2.「だーかーらー。ココはセンパイが事故にあってない別の世界なんですってば」
眩い光が落ち着くと——
耳元で騒がしい声が聞こえてきた。
『何をしている訓練生11! 早く逃げろ!』
目がチカチカする。
それになんだこのアラート音は……どこかで聞いた気がする。
視界が次第に元に戻っていき、白い風景が次第に他の色を映し出していく。
その光景は先ほどまでのモノとは違っていた。
見たこともない格納庫風の場所。
そこに並べられている機体を見て、俺の記憶がフラッシュバックする。
それはかつての記憶——ゲーム開始時、一番初めに配布される機体。
『アイゼンーXE01』
機体としての性能は最低限で、上位ランカー同士が操作の腕前を競う時に使ったりする。
ようは初心者以外からは玩具にされている機体だ。
だが誰もが一度は操作する機体なので、それなりに人気だったりする。
その機体が今、目の前に溢れている。
スピーカーから鳴り響くアラート音や、誰かの叫び声なんて気にならない程の胸の高鳴りを感じていた。
「すごいな……」
思わず呟く——すると。
『センパーイ! さっきぶりで〜す!』
「うわっ!」
いきなり目の前に二頭身くらいにデフォルメされたマキが現れた。
どこかアニメ調というか、現実のマキとは違う見た目をしている。
『どうですセンパイ。新しい体の感想は?』
「新しい体? 何言って——というかココどこだよ!?」
『——? さっきセンパイに聞いたじゃないですか。事故の起きなかった世界があるとしたらどうします?って』
「いやいやい、なんの説明にもなってないからな!?」
『だーかーらー。ココはセンパイが事故にあってない別の世界なんですってば』
なんだ? 一体何が起きているってんだ。
さっきまで二人で飯を食って街中を歩いてたじゃないか……何がどうなってるんだ。
その時、ある違和感に気付いた。
あれ? 視界が……いつも以上によく見える。
同時に手を握る力が普段よりも強いことに気づく。
マキは言っていた「事故の起きなかった世界」と——
本当に別の世界に来たっていうのか?
だが目の前に広がる光景は、とてもじゃないが夢とは思えなかった。
「……本当、なんだな?」
『そうです。それじゃあセンパイ。早速ですがピンチですので、あちらをご覧下さ~い』
デフォルメされたマキが手で指し示す方角に目を向けると、今まさに格納庫の壁を突き破ろうとしている巨大なナニカの姿が見えた。
分厚い鉄の壁を力任せに突き破ろうとしているその姿は、俺が今まで見てきた度の生物とも異なるものだった。
ただ生きているだけでは聞くことのないような金属が捻じ曲げられ引き裂かれる轟音は、現実逃避したくなるほどに異質なものだった。
「おい何だあれは——!?」
「アレはですね~。この世界で出没している『野生型異生体』って呼ばれている敵対生命体ですよ~」
「野生型異生体? なんだそりゃ」
『この星に生息している動物の姿を模した化け物って認識で大丈夫ですよ。詳しく説明すると長くなるんで、動物の化け物くらいに思ってもらえればとりあえず大丈夫です』
「大丈夫って……俺は一体どうすりゃいいんだよ」
いきなり怒涛の展開が押し寄せているんだ。
俺の頭の中は混乱してしまっている。
ゲームの機体が目の前にある? 野生型異生体? 極めつけは俺の体の不調が全て消えているという事実。
どれ一つをとっても理解不能の出来事だ。
そして今さらだが、俺はあることに気づく。
俺のいるこの場所は何処だ?
閉鎖感のある場所だという事はわかる。
それに視界も高い……いくつかの状況から推測するに、俺は——
『アイゼンーXE01』の中にいる。
そう理解した瞬間に、脳みそをフル回転させた。
プレイしていたゲームでの機体の動かし方。
どういった原理で動いているのかという〝設定〟
そして、『アイゼンーXE01』に搭載されている初期兵装。
全てを思い出し——マキに告げた。
「マキ。アイゼンの使える武器を出してくれ」
『了解で~す。あー、使えるのは両腕に付いてるアームダガーくらいですね~。他の武器は別の場所に仕舞っているみたいなんで、取りに行く必要がありますね』
目の前のディスプレイにアイゼンの全身と、該当する部位に装備されている武器の情報が表示された。
……マジか。
本当に〝アイゼン本体〟に搭載されている兵装しかないのか……ゲームなら銃くらい標準装備されてたぞ。
『おっと。銃が置いてある場所が壊されましたね。ひっじょーに残念です。ウケますね』
「ウケねえよ……アームダガーだけでどうにかしろってのか?」
そう思ったが、別の考えも浮かんだ。
それは別の誰かが救援に来てくれるという可能性だ。
なにやら誰かが俺のことを訓練生11と呼んでいた。
訓練生という事は、上官に当たる人間がいるはずだ。
そういう人間にあの化け物をどうにか——
『ちなみに救援部隊が来るのは10分後なので、その間はセンパイ自身でどうにかする必要がありますよ?』
「本気で言ってるのか?」
『もちろん。システムを見る感じ、コチラに到着するまでの時間は残り9分45秒ですね』
「腹をくくれってことか?」
『じゃないと100%死にますよ?』
そんなやり取りをしている間に、化け物はぶ厚い鉄の壁を突き破り、武器の収納されている棚を破壊していた。
そしてすぐに、近くの機体へ大きく開いた顎を食い込ませる。
『アイゼンーXE01』の性能は記憶している。
だが化け物は設定上記されている『アイゼンーXE01』の装甲を易々と噛み千切った。
どう考えても一撃で死ぬレベルだ。
クソゲーか?
ゲーム内でもそんな理不尽な敵は存在しない。
というか敵は自分と同じ様なロボットしかいなかった。
ストーリーモードでもこんな化け物は出てくることはなかった。
順番にアイゼンを壊す化け物に対して、俺はどうしたものかと思案する。
律儀にも端からアイゼンを壊しているので、幸いにも化け物が俺ところに到着するまで多少の猶予はある。
そして状況から察するに、俺は今アイゼンの中にいる。
……どうやって動かすんだ?
ゲームではVRゴーグルを被り、片手持ちのコントローラーを両手に持って操作していた。
どうやら現実の機体はゲーム通りにいかないようだ。
「マキ……動かし方を教えてくれ」
『それじゃあ同期しますねー』
マキが言い終わるのと同時に、首筋にバチンと電気が走ったように感じた。
そして——
「なんだよ……これ」
目に映る画面は視野が広がり。
アイゼンの手足を動かせるようになったと直感で理解した。
頭の中で腕を持ち上げ、指先を握り締める。
それはまるで、自分の体を直接動かしている時と同じに思えた。
『詳しく説明すると長くなるので簡単に言いますね。センパイが今着ているパイロットスーツで体の僅かな動きや脳波をそのまま機体にフィードバックしてるんです。ようは機械と一時的に一体化する技術ですね』
マキの説明通り。
まさにアイゼンと一体化していると感じた。
その技術の詳細を理解するのには時間がかかるだろう。
だが今この瞬間の感覚は理解を超えて、それが当たり前だと認識するには十分だった。
アイゼンの足を動かし一歩踏み出す。
そう頭で思うだけで、機体の各所へと信号として一瞬で行き渡る。
それはロボットと呼ぶには恐ろしく滑らかな動作で足を持ち上げ、関節を曲げると。
人の動きと同じ動作で前進した。
胸の鼓動がより一層速く——そして、より強く高鳴った。
握る手に力を込める。
ガシャンッ! と両腕のアームダガーが展開した。
その動作一つにも、懐かしさを感じていた。
あれほど好きだったゲームが事故によりプレイ出来なくなった。
他のゲームではあの高揚感は得られない。
そうだ。
この感覚だ。
俺の。
俺が求めていたものは——
この瞬間にある——!!
「あああああああああああああああ!!!!」
意味もなく声をあげた。
本当に意味なんてない。
ただそうしたかったから、そうしただけだ。
画面に映るキョトンとしているマキに言い放つ。
「マキ——行くぞ!」
アイゼンを操縦し、化け物に向けて動き出した。




