろうとしただけ」
『あたしが見えるんだから、お前にもそれなりの力はあるはずだぞ。聖女になれるかは知らんけど』
フテネルに褒められたのだと悟り、レーネは俯いてもじもじする。
「お婆ちゃんにあげるマナ水には、ちゃんとマナを込めてたんでしょ。マナドリのほうはやりすぎだったけど」
水汲み場での騒ぎの後、再び腰の曲がった老婆に尻を叩かれ、「レーネちゃんを苛めるんじゃないよ!」と叱られたのだ。
「マナドリの稼ぎでも、薬草や鉱石を買い込んだ分にまだ足りなくって。追放されたとはいえ、聖女の資格を持つ人に知られたら、レーネもうお終いかもって思って」
「依存性の強いのはまずいけど、疲労回復の飲み物なら、うちにも卸してほしいな」
「マジ? アリ寄りかな?」
そろばんを弾くメルに、レーネは顔を輝かせる。
「う、うーん? 国が禁止してる薬物でなければ、いいのかなって」
「パねぇ、マジアガる! ソーニャ様尊みの極み。マジ聖女!!」
よく理解できないリスペクトと共に首元に抱き着かれ、キスの雨を受けながら、ソーニャは曖昧な笑みを浮かべる。
『この町の水源は? 昔から精霊が棲みついてて、今でも一体とはいえ棲んでるんだ。調べる価値はあるんじゃねーか?』
§
ハスレの南にそびえる山脈。メルを町に残し、レーネの案内で向かった山肌に、ソーニャはマナの濃い場所を見つけた。
木立に隠れ、目視ではしかと確認できないが、マナを頼りに探すソーニャたちには、人工の建造物らしきものが存在するのが分かる。
「あそこ、何かある!」
『ありゃ聖堂か? なんであんな所に』
生まれたときからハスレで育ち、教会に関わりの深いレーネも、知らないと首を振る。
「レーネは聖堂騎士の人たちから、山の施設で任務が――なんて話聞いたことないし」
「異教徒の教会だったりして?」
アスタリア王国で聖堂を構えるほどの教団を、ソーニャはフェルシア教団以外で見たことがない。東方や南方、あるいは魔族領まで広げれば、ありはするのだろうが。
『アリーセがいたら分かったかもな』
巧妙に隠されてはいるが、人が通った形跡はある。ふわふわと漂うフテネルや、体力お化けのソーニャについて行けず、すぐにへたり込んだレーネを背負い、峻険な山肌を登る。
探し当てた背の低い聖堂のような構造物からは、山肌を削り掘られた洞窟が続いている。
「この奥かな?」
「こわいよ~」
漆黒の闇に怯えたレーネが、ソーニャの首筋にしがみつく。
ソーニャも見えてはいないが、フテネルの先導を頼りに道なりに下り続ける。
どれくらい歩いただろう。やがて巨大な石造りの扉に行き当たった。
『秘術師の魔術錠か? 見たことない代物だな』
「いまどき魔術ってマジありえない」
『お前なー。魔術師なんて、ほんの100年前にはごろごろいたんだぞ?』
「いないから秘術師呼ばわりなんだよねえ」
魔術錠の放つ淡い光のおかげで、レーネに軽口を叩く余裕が戻る。
ソーニャはレーネを下ろし、マナを込めた拳で錠をぶん殴った。
「いったたた……やっぱ無理か」
『馬鹿。そのための錠だろ馬鹿』
「2回目の馬鹿は余計かなって」
ソーニャは拳をさすりながら、しばらく門扉を眺め考えていたが、
「これならどう!?」
扉の蝶番にあたる岩肌を、ありったけの力を込め殴り付けた。
『馬鹿だ……馬鹿がいる。だが、錠を掛けたやつは、こんな馬鹿まで想定してなかったようだな』
「ソーニャ様マジリスペクト」
少しづつ、確実に削られる岩肌を目にし、レーネはぽかんとした表情を浮かべている。
ごとりと重い音を立て扉が傾くと、人がどうにか潜れる程度の隙間が開いた。
「よし、行ってみよう!」
岩肌に付いた生々しいソーニャの血の跡を凝視し、今度こそレーネは言葉を失い黙り込む。
中は自然の物らしい空間が広がっており、足元には水が溜まり、地底湖ができている。山に降った雨が一度集まり、ここを起点に伏流水や川となり、山裾に流れているようだ。
「すご~い!!」
ソーニャの目を奪ったのは、湖面からそびえ立つ、見上げるほどに巨大な、水晶に似た結晶体。
『これは……魔晶石か? こんなサイズ、天界でもなけりゃ――おいソーニャ、うかつに近寄るな!』
めまいを感じふら付いたソーニャに、フテネルが警告を放つ。
『マナは本来循環するものだ。余剰になるほどの土地でなければ、自然にこんな大きな結晶ができるはずもない』
「いったい誰が……あ、ソーニャ様!?」
ふら付きながら近寄ろうとするソーニャは、あっけなく水面に向かい落下する。幸いなことに、水深は浅すぎず深すぎず。ソーニャはそのまま立ち上がり、水に浸かりながら、ふらふらと魔晶石に歩み寄る。
『馬鹿! 離れてろって。これだけ大きいと、お前でもヤバいぞ』
「だいじょうぶ。気を抜かなきゃ、持ってかれる程ではないから」
周囲を飛び回り、警告を続けるフテネルに笑って見せると、
「誰が作ったか分からなくても、少なくともレーネちゃんの泉がマナ枯れを起こした原因は分かったよね」
魔晶石の元に辿り着いたソーニャは、軽く足を開き構えると、
「分からせなきゃ」
渾身の力で魔晶石を殴りつけた。




