駆け出しの冒険者
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「どうした? ボロボロじゃねぇか。へへへ」
眼の前の男は、下品に笑いながらサビの浮いた短剣を抜く。
歪んだ口から覗く歯は黄色に染まり、髪は油でギトギトだ。
冒険者に整った身だしなみを求めるのは難しいが、こいつらは特に汚い。
スラムの住人よりは「ややマシ」といったところ。
抜いた短剣もひどいもので、灰色狼にすら刃が立たない「なまくら」だ。
冒険者の中でも底辺にいる雑魚。
体調が万全なら、三十秒もあればこいつら四人を全滅させられる。
しかし、今はまずい。
男たちは武器を抜き、いやらしい笑みを浮かべて近づいてくる。
俺と距離が一番近い男が、攻撃の届く間合いに入る。
そのときだった。
男の肩に、ふわりと音もなくパピーが乗る。
肩の重みに気を取られ、男が横を振り向こうとした瞬間——
ボヒュッ、と風切り音が聞こえ、男の頸動脈が周囲の肉ごとえぐり取られた。
パピーはえぐり取った肉片をぺっと吐き出すと、男の肩を発射台にして次の獲物へと飛び出していく。
「へ? え、え、ええ? なんで……」
男はサビの浮いた短刀から手を離すと、出血を止めるため首に手をやる。
重力に引っ張られた短刀が、トスッと浅く地面に刺さった。
頸動脈からの出血は、手で圧迫したくらいでは効果がない。
大量の血が、抑えた手の下から溢れてくる。
俺は短刀を拾うと、左手で保持し、右掌の一番下——骨の部分をナイフの柄にそっと添えた。
無駄な力は使えない。だから、重さと構造で殺す。
重さを乗せ、骨で、人体の構造で衝撃を支える。
水平に寝かせた刃が、軽い抵抗の後スルリと人体に飲み込まれていく。
心臓を刺された男は、目を見開き驚いた表情をしていた。
少しすると、男は真後ろにバタンと倒れた。
保持していたナイフから、人体がスルリと抜ける。
視線の先を変えると、パピーがふたり目を仕留めるところだった。
回路で「深追いはしなくていい」と伝えると、パピーが俺の近くに戻ってくる。
パピーに人殺しをさせてしまった。
でも、人間だけを特別扱いするのは傲慢だよな。
俺も人を殺すし、パピーの同族だと思われる狼系のモンスターも散々殺している。
パピーは俺に忌避感を抱いていない。俺も、パピーに含むところはない。
そんなことを気にして生きていけるほど、ぬるい世界じゃないからな……。
それよりも、こいつらの物資を漁ろう。
仕留めた男たちの貧相な荷物を漁るが、ろくなものがない。
装備の貧弱さからも想像はついた。
こいつらは「駆け出し冒険者」なのだろう。
汚れた肌、ボサボサの髪。歯もボロボロだ。
しかし、よく見ると少し幼さが感じられる。
ラノベでよく見る、新品の装備に身を包み初々しい駆け出しの冒険者などとは違う。
例外を除き、冒険者なんてのは底辺がなるものだ。
駆け出しの時点で装備が揃っていることなどありえない。仮に揃っていたとしても、『同業者』に狩られて冒険は終わる可能性が高い。
底辺から這い上がろうともがいていた若者を殺したことに思うところはあるが、殺さなければ殺されていた。
くだらない思考に労力を割く余裕はない。
俺は漁った物資の中から、何の肉が使われているのかわからない干し肉を軽くかじる。
塩っ辛くて硬い。うま味もクソもない、臭い肉。
しかし、毒は感じられない。
俺はガジガジと硬い肉を力任せに噛み、一切れをパピーに差し出す。
ふたりでまずい干し肉をガジガジと噛みながら、漁った物資にあった水筒の水を分け合う。
いくら底辺といえど、冒険者。水筒の水は煮沸くらいされているだろう。
違ったのなら、腹を下してくたばるまでだ。
ここで水分とエネルギーを補給しておかないと、今すぐぶっ倒れそうだからな……。
しばしの休憩を終えた俺は、錆びたナイフを腰のベルトに差す。
こんななまくらでも、ないよりはマシだ。
駆け出しがいたということは、森の浅い部分に違いない。
町はもうすぐだ。
ただ、町が近いということは「人と接触する」機会も多くなる。
街道まで出れば人通りも多い。
人通りの多い街道で、堂々と襲撃される可能性は低いはずだ。
最初はどうなるかと思ったが、補給物資を手に入れられてよかった。
俺にとどめを刺す死神かと思ったが、物資を補給してくれるボーナスキャラだったらしい。
俺にも運が向いてきた。
パピー、もう少しだ……もう少しで町へたどり着く。
絶対に生き延びるぞ。
俺たちは目を合わせ、強く頷き、足を前に進めた。
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