第七章 「休戦の街」
大会の休憩が告げられると、観客たちは一斉に街へ流れ出した。
「酒だ!」「肉焼け!」「次の試合どうなる!」
街は完全に祭りになっていた。屋台の煙、焼けた肉の匂い、酒樽の転がる音。
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武人たちが先ほどの試合を語り合っている。
「あの霧の剣士」「速すぎた」
別の男が首を振る。「いや、速さじゃない。間合いだ」
さらに別の武人が言う。「型が読めん。流派が見えない。だが強い」
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通りの向こうでは別の声が響く。
「霧の剣士三倍!」賭け屋だった。机の上に銀貨が積まれている。
「次の試合!霧の剣士に賭ける奴は今のうちだ!」
男たちが笑う。「さっきの見ただろ。賭けるしかねぇ」
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その頃、影は街を歩いていた。横には天斬。二人は騒がしい通りの中を静かに進んでいる。
天斬が言う。「騒がしいな」
影が短く答える。「祭りだ」
天斬が頷く。「大会はいつもこうだ」
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その時。「……そこの剣士」低い声がした。
影が足を止める。
通りの端、小さな机の前に老人が座っていた。占い師だった。布の上には奇妙な札が並んでいる。
占い師は影をじっと見ていた。長い沈黙。やがて口を開く。
「お前だ」
影は何も言わない。
「死相が出ている」
影が短く聞く。「いつだ」
「近い。とても近い」
影は一言だけ言う。「そうか」そして歩き出す。
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天斬が横で笑う。「気にするな。人はいつか死ぬ」
影は答えない。二人は祭りの人混みの中へ消えていった。
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しばらく歩いた時、「おう」と声がかかった。
振り向く。槍使いだった。街の憲兵隊長、鋼牙。影と戦った男だ。
鋼牙が影を見る。少し沈黙。やがて言う。「……変わったな」
影は何も言わない。
「最初に会った時よりな」影はわずかに視線を向ける。
鋼牙は笑う。「まあいい。負けた俺が言うことじゃない」肩をすくめる。「せいぜい勝ち続けろ」
そう言って人混みの中へ消えていった。
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その頃、屋根の上で猫女が寝転がっていた。街を見下ろしている。視線は影を追っていた。
「面白い人だなぁ」小さく笑う。「霧の剣士か」
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その少し離れた場所。天膳が街を見ていた。
リーナが聞く。「何見てるんです?」
天膳は答えない。ただ影を見ている。小さく呟く。「……影」
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遠くで鐘が鳴る。大会再開の合図だった。
観客たちが再び試合場へ向かう。
天斬が言う。「戻るぞ」
影は静かに歩き出す。試合場へ。
鐘の音が、試合場へ呼んでいた。
第七章終~
ここまで読んでくださりありがとうございます。序章から七章、いかがでしたでしょうか。
この物語の見どころは何と言っても影という男の剣です。目的もなく斬り続けた男が、師匠との出会いを経て少しずつ変わっていく。大会編ではその成長が試合という形で現れています。
次章からいよいよクライマックスへ向かいます。引き続きよろしくお願いします。




