くそったれめ
コミック十二巻、本日発売です!
あとがき下のバナーをクリックしていただくと、販売リンクに飛べます。
よろしくお願いいたします。
一歩踏み出すごとに、鉛のように重い体が馴染んでいく。
反応の鈍い肉体も、強烈な痛みも、すべてが最適化されていく。
動く、動かせる。
これなら、いける。
体の不調を慣らしながら、気配察知を発動する。
少しずつ、少しずつ。
集中力を乱す不快な信号を当たり前のものとして受け入れつつ、スキルへの集中力を増していく。
発動した! 範囲は狭いが、気配察知を使うことができた。
スキルを維持したまま、少しずつ足を進める。
そして、気配察知の範囲を徐々に広げていく。
いいぞ、苦痛に「体が馴染んだ」。
周囲を警戒しながら、流れの反対方向へと川を登っていく。
体調が万全なときとは比べようもないが、今は「それなり」に動けている。
なんだ、体はまだまだ動くじゃないか。
俺の体にはこんなにも生きる力が残っていたのに、俺は諦めようとしていたのか……。
情けねぇ。
病は気からとは言うが、苦痛で心が折れていたらしい。
今も気を抜けば、涙があふれ、口からは弱音が出そうになる。
それでも、俺の肉体はまだまだ生きようとしている。
生きる力が、生きる意志がそこにはある。
ならば、俺も肉体に応えなければいけない。
せめてパピーを救うまでは……。
いや、ふたりで生きて森を抜けるんだ。
生きる。 ふたりで生き残るんだ。
絶対に……。
気配察知の反応!
これは、追われている?
小さな反応を、五頭の狼が追いかけている。
俺は、追われている小さな反応へと向かった。
追われている反応も俺に気づいたのか、こちらへまっすぐ向かってくる。
やがて、回路がつながる範囲内へとお互いが接近する。
強烈な感情の渦。
歓喜、安堵。
言葉を交わさなくても、お互いがお互いを思いやる気持ちが一瞬で理解できた。
そして、その感情は緊迫感へと切り替わる。
そうだ、追手がいる。
瀕死の状態で、狼たちに勝てるのか? 不安や恐怖が湧き上がってきた。
俺は呼吸を落ち着かせると、すっといつものように構えた。
すると、体に力がみなぎってくる。
これは……空手スキルか。
呼吸や姿勢が乱れたため、発動が解除されていたようだ。
転生してから、ずっと俺を支えてくれたスキル。
ずっと共に歩んできた存在。
そうだった。お前も大事な『相棒』だったな。
よう、相棒。
一緒に相棒を救おうぜ。
ドクンと心臓が鳴った。
俺の思い込みかもしれないが、相棒は答えてくれた気がした。
茂みから飛び出すように、パピーがこちらへ向かってくる。
その後を追うように、五体の狼が飛びかかってきた。
灰色狼! これなら対処できる!
飛びかかってきた灰色狼の首に手刀を叩き込む。
バギッ! と骨の砕ける音。
それと同時に、足元から伸び上がるように首筋を狙う灰色狼。
速い! 避けられねぇ!!
俺はとっさに、灰色狼を抱きしめる。
首筋に牙が刺さる感触。
牙が深く刺さる前に、俺はクラッチを組み、灰色狼にサバ折りを仕掛けた。
両手で引き寄せつつ、上体を被せ、背骨をへし折る。
バキバキバキ! 背骨が粉々に砕ける音とともに、首筋に噛みついていた灰色狼から力が抜ける。
動きを止めてしまった代償に、俺の両足はほかの灰色狼に噛みつかれていた。
しかし、レベル差のおかげか傷は深くない。
俺は抱きしめていた灰色狼を放り投げると、噛みついたまま頭を振り回し、俺の肉を食いちぎろうと四苦八苦している二頭の灰色狼を、一匹ずつ殺していく。
鉄槌を頭部に振り下ろすと、灰色狼の頭部は簡単にグシャリと潰れた。
昔はこいつらを倒すのも命がけだったが、ずいぶん簡単になったものだ。
俺も強くなったもんだ。
そう思いつつ、パピーに首筋を噛み切られ、血だまりに沈む最後の一頭を見ていた。
できればパピーとの再会を心ゆくまで楽しみたいが、今は生存が第一。
ナール草で簡単な治療を済ませ、町へと向かう。
さっき暴れたせいか、体から急速にエネルギーが失われていくのを感じている。
まっすぐ歩きたいのだが、気がつけばふらふらと体がよれている。
どうやら、マジモンの『限界』が近いらしい。
パピーの先導のおかげでモンスターには遭遇せずに済んでいるが、俺の流す膿や血の匂いに誘われてモンスターが襲撃してくる可能性がある。
日が落ちてしまうリスクもある。
できればもっと早く移動したいが、体が思うように動いてくれなかった。
ただ、いいこともある。
すべての感覚が鈍ってきたおかげで、あまり痛みを感じなくなってきた。
これで、移動に集中できる。
どれくらい歩いただろうか。時間の感覚が曖昧だ。
日はかなり沈み、周囲は薄暗くなっている。
それにしても、水が飲みたい。
唇がカサカサで声も出せない。
俺の体液で湿っていた袖はすでに乾燥し、体液がパリパリになっている。
膿や体液を垂れ流す水分すら、体には残されていない。
我ながら、よく生きているものだ……。
ふらふらとゾンビのように歩きながら気づく。
ここらへんは見覚えがある。
かなり人里に近いはずだ。
もう少し、もう少しだ。
助かるかもしれない。
胸に希望の火が灯る。
だけど、油断してはいけない。
神は——この世界は、くそったれだ。
それを考えると、油断などできるはずもない。
ほらな。
気配察知に四人組の反応がある。
この動きは確実に『人間』だ。
弱った今、もっとも会いたくない相手。
まったく、この世界はくそったれだぜ。
ギラついた目でこちらを見る、風体の悪い男たち。
スラムの住人よりはいくらかマシか。
だが、どう見ても『人助け』をしてくれる紳士には見えない。
人里に近づけば、当然ながら人と接触する機会は増える。
ゴール地点付近が一番の危険地帯。
まったく、素敵すぎて笑えてくるぜ。
心の底から思う。
ああ、くそったれめ。
カクヨム様で先行公開中。
こちらも、よろしくお願いいたします。
https://www.kadokawa.co.jp/product/322312000758/





