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野人転生  作者: 野人
欲望の都市

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人狼一体

コミック十二巻、発売中です!

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よろしくお願いいたします。

 街道に合流すると人の往来が増える。


 パピーに姿を隠してもらおうとしたが、フードは穴だらけで俺の体液まみれ。


 とてもじゃないが使用できない。


 森の浅層に隠れてもらうようにお願いしたが、こんな状態の俺を置いて森に行くことはできないと断られた。


 ちらりとパピーに目をやると、強い意志を宿した瞳と視線がぶつかる。


 今は説得している時間もエネルギーも惜しい。


 こんな状態でパピーを守れる気がしない。それに、まだトゥロンでの足元が固まっていない。


 パピーの存在を知られるのは避けたかったが、パピーの目を見て説得を諦めた。


 誰に似たのか知らないが、こうなるとパピーは頑固だ。


 ここはパピーに甘えるとしよう。




 街道に出ると、商隊やその護衛たちが大勢行き交っていた。


 護衛たちは俺の異様な姿に警戒を強める。パピーも子供とは言えモンスターだ。


 怪しいやつがいるな、念のためぶっ殺しておくか。そんな感じで来られたらたまらない。


 護衛たちを刺激しないよう、街道の端っこを歩く。


 道端は少し荒れていて歩きにくい。普段ならどうってことないが、今のコンディションだと地味に辛い。


 もはや痛みも感じない体をなんとか動かしながら、パピーと街道を歩き続けた。


 


 冒険者用の門に着いたが、良くない視線を感じる。


 死にかけの美味しそうな獲物に見えるのだろうか? でも、何もねぇぞ。服はボロボロ。荷物も金も持っていない。


 あるのは、新米冒険者から奪ったボロボロの錆びたナイフだけ。


 いくら簡単に殺せそうな相手とは言え、旨味が無ければ仕掛ける意味はない。


 それとも、対立組織の人間か? 組織は関係なく、俺個人に恨みがある人間の可能性もある。


 どちらにしろ厄介だ。


 戦う力どころか、生命活動を維持するエネルギーすら危うい。


 俺が囮になってパピーに仕留めてもらうしかねえ。


 研ぎ澄ます。


 余計な情報はすべて遮断する。


 景色から色が消えた。


 門に並んでいる冒険者たちの息遣い。


 心臓の鼓動。


 体温。


 汗や分泌されるホルモンの匂い。


 パピーとお互いの死角を消すように歩く。


 感覚がリンクする。


 人間の優れた視覚がパピーに。


 パピーの優れた聴覚や嗅覚が俺に。


 回路《パス》を通して、感覚が共有されていく。


 人馬一体ならぬ、人狼一体。


 死にかけることで。人としての輪郭があやふやになるほど追い込まれることで。


 種族の違うパピーの感覚がバイアスなしで伝わってくる。


 不思議な感覚。だけど、心地いい感覚。


 俺に嫌な視線を飛ばしている冒険者はあいつか。


 汗の匂いから緊張が伝わる。


 微細な表情から人に危害を加えようとしているのが分かる。


 こわばった筋肉から、あいつのストレスが伝わってくる。


 俺は静かに目を向けた。


 男と目が合う。


 睨みはしない。ただただ観察する。


 感情を消し、余計な情報をカットする。


 ゆっくり歩きながら、観察し続ける。


 男の鼓動が早くなり、匂いが変わった。


 これは……緊張じゃない。


『恐怖』だ。


 俺は牙を剥くようにニヤリと笑った。


 男の鼓動は更に早くなり、額に汗が浮かぶ。


 俺は男から視線を外す。


 もう大丈夫だ。あいつは襲ってこない。


 冒険者たちは何故か道を譲ってくれる。


 俺は不思議な感覚のまま、足を進めた。






 門番は見知った顔だった。


 M字ハゲのおっさん。アルフォンスさんだ。


 さっきの不思議な感覚は消え、ふっと意識を失いそうになる。


 知り合いの顔を見た途端、気が緩んだようだ。


 だめだ、気を抜くな。


 アルフォンスさんはいい人だが、俺は犯罪組織の構成員で相手は衛兵。


 ここで気を失えば、そのまま拘束される可能性もある。


 最悪、意識を失ったまま二度と目覚められない可能性も……。


 俺は必死で意識を保ちながら、アルフォンスさんに言った。


「少し、ヘマをしました。ギルドから発行された木札を紛失してしまいました。後日、入市税を払いますので、今日のところは通して頂けないでしょうか?」


「あ、ああ。それはいいんだが、ヤジンお前大丈夫か? すぐに薬師を呼んできてやる」


 アルフォンスさんが魅力的な提案をしてくれるが、立場上衛兵に借りは作りたくない。


 木札の件は入市税を払えばいいとルールで決まっているが、薬師を呼んでもらう。命を救われるってのはどでかい借りだ。


 死にかけた状態でそんなことを気にしている場合じゃないとは思うが、それでも弱みを見せられないのが裏ギルドの辛いところ。


 衛兵に命を救われたなんて噂が広まれば、エムデンやドミニクがどんな反応をするか分からない。


 せっかく生きて町までたどり着いたのに、上役の怒りを買って死ぬなんてのは笑えない冗談だ。


 楽に死ねない分、道中でくたばるより悲惨なことになる。


 


「それで、ヤジン。そのちっこいのは?」


 アルフォンスさんがパピーを見ながら聞いてきた。


「森でテイムしました。こいつのお陰で死なずに済んだんです。後で従魔登録するので、町に入れても大丈夫でしょうか?」


 俺がそう答えると、アルフォンスさんは少し悩んでから言った。


「分かった。ちゃんと登録してくれよ」

「ありがとうございます」


 パピーの見た目がもっと凶暴に見えたら、一悶着あったかもしれない。


 容姿で得をするのは、どの世界でも同じらしい。


 荷物もなく、装備は破損した防具とボロボロの服。錆びついて血塗れのナイフがベルトに挿してあるだけ。


 こんな状態で荷物のチェックもクソもない。


 森で死にかけてからようやく、町の中までたどり着いた。


 ふっ、と意識が遠くなる。


 安心するな、達成感を感じるな。死ぬぞ、ヤジン。


 くそったれが、舌を噛む力すら残ってねえ。


 痛みによる覚醒すらできない状態で、俺は足を進める。


 すれ違う連中が、無遠慮な視線を投げてくる。


 裏ギルドの一員として、こんな姿を晒すのは良くないが仕方ない。


 舐められても後で挽回すればいい。


 衛兵に命を救われた裏ギルド構成員の称号よりはマシだ。


 歩き慣れた薬師ギルドまでの道のりがやけに遠く感じる。


 絶望しそうになるが、それでも前へ。ゴールが設定されている地獄は優しい地獄だ。


 この程度で俺がくたばるかよ! くたばってたまるかよ!

 


 薬師ギルドが見えてきた。


 気を抜かないよう自分を戒めつつ、なんとか薬師ギルドの受付へと到達する。


 納品のときに何度か話したことのある人だ。


「ヤジンさん! どうしたんですか!」

「ちょっと蟻にやられまして、治療をお願いします」

「どこが『ちょっと』なんですか! 先生、エメリッヒ先生!!」


 受付さんが慌ただしく奥へと走っていく。


 気は抜けないが、これで生存率が高くなった。


 パピー、どうやら今回も生き残れそうだ。


 今後のことを考えると頭が痛い。


 だけど、今後のことを考えられる状況になったことを今は喜ぼう。

カクヨム様で先行公開中。

こちらも、よろしくお願いいたします。


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