4.「貴方が先ほどの事件を解決した人であっていますか? 詳しく話を聞きたいのですが」
「それで、君はなぜ逃げずにあんなことを? 本来訓練機では野生型異生体に太刀打ちは出来ないんだぞ。今回はたまたま運が良かったから——」
虎の化け物を倒し、その下敷きになっていたところを救助された俺を待ち受けていたのは、説教だった。
まあ言いたいことはわかる。
本来ならば逃げるのが正解だ。
アイゼンーXE01——もとい訓練機で野生型異生体に立ち向かうのは自殺行為だと咎められた。
頭ではそのことを理解できるが、倒したのに怒られるのは何となく嫌な気持ちになる。
「別に倒せたからいいじゃないか」そう思う気持ちと。
「倒せたのはあくまでも結果論なので、詰められるのも仕方がない」と思う気持ちがぶつかり合っている。
「——聞いてるのか?」
「あ、はい。すいませんでした……」
「まったく……とはいえ、訓練機でここまでやれるとは大したものだ。事後処理はコチラでやるからもう帰りなさい。後日改めて聞き取りを行うからそのつもりでいるように」
「わかりました。失礼します」
救助部隊の隊員さんは、俺の肩を軽く叩くと野生型異生体の死骸へと向かった。
帰っていいと言われたが、どうしたものか……このパイロットスーツ?はどうやって脱ぐんだ?
そんなことを考えていると、耳に付けていたインカムから聞き慣れた声が聞こえた。
『センパーイ、お疲れ様で〜す。ここから先は私が指示するので、その通りに動いてくださいね』
「マキか……って俺の声は聞こえてるのか?」
『聞こえてますよ〜。とりあえず詳しく話がしたいので帰りましょうか。まずは着替えですね。更衣室は向かって右側の奥にありますのでさっさと向かってください』
マキの指示通りに更衣室へ向かう。
中には番号を振られたロッカーがいくつも並んでいた。
そのうちの一つを指定され、扉を開ける。
「……カバンしか入ってないぞ」
『センパイの荷物取りに来ただけなんで。スーツを脱ぐには、胸元の丸いヤツを押してください』
「コレか?」 カチッ
ちょうど胸の中央部にある丸い機械じみた物を押すと——数秒で全身に纏っていたパイロットスーツが収納された。
「うおっなんじゃこりゃ!」
『ナノマシンってヤツですよ。着ている服の上からでも使えるので、必要な時はソレを胸に当てたら展開できます』
「ナノマシン……アイゼンといい、凄い技術だな……」
『あと、そのインカムはこの施設の物なのでここからはセンパイのデバイス——要はスマホみたいなので指示しますね~』
一方的には通信が切られたので、マキの指示通りにインカムを外しロッカーに戻す。
そしてカバンの中からスマホのようなものを探すも、マキはスマホと表現していたがそれらしい物は一つしかなかった。
その見た目はどう見てもブラスチックの板だ。
俺の記憶にあるスマホの半分の薄さで、大きさも片手に収まるサイズ。
しかしボタンの類は付いていない。
どうやってロックを解除するんだ? そう思いながら適当に指を押し当てると、パッと画面が空中に現れ『生体認証が確認されました』と書かれたポップアップが出るとすぐに消え。
ホログラムみたいに、小さいマキが現れた。
『お、やっと繋がりましたね』
「えーっと、これは…………本当にスマホなのか?」
あまりにも近未来なスマホに思考が一旦止まった。
『そうですよ~。この世界はセンパイのいた世界よりも技術が進んでいるので、これくらいで驚いてたらキリがないですよ』
「いや、まあ、アイゼンの実物がある様な世界だからな……これくらいはあっても不思議じゃないか……」
『飲みこみが早いとこちらも助かりますので、さっそくセンパイの家に帰りましょう。詳しい話はそこでします』
「家か……わかった。案内してくれ」
『了解で~す!』
カバンを背負うとそのまま施設の外へ出ることにした。
◇
施設の外に出ると、そこには何機ものロボットが停まっていた。
見た目と兵装が統一された、アイゼンとは別の機体。
「うぉ……ヤバ……夢か? これ……痛い」
とりあえず頬を抓ってみたが、しっかりと痛みがあるので夢ではないようだ。
コレが現実だと受け入れたことにより、アイゼンに乗っていた時もそうだが。
ゲームの中にしか存在しなかった機体が目の前に本物として存在している。
その事実に俺のテンションは爆上がりした。
「お、おいマキ……コレで写真ってどうやって撮るんだ?」
『別に今撮らなくても、家に帰ればネット上でいくらでも見れますよ?』
「いや、今。写真に収めたいんだよ!」
『アホなことしてないで早く帰りますよ〜。こんな所でウロウロしてたら、さっきの人にまた捕まりますよ?』
「う……ぐぐ……わかったよ。帰ればいいんだろ帰れば」
『センパイのそういう所、私は好きですよ〜』
目の前に実物がいるというのに写真一枚撮ることが出来ないとは……
後ろ髪を引かれる思いでその場を離れることにした。
『チラチラ未練がましく見ない! ほらほら、早くしないと暗くなりますよ!』
マキに急かされその場を離れようとした。
そんな俺たちの横を一機の機体が通り過ぎて行った。
ピンク色をメインに赤色の線が入っているデザインの機体だ。
少なくとも、俺の記憶の中にある機体じゃない。
何のシリーズだ? アイゼン系統ではないし、女性に人気のあるメイデンシリーズとも違う。
ピンク色の機体をじっと見つめながらマキに問いかける。
「なあ、今の機体はなんて名前だ?」
『アレは量産機じゃなくて専用機ですよ。センパイ』
「専用機……っていうとアレか」
『そう。アレです』
専用機——それは『DEUS・ARENA』にある課金でのみ手に入る機体のことだ。
性能はピーキーな物が多く。
好んで使う者もいれば、コレクションとして集める者もいる。
俺はその中でも『スピードスター』という速度に重点をおいた機体を使っていた。
装甲は薄く、重量も軽いので重い武器は装備できない。
その代わりにスピードは全機体の中でもトップに君臨する。
だがあまり使う人間はいなかった。
それはなぜか、答えはスピードが速すぎて制御が難しいというこの一点だけである。
どれくらい難しいかというと、アイゼンで5メートルの距離を進むような操作をするとしよう。
スピードスターは同じ操作で50メートルは進んでしまう。
あまりにもスピード重視の性能な為、プレイヤーからは「ゴキブリみたいな機体」と呼ばれている。
この話は一旦置いておこう。昔の誹謗中傷を思い出してしまう……誰がゴキブリだ。
再度記憶の中を探り、ピンク色の機体の事を思い出そうとする——駄目だ。俺の記憶にない機体だ。
全てがゲームと同じではないんだな……まあいいか。今は家に帰る事を優先しよう。
五分程歩いた頃に、後方から先ほどの機体が再度やって来た。
そのまま俺の横を通り過ぎるかと思ったが、行く手を遮るように動きを止めた。
突然のことに思わず身構える。
ピンク色の機体はその場で跪くと、後方のハッチが開き——パイロットスーツを身に纏った人物が身を乗り出す。
長い薄桃色の髪を後ろに縛った女。
見た感じの年齢は高校生くらいだろうか。
少し大人びた顔をしているが、幼さも残っている。
女は口を開くとこう言った。
「貴方が先ほどの事件を解決した人であっていますか? 詳しく話を聞きたいのですが」
家に帰るのはまだまだ先になりそうだ。




