3.「うるせえ!! 黙って見てろ!!」
脚部の踵に備え付けられているホイールが回転し、そのまま化け物へ向かって進み出す。
アイゼンーXE01の背面にブースターユニットなんて上等なものは搭載されていない。
なので移動は基本的に地上を走るように行う。
アイゼンは地上戦にしか対応していないので銃撃戦、もしくは接近してからのインファイトが基本戦術だ。
公式運営からの「これで操作を覚えろ」という意図が込められているのだろう。
もっとも、アイゼン自体のスペックが低いので出せるスピードはお察しの通りだ。
だがそれでも閉鎖空間であるこの場所ではすぐに間合いを詰めることができた。
向かってくる俺に対して化け物も臨戦態勢をとる。
大きく口を開き——一息に飛びかかってきた。
すぐに左へ旋回。
ギリギリで躱すと同時にアームダガーで切り裂く——
つもりだったが、避けるのと同時に機体が大きく後ろへ引っ張られ、アームダガーは空を切った。
操作を誤ったか? いや、そんなはずはない。
確実に当たらないという確信があった。
なのに機体が大きく仰け反ってしまった。
もしかしたら俺は無意識のうちに恐れているのかもしれない。
実際怖いという気持ちは当然ある。
だがそれ以上にこの状況で、恐怖心を上回るほどに興奮している。
夢にまで見た本物に触れている。
かつて無くした体の一部が戻っている。
一つ息を吐き——改めて覚悟を入れ直す。
ゲームの中で数え切れないほど経験してきた接近戦だ。
思い出せ。
常に紙一重で躱してきたあの感覚を。
相手の動作一つ一つを見逃すな。
改めて目の前の敵を観察する。
『野生型異生体』と呼ばれる化け物の姿は虎に似ていた。
記憶にある虎よりも遥かに大きく。
そして、全身に機械のようなものが埋め込まれていた。
アームダガーだけで何とかできるか? そんな疑問が頭の中に浮かんだ。
「マキ。アレの弱点はないのか?」
『よくぞ聞いてくれました! 野生型異生体には〝コア〟と呼ばれる心臓部分があります。そこを壊せば活動を停止するので、基本的にはコアを狙ってください』
「コアか……それはどこにあるんだ?」
『ココで〜す』
画面に映る虎の体の一部分にぐるりと円を描くように矢印が現れ『ココ!!』と文字が表示された。
なんというか……便利だな。
とにかくあそこにあるコアを壊せばこの虎は死ぬ——それがわかれば十分だ。
再び虎に急接近。
虎は前足を振り上げ鋭い爪を剥き出しにすると、引っ掻くように振り下ろしてきた。
当たる寸前でブレーキをかけ、目の前を爪が通り過ぎると同時に——
またもガクンと後ろへとアイゼンが下がった。
またか! と思うまもなく続けざまに繰り出される攻撃を避けた。
その度に必要以上に大きく後退してしまう。
「おいマキ! 動きが変だぞ! どうなってんだ!」
思わずマキに怒鳴ってしまった。
機体の不具合をマキに八つ当たりしても仕方ないのだが、度重なる不具合に言わずにはいられなかった。
『動きが変って。センパイギリギリで避けすぎですよ。私が補助しなかったらそのうち当たりますよ?』
「……」
さっきから変な動作をすると思ったらマキが原因のようだ。
余計なことをしやがって……いやいや、マキなりに心配してくれていたんだよな。
うん、そう考えると怒りも収まるってもんだ。
だがこれだけは言っておこう。
「マキ。余計な手助けはしないでくれ。これは俺の戦いだ」
『ここでセンパイに死なれたら私が困るん「うるせえ!! 黙って見てろ!!」——はーい。じゃあもう知りませんからねー』
画面に『マニュアルモード』と表示された。
すると機体を操縦する時の違和感がなくなったことに気づいた。
些細な差だが、俺にとっては今まで喉に魚の骨が刺さっている様な違和感があった。
それが無くなった。
——これならいける、と直感でそう思えた。
飛び掛かって来る虎を難なく回避し、マキが示したコアの位置を再確認する。
矢印が示すコアは一般的な心臓と同じ位置にある。
四足歩行のため、通常時はコアを狙うことが困難だ。
ならどうする? そんな問いが頭を過るも、俺は答えを出す。
答えを出したと同時にアイゼンを走らせ、虎に急接近する。
それに呼応するように向こうも口を開き、爪を剥き出しにし襲いかかる。
振り下ろされる一撃を滑り込む様にして紙一重で回避した。
爪の先端がアイゼンの装甲を僅かに削る——やはりブランクが長いせいで勘が鈍るな。
昔の俺ならば爪が装甲を掠ることはない。
そんな考えが頭に浮かぶも、それと同時に右腕のアームダガーをコアがあるという矢印目掛けて突き刺す。
俺に向かって振り向いた手を地面に降ろす瞬間の体重移動。
そして下から突き上げる動作により、右腕のアームダガーは虎の化け物の胸に深く突き刺さる。
それと同時に、画面に映るアイゼンの右腕を支える関節のジョイントが赤い警告を示した。
バキバキと音を立てながら右腕の肘から先が引き千切れたのを確認し、すぐに離脱する。
『ちょっとセンパーイ。右腕なくなっちゃいましたよ~? 救援が到着するまであと5分はかかるんですからそれまで持つんですかぁ?』
「問題ねえよ。元からこうなることは想定内だ」
そう、アイゼンの基本スペックではこの巨体を相手に正面からやり合うには、どう考えても無理だ。
だからこそ確認のためにマキに問い掛ける。
「マキ。あの刺さったアームダガーとコアまでどれくらいの距離があるかわかるか?」
『そうですね~。あと15㎝位ですかね~』
「そうか。ならいけるな」
再びアイゼンを接近させる。
横薙ぎに爪を振るうので、最小限の動きで後退しながら躱す。
違う違う——その動きじゃない。
連続して振るわれる爪の猛攻を全てギリギリで回避し、その時が来るのを待った——
虎が再び上半身を持ち上げ、両手の爪を限界まで伸ばした。
その瞬間を待っていた俺は抱き込む様に振り抜くよりも速く、脚部のホイールを最大出力でブン回し懐へと潜り込む。
左腕のアームダガーを既に右腕のアームダガーが刺さっている傷痕目がけて突き刺す。
刃は互いに干渉し合い火花を散らし、既に開かれた傷口へと深く突き刺さる。
それを虎の化け物は体を捻じり振りほどこうとする。
当然アイゼンにその振りほどきに抗う力はない。
左腕は脆くも引き千切られてしまった。
『ちょっとセンパーイ?』
マキの声を無視して脚部のホイールを回す。
その場で回転するように機体を操り——
突き刺さった二つの腕目掛けて回し蹴りを放つ。
突き刺さるアームダガーに更なる衝撃が加わり、刃はより深く虎の化け物の体へと突き刺さった。
機体の足裏から〝パキン〟というナニカが割れた感触が伝わってくる。
それは本来なら感じることのできない感触だが、アイゼンと意識を共有している今なら感じることができた。
それと同時に虎の化け物が倒れてくる。
「あ、やべっ——」
バランスの悪い体勢だったせいもあり——そのまま押しつぶされてしまった。
虎の化け物はピクリともしないので、どうやら倒すことができたようだ。
その事実に安堵のため息が漏れる。
「ふぅぅぅぅー」
『センパイかっこわる~い』
「うるせえ……」
マキが画面上でギャーギャー喚いているが、俺は一つの仕事をやり遂げた様な充実感に包まれていた。
のんびり書いてくので、もしよかったらブックマークと星お願いしまーす。




