7.「いやー、センパイならこういう迂闊な行動を取ってくれると信じてましたよー」
「センパイ。貴方はこの世で最強の存在になってください」
マキはそう言った。
言ったのだが、ずいぶんとフワッとした表現だ。
最強の存在というのが何に対しての最強なのかわからない。
「なので、まずは私の所有権をセンパイに移します」
「なのでの意味がまったくわからないんだけど……」
「私がセンパイの物になるということです。よかったですね、この体も好き放題できますよ?」
「するわけないだろ」
たしかにマキの見た目は良い。
誰がどう見ても美人だ。
だがバイトの後輩なので、異性というよりも女友達のほうが適切だろう。
男女間での友情は成立しないというが、今のところは成立している。
なので今後もその調子でいるつもりだ。
マキが何やらセクシーポーズをキメているが、今に始まったことじゃないのでスルーする。
「それで、所有権ってのは具体的になんだ?」
「むー。無反応というのもそれはそれでセンパイのことが心配になりますね。まあいいでしょう。コチラをご覧ください」
マキが体の前で手を振ると、ホログラムで一隻の船が映し出された。
「センパイは今、この船の中核部分にいます。つまり私の一番デリケートな場所にいるわけです。イヤーン♡」
「……こ、この船に今乗ってるってことか?」
「スルーしましたね……まあいいでしょう。そうです。この船こそが私であり、私こそが船なんです」
漫画やアニメにそういう設定の物がいくつかあったな。
マキの言ってることが本当なら、この船が俺の物になるということか?
……なんで?
どこにでもいるような平凡な大学生の俺を選んだ理由はなんだ?
ただバイト先の先輩だった。というだけの理由ではないはずだ。
そうなるとあの時マキに宣言したように、俺がまたゲームの頂点に上ってもらうため……か?
この時、俺はどんな顔をしていたのかわからないが、マキはこう言った。
「そんな顔しないでくださいよセンパーイ。無理強いするつもりはありません。でもセンパイならきっと受け入れてくれると信じています」
声は明るいが、マキは少し悲しそうな顔をしていた。
もうここまで来たら今更か。
「——どうやったら所有権とやらは俺に移るんだ?」
「…………いいんですか?」
「後輩が困ってるなら手を貸すさ」
途端にマキの表情はパアッと明るくなった。
「さすがセンパイ! やっぱり可愛い後輩の頼みは聞きたいですよね!?」
「やっぱりなしで」
「そんなあ!?」
「冗談だよ。ほら、さっさと終わらせるぞ」
マキに近寄り、改めて目の前のクリスタルに目を向ける。
大きさは……どうだろうか。
正確な数字はわからないが、先ほど乗っていたアイゼンよりも大きい。
改めて見るとでけえな。
あまりの非現実的な光景に手を差し伸べ、触れてみる。
すると——クリスタルが一際輝き出した。
「認証完了。前任の所有権を放棄し、現所有権を不破庵に変更——承認。以後、所有権の保持者は不破庵として保存。引継ぎシーケンスを開始——」
マキの雰囲気が急に変わり、無機質な声でそう言い出した。
クリスタルの輝きは増していき、俺の視界を光が埋め尽くした。
しばらくして光が落ち着くと目の前にマキの顔があった。
「うおっ!!」
「おめでとうございます! 無事に所有権の移動が完了いたしました~! いえ~い! ドンドンパフパフ~♪」
マキは何処から取り出したのかわからないが、紙吹雪を振りまきながら俺の周りをまわり出した。
……クリスタルに触れたら開始する、と一言欲しかった。
これじゃあ半分強制じゃねえか。
「いやー、センパイならこういう迂闊な行動を取ってくれると信じてましたよー」
「そうかそうか。で、所有権を放棄するにはどうしたらいいんだ?」
「あー、残念ながらクーリングオフは受け付けていないんですよねぇ。自分の迂闊さを恨んでくださると助かりまあーす」
「ほんとお前は……まあいいだろう。そのうち後悔させてやるとしてだ、この後はどうするんだ?」
「そうですねー。とりあえずそろそろ夕ご飯でも食べましょうか。他の細かい説明は食べながらしますんで」
頭痛くなってきた。
いきなり別の世界に来て、化け物と戦って、謎の船の所有権を得た。
しかも今まで親しくしていた後輩は人間じゃないときた。
ホントアタマイタイ。
俺がうんうん唸っていると、マキが声をかけてきた。
「……センパイ。先に戻って休んでてください」
「どうした急に」
「所有権の再設定に関して少し作業があるので。部屋の隅にある装置で入り口に戻れますのでゆっくりしててください」
「アレか。ならそうさせてもらうよ」
部屋の隅にあるガラス張りの円形状の柱に向かう。
正面に立つと自動ドアのように開く。
中に入ればいいのかな? そう思いながら中に入るとガラスが閉まり、ディスプレイが浮かび上がる。
……この船の全体MAPの様なモノが現れたが、先ほどの部屋がどこに在るのかわからない。
「——あっ。それぞれの部屋の名前追加しておきますねー。先ほどの部屋は『転移部屋』にしておきましたので、画面をタッチして移動してください」
頭上から館内放送的なマキの声が聞こえた。
すぐにMAP上の各場所に名前が書きこまれた。
たしか『転移部屋』だったな……。
空中に浮かび上がる画面をタッチすると、ガラスが一瞬で白くなり——最初に訪れた部屋に転移した。
「おぉぉ……すごいな……」
ガラス張りの柱——もとい移動用の柱から出ると、最初に訪れた部屋にワープしていた。
瞬きするほどの時間であの距離を移動した、その事実にテンションは上がるも今は休みたいという気持ちの方が勝っている。
早く座って休みたい……が、例の白い膜が待ち受けていた。
しばらく白い膜の周りをウロウロし、躊躇いながらもなんとか潜り抜け、この世界の俺の家へと戻った。
◆
巨大なクリスタルが浮かぶ部屋に佇むマキは、庵が転移したのを確認すると声をあげた。
「なんか用?」
『——何故所有権を地球人に譲渡した。納得のいく説明を求める』
『同意。我も回答を求む』
『人間、下位存在。故に謎。理解不能。致命的バグ?』
不意に響く機械音声。
常人では知覚することすら不可能な周波数帯の音を前にしても、マキは平然としていた。
「あーはいはい。私はアンタらとは違う方法をとるって大分前に言ったじゃん。いまさら文句言われても困るんだけど?」
『肯定。しかし全権を委託するとは思わず』
『旧式である貴艦を我々の作戦に組み込まぬのは道理の話。故に単独行動を認めた』
『人間、脆弱な下位存在。故に我等が導く』
マキは露骨に舌打ちをしたあとに声を荒げた。
「さっきからギャーギャーとうるさいんだよ! お前らは私に好きやることを認めた! なら今更文句言ってんじゃねえ!!」
『……承知した。今後、我々の協力は得られぬと思え』
『同意。我も同じく』
『致命的バグ。通信拒絶。孤立無援』
それっきりナニカからの通信は途絶えた。
静まり返る部屋に一人残されたマキは人間のように息を整える。
「さーて、やっと鬱陶しい連中とも縁が切れましたね~」
両手を上げググーッと伸ばすと体を解す真似をした。
髪の毛を両手でワシャワシャと掻きむしると、黄金に輝く髪から茶色の髪型へと変化する。
「よっし! それじゃあセンパイの為に夕飯でも作ってあげますかねー」
マキはこれから作る料理を構想しながらクリスタルのある部屋を後にした。
よかったらブックマークとポイントおなしゃーっす




