6.「センパイ。貴方はこの世で最強の存在になってください」
「私の正体は、高次元機械生命体の一人です」
目の前に座るマキがそう告げた。
高次元機械生命体? なんだそれ……冗談か?
いきなりわけのわからない事を言い出すマキだったが、その表情は無機質で人形を見ているかの様に感じた。
「え……っと。高次元……なんだって?」
「高次元機械生命体です。正式名称はちゃんとありますが、この地球に存在する言語では発音が出来ませんのでそう呼ばれています」
「試しに言ってみてくれ」
「$#%&*@」
マキが口にした言葉——いや、音?は黒板を爪で引っかいた様な、まるでノイズと機械の悲鳴が混ざり合った異質な音の塊だった。
とてもじゃないが人体の口から出せるような音ではない。
思わず耳を塞ぐも、頭の奥底に残りながら響き続けるその音は後味がとてもじゃないが最悪のものだった。
「——っう! な、なんだ今の音は……!?」
「何って、私の名前ですよ。センパイが言えって言ったんじゃないですか~。むりやり人間でも知覚できる周波数帯に変換したんですよ?」
「た、ただ名前言うだけだろ!? 何でこんな音響兵器みたいになってんだよ……」
「それだけ私たちとは違うということです。理解しました?」
「……ようやく収まったか。じゃあお前の言っていることは本当なんだな?」
「さすがセンパイですね。物分かりがよくて助かります」
物分かりうんぬんよりも、そう納得しないと話が進まない。
もうすでに俺の頭の中は度重なる出来事で爆発寸前だ。
いまさらマキが宇宙人だとしても一旦スルーする必要がある。
「それで、次はどんな話が飛び出してくるんだ?」
「そうですね〜。本当は疑った際に見せるつもりでしたが、今でも問題ありませんね。センパイ、ついてきてください」
マキは立ち上がると仏壇が置かれている和室へ向かう。
一体何を見せるつもりなのだろうか。
そう思いながらあとに続く。
おもむろにマキは襖を開け放った。
すると——本来ならば押し入れのある空間に、うっすらと光る白い膜が現れた。
白い膜の向こうには何かの施設がぼやけて見える。
それは近未来的で、現代社会では出会うことのないようなSFのような光景。
「さっ、行きますよー」
そう言ってマキは俺の手を握ると、力強く引っ張る。
「え、あっ、おい! ちょっとま——」
止める間もなく俺は白い膜を通過した。
白い膜を抜けた先で、俺の目に入ったのは——明るい真っ白な部屋だった。
部屋全体が光っているせいで本来足元にあるはずの影が現れない。
そのせいで自分が宙に浮いてるかのように錯覚してしまう。
背後には白い膜があり、その先に先ほどの和室が薄っすらと見える。
混乱する俺をよそに、マキが手を前に向ける。
すると、壁?の一部が開き向こう側が現れた。
「ココは超短距離間跳躍——まあ、わかりやすく言うとワープ専用の部屋です」
「そうか……」
もう俺の頭のキャパシティはパンパンだ。
なんであの押し入れからこんな空間に行けるの?
そんな疑問を口にすることなく宇宙猫のような表情をしていると、マキが手を引いて歩き出す。
もう何も考えたくないので黙ってついて行くことにした。
◇
それから通路をひたすら歩き続けた。
曲がり角を曲がったりもしたが、もう500メートルくらいは歩いてる気がする。
これこそさっきのワープが必要なんじゃ? そう思ったのでマキに問いかける。
「なあ、さっきのワープはもうないのか?」
「んーと、あれは外とこの場所を繋ぐやつなんです。この場所の内側でワープしたいのなら認証が必要になります。なので、その為に移動してると思ってください。もう少しで着きますからね〜」
マキが言ったように少し歩くと、とある部屋に到着した。
マキが扉の横にあるパネルに触れると、扉は音もなく左右に開く。
そこには宙に浮くクリスタルが一つあるだけの部屋だった。
クリスタルは特定の色を持たず、絶えず様々な色を発していた。
そんな不可思議極まりないクリスタルを前に再度宇宙猫になっていると。
「ようこそ我が家へ」
マキがそう言った。
「殺風景な我が家だな」
俺の返答は限りなく微妙だった。
バイト終わりの夕食から怒涛の展開が続くので、俺の脳みそがそろそろ鼻から出てきそうなほど疲弊している。
マキが宇宙人であることはわかった。
わかったのだが、それを受け入れて飲みこむだけの余裕が今の俺にはない。
「失礼ですねー。私の本体がこんな感じなので家具とか必要ないだけですよーだ」
「……え、どういう……それのクリスタルがお前の本体? ……つまり、どういうことだ? お前は今、目の前にいるよな?」
わ、わけがわからん……マキは俺の目の前にいるのに、本体はクリスタルだと言っている。
じゃあ今目の前にいるマキは何なんだ?
「この肉体は……そうですね。そう! アバター! 構造上は人間と似ていますが素材が違いますので、ロボット的な存在と認識して頂いて大丈夫です。今の私は外で活動するための補助機って感じです」
「じゃあ俺が今まで接してきたお前は、偽物だったってことか?」
「偽物、という言い方では語弊がありますね。どちらも等しく本物の私です。センパイだってゲームをしている時の自分は本当の自分ですよね? それと一緒です」
「——そうだな。すまん。頭が混乱してたとはいえ酷い言いようだったな。許してくれ」
「いいですよ~。私とセンパイの仲ですしね~。その代わり、お願いを聞いてほしいですねぇ」
マキは不敵な笑みを浮かべ、俺に顔を寄せる。
普段とは違う髪形のせいか少しドキッとしてしまった。
そういうフェチは持ち合わせてはいないはずなんだが……まあいいか。
「お願いってのはなんだ? 俺に出来る範囲でなら聞くぞ」
「それは何より! 私の願いは一つです」
マキは俺から離れるとクリスタルに手を添え、こう言った。
「センパイ。貴方はこの地球上で最強の存在になってください」




