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元世界王者は、事故の起きなかったIFの身体で神速を刻む~エクス・マキナの操縦士〜  作者: ノエ丸@草原スタート三巻発売決定!!!!!!!!


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5.「私の名前は神代桜花といいます」

「貴方が先ほどの事件を解決した人であっていますか? 詳しく話を聞きたいのですが」


 突然現れた女がそう言った。

 先程の事件というのはアイゼンで野生型異生体(アニマ・シリーズ)を倒した件の事だろう。

 つまり俺は言い逃れが出来ない状況という事だ。

 しらを切ろうにも、ここまで俺以外の人間は誰も通っていない。

 詳しく話を聞くと言っても俺にはもう話す事がないので、俺はこのまま帰りたい。


「……なぜ黙ってるのですか?」


 相手方は見逃してはくれなさそうだ。


「えーっと、もう話したといいますか……」

「それは知っています。貴方から直接経緯を伺いたいのです」

「そうですか……えーっとですね——」


 目の前の女に先ほどの出来事を話した。


「なるほど。私が聞いた内容と同じですね、申し訳ありません。お手数をお掛けしました」

「いえいえ、それじゃあ俺はこれで」


 そそくさとその場を去ろうとしたが。


「貴方。名前は何というのですか?」

「え? あー、不破庵といいます」

「不破庵ですね。ああ、申し遅れました。私の名前は神代桜花(かみしろおうか)といいます」

「これはご丁寧に、それでは失礼いたしますぅ」


 俺は神代さんに背を向けてその場から足早に離れた。


 ◇


「何だったんだ今のは……」


 突然現れた神代桜花という女。

 見た目はかなりの美少女だが、どこか油断のならない感じがした。

 そして俺の勘が告げている。


 あの女は強い。


 何となくだがそう感じた。

 あのピンク色の機体の些細な動きから読み取れる精密性。

 上位ランカーのソレと似ているものがある。

 正直戦ってみたい。

 くっそ、なんで俺の愛用機が手元にないんだ! アイツがいてくれれば……目の前の実力者と戦うことが出来るのに!!


 我ながらバトルジャンキーみたいな思考になっているが、仕方のないことだ。

 何年もお預けを食らい、突然その欲望を解放する機会が訪れているんだ。

 だれだって興奮するのは当たり前だ。


 だが俺もまだ大学生とはいえ、いい大人だ。

 むやみやたらにケンカを売ったりはしない。

 ……そういえば視力と握力が戻っているが、それ以外の体の調子もすごく良い。

 もしかしてこれが原因だったりするのか? 健康な体だから調子に乗ってる的な?

 そうだとしたら少し考えを改める必要があるな。


 まあ、正直な話。

 一時間ほど前までは飯を食ってたのに、今は目の前にロボがいるこの状況は異常すぎる。

 そのことを考えると頭がおかしくなりそうだ。

 だからこそ周りの目新しい物を見て、その考えを無理やり押し込めることにした。

 

 ◇


 マキの案内の元、俺は自分の家に帰ってきた。

 元々住んでいた所とは違う場所だった。

 両親と住んでいた家でもないし、祖父母の家とも違う場所。

 見た事のない一軒家を目の前に、俺はドアの前で佇んでいた。


『センパイ。入らないんですか?』

「え? あ、ああ。入るとも……」


 マキはあの時口にした「事故のない世界」という言葉。

 それはつまり、俺の両親もあの事故で死んでいないということになる。

 死んだ両親と数年振りの再会。

 いや、別の世界なら赤の他人か?

 だとしてももう一度会えるのなら会いたい。


 そう考えていると、ドアがカチャリと開き——


「おかえりなさい、センパイ」


 マキが出迎えた。


「……なんでいるんだ?」

「何でって、色々説明するためにですよ? ほらほら早く入ってください」


 マキは俺の後ろに回ると、背中を押して強引に家の中に入れようとしてきた。

 あー、まてまてまて。まだ心の準備が——


 そのまま玄関に足を踏み入れる。

 生活感はあるが、なんというか……質素? いや、物が少なすぎる。

 玄関には靴が一足もなく、スリッパの類もない。

 低い靴箱の上にも物が一つも置かれていない。


 俺の実家や祖父母の家ではこういう所に色々と物を置いていた。

 見える廊下にもゴミ一つ落ちていない。

 何より、家自体がシンと静まり返っている。

 マキが後ろで何か言っているが、それすら気にならない程に俺の心臓は脈打っている。

 先程までの期待は、もうどこにもない。


 靴を脱ぎ、リビングへ繋がるドアノブを握り、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 ゆっくりとドアを開き、リビングに入る。


「あら、庵。おかえりなさい」


 母さんが生きていた頃、帰る度に聞いていた言葉。


 ——そんな幻聴(こえ)が聞こえた気がした。


 リビングには誰もおらず。

 視界の先には二つの写真が置かれた仏壇があるのみ。

 その光景を前に、静かに目を伏せた。

 何となくわかっていたはずだ。

 何を期待していたというのか。

 たとえこの世界の両親が生きていたとしても、それはこの世界の俺の両親であって、俺の両親じゃない。


 だがそれでも、もう一度。

 もう一度、会えると思った。

 

 膝から崩れ落ちた俺を、マキは後ろから優しく抱きしめてくれた。


 涙はとっくの昔に枯れ果てたというのに……

 

 一筋の涙が頬を伝った。


 叶うのならもう一度会いたい。


 だが、その願いが叶うことはないだろう。


 ◇


「センパイ。落ち着きましたか?」

「……ああ、悪いな」

「いえいえ。センパイの為ならいくらでもしますよ? もう一回しときますか?」


 マキは両手を広げて「カモンカモン」と言いながらにじり寄ってくる。

 寄られる分だけ後ろに下がるが、もう後ろは壁だ。


「おいおい、話しがあるんだろ? 早く始めようじゃないか」

「……まっ、いいでしょう。今回は見逃してあげます。ではコチラにどうぞ」


 マキはリビングの椅子を引き、ココに座るように示した。

 素直に着席すると、正面にマキも座るもすぐに立ち上がり言った。


「お茶の用意がまだでした。すぐに準備するのでお待ちください」


 マキはパタパタと忙しなくキッチンへ向かうと、テキパキした動きでお茶を入れ始めた。


「どうぞ。オレンジジュースです」

「お茶じゃないのかよ!」

「アハハハ、冗談ですよ〜。コレは私の分で、センパイのはコッチです」


 大きめのコーヒーカップになみなみと湯気の立つ緑茶が注がれていた。

 あっつ……フーフー。

 お茶をちびちび飲みながらマキの様子を伺う。

 見た目は俺の記憶にあるままで、これといった変化はない。


「見つめられたら照れますね〜」

「話があるんじゃないのか?」

「そんなに急かさなくてもいいじゃないですかー。まずは楽しくお喋りでもしません?」

「結構頭の中が混乱してるから、早めに解決してくれると助かる」

「それなら仕方がないですね」


 マキは自分の髪をかきあげる仕草をした。

 すると、マキの髪の長さが伸び。

 髪色も茶色から黄金と表現してもいいくらいの金髪へと変化した。


「おいおい、なんだそれ……」

「これが私の本来の姿なので」

「本来って……マキ。お前は何者なんだ?」


 マキは真っ直ぐ俺の目を見つめながら告げた。


「私の正体は、高次元機械生命体の一人です」

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