1.「事故の起きなかった世界があるとしたら、どうします?」
鳴り響くアラート音。
目の前に広がる画面には警告を告げる赤文字が乱雑に表示されていた。
エラー。
警告。
聞こえてくる通信からは「逃げろ」と誰かが叫び声をあげている。
どうしてこうなった。
「センパーイ。ボサっとしてると死にますよぉ〜?」
通信とは別で聞こえてくる声——
聞き覚えのあるその声を聞きながら、俺は少し前の出来事を思い出す。
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————
——
◇
「ありがとうございましたー」
気怠げな声で客を見送る。
シフトの終わりまでもう少し。
このまま客が来ないことを祈りながら、次の時間のシフトは誰だっけ?と考えながら時間を過ごした。
俺の名前は不破不破庵。
どこにでもいるごく普通の大学生だ。
勉学に勤しみながらあいた時間でバイトをしている。
本当になんの取り柄もない男だ。
不意にチャイムNO.1 ニ長調 作品17『大盛況』が店内に響き渡る。
「しゃーせー……ってお前か」
入口に目を向けると、薄いピンク色に染め上げた長めのウルフカットの小柄な女がいた。
「ちわーっす、センパイ。もう少しでシフト終わりますよね? 暇ならご飯行きません? 安くて美味しいとこ見つけたんですよ〜」
「飯か……あと三十分で終わるから中で待っててくれ」
「はーい」
突然現れたこの女はこのバイト先の後輩で、名はマキという。
何故か俺にやたらと絡んでくる。
マキに対して好意があるわけではないので、純粋に年下の女友達として接している。
「——それでですね〜。ペチャクチャ」
従業員用の部屋で待て、と言ったのにレジの前から動こうとしない。
そういう女だから仕方ないか……
そのままマキの話しを聞くだけで三十分経ってしまった。
◇
「美味しかったですね〜」
「そうだな。また行くとしよう」
「私も連れていってくださいね〜?」
「気が向いたらな」
マキが見つけた飯屋で腹を膨らませた俺たちは、駄弁りながら家までの道を歩いていた。
「そういえば先輩って昔何かのゲームでチャンピオンだったんですよね?」
マキの言葉にピタリと足を止める。
チャンピオン——その言葉は俺にとって苦い思い出でしかない。
『DEUS・ARENA』
それはかつて俺がプレイしていたVRゲームの対戦型格闘ゲーム。
体長2、3mのパワードスーツを着て対戦するというシンプルなもの。
だがパーツの種類や機体の自由度などでかなりの人気が出たゲームだ。
今でこそ規模はかなり小さくなったが、世界大会が開かれる。
俺はかつてそのゲームにおいて最年少で世界チャンピオンの座まで上り詰めた。
周囲からは天才だと持て囃されたが、両親は変わらず接してくれた。
ゲームの練習時間が長くなればその都度注意されたし、夜遅くまでプレイしようものなら電源のコードを隠されたりした。
いまにして思えば、両親にとっての俺は世界チャンピオンではなく。
ただ一人の子供として接してくれていたんだと思う。
その本心を聞くことはもう出来ない。
チャンピオンとなった次の年。
連覇をかけた大会へ向かう途中、俺と両親を乗せた車が事故にあった。
原因は相手側の飲酒運転。
正面からこちら側の車に衝突された。
向こうもそのまま死に、俺の両親も死んでしまった。
俺は後部座席にいたので何とか一命を取り留めた。
命こそ助かったものの、失った代償もある。
両親の死。
そして両目の視力が著しく低下し、両腕の握力がかなり低下した。
どちらも生きていく分には問題ない。
目はメガネをかければいいし、握力も物を掴むだけなら問題ない。
だがその二つを失ったことにより、全てが変わった。
今まで追えていた敵の動きが追えなくなり、コントローラーを握る手は精密性を失った。
ランキングの頂点から転げ落ちるのに、そう時間はかからなかった。
周囲の人間やテレビでは『悲劇のチャンピオン』などと言いたい放題言っていたが、それも一ヶ月くらいで誰も話題に出さなくなり。
テレビ画面に映る新しいチャンピオンの「彼と本気の勝負をしてみたかった」というコメントも、あの時の俺にとっては虚しく感じた。
その後は父方の祖父母に引き取られたが、俺が大学に入って1年過ぎた頃に立て続けに亡くなってしまった。
一時期自殺も考えた。
だが、大会の賞金や両親と祖父母が残してくれたお金がかなり有るので、生き続けようと思い留まれた。
やっぱりお金って大事だなって。
とはいえ、その金を使って両親と祖父母が生き返るのなら喜んでそうしただろう。
マキに悪気はなかったとはいえ、その話題を出されたことにより俺の機嫌は悪くなってしまった。
「昔の話だ。詳しくは言いたくない。というか、もう聞かないでくれ」
「え~? まぁ私も詳しく聞く気はないですけどね~。でもセンパーイ」
立ち止まっていた俺の目の前でマキが振り返る。
「もしも——」
不意にマキの目が怪しく輝く。
「事故の起きなかった世界があるとしたら、どうします?」
事故の起きなかった世界……
それは両親も生きていて、俺が大会に出場出来ていた世界か。
もし……もしもそんな世界があるのなら——
「もう一度。頂点へ駆け上がってやるさ」
そう言った後に、小さく「ありえないけどな」と呟く。
そうだ。そんなことはあり得ない。
あの時事故が起きなかったら? そんなこと何十回——いや、何百回と考えた。
だが答えは同じだ。
起きた事は変えられない。
たらればの話なんて議論するだけ無駄だ。
変えることなんて出来るはずがないのだから……
「じゃあ、連れて行ってあげますね」
俺の答えに応じるようにマキはそう告げた。
街頭に照らされるマキに視線を送ると、その顔は今まで見たことがないほどの歓喜に満ち溢れていた。
マキの瞳が赤く輝き——無機質な音が響いた。
「目標『不破庵』の承諾を確認。母艦へ接続——承認。対象『不破庵』の生体情報を転送要請——承認。転送プログラム実行を開始要請——承認。プログラム起動——以後この世界での活動を破棄。5カウントのち転送シーケンス起動」
「マ、マキ……お前一体何を言って——」
「5.4.3.2.1——対象『不破庵』を母艦『マキナ』の該当する時空へと転送開始」
その瞬間——視界の全てが眩い光に満たされた。
タイトルの読み方は「エクス・マキナの操縦士」となっております。
カテゴリーがどこになるのかわからないので、一旦SFにします。
カテゴリーエラーのご指摘がありましたら教えてください。
更新ペースですが
「異世界転移は草原スタート!?〜勇者はお城でVIP待遇、俺は草原でサバイバル〜」
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「異世界ニコチン酒道〜《無限嗜好品供給》スキルと共に第二の人生を謳歌するつもりが、ヤニカス天使と酒カス天使がついてきた件。え、返品不可?〜」
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「自称・極悪聖女、我が道を行く〜私に罪を擦り付けた奴らを潰すために軍を作ります。集え! 我が御旗のもとに!〜」
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「エクス・マキナの操縦士〜元世界王者は、事故の起きなかったIFの身体で神速を刻む~」
の四作品を1話書いたら次、という形でローテーションしているので、少々お待ち下さい。
更新を待ってる間、他の3作品を読んで頂けると作者が喜びます。




